フォースの世界2




今日も平和なフォースの世界は、なんだか現世とも繋がっているらしい。


 




「おとーさーーんv」
「ルーク」
 いつものように父を慕って遊びに来るルークは、なすときゅうりで作った動物のような人形を手に持っていた。
「今日はこれで遊んでーおとーさんv」
「いやその……だからお父さんは、お化けとかじゃないんだよ?」

 昨日は、なにやら曰くありげな枯れた草を燃やして遊ぼうと言わた。
 その前は、花の形に固めた砂糖の塊を食べようといわれた。
 ……完全に、お盆と間違えている。

「ねぇ〜、なすときゅうりで遊んでー僕と遊んでーおとーさぁんv」
「な、なすときゅうりって…………」
「ねーえー、棒のついたなすときゅうりで遊んでぇ」
「ちょ、ちょっとルーク。なんかいやらしい感じがするんだけど、そのセリフ……」
「やだあ。おとーさんのえっチv」
 ルークはちょっぴり頭が悪いのかもしれない。

「だいたいそれは、ご先祖様にする奴であって、お父さんはフォースだから違うんだけど……」
「でもお父さんとはこうやって遊ばなきゃだめだって言われたよ?」
「誰だ! ルークにそんな嘘を吹き込んだ奴はぁ!」
 アナキンの表情が険しくなり、ベイダーのような荒い呼吸が漏れる。
 ……だが。

「レイアだよ」

「…………………………」

 そのひと言で父は完全に撃沈。沈黙した。

「……うう、レイア。お父さんが悪かった……許してくれレイア…………」
「おとーさん、またそうやってベイダーヘルメットかぶってヒキコモリになるんだから。だめだよー」
 お馴染みのヘルメットをかぶって部屋の隅っこにうずくまりながら、カワイイ息子に背中を撫でてもらう父なのであった。



 そんなアナキンとルークを、穏やかな笑みを浮かべて見ている者がある。
「よかったな…………アニー」
 目にはうっすらと涙さえ浮かべて、オビ=ワンはうんうんと何度も頷いた。

 教育を誤った。自分の手で殺しかけた。孤独なまま火山の星に置き去りにした。
 決して幸せになれなかった我がパダワンを、それでも心から愛していた。
「私には救えなかった…………でも、今こうして息子が、ルークがお前を救ってくれた」
 何十年も砂漠の星で過ごし、ただただアナキンの平安だけを祈り続けてきたオビ=ワンにとって、ルークは本当に最後の希望の光だったのだ。
 そのルークは、期待に応え、父を救ってくれた。
 アナキンを、彼自身の心の闇から、すくい上げてくれた。

「ありがとう……ありがとうルーク」
 オビ=ワンはローブの袖でそっと流れる涙を拭った。
 もうこの幸せな光景を何回も、何十回も目にしているのだが、そのたびに涙があふれて止まらない。数十年分の自責の念から解放されるまで、オビ=ワンはこの後何度も同じ涙を流すことになるだろう。

 そんなオビ=ワンの肩を、そっと抱く大きな手がある。
「よかったな、オビ=ワン」
「マスター…………」
 オビ=ワンはそっと頭を上げ、背の高い師の顔を仰ぎ見た。クワイ=ガンは、砂漠でのオビ=ワンの生活に寄り添い、ずっと共にあった。だからその苦悩の日々を誰よりも良く知っている。
「アナキンは息子に救われたんだよ」
「ええ、マスター。良かったです。本当に……」
 また涙ぐむオビ=ワンの目にそっとキスをして、クワイ=ガンは涙の雫を舐め取った。

「そんなに泣くな」
「でも……嬉しくて……」
 困ったように眉根を寄せながらも、オビ=ワンの笑顔は絶えることがない。こんなに幸せそうなオビ=ワンの顔を見るのは本当に久しぶりだ。

(ちょっと悔しいな……)
 タトゥーインに来てから今日まで、オビ=ワンとはずっと一緒だったが、二人きりだった記憶はほとんどない。なにしろオビ=ワンと来たら二言目にはアナキンの話を始めるし、延々とそれが続いた後は必ずオビ=ワンが泣き伏して終わるのだ。かといって話題を逸らそうとするとオビ=ワンは不機嫌になって、そっぽを向いてしまう。
(結局アナキンのことばかりだったじゃないか、オビよ……)
 せっかく交信術が使えるようになって、オビ=ワンといちゃいちゃし放題だと思っていたクワイ=ガンのもくろみは、いまだに実現されていない。

 しかも、だ。

「おお、クワイ=ガン。久しいな」
「うわっ出たっ」
 気配を感じさせることなく、いきなり現れるこの男は、本当に心臓に悪い。
 ドゥークーは薄い笑いを唇に浮かべて、クワイ=ガンのすぐ後ろに立っていた。

「ははは、そんなに私に会いたかったのか、この寂しがり屋め」
「うわぁ……キモイ……」
「シャイなところは相変わらずだな」
 マントをなびかせ、エレガントな仕草でクワイ=ガンの顎に手をやる。

「…………まじキモ……」
「最後に見たお前と変わらぬのに、こんなに愛しいのはなぜかな」
「ありえないくらいキモイんで、放してください」
「そんな戯言で私を遠ざけられると思うのか? 愚かで可愛いクワイ=ガンよ」
 ぐぐっと近づいてくるドゥークーの顔面を力いっぱい拒絶して、クワイ=ガンは冷や汗をかいた。
(どうしてこう……私の師匠は脳がイカレてるんだ!!)

 誰に対しても、高貴で優雅なドゥークー伯爵。
 ただ一人。
 クワイ=ガンにだけは、容赦なく甘い顔をする。

「まあ待てクワイ=ガン。元師弟の親睦を深めたくはないのか?」
「寄るな触るな近づくなーーーー! この腐れ毒マスター!」
「良いではないか、良いではないか。はっはっは」
「ぎゃー! 助けろオビ=ワンッ!」
 恥も外聞もなく助けを求めてみるが、オビ=ワンは控えめな笑みを浮かべたまま、幸せそうなルークとアナキンを穏やかに見守るばかりだ。

「ほら、いい加減諦めて私の寝室に来なさい、クワイ=ガン」
「いーやーだぁああああああ! ぎゃあああっ!」
「そんな乱れたフォースでは、意識を保つことができなくなるぞ?」
「それはアンタがいけないんでしょーがっ!」
 どたばたと追いかけっこをするクワイ=ガンを見て、オビ=ワンは小さく笑った。

「ははは」
「笑ってていいのかい、ひよこ君」
「あっ」
 オビ=ワンが驚いて振り返ると、そこには思いがけない人物がいた。机の上に腰をかけ、頬杖を突いてクワイ=ガンのどたばた劇を眺めている。

「ザナトス!」
「久しぶりだね、ひよこ君」
「私はもうひよこじゃないですよ。いろんな意味で」
 懐かしさと戸惑いがオビ=ワンの心を揺さぶる。敵でもあり、味方でもあった、ひと口には言い表すことのできないこの男を、オビ=ワンはまじまじと見つめた。

「ザナトスも、フォースに?」
「さぁ…………よく分からないけれど。君の声が聞こえたような気がしたものだから」
「ああ、そうなんだ……」
 オビ=ワンはさほど驚きもせず、頷いた。
 そんなこともあるのかもしれない。何しろ、フォースの真理は深遠なのだ。

「師匠はあんなんで、パダワンもあんなんで。……楽しいかい?」
「ええ、みんな幸せになりました」
「そうかな」
 ザナトスは不満そうに首をかしげ、それからオビ=ワンをまじまじと見下ろした。砂漠の砂と風に二十年分洗われた、潅木のようなベン・ケノービの顔は、初めて見る。
「ねえ、ひよこ君。君はあの頃のひよこ君には戻れないの?」」
「それは……戻れるけど」
「その顔は、あんまり見覚えがないんだ。私の良く知ってるひよこ君の顔が見たいな」
「はぁ…………」

 薄い笑みを浮かべて、ザナトスがオビ=ワンの頭を撫でる。
 オビ=ワンはちょっとためらった後、ふわりとフォースを身にまとい、次の瞬間にはブレイドを下げたパダワンの姿に変わっていた。
「こう?」
「うん、懐かしいね。あの頃を思い出すよ」
 オビ=ワンの顎に手を掛け、ザナトスは顔を近づけて目の奥を覗き込んだ。

「憎かった。私が得られなかったものを、すべて持っていた。殺したかった」
「そんな……」
「でも、本当は違っていた。私は君になりたかった。君を愛していた」
「ザナ……」
 名前を呼ぼうとしたオビ=ワンの唇は、不意に閉じられた。
 ザナトスが、唇を重ねてくる。
 少し冷たく、けれど柔らかい唇が、オビ=ワンに触れる。

「………………」
 触れ合うだけのキスが、心地よかった。
 ザナトスはオビ=ワンの体を引き寄せ、黒いローブの中に迎え入れた。ぎゅっと抱きしめると、元からひとつだったようにしっくりと収まる。
「クワイ=ガンに望まれてパダワンになり、けれど与えられることのなかった私」
「ザナトス……」
「クワイ=ガンに望まれず、けれどすべてを与えられた君」
 抱きしめるザナトスの胸の中は、ひどく居心地がいい。オビ=ワンはそっと目を閉じた。

「私たちは表裏一体。お互いの欠けた部分を、お互いが持っていた」
「……今なら、分かる気がするよ」
「すべて剥ぎ取られて、フォースになってみないと分からないこともある」
「そうかも知れない……ね」

 オビ=ワンは目を開け、穏やかな表情のザナトスを見上げた。
 それから、楽しそうなクワイ=ガン。
 幸せそうなアナキン。

「ああ、本当に」
 ため息が出るほど、幸せな気持ちだ。

「本当に、ここはいい場所だね」

 永遠にここにいたいと思う。

 愛する人たちと共に。

 永遠に、この心地よい場所で。






<<END>>







EP3公開後、「クワオビはどうなるのか」とか「アナオビはどうなるのか」とか「クワオビ前提アナオビはどうなるのか」とかギィさんとあれこれ考えていたのですが、ビタミルでは上記のような結末でファイナルアンサーということになりました。
明日狩りはドククワ前提クワオビ前提アナオビ、結局ザナオビです。ギィさんは確かクワオビ前提健全アナオビアナ、結局ザナオビとか言いつつクワオビ? 「だってザナトスは永遠だから」とか言っていたギィさんが面白いと思いました。あ、冗談だから本気にしないでね。