| その人は、とても綺麗だった。 「私も君と同じ立場だったんだよ」 そう言って笑う、優しい笑顔が素敵だと思った。 僕は綺麗に笑えたことがない。 幸せで笑ったり、楽しく笑ったりしたことはある。 でもあんな風に、綺麗に笑えたことは一回だってないと思う。 だから僕はその人のことが羨ましいと思った。 あんなに綺麗に笑えるようになりたいと思った。 あんなに綺麗に笑えるようになるには、どうしたらいいんだろう。 でも、僕は一生、あんな風には笑えないだろう。 何故だかそう、思えてしかたがなかった。 かすかな頭痛を覚えて、オビ=ワンは眼を覚ました。 重い頭を上げると、うすぼんやりと暗い部屋が眼に映る。 ……見覚えのない場所だった。 冷え冷えとした、だだっ広く天井の高い部屋だ。古びたサイドテーブルが無造作に放り出されているほかは、何もない。 ここはどこだろう。 考えるとずきん、と頭が痛んだ。その痛みで思い出す。 ああ、そうだ。僕は……あの人と話をしていたんだ……。 それで、人が来て……。 あの人と一緒に戦って……攻撃を食らって……床にぶつかった……。 そこで記憶が途切れている。 「おはよう、ひよこ君」 左の扉が開いて、彼が入ってきた。 「あ、はい」 近寄ろうとして、自分の両手が壁に鎖で繋がれていることに初めて気付いた。 「?」 一瞬、何のことだか分からなかった。 わずかに両手を振り、それがしっかりと壁に固定されていることを確かめる。 それでようやく、この鎖が自分を拘束するための道具だということを理解した。 「これは一体……」 顔を上げ、半信半疑でザナトスに問う。 ザナトスは優しくにっこりと微笑み、スマートな腰を覆うような優雅な姿勢で両腕を組んだ。 「分からないかな、ひよこ君?」 「分かりません。それから、僕のことをひよこ君と呼ぶのは止めてください」 いささか気分を害して、オビ=ワンはむっとした表情を隠さなかった。 美しい顔に優しく微笑まれて、なんだか自分がたどり着けない場所というものを見せつけられた気がした。 ……もっともそれが何なのかは、オビ=ワン自身にも分からなかったが。 けれどザナトスは笑顔を湛えたままの表情でゆるやかにオビ=ワンに近づいてきて、再びこう言った。 「ひよこ君」 「止めてください」 「だって可愛らしいじゃないか」 「ひよこだとか可愛いだとか言われて嬉しいわけはないでしょう」 未熟者、子供、不適格者、無能力……。 今オビ=ワンを最も傷つける類の言葉だった。 「ひよこ君はまだクワイ=ガンのパダワンではないのだね」 「……………………」 かつてクワイ=ガンのパダワンであった青年が笑う。 オビ=ワンの胸に言い知れぬ激しい感情が込み上げる。 「止めた方がいい。クワイ=ガンは君からすべてを奪う。そして君には何も与えない」 「………………そうかも知れないけど」 「そうなんだ。必ずそうなる。……私のようにね」 ザナトスは心地よい靴音を上品に響かせながら、オビ=ワンの眼の前でゆっくり右へ左へと移動する。 「だから君も止めておいた方がいい、ひよこ君」 ザナトスは親しい者が心から誰かを心配するときの眼で、オビ=ワンを見た。 「でも、僕はできればあの人のパダワンになりたいと思います」 「時間がないから?……君はパダワンになるにはずいぶん育ちすぎているね」 「……それもあります」 きっとこの人はもっと早いうちにクワイ=ガンのパダワンにしてもらったのだろう。 また、オビ=ワンの胸に黒くて熱い感情が湧き上がった。 「でも、僕はあの人が好きなんだと思います」 オビ=ワンは自分の心になるべく正直に、そう言った。 これがパダワンになる最後のチャンスだと思っている。 でも、それだけでクワイ=ガンに執着しているのではない。 クワイ=ガンの大きな体を、鋭い眼光を、優雅な身のこなしを、オビ=ワンは思わずにはいられなかった。 このジェダイに惹かれてやまなかった。 「好き、ね……」 ザナトスの声がわずかに低くなる。 そのことにオビ=ワンは気付かなかった。 「あの人にそんな冷たい部分があるのかどうか、僕は自分で確かめたい」 「なるほど、可愛いひよこちゃんだ」 ザナトスは長い黒髪に隠れた瞳でオビ=ワンを見た。 「クワイ=ガンが惹かれるのも分かる」 「…………?」 「ひよこ君、クワイ=ガンは君に惹かれているよ」 その言葉はにわかには信じがたかった。 クワイ=ガンが僕に惹かれている? 「まさか」 「私には分かる。彼は君に惹かれている。でもこれは奴の策なんだ」 「策?」 「そう。焦る君をさんざんじらして、自分に惹きつけておく。あとはパダワンにしてもしなくても、いつでも君から搾取することはたやすい」 クワイ=ガンはそんなことを考えているのだろうか? オビ=ワンには信じられない事だった。 ザナトスはくすっと笑うと、そんなことはどうでもいいと言いたげに首を振った。 「ところで、ひよこ君。自分の置かれてる立場について何か質問はないのかな?」 オビ=ワンははっと顔を上げた。 クワイ=ガンのことばかり考えていて、そのことをすっかり忘れていた。 『忘れてた』と顔に出るオビ=ワンを見て、ザナトスはまたくすっと笑った。 「うっかりにもほどがあるね。危機感ってものがないな」 「…………」 何も言い返せない。 捕縛されているにもかかわらず危機感がなかった。 それはザナトスがクワイ=ガンの元パダワンであったということや、柔和な態度のザナトスにあまり警戒心を抱いてないということが原因ではあるのだが。 それにしても最低限の危機感すら忘れていたとは。 オビ=ワンは返す言葉もなかった。 「これから自分がどうなるか、わかっていないな」 「どうなるんですか?」 素直に聞き返すオビ=ワンに、ザナトスは眼を丸くして、それから耐え切れないというように声を上げて笑った。 「あっはははは、それを私に聞くのかな、君は?」 「だって、分からないから……」 「分からせてあげようか?」 ザナトスはつかつかとオビ=ワンに歩み寄り、笑いの漏れる唇をさっとオビ=ワンの唇に重ねた。 生温かい舌がちろりと一瞬だけかすめていく。 驚いて体をよじるオビ=ワンの顎をつかみ、再び唇を重ねる。 舌を入れて、ほんのわずか前歯に触る。 唇を軽く噛んで、キスをする。 「やっ……」 何か嫌なことが始まった、ということがやっとオビ=ワンにも分かったらしい。 眉を寄せてザナトスの手を振り払った。 かっとなってにらみつけるオビ=ワンを楽しげに見下ろして、ザナトスは腰のライトセーバーを抜いた。 微弱な音とともに、赤い光刃が姿を現す。 「怪我をしたくなかったら、動くなよ」 低い笑いとともにザナトスは雷光のような速さでその刃を閃かせた。 「っ!?」 動きたくとも、体がこわばって動かなかった。 赤い稲妻がオビ=ワンの眼の前で幻のように輝いた。 身に着けていたものがずたずたに引き裂かれている。 そのことに気付いたのは、ザナトスがライトセーバーを収めて腰のホルダーに戻した後だった。 「なかなかいい格好だよ、ひよこ君」 ザナトスが笑う。 その声は低く、暗く、あざけりに満ちていた。 オビ=ワンの中にさまざまな思いがいっぺんに去来する。 何て剣の腕だ。 この人はクワイ=ガンに、パダワンになることを許された人だ。 何て綺麗なんだろう。 僕よりずっと優秀で、有能で、美しくて、優しくて。 クワイ=ガンはきっとこのくらい素晴らしい人でないとパダワンにはしない。 笑顔が綺麗。 どうしてそんな暗い笑い方をするの? クワイ=ガンに認められた人。 歩き方がクワイ=ガンに似ている。 僕をどうするの? あなたは何をするの? あなたはどうしたいの? 「……君」 ザナトスが何か言っている。 「こういう感覚は知っているかな? こういう行為は?」 その手が切り裂かれた上着を払い、そっと肌の上に触れている。 知らない。 けれど、ぞっとする感覚だった。 「止めろっ!」 反射的に叫んでした。 何をされるかも良く分かっていなかったけれど、それでもこれが何か後ろ暗い行為であることだけは本能的に分かっていた。 しかしザナトスはお構いなしに、その白く幼い肌に手を這わせる。 何も知らない小さな突起を、指でもてあそぶ。 「くぅ」 「敏感だな。見込みがある」 くくく、と喉で笑う。 オビ=ワンの細い腰を抱きかかえ、片手で蕾をこね回しながら、もう片方を舌先で刺激する。 「ひっ」 生々しい感覚に短く悲鳴を上げて、オビ=ワンは不吉な手から逃れようとあがいた。 けれどザナトスの腕は見かけ以上に力強く、オビ=ワンの小さな体を固定している。 何度も何度も、敏感な部分を刺激する。 その度に体がビクビクと震え、ひきつった小さな悲鳴が喉からあふれた。 「んあっ……」 「そろそろ違ってきたんじゃないかな、体の感覚が」 ザナトスの言う通りだった。 オビ=ワンは、自分の吐く息が次第に湿ってきていることを自覚している。 嫌悪感と痛みが、熱い疼きに変わってきている。 けれどオビ=ワンはそのすべてを否定しようとした。 「いや……だ……」 奥歯を固く噛んで、自分の中に湧き上がる何かを抑えつけようとする。 これは怒りや、憎しみや、焦りにも似た、負の感情だ。 不吉な感覚を殺さなければ。 オビ=ワンは熱くなる体を懸命に抑え込もうとした。 そんなオビ=ワンを見て、ザナトスが鼻で笑う。 「嫌じゃないだろう? もっと良くしてやろうか」 腰を撫で、太腿を触る。 ぞっとして思わず振り払おうとするオビ=ワンを押さえつけ、ザナトスはわずかに反応し始めている幼いものに手を触れた。 「うああああっ!」 がくんと体がはねた。 笑いながら、ザナトスはそれを擦り上げた。 快楽を知らないそこは、それでも本能に従って次第に屹立する。 熱い欲望がたまってくる。 「いや、いやだっ!」 「暴れるな。黙って感じてみろ」 知らない感覚が、知らない衝動が、オビ=ワンの体内を支配する。 抗うすべも分からないまま、オビ=ワンの体は解放を求めて、欲求に素直に従おうとする。 「いやだっ、いやぁああっ!」 叫んでも、どうにもならない。 体は欲求に忠実に、その機能を果たす。 限界はすぐそこまで来ていた。 「いやっ」 鋭く叫ぶと同時に、オビ=ワンはザナトスの手の中で精を解放した。 何が起こったのか分からない。 荒い息を吐きながら呆然とうなだれる。 眼に映るのは、白い粘液でぬらぬらと光るザナトスの細い指。 嫌らしい軟体動物が5匹、うごめいているようだった。 「気持ち良かったかな」 あざける言葉も理解できない。 オビ=ワンはただ、己の体の熱を持て余して荒い呼吸を繰り返すばかりだった。 知らないうちに涙をこぼしていたらしい。 眼の前の光景がゆらゆらと揺れている。 白い軟体動物はその中で不気味にうごめいている。 そして、再びオビ=ワンの下肢に触れた。 「うああっ!!」 ぞっとして体をよじる。 5匹の軟体動物はその粘液をオビ=ワンの皮膚に擦りつけながら、さらに奥へ入りこもうとのたくっている。 なめらかな肉の上を這い、その谷間に滑り込む。 入り口を確かめるように数回、うごめいて。 体の中に入りこむ。 「や、やだっ! やめっ……!」 ぬるぬるとしたものが、中に入りこんでくる。 その異様な感触はオビ=ワンを怯えさせた。 内壁を擦りながら、ぬめる指を挿入する。 途中で指を折り曲げ、オビ=ワンの敏感な部分を探した。 「ああっ!」 未成熟な肉体が反応して、声を上げる。 そこを何度も執拗に擦ってやると、びくびくと体を震わせて喘いだ。 「あっ、いやあっ、ああああっ!」 「嫌じゃないだろう?」 「いやああああっ!」 みっともなく涙をこぼしながら、体をよじらせる。 つないだ鎖がガシャガシャと大きな音を立てた。 挿れた指を固く締め付けていた筋肉が、少しずつ慣れてほぐれてくる。 奥まで入れた中指を、わずかに抜き、それからまた根元まで入れる。 「ひああっ」 始めは少し、次第に大きく、指の抽送を繰り返すと、中がヒクヒクと反応してきた。 「ナカが良くなってきたようだね?」 「いや、いやだッ!」 首を振って否定するが、未発達な肉体は素直に与えられた刺激を受け入れている。 滑る指が、次第に速さを増す。 激しく挿入してやると、声にならない悲鳴を上げてオビ=ワンが暴れる。 嵐のような金属音を立てる拘束具は、オビ=ワンの柔らかな手首に食い込み、鮮血を啜っている。 「うあああっ……ああっ……ああああぁ……」 ぐちゅ、じゅぷっ。 「ほら、イヤらしい音を立てている。分かるかな、ひよこ君?」 じゅぷっ、じゅぷっ。 「イヤだっ……ああぁぁあっ!」 かっと頭に血が上る。 けれど瞬時に、快楽の波に流されていく。 そしてザナトスの指が柔らかな内壁を強くえぐった瞬間。 「あぁああぁぁーーーーーっ!!」 大きく声を上げて体を弓なりに反らし、びくびくと痙攣する。 涙で潤んだ眼を見開いて、恥も外聞もなく喘ぎ叫ぶ。 「ふふふ……」 指を引き抜き、ローブの裾で拭う。 がっくりと力なくうなだれたオビ=ワンの薄い胸は、荒い呼吸を繰り返して上下している。 時折漏れる悲痛なうめき声が、ザナトスの嗜虐心を満足させた。 オビ=ワンの体は見るも無残だった。 ぼろぼろに切り刻まれた服がかろうじてまとわりついている。 白い肌は上気して朱に染まり、所々に紅い痕が残されている。 体液で濡れた下肢は痙攣し、 戒められた両手には鉄の拘束具が刻み込まれて、真っ赤な血が肘まで流れている。 満足げにうなずいて、ザナトスはオビ=ワンの顎をつかんだ。 「ほら、ひよこ君」 「ン……」 悲しみと屈辱に彩られた眼が、ザナトスを映す。 ひそめられた眉が痛々しかった。 「君の中にはこんなものが潜んでいたんだ」 ずきん。 オビ=ワンの胸が痛む。 腕の痛みより、体の痛みより、ずっと深く冷たい痛みだった。 思い出すのもおぞましい。 けれど、思い出さずに入られない。 体の奥から湧き上がる熱を。 抑えても抑えきれない欲望を。 殺しても喉を食い破って出てくる喘ぎを。 そして……甘い疼きを。 「や……だぁ……」 弱々しく首を振って、否定しきれない現実を否定しようとする。 顎を固くつかみ、ぐっと上げて、ザナトスはオビ=ワンの眼をまっすぐに射抜いた。 「嫌でもなんでも、お前はそういう人間なんだ。内部に醜い肉欲を秘めた、穢れた肉の塊なんだよ」 「…………嫌……ぁ」 けれど、否定しても否定しても、それは認めざるをえない現実だった。 赤くなった眼に涙をためて、微かに首を振ると、オビ=ワンは気を失ってしまった。 力なくぶら下がるその体を撫で、拘束具を外してやる。 代わりにその首に、奴隷の首輪をはめた。 暗い笑いが、部屋の冷たい壁にこだまする。 「くくく……」 無残な体を抱き上げて、ザナトスはまだ幼さを残すジェダイの見習いに囁きかけた。 「君は恐らく、あの男のパダワンになる。 でも、覚えておくんだね。君はもう肉の穢れからは逃れられない。 今日教えられたことを、きっと君は忘れない。 苦悩するがいい。 ……私がそうだったように」 上品な靴音を残して、黒い影が部屋を去る。 腕の中の若きジェダイ候補生を、奴隷として海の底に送るために。 <<END>> |
| なんか痛いだけのザナオビになっちゃったなぁ。いや、ザナオビは痛いんだけどね。クワイさんを絶望させるためにオビをいじめるんだけど、オビは自分自身でもあるんですよ。かわいそうな自分、でももしかしたらクワイさんに愛されるかもしれないという可能性を秘めた他人。だから愛憎うずまいて、好きやら嫌いやら判然としない。ザナトスって難しい人。こんな短いものじゃ表現しきれませんでした。 とりあえずこの後、快楽を知ってしまったオビたんは「自分みたいに穢れた人間はジェダイにふさわしくない、クワイ=ガンにふさわしくない」と苦悩してクワイ=ガンから離れていこうとするのです。でも運命は二人を離さない……みたいな、そんな裏JAってことで。 |