| マイホームタウン 電車のホーム、蝉の鳴き声、街路樹のざわめき。 ここでは暗い未来など似合わなかったから、 僕は。 いつまでも、きっと忘れない。 ここに来るたびに、あの頃のことを。 |
| 夏の朝の早い時間がこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。 「おねぼうなコネコちゃんだぜ」 「暑さで目が覚めるまで起きないのは、夏の基本じゃないですか」 「しらねぇな、そいつはオレのルールじゃねえ」 重たい機械を顔に乗せているゴドーさんは、暑さにとりわけ弱い。 だから僕らがこの季節に出歩くなら、朝早いうちか夕方からになる。 早く車の免許を取りたいと思いながらも、社会人になるとそれも難しくて、いまさらのように後悔する。 「大学生のうちに、車の免許取っちゃうべきでしたよ」 「クッ……かわいいチョウチョと鬼ごっこして遊んでたんだろう? そんな暇、今以上になかっただろうさ」 「うぅ……まあそうでしたけど……」 電車のホームは、まだ人も少ない。僕らはがら空きのベンチを独占して、なかなか来ない朝の電車を待っていた。 「こうやって待つのは、キライじゃねえさ」 「へぇ。ゴドーさんって意外と短気だから、そんな風に言うとは思いませんでしたよ」 「アンタに感化されて、ぼんやりするのが得意になったのさ」 「……………………」 不満タラタラの目でゴドーさんを見るけれど、まったく動じてくれない。 そういうふてぶてしいところが、悔しいような、やっぱり大好きなような。 「ここもずいぶん変わっちまったなァ」 不意に、ゴドーさんが言った。その口調がどことなく素直な感じだったから、僕の胸がひとつ大きく鳴る。 「え?」 「駅は新しくなるし、道は増えるし……オレの好きだったカフェもなくなっちまってた」 うまいモカを出す店だったのにな、とゴドーさんはぼやく。 その口調がやっぱり新鮮に思えて、僕は首をかしげた。 「なんだい、まるほどう?」 「いいえ…………」 少し考えて。 「あ、そうか」 「んん? どうした?」 さっきのゴドーさんは、一瞬「神乃木」さんだったのかなと思った。 「……なんでもないです」 ゴドーさんの中に確かに変わらずにある、『今じゃない』ゴドーさん。 変わったように見えても、変わらないものだって確かにあるんだ。 「1人でニヤニヤして、ずるいぜ」 「えへへ、僕だけの秘密です」 「クッ……じらすのが得意なコネコちゃんだぜ」 ゴドーさんはなんとかして僕の口を割らせようとしたけれど、これは僕だけのおいしいお菓子だから、誰にも分けてあげられない。 変わるものも、変わらないものも、確かにここにある。 だから僕は何度でも思い出すことができるだろう。 この幸せな風景を、いつかまた、何度でも。 |
| 「My Home Town」 作詞 小田和正 ここで夢を見てた この道を通った できたばかりの根岸線で 君に出会った まだ人の少ない 朝の駅のホームで 待ち合わせた短い時 次の電車が来るまで my home town my home town 海に囲まれて ここで生まれた 僕らの好きだった あの店も もう無い あの頃の横浜は遠く 面かげ残すだけ my home town my home town どんなに変っても 僕の生まれた街 どんなに変っていても あの頃 ここは僕らの 特別な場所だった 今でもここに来れば 丘の上 僕らがそこにいる my home town my home town どんなに離れていても またいつか来るから |
| わーっ、丸1年ぶりのゴドナルです。久しぶりに書いてみたけれど、まるほどうは本当にゴドーさんのことが好きだなぁ。クッ……照れちゃうぜ。もう少し揉めたり冷めたりするゴドナルも書いてみたいと思うけれど、全然できません。バカップルめ。 しばらく宇宙にいたので、久しぶりに日本に戻ってく来ました。季節っていいなぁ。美しいなぁと思います。あー楽しかった。 |
| By明日狩り 2006/06/29 |