成歩堂日記 11月

11月11日  ゴドーさんとなるほど君に50の質問・ぇちありバージョン→→→
11月30日(土)

 事前にいろいろ調べる暇がなかったから、行きの新幹線でガイドブックなんかを開いて見た。
「あ、これとかどうですか? 見所がいろいろ回れるルートが書いてありますよ」
「清水寺に、八坂神社……か。悪くねぇな」
「僕、京都なんて修学旅行以来ですよ」

 新幹線で駅弁を食べて、冷凍みかんを食べて、京都ではぶらぶらと名所散策。紅葉は本当に、今週を逃したらもう終わり、という具合で、冬の足音さえ感じさせる。
「まるほどう、せっかくだ。清水の舞台から飛び降りてみるかい?」
「む、無理ですよ。死んじゃうじゃないですか」
「クッ……死ぬ気でやるからこそ、意義があるんだぜ」
「それこそ『異議あり!』です。本気で死にます」

 で、カップルだらけの「縁結び神社」に行って、恥ずかしくもお守りを2つ、買って来ました……。誰も僕らが恋人だとは思わないだろうな。
11月29日(金)

「ゴドーさん、明日から2泊で旅行行きませんか?」
「旅行…………? 急になんだい?」
 僕はいつかゴドーさんがそうしたように、ネットで取った宿の予約チケットをつきつけて言った。

「今週末は、ぎりぎり、紅葉が見れるラストチャンスみたいなんです。運良く京都の宿にキャンセルが出たんで、ゲットしちゃいました」
「へぇ……アンタに紅葉狩りなんて風流があったとはな」
「いいでしょう、ゴドーさん」
「……そうだな」
 クッと笑ったゴドーさんの顔は、いつもの元気なゴドーさんだった。

 よかったなぁ。ゴドーさんとの久しぶりの旅行も楽しみだ!
11月28日(木)

「あ、うん。それじゃまた」
 御剣と仕事のことで電話をして、切った。

「……………………あの、ゴドーさん?」
「なんだい、まるほどう」
「イエ、別に……」

 機嫌が悪いよおお。……すねてるのかな。
11月27日(水)

 別に悪いところもないらしいけど。

 ゴドーさん、何だか少し機嫌が悪い。
11月25日(月)

 昨日は驚いた。
 あんなゴドーさんなんて、もうずいぶん見てない。そう、まるで……僕に敵意をむき出しにしてきたあの頃みたいな、強い執着を感じさせる目だった。

 ただ、僕をつかんで一日中放してくれなかった。何か不安になるようなことが、あったんだろうか。ひょっとして、体が悪くなってる……?

 今日はゴドーさんは病院。僕は気が気でない。
11月23日(土)

「うわの空だな」
「…………そうですか?」

 ゴドーさんに本を読んであげながら、僕は唐突にそう言われて驚く。
 そんなつもりなかったんだけど。読み方、下手だったかな。
11月22日(金)

「やはり、君には勝てないな……成歩堂」
「でも危なかったのは変わらないよ、相変わらずね」

 負けたのにもかかわらず不敵な笑みを浮かべてみせる御剣。そんな御剣検事に勝てた僕は、それなりに成長していると思っていいのかな?

 僕らは、あの頃よりはずっとずっと、大人になったらしい。君の強い笑顔を見てると、そう思えるよ。
 …………御剣。
11月21日(木)

 朝から熱い一杯をごちそうされてしまった。
 ……アタマから。

「あつーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」
「クッ、情けねえツラしてんじゃねえぜ、所長サンよぉ」
 僕にコーヒーカップを投げつけて、ゴドーさんがニヤリと笑う。

「コーヒーは飲むもんだ。コーヒーに飲まれちゃ、ヤケドしちゃうぜ?」
「そりゃそうですよ! 分かってるなら僕の頭に「コーヒーおごっちゃうぜ」はなしです!」
「分かってねえから、おごってやったのさ」

 僕はコーヒーの熱いアロマにむせながら、ちょっとアタマが冷えた気がした。

 負けちゃダメだ。僕を信頼してくれている、依頼人のためにも。
 僕は僕の力を全部、出し切らないと。
11月20日(水)

 審理初日。

 素直に、感動した。「こんなのってあるんだ……」っていう驚きと、なにやらよく分からない感慨と。

 敵意も憎しみもなく、ただひたすらまっすぐに放たれるそのひと言は、惚れ惚れするくらいカッコよかった。

「異議あり!!」

 法廷に凛として響き渡る御剣検事の声に、僕はかつての親友の成長を知った。僕が知らないうちに、御剣は、もう僕のずっと上を行っていたらしい。

 いつものようにギリギリまで追い詰められて、どうにか審理は明日へつなげたけど、いつもと違う感じがする。「証拠がないから勝てない」とか「形勢不利で勝てない」とかじゃない。
 あの検事には勝てない、という気がした。
 あんまり、強いから。
11月18日(月)

 やけに緊張する。法廷で御剣を相手にするのなんて、何年ぶりだろう……。
 最後にやりあったのは、神乃木さんの裁判。その前は……確か、オートロさんの裁判だ。しかもあの時、御剣はもう僕の味方だったっけ。

 本当に……真意の分からないまま、敵として対峙したのは……トノサマンの裁判、か。あれはもう3年前になる。

 今度の御剣は、いったいどんな顔で出てくるんだろう。神乃木さんの時にひどい不意打ちを喰らったから、次は足元をすくわれないようにしないと。

 裁判まではまだ、時間がある。僕は僕の仕事をしっかりやろう。
11月16日(土)

 いやなことを聞いてしまった……。

 次の裁判の相手は、御剣だって。
 御剣とやりあうのは久しぶりだなぁ……。
11月15日(金)

 ど、どうしちゃったんだろう。
 こんなに立て続けに仕事!?

「そんなに驚くこたぁねえだろうさ。ここは弁護士事務所であって、コーヒーのうまい喫茶店じゃねえんだ」
「で、でも……なんか騙されてるのかなあって思いません?」
「クッ……自信を持ちな。いい男はサバける仕事の量で決まる。そいつがオレのルールだぜ」

 そうだよな。よし、頑張ろう!
11月12日(火)

「寒くなってきたなぁ」
 今日は雨が雨が降っている。一雨ごとに冬が来るっていうのは本当だな。

「冬……2度目の冬が来たな」
「2度目?」
「アンタと過ごす、2度目の冬さ」
 そういえば、僕とゴドーさんの思い出は、冬から始まっている。2度目、なんて言われるとおかしな感じだ。

「でも今度の冬は、去年とは違いますよ。特に、ゴドーさんはね」
 僕は机に両肘をついて、ニッコリ微笑んだ。

 僕を憎んでいた冬。
 僕を愛してくれる冬。

「クッ……やけに熱い冬になりそうだぜ」
 熱いコーヒーカップを乾杯の格好で掲げるゴドーさんに、孤独な冬はもう2度と、訪れない。
11月11日(月)

 月曜日に出勤するのがダルくなるほどしなくっても、いいじゃないかと思うよ。……我ながら。
11月9日(土)

 珍しく、甘えてみた。ゴドーさんにぴったりくっついて、離れない。
 寂しかったのかな、僕。なんか、変だ。

「かわいい奴だな」
 いい年して、しかも男が「かわいい」なんて言われることにはいつも抵抗があるけど……今日はやけにそれが嬉しかった。
11月8日(金)

 立て続けに忙しかったせいで、ゴドーさんが病院に行ってしまうとやけに寂しく感じる……。

 子供じゃないんだから、さあ。
11月6日(水)

 やっぱり僕は崖っぷちに追い込まれないと、勝てない決まりになっているらしい。
 一応どうにか無罪判決は下ったけど、それにしても余裕がなかった。

「おつかれさん、相変わらずだったがな」
「はあ、おかしいなぁ。……もうちょっと楽にいけるはずだったのに」
「クッ……楽な裁判なんて、ねえさ」
「そうですよね」

 やっぱりまだまだ、甘かったな。
11月5日(火)

 もうちょっと、というところで決め手になる証拠が足りなかった。結局、最終日まで持ち越しだ。

「今日はいけるかな、って思ったんですけどね」
「ずいぶん成長したが、アンタもまだまだってことだな、まるほどう」
「うう……そう思いますか」
「クッ、でもゴールは目の前、だぜ。狙った獲物は確実にしとめる、そいつがオレのルールだぜ」
「じゃ、ゴドーさんのルールに従って、頑張りますか!」

 よし、あと一息!
11月4日(月)

 審理初日。今回は案外、楽にいけそうだなと思った。
「クッ……まだまだ気を抜くのは早いぜ、所長サンよ」

 差し出された苦いコーヒーを飲んで、熱い息を吐く。
 明日もまだ、裁判は続く。
11月3日(日)

 仕事のときはとことん仕事。そいつが僕のルールです!

 ……でも。

「15分で、済ますぜ」
「15分、ですよ。ゼッタイに!」
「クッ……タイマーかけちゃってもかまわねえぜ?」
「信用してますよ」
 15分間だけの、休憩時間。

 休憩のときはとことん休憩。そいつも僕のルールです。
 休憩時間に休んでない、ってのはムジュンしてるけど……ええと、ココロの休憩ですからっ。
11月2日(土)

「弁護士ってこういうものですよね、当たり前だけど」
「クッ……オレがアンタくらいのときには、この30倍は働いてたぜ?」
「うう……僕だって仕事が嫌いなわけじゃないですよ」

「でも、こっちのほうが好きなんじゃないのかい?」

 ……って、急に抱きしめられたら困るじゃないかぁ……。
11月1日(金)

 た、立て続けに仕事が……!

 普通の事務所なら当たり前のことなんだろうけど(むしろ少ないくらいだ)、何だか慣れてないから焦ってしまう。いやいやいや、こういうときこそふてぶてしく、だ!