| 6月15日(土)深夜1:13 すぐさま後を追いかけようとしたオレの体から、急に力が抜ける。こんなときに、なんだってんだ。 台所の引き出しに入れてある常備薬を手に取り、、数も確かめずにほおばって噛み砕く。体内成分の安定剤だかなんだか知らないが、オレのカラダにとっては水より大事なものらしい……。くそくらえだ。 こんな大事なときに動かなくなるポンコツのカラダなんざ、犬にでも喰わせちまったほうがマシ、だぜ。ちくしょう。 ようやく動けるようになったときには、まるほどうの姿はどこにもなかった。 いつまで待っていても、雨の中にアイツの足音は混じらない。 「…………待つのは性にあわねえんだ」 あてはなかったが、動かずにはいられなかった。シャツにズボンのいでたちで飛び出したアイツがもし戻ってきたら、せめて熱いコーヒーでも飲んでくれることを祈りながら、部屋の鍵は開けたままにした。 よほど焦っていたんだろう。オレは人探しに出るくせに、携帯電話のひとつも持たずに出ちまった。 |
| 6月15日(土) 言い方が、まずかった。 冷めたコーヒーに口をつける気もしねえ。オレは気に障るほど静かなリビングで、雨の音だけを聞いている。 アイツへの執着が、形を変えていた。そのことに、オレはもう気づいていた。4ヶ月前の裁判の前夜、オレとアイツは……事情はどうあれ、カラダを繋いだ。 あれから一体いくつ、アンタの表情を見てきただろう。 喜びも悲しみも、怒りも、それに嫉妬や困惑、憎悪でさえ、アンタは隠すことなく見せてくる。コーヒーのブレンドよりはるかに複雑で、数え切れないアンタの表情、アンタの感情。オレはそいつにずっと惹かれ続けている。 「アンタ、どうしてキスを拒まねえんだ?」 9回目のキスは、味がなかった。その代わり、とびきりみずみずしくて、柔らかい感触が唇に残る。フロから上がってきたばかりのまるほどうは、サイズがひとつ大きいオレのシャツを着て、ぼんやりと突っ立っていた。それから、徐々に表情が変わる。 「ど、どうしてって……どうして……?」 「オレのキス、嫌がったことねえだろう?」 「そ…………だって……」 「だって、何だ?」 言葉の続きが聞きたくて、考えなしに問い詰めるような言い方をしちまった。たったそれだけのことなのに、アイツはまるでひび割れた窓ガラスみてえな顔になる。 「だって……僕は……僕は……」 そして、パリーンとガラスが砕け散る音がして、ヤツは部屋を飛び出していった。ヤツが手に持っていたアイスコーヒーのグラスが、床の上でこなごなになっている。 オレは、どう言えばよかったんだろう。 ただ、聞きたかっただけだったんだ。「オレのこと、キライじゃないのかい」って。 |