遠くで、誰かが話している。








It's your second birthday

バースディ

Happy birthday to you







「ほら、1万でいいんだよな?」
「フフフ、毎度どうも」

 声が、聞こえる。

 うるせえ……。

 吐き気がする。

 よそでやってくれ、頭がいてぇ……。



 だが、そいつらはオレの耳元でずっとしゃべってやがる。

 耳元? 頭の中? どこだ?

 どこ……。

 ここは、どこだ。


「じゃ、20分で終わらせてくださいね」
「分かってる。早く行けよ」
「体に傷をつけないように。あと、これ使ってください。濡れてないところに無理やり
挿れると切れますから」
「おい、このワセリン、薬剤庫からパクったろ」


 お前ら、誰だ。

 何の話だ。

 頭が……いてえんだ……。

 黙っててくれ。


「ああ、ナカ出ししてもいいですよ」
「へっへ、そうさせてもらう」
「それじゃ、ごゆっくり」


 人がいなくなる気配。

 誰もいないのか。


 体が重くなる。

 誰だ、まだいやがるのか。

 早く消えな。うっとうしいぜ。


「ずいぶんやせたなー、アンタも」

 誰のことだ?

 誰と話してる?


 誰かいるのか?


「よく生きてるよ、実際。服毒して死ぬのを免れても、コレじゃあなあ」


 死?

 毒……。

 なんだったっけか。

 覚えている。

 毒。



 何かが、頭をよぎる。


 何かが、体をまさぐる。



「さてと。…………んっ……相変わらずきついな……」


 何かが、中に侵入してくる。

 やめろ。


「くぅ…………たまんねぇ……」



 やめろ

 やめろ


 やめろ



 やめろやめろ







「やめろっ!!」


 オレはそいつを力いっぱい突き飛ばした。










 ……つもりだった。





「うわっ、アンタ……生きてたのか」

 そいつは寝転がったオレの足元にいて、びくともしなかった。

 オレが突き出した両腕を逆に受け止めて、痛いほどの力で強くつかむ。


「おいおい……5年間寝たきりだったにしちゃ、ずいぶん元気だなぁ」

「5…………?」


 そいつは何て言った?

 5年間、寝たきりだと?





 はっきりとそいつの顔を見ようとして、オレは白濁した視界に目を凝らしてみる。




 だが、いくら目を見開いても。


 何も見えやしねえ。

 かろうじてそこが暗闇でないことだけが分かった。



「ちょっと待ってな、すぐ済むからよ」

 そいつはそう言うと、



 オレの体を突き倒した。



「クッ……」

「アンタのケツ、きついからすぐにイっちまう…………んんっ……」



 そいつはオレの腰を高く抱え上げ、力を込めて押し付けてきた。




「ぐっ」

「はは、アンタの喘ぎ声、初めて聞くなぁ」


 何度も体を揺さぶられる。


 そのたびに引き裂かれるような痛みが体を襲う。

 両足を開かされ、そこを裂くように、何度も、何度も。



 両手も、両足も、まるで自分のものじゃねえみたいに、力が入らねえ。



「うっ……あ…………あぐ……っ」

「やっぱり寝たきりの死体みたいなのより、この方がずっといい……くっ」



 がくがくと腰が砕けるほど動きやがる。


 息が詰まるほどの苦痛。


「ん……たまんね……もうダメだ…………」

「く、うっ……」

「ナカに出すぜ……いつもみたいにな……ううっ……」


 そいつはだらしない声を上げて、力任せに体を押し付けた。

 その途端、他人のようなオレの体の中に、

 何か、熱いものが、


 ばしゃっ、というような、水っぽい感触……。


「はぁ……はぁ……うっ」


 ぐったりとそいつの体から力が抜ける。



 オレはすかさず。







 そいつの体を両足にはさんだまま、上半身をひねらせた。

「うおっ?」

 不意を突かれて、そいつは面白いように横倒しになってくれた。

 鈍い音を立てて、そいつの体の重みが消える。


 どうやらベッドの下に落ちたらしい。



 オレも体をもう半回転させ、同じようにベッドから落りた。



「ひ、ひいっ」

 そいつは情けない声を上げて、オレから離れていく。

 とっさにつかみかかろうとして、腕がまったく動かないことを悟る。




 これは、誰だ?



 オレなのか?




 無理やり手を伸ばして、床に爪を立てる。

 もがくようにして、全身をめちゃくちゃに動かした。



 力任せに体をひきずると、どうにか前に進む。



 長年寝たきりだった体は、筋肉がすっかり削げ落ちている。






 何も見えねえ。



 けれど、そいつがどの辺りにいるかは見当がついた。

 慌てて床を這い回り、そいつは扉に到着したらしい。


「く、来るなよ……」

 扉を開けようとして、ガチャガチャやっている。

 鍵が閉まってるんだろう。



 オレは動かない体をがむしゃらに動かして、そいつの足元に這いずり寄った。



 軽い金属音。

 ドアノブが回る音。


「た、助け……」

 扉が開くのと、オレがそいつの足をつかむのとは、ほとんど同時だった。


「ひっ」

「逃がさねえ……」

 力任せに腕を引いた。

 そいつは簡単にバランスを崩して、ずるりと倒れる。




 力じゃどうにもならねえ。

 逃がすわけにはいかねえ。




 オレは。






 倒れたそいつの頭を、扉ではさんだ。






「ぎゃ…………」



 短い悲鳴をあげさせる前に。




 何度も、何度も、力任せに扉で押し潰す。



 扉の角が、そいつの頭をガンガン潰す。




 はさまれるたびに、そいつの体がびくんと跳ねる。


 さっきまでオレがされていたように。









 そいつはやがて、ぐったりと動かなくなった。


 死んだのかどうか、オレは知らない。






「クッ……」





 うるさい悲鳴を上げることのなくなったそいつを放置して、オレは外へと這いずり出
た。






 逃げろ、と本能が叫んでいる。




 動かない体を引きずって、廊下に出る。

































「これはこれは、ずいぶん元気な病人だね。神乃木、荘龍」












 聞き覚えのある声。






 さっき部屋を出て行ったほうの…………?
















「おやおや、大事なお客さんをこんなにしちゃ、だめじゃないか」


 そいつはオレが倒したやつのことを言ってるらしい。



「勝手に客を取らされる身にもなってみろ」


「誰のおかげで今日まで生きてこられたのか、知らないのも無理はない」







 そいつは無様に床の上を這いずり回る俺の手をつかみ、持ち上げた。




「満身創痍の神乃木荘龍、私がいなければ生きてはいられないということを、よーくその
体で思い知るがいい」




 まるで玩具を弄るような手つきで、オレはいともたやすくねじ伏せられる。





「クッ……」











「キミは毒に冒された、ぼろぼろの患者だ。


 そして私はキミの主治医。







 その意味が、分かるかね?」

















 そしてそいつは俺の頭の上から容赦ない言葉を降らせた。




 まるで、ギロチンのような宣告を。







「キミの体は、私という医者がいなければ、すぐに動かなくなるポンコツなんだよ。


 生きていきたいと思うなら、私の指示をすべて、受け付けてもらおう。


 それがキミの生きる方法、たったひとつの道なんだよ。











 ハッピーバースディ、キミの新たなる人生に。












 乾杯。」






























<BAD END>





















局長より先に変なのが出来ちゃいました。
局ゴド考えてたらなんかちゃんと書きたい気になっちゃって。
今プロット練り直してます(←ここ、笑うとこ)
本気でやるよ、局長シリーズ。

で、なんか知らんけど医者×ゴドー?みたいな?
「絶対に書かない」と言ってたキルビルネタでした。
やー、キルビル見ました? くっだらない映画ですよね!
実は2を見に行きたい自分がちょっと嫌いです。

キミシマさんという友人がオエビでゴドー・ザ・ブライドを描いてたので
せっかく裏を作った記念に、私も書いてみたわけですが。
書いちゃったよキミシマさん!(こんなところで呼ばれたくないだろうに)

ゴドーさんは体を維持するために医者に脅されてるらしいです。
あーあーこれだから日活□マソポルノは!
あーあーこれだからベタネタ大好き人間は!
いかがなものかと思いますがね。クッ。

ちなみに局長とは別設定で、これはこれ単発でお願いします。
いろんな男が寄ってたかってゴドーを脅したり犯したりするのってどうよ……とか思って。
もうちょっとかっこいいゴドーさんでいて欲しい!でも犯したい!
あのゴーグルに顔射したーいっ!!!

というわけで、局長には張り切って頑張っていただく予定ですので。
もうしばらく真打の登場、お待ちください。(←ここも笑うとこ)