成歩堂日記 7月

7月31日(水)

 暑さのせいだろうか、少し体調を崩してしまった。
「ちょっと早いけど、夏休みにしようか、なるほどくん」
「でも……なあ……」
「来週いっぱい休みで、その後働きゃいいだろう。盆に事務所開けといても、来るのはご先祖の霊だけかも知れねえがな……クッ」
「あ、何なら私、呼んであげようか? ご先祖様」
「い、いいよ。別に会いたくないし」

 それから、ゴドーさんがこっそり僕に囁いた。
「ちょっぴり、無理させすぎたかい? 毎晩……」
「そ、それは関係…………あるのかなぁ」
「さあな。ま、ゆっくりしようぜ、所長さんよ」

 そんなわけでしばらくお休みだ。まずはこの夏風邪を治して、ゆっくりしよう。
7月30日(火)

 キリがいいところまで、と思って資料整理をしていたら、何だかんだで遅くなってしまった。真宵ちゃんをマンションの前まで送っていく。
「じゃ、また明日ねなるほどくん、神乃木さん」
「うん、お疲れ様。ゴメンね真宵ちゃん」
「お疲れさん、だぜ」

 そして僕らは階段へと消えていく真宵ちゃんの後姿を見送って、
「じゃ、行きましょうか」
「ああ」

 当たり前のように、ゴドーさんのマンションへと一緒に帰るのだった。
7月29日(月)

 熱帯夜が続いている。

 週末は終わっても、熱帯夜は続いている。




土曜日の熱帯夜→→→→→→→→→→→
 ※不健全ゴドナルSS(やおいあり)
7月27日(土)

 人間の体って、変な風にできてると思う。

 特に、指。5つにも枝分かれしていて、よく見てると、何だか変な生物みたいだ。形も長さも不ぞろいで、でもおそろいみたいな顔をして並んでいるのが、なんか変だ。
 それに、皮膚の感覚ってのも、変だ。気持ち次第で、同じことが、違うように感じたりする。

 今日はもう、寝よう。
7月26日(金)

 御剣から電話がかかってきた。すごく、悩んで、出ることにする。
『成歩堂』
「御剣、ごめん。こっちから連絡しなきゃいけないのに」
『いや、そんなこともないだろう。……声が聞きたかっただけだ』

 ほら、胸がずきんとする。
 わかってる。御剣はそんな意味で言ったんじゃない。

「元気そうな声、ちゃんと出てるかなぁ?」
『ああ、前よりはずっとな……フッ』
 御剣の声が、ほっとしたような含み笑いが、僕の耳のすぐそばに聞こえている。

 十年以上、好きだった。
 もう、なかったことにしようと思ってる。

 だから、この気持ちも、全部なかったことにした。
7月25日(木)

 通り魔のようにキスしようとするゴドーさんを止める。
「嫌かい?」
「嫌かどうかも知らないで、やってるんですか?」
「嫌じゃないと思ってるから、やってるんだがな……クッ」
「嫌だって言ったら、どうするんですか?」
「嫌とは言わせねえぜ」
「嫌です」
「嫌よ嫌よも好きのうち……ってな」

 ずるい人だ。

 でも、自分に嘘をつくことはできないから。
 僕は自分からゴドーさんの首を引き寄せて、キスをした。いつでもコーヒー味の、苦い舌。
7月24日(水)

『君が元気そうで、安心した』
 御剣からそう、メールが入った。心配してくれて嬉しい、と思うこの胸のあったかさを、何かと勘違いしないようにしないと。

「なあ、まるほどう」
 振り向きざまに唇を重ねて得意げに笑う、ゴドーさんの笑顔は、胸を刺すように素敵で。ダイスキで。

 僕の幸せは、ココにあるもののコトなんだと思う。
7月22日(月)

 結局みんなで遅くまで大騒ぎして、お酒でつぶれた奴らの介抱だの何だのが大変だった。昨日は片づけで終わっちゃったし、てんやわんやだったな。

「お嬢ちゃん、喜んでくれたじゃねえか」
「そうですね、本当に良かった」
 何だかんだいって、それが一番嬉しいことだ。

 片づけが終わって、一息ついて、コーヒーを淹れて。

 ゴドーさんって、どうしてこう、さらうみたいに上手にキスできるんだろう……。
7月20日(土)

 どこかへご飯でも食べに行こうか、と言ったら、事務所で手作りのパーティをするのがいいと真宵ちゃんが言った。それで僕とゴドーさんがジュースを買ってきたり、ピザを取ったり、フライドチキンを買ってきたり、いろいろ豪華っぽくなるようにセッティングした。
「あのね、なるほどくん。あたし、呼べるだけ呼んじゃったんだけど……いいかな?」
「ああ、もちろん。何人くらい来るのかな?」
「それが……」
 真宵ちゃんが口ごもっていると、早くもお客様が到着する。

「真宵様、お誕生日おめでとうございます!」
「わあ、ありがとうはみちゃん!」
「お招きいただき、感謝する。誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、御剣検事!」
「バカがバカ騒ぎする現場をバカバカしくも見物しに来たわ。これ、せめて飾っておきなさい」
「すごいおっきな花束……狩魔検事ありがとうっ」
「何にも用意できなかったッスが……これ、お祝いッス」
「わあっイトノコさんの特製ウインナーサンドだ〜」

 ……なんだかたくさん入ってくる。
 どんどん、ぞろぞろ、知ってる顔もいるし、知らない顔もいる。真宵ちゃんもこっちにはかなり友達がいるみたいで、安心した。

「おめでたいッス! スズキも真宵さんのためにプレゼントを作ってきたッスよ!」
「いや〜、やっぱアレよな。二十歳といやあ、真宵ちゃんも立派なオトナだ」
「あーっ! やっぱり君ッス! 逮捕するッス!」
 2人で一緒にプレゼントを持ってきたマコちゃんと矢張を見て、イトノコさんが色めきたった。……が。
「クッ……野暮な刑事だぜ。お嬢ちゃんの誕生日会をめちゃくちゃにする気かい?」
 ゴドーさんに熱いコーヒーをおごられて黙らされていた。

 真宵ちゃんはずっとご機嫌で、いろいろな友達とかわるがわる話をして、まるでちょうちょのように飛び回っていた。
7月19日(金)

「ねえねえ、明日、何の日か知ってる?」
 真宵ちゃんがニヤニヤしながら近づいてくる。僕は意味もなく引き気味になりながら、明日が何の日か考えてみた。

 明日……土曜日……最近の週末はずっとゴドーさんのところに泊まりに行ってるなぁ。先週末は……ゴドーさんが僕のところへ来てたけど、明日はどうしよう……。天気がよくなりそうだし、自分ちの洗濯をしてから、ゴドーさんちに行って洗濯してあげたいなぁ……。金曜の夜から飲んだり泊まりに行ったりすると、ゴドーさんの洗濯はできても自分ちのが片付かないから、困るんだよな……。

「なるほどくん! トイレ掃除のことばっかり考えてないでよ!」
「考えてないよ!……少なくとも、トイレ掃除のことは」
「明日だよ、明日! 分かってる!?」
「土曜日だろう?」

 もめていると、ゴドーさんが淹れたてのコーヒーを片手に、クッと笑った。
「女の誕生日は忘れねぇ。そいつがオレのルールだぜ」
「わあっ。神乃木さんはちゃんと覚えててくれたんだ!」
「当然だろう? お嬢ちゃんが一人前のオトナになる日だぜ?」
「くうう〜、カッコいい! やっぱりゴドー神乃木の名はだてじゃないねぇ!」
 さすがというか何というか、ぼくにはできない芸当だな、こういうの。

 というわけで、明日は真宵ちゃんの誕生日パーティをやることになった。
7月18日(木)

 ケータイに御剣から着信があった。迷っているうちに留守録に切り替わり、あいつの几帳面な声が聞こえてくる。
『あれからどうなったか、様子が気になった。それだけだ。またいずれ電話する』

 きっと心配してくれてるんだろう。ありがとう、御剣。
 今お前の声を聞くのが怖い、身勝手な僕を許してくれるだろうか。
7月16日(火)

 言葉ばっかり使っていると、どんどん深みにはまる。弁護士という職業柄、そして元々そういう理屈っぽい部分も持っているから、理詰めで自分を追い詰めてしまう。
 言葉を使わないと、いろいろなことが見えてくる。感覚や、本能や、感情や、そういうものが正しいことを知らせてくれる気がする。元々そういう衝動的な部分も持っている僕だ。

 言葉をなくして、ようやくゴドーさんの傍にいられるようになった。
7月15日(月)

 土日はずっと一緒だった。抱き合って、唇を重ねて、肌に触れ合って。
 自分の中にある何か不確定なものを探すために、僕らはそうしていたんだろう。

「あ、おはよーございます! 神乃木さん、体大丈夫ですか?」
「ああ、心配かけてすまねえな。ピンピンしてるぜ」
 真宵ちゃんは嬉しそうに笑って、それから僕を振り返った。
「なるほどくんも、お休みしたら元気出たネ!」
「え、あ、そ、そうかな……?」

 真宵ちゃんの鋭さには時々、参るなぁ。
7月14日(日)

 もう冬じゃないから、肌が触れるとひどく熱い。
 ここまで歩いてきたんだろうか、ゴドーさんの体は夏の熱気をはらんで汗ばんでいた。タイマーでクーラーを切ったまま寝た僕の体もすっかり汗まみれになっていて、水風呂かシャワーを使いたい気分だ。

 でも、ゴドーさんはそんなこと全然気にしないように、強い力で僕の体を抱きしめる。こうしてみると、ゴドーさんの体は見た目よりずっと肉が薄いことに気付く。でも骨太で、大柄で、僕を“すっぽり”という感じで抱き込んでしまうことができる。
「まるほどう……」
 耳元でささやかれる声も湿っぽくて、熱くて。
 首筋に顔をうずめているから、ゴドーさんのにおいが強く感じられる。

 熱い、湿っぽい、抱擁。
 僕はきっと相当汗くさいだろうと思う。でも、ゴドーさんが離してくれないから、じっとゴドーさんに抱かれている。
 汗で色が変わったゴドーさんのベストの肩口には、少しコーヒーの香りが残っている。外の熱気のにおいがする。髪の毛は洗ってきたらしく、シャンプーのミントのにおいがうっすら漂う。それ以上に、やっぱりゴドーさんの汗のにおいがする。

 こんな風に生々しい気持ちを、僕は多分、生まれて初めて知った。

 汗まみれで、お互いの強いにおいを感じながら、僕らはまるでそれがお互いを知る唯一の手段だとでもいうように、首筋を舐めあった。本能に従って、動物のように。獣のように。

 言葉は、道を迷わせるための贋物の地図に似ている。
 そんなものを手にさえしなければ、道はまっすぐ、あるいは曲がりながら、どこまでも続いているのに。


 夏の暑い日。
 僕らは、地図を持たない動物だった。
7月13日(土)

 泥のように眠り続けて、昼前にケータイの着メロに起こされた。
「…………………………はい」
「まるほどう、ココ開けてくれねぇか」
「ゴドーさん……?」
 玄関に出てみたら、ゴドーさんが僕の部屋の前に立っていた。

「ゴドーさん……」
「アンタに言わなきゃいけねぇことがある」
 ゴドーさんは後ろ手に扉を閉めると、部屋に上がろうともせずに、僕をまっすぐ見て言った。

「意地張っても、カッコつけても、ダメなモンはダメらしい。
 オレにはアンタが必要だ。オレには……アンタしかいねぇ。まるほどう」

「ちょ、ちょっと待って……ゴドーさん……」
「嫌とは言わせねえぜ。何せアンタはオレを見捨てることなんざ、できねぇんだ」
「どうしてですか」
「アンタがそういう性分だからさ……クッ」

 なんて、唐突な。
 なんて、傲慢な。

 それでもゴドーさんの不敵な笑みは、思わず吸い寄せられそうになるほど、カッコよかった。

 本当に心から思ったことだけを言葉にしようと。
 そう誓っていたのに。
 よく考えている暇なんてなかった。


 ……僕はその時、感情的な衝動だけで、自分からゴドーさんにしがみついていた。
7月12日(金)

 ゴドーさんが僕に何か言おうとして、止める。
 それだけで卑屈になってしまうというのは、僕が相当弱ってるってことなんだろう。

 あえぐみたいに一週間が終わって、逃げるように家に帰る。
7月11日(木)

 こんなに、同時に何人も好きになれるなんて、いくら僕が本気だと思っても、ただの浮気性なんだろう。

 ゴドーさんのコーヒーの香りに、泣きそうになる。
7月10日(水)

 結局のところ、僕には恋をする資格なんて、ないんだ。
7月9日(火)

 朝、かなり早起きをして、ゴドーさんのマンションまで迎えに行った。

 ピンポーン。
 …………ピンポーン。

「誰だ…………アンタか」
「体、大丈夫ですか? 気になったもんだから、迎えに来ましたよ」
「わざわざご苦労なこった」
「朝ごはん、まだですよね。軽いもの何か作りますよ」

 歓迎も、拒否もしないで、ゴドーさんはキッチンの椅子にどっかりと座り込んだ。椅子に後ろ向きにまたがって、背もたれに両手を乗せて、僕のすることをじっと見ている。
「………………もう、いいぜ」
「え?」
「もうここへは来なくていいぜ」
「…………それは来ちゃだめってコトですか?」
「ああ、そういうこったな」

 コーヒーも飲まないでぼんやりと座っているゴドーさんは、なんだか無防備な感じがした。
「ねえ、ゴドーさん」
「……なんだ」
「ゴドーさんは、僕が好きなんですか?」
「……………………アンタは、どうなんだい?」
「僕?」

 僕は、卵をかき混ぜる手を止めた。

 ゴドーさんの目をまっすぐ見て言う。



「僕は、僕が嫌いです」
7月8日(月)

 ゴドーさんは今日は病院の日だ。いつもなら朝一番に行って、お昼頃には事務所に来るんだけど……。

「ゴドーさん、僕、そろそろ出ないと……」
 朝、いつもならコーヒーを少なくとも6杯は飲み終わってるはずの時間なのに、ゴドーさんはベッドから起きてこなかった。
「体調、悪いんですか?」
「暑いからな……少し寝不足だ」
「そうですか。……今日は病院でしたよね。あんまり無理しないでくださいよ」
「ああ…………」
 それっきりだ。

 ちゃんと病院に行っただろうか。ちょっと気になるけど、いざとなればゴドーさんだって電話くらい掛けてくれるだろうと思って、あんまり考えないことにした。

 午後になって「今日はこのまま帰るぜ。お嬢ちゃんに宜しくな」というメールが送られてきた。
7月7日(日)

「あとは買い出しだな」
「ええーっ、これからすぐですか? ちょ、ちょっと休みましょうよ……」
「クッ……のんびりしてるとコーヒーのアロマだってすぐにかき消えちまう。スーパーの特売品がいつまで残っているか、アンタ保証できるってのかい?」
「うう……わかりました。行きましょう……」

 なんかゴドーさん、今日は人使いが荒いなぁ。
7月6日(土)

 御剣からの電話の後、どうするつもりもなかったけど、ゴドーさんのマンションまで歩いていった。たっぷり1時間くらいかけてたどり着くと、部屋の明かりはもう消えていて、僕は電話を掛けることもインターフォンを鳴らすこともできずにそのまま帰ってきた。

 翌日、朝7時きっかりに、僕はインターフォンを鳴らした。
「……早いな、まだ朝メシ食ってないぜ」
「一緒に食べようと思ったんです。最近、一人じゃつまんなくて」
「クッ……上がってくれよ、寂しがり屋のコネコちゃん」

 僕は目を凝らすようにして気持ちを張り詰め、自分の言葉の一つ一つを吟味しながら声にする。
(今日は、自分が本当にそう思ったことだけを、言葉にする)
 そう、決めている。

「もうちょっと湿度が下がると良いんですけどね。こう蒸し暑いといやになる」
「夏が暑いのは、コーヒーが苦いのと一緒さ。そういうものだと思って味わえば、うまいもんだ」
「じゃ、クーラー止めますよ」
「クッ……ベンリな生活をわざわざ捨てようなんざ、偽善的だなまるほどう」
「ゴドーさんが暑いの好きだって言うからです」
「……冬が寒くてスキだ、ってのはよく聞くがな」
「ああ、あれですか? 『僕が照れるから、誰も見ていない道を寄り添い歩ける寒い日が、君はスキだった』って。オフコースでしたっけ」
「そうだな、オレもそう思うぜ」

 ゴドーさんはコーヒーカップの向こうから、ニヤリと笑った。
「夏が来る前に、アンタに寄り添っておけばよかったぜ」

 僕は。
 頭の中を駆け巡る、僕の本気や、ゴドーさんの視線や、御剣の声や、ちいちゃんの笑顔なんかを、一生懸命整理しようとしていた。
 それから、視線をそらさずにいるゴドーさんの顔を見て。
 もう一回だけ、御剣の声を思い出した。
『お前のことが、好きなのだ……』
 胸が、甘くて、苦くて、切なくて。

 そして、千尋さんの顔が脳裏に浮かんだ。写真のフラッシュのように、強烈に、一瞬だけ。

 そうして迷っていたのは、きっと、ほんの何秒の間だったと思う。僕は笑顔を作ってゴドーさんに言った。
「冬じゃなくても、もうこんなに寄り添ってるじゃないですか、僕。……だって」
「だって?」
「だって、相談役の給料分、家事手伝いするって約束したんですから」
「……そうだな」

 ゴドーさんはいつもの顔で、うなずいた。僕も、いつもの顔で笑った。
7月5日(金)

 御剣の声が、頭の中に回る。
 『成歩堂…………お前のことが、好きなのだ……』

 こんなに簡単に、リピートするなんて。
 昨日のことのように、感情は、再生する。


電話の記録→→→→→
7月4日(木)

「ごめんな、こんな時間に電話して」
『常識をわきまえたまえ、と言いたいところだが、どうした? 何かあったのか?』
「いや…………特に、なにもないんだけどさ」
『……うム、そうか。あまり真宵君に心配をかけるなよ』
「真宵ちゃん?」
『君に元気がないから、と言って心配していた。何か気にかかることでもあるのか?』
「そうか……真宵ちゃん、ずっと傍にいるからな。心配かけてるか。そうだよな」
『神乃木氏のことか?』
「……………………………………多分」
『多分、ではないだろう。私が見ている限り、それしか考えられない』
「…………ねえ、御剣」
『何だろうか』
「僕が君にキスしたときのこと、覚えてる?」
『…………………………忘れた、と言いたいのだがな』
「……どう思った?」
『あのとき君を殴った、ということがその答えになっていないだろうか』
「でも、許してくれたよね」
『…………………………………………』
「ねえ、御剣。僕たちは…………」
『……忘れてくれ、と言ったのは君だろう』
「………………………………うん、そうだったね。ごめん」
『成歩堂』
「何?」
『……………………私ではきっと、君の相談相手にはなれないと思う』
「分かってるよ。でも、他にこんなこと、ちょっとだって聞ける相手なんかいないんだ」
『しかし……』
「ごめん。本当に。……でも、少しだけでも聞いてくれてありがとう。ごめん。声が聞きたかったんだ。誰かの。……できれば、お前の」
『…………明日の夜なら』
「え?」
『明日の夜なら、少し時間もある。会うより、また電話のほうが良いだろう』
「御剣……い、いいよ。そんな」
『明日の夜、10時過ぎに電話する』
「みつ………………切れちゃった」
7月3日(水)

 コーヒーは、ゴドーさんの味がする。
 もうだいぶ暑くなってきたけど、熱いコーヒーが胃の中に落ちていく感覚が心地よくて、僕は家でもコーヒーを飲んでいる。

 胃の中でいつまでも熱を持つコーヒーが、焼けるみたいに感じられる
7月1日(月)

 シルバーリングをはめて、いっしょに事務所に行って。

 僕らは、というより、僕は、本当に何を考えてるんだろう……?

 逃げちゃ、ダメだな。