神様はどうやら、俺から何もかも根こそぎ奪わなきゃ気がすまないらしい……。 |
| ZANSHI |
残 滓 〜前戯〜 |
| ZENGI |
ゴドーは堅いマスクの下に冷たい表情を隠して、長い廊下を歩いていた。 長い廊下、果てしなく続くかに見えたその空っぽな空間は、やがてあっけなく終わりを告げる。一枚の重い扉が、ゴドーの前に立ちふさがった。 「………………」 昨日の事は、今の今までアタマから捨てていた。不味いコーヒーの味は、飲み干す瞬間だけ味わえばいい。 それにしても、まさかこんなに苦いコーヒーを飲む羽目になろうとは……。 「クッ……神様よォ、俺がいったいアンタに何をしたってんだい?」 目覚めた朝、すべてを失ったと思った。失くすものなどもう無いと、ポンコツのカラダを引きずって地獄から這い上がってきたつもりでいた。 それなのに。 「地獄から舞い戻ってみりゃあ、そこもまた地獄、か」 皮肉なもんだ、とゴドーはつぶやく。 地獄の業火はどこまでもゴドーを追い、焼き尽くすつもりだ。神経すらうまく繋がっていないカラダにも、チンケな自尊心は宿っている。 それさえ守ることは許されない。 「かまやしねえ、くれてやるぜ。俺から搾り取れるもの全部、奪い尽くしな」 この扉を開ければ、屈辱が待っている。 生きてゆくために飲み干さなければならない苦い運命が用意されている。 今日はどれだけ飲まされるのだろう。何を失い、何を刻まれるのだろう。 ……強がってみたところで、極限まで追いつめられればカラダがすくんで動かなくなる。 自分はそういうチンケな人間なのだという事を、ゴドーは昨日の一件で知らされていた。せめて惨めな姿だけは晒したくないが。 「……そんな余裕が俺に許されるかな?クッ」 おそらく、かけらほどのプライドも残さず打ち砕かれてゆくのだろう。「奴」はそういう目をしていた。 「検事になってアイツを裁く……俺にはそれしかねえんだ。待ってな、ナルホドウさんよ……」 ゴドーは重い扉を開けた。 「待っていたよ。ゴドー君……」 机に両肘を突いて、悪魔が嘲笑う。 ふと。 これがチヒロを守れなかった自分への罰なのかもしれない、という揺らぎがゴドーに生まれ。 そして次の瞬間には消えていた。 ゴドーにはまだやるべきことがあった。 <To be continued..........> |
|
|