私はアイツに何をしてやれただろう。






 今日もまた、自らにそう問うた。














道  程














 私はアイツに何をしてやれただろう。

 今まで何度、その問いを繰り返してきたか分からない。久しぶりの再開、初めての敗北、初めて被告席に立たされた事件、そして15年前の決着……。
 まっすぐ、迷うことなく突き進んできた人生に、奴は災難のように降ってきた。けれどそれが災難などではなく、真実の道を示す道標であったことを、御剣は知る。

 それ以来、御剣はことあるごとに「アイツ」を指標としてきた。

 アイツならどうするだろう。
 アイツはなぜそうするのだろう。
 アイツと私はどれだけ違っている?

 そして、アイツに何をしてやれただろう、と必ず自らに問う。
 芸術学部から一転、弁護士を目指した成歩堂の目的は、『御剣を救いたい』、それだけだったそうだ。思うだけなら誰にでもできる。けれどそれを現実のものとしてしまうだけの意志の強さ、それを裏付ける強い動機……。
 そこに自分がいたのかと思うと、御剣はめまいに似た感覚を覚える。

 それほどまでに強く、自分がアイツの心の中にいたのだと。
 自分もまた、彼のためにしてやれることのすべてをしようと、心に誓った。




「2年か……」
 若者の時間はまさに光の速さで過ぎていく。この2年間で御剣は根底から人生を覆され、何もかもやり直し、そして考え直した。
 けれど変わったのは御剣だけではない。
 いくつもの事件をともにして。
 2人の力をぶつけ合って。
 すれ違い、食い違い。
 石が転がってぶつかり合うとき、角が取れ、磨かれ、形が変わっていくように。
 成歩堂もまた、変わっていった。

「検事・御剣怜侍は……あのまま本当に死ねばよかったんだ!」
 あの成歩堂の言葉とは思えないような、理性を欠いた暴言さえぶつけられることもあった。
 そんなときでも動揺することなく、彼の言葉を受け止められたのは、御剣がかつての御剣ではなくなっていたからだ。
(ああ、成歩堂もまた、迷いながら生きているのだな……)
 怒りに燃える本人を目の前に、そんなことを冷静に考えていたりする。

「私たちは、ずいぶん真剣に、今日まで歩いてきたな」
 あの、人生を変えた裁判からずっと、成歩堂に借りを返したかった。少しくらいの努力では返せないその恩を返すために、今日まで頑張ってきた気がする。

 預かっていた弁護士バッヂと、証拠品。そして明日へとつながった審理の行方を一緒に、手渡した。

「あとは君次第だ。頑張りたまえ……相棒」

 今日ようやく言えたその一言に、成歩堂は力強く笑って見せる。
 小学生のときから、今日まで、何度も交差する道をともに歩んできた。そして今日からは、ようやく肩を並べていける気がする。


 交差する道が、今、ひとつになる。

 並んで歩いていける。

 君と、この道を行く。

 




<END>



みつるぎが書きたいのにろくなもん書けないー。もっとちゃんとしたの今度書くんであきれないでください……とほほ。とりあえず軽くジャブ。でもみつるぎって本当にいいなぁかわいいよなぁ大好きだ弱い子。強くて弱い子。  By明日狩り  2004/3/13