この道はいつか来た道
けれど見えないその行方







 ホルマジオの活躍で、トリッシュがブドウ畑に隠れているということが分かった。すぐに暗殺チームの主力メンバーで速攻をかけ、彼らが所持していたノートパソコンの奪取に成功。ボスからの通信に「ブチャラティ」を装って対応し、次の指令がポンペイ行きであることを受信した。ボスとの交信に「ブチャラティ」の顔や網膜、指紋、声紋が必要かと思われたが、先方からの一方的な送信メールがあったに過ぎない。自分の正体を明かせないボスの慎重さが逆にあだとなり、暗殺チームには都合の良い展開だ。
 メールの指示通りイルーゾォがポンペイ遺跡の「犬の床絵」に向かうと、鍵が見つかった。その鍵の中には「ネアポリス駅6番ホームの水飲み場でこの鍵を使え」というメッセージが封入されていた。プロシュートとペッシが水飲み場を探すと、そこにいた亀の甲羅に鍵がはまることが判明。その亀の体内に部屋があり、ここに入ったまま列車でヴェネツィアまで向かえという指示だ。

「………………」
「………………」
「………………」
 亀の中には、リゾット、プロシュート、ペッシ、イルーゾォ、ホルマジオ、そしてボスの娘であるトリッシュがいた。トリッシュはブドウ畑でさらわれてからこのかた、ずっと口を利こうとしない。リゾットも必要以上のことはしゃべない寡黙な男。リーダーから発せられる緊張感に感化されてか、他のメンバーも余計なことは言わなかった。
 ただ一人のムードメーカーを除いて。

「おいおいおい、暗いんじゃあねーの? こんなんじゃあボスにたどり着く前に緊張で潰れちまうぜ〜?」
「……………………」
「……ったく、しょーがねーなぁ」
 ホルマジオは呆れて、テーブルの上に置いてあったバナナに手を伸ばした。
「痛っ……。つぅ〜、まだ全身が痛ェ。くっそーあのガキ、街中で火ィ付けるなんてとんでもねー野郎だぜ〜」
 全身に包帯を巻いたホルマジオは、布が擦れるだけでも肌が痛むらしい。市街地での戦闘で全身を焼く大火傷を負い、本来ならば病院で手当を受けるべき負傷だ。だが「この大一番ってときに一人で寝てらんねーだろぉ?」と言い、火傷の体でずっと一行に付き添っている。

「包帯……換えようか」
 イルーゾォが進み出て、ホルマジオの包帯をほどきにかかる。皮膚と癒着した部分がはがれるたびにホルマジオの小さな悲鳴が亀の中に響いた。
「いげっ! い…痛でエエッ! よッ! もっとやさしく! やさしくやってくれよイルーゾォよォ〜!」
「してるよ。でもあちこちくっついてて……やめたほうがいいか、これ?」
「ああ! イルーゾォもっとやさしく! そこはダメッ! ダメダメッ! 服を脱がせないでッ! 感じるゥ、うあああダメもうダメ〜!」
「へっ、変な声出すんじゃねーよっ! バカマジオッ! もうやってやんねーぞっ!」
「冗談だよ、怒んなよイルーゾォ〜。包帯取ってくれよォ。けどなんか変な汁が出てるし、このままにしてたらパリッパリに乾いてひどいことにならねーかァ? なんか水ぶくれも破れそうだしよォ〜〜」
 坊主頭から足首まで、肌が見えるところはどこも痛々しく真っ赤になって、膿のようなものがにじみ出ている。イルーゾォは眉根を寄せた。
「水ぶくれって、破いた方がいいんだっけか? 破かない方がいいんだっけか?」
「破いて乾燥させて、あとは消毒したほうがいいんじゃねーのか? 乾燥させるのはケガの鉄則だろ?」
 横から口を挟んだのはプロシュートだった。
「そ、そうッスね! 転んだりしてすりむいたら、洗って綺麗にしてから乾かすのが一番治りが早いッス!」
 ペッシも賛成する。けれどイルーゾォはまだ「どうしようかなぁ、これ」とブツブツつぶやきながら、ホルマジオの水ぶくれを指でつついている。

 ソファに座って腕組みしながらメンバーの様子をじっと見ていたリゾットが、静かに口を開いた。
「……火傷は、乾燥させるな」
「え?」
「水ぶくれはそのままにしておけ。体液は水で流して、無理にこするな。汚れた包帯は、水を浸して静かにはがせ」
 リゾットはそう言いながら立ち上がり、戸棚の中を漁った。簡単な手当ができる救急箱と、それに食品用のラップフィルムを取り出して、机の上に並べる。
 ラップを広げ、その上にワセリンを塗る。それを火傷したホルマジオの肌に巻き付け始めた。
「うへぇ、なんだこりゃ」
「包帯が癒着するたびにはがしていたのでは治りが悪い。これなら乾燥することなく、固着も少ない。次にはがすときも楽になるだろう」
 後ろから覗き込んでいたプロシュートが声を上げる。
「へーっ、こういうのがあんのか。でも水ぶくれって潰せって言われなかったか? オレが若い頃はそう教わったぜ」
「それは古い治療法だ。昔はそう言われていたが、火傷は他の傷の手当てとは違い、乾燥させないことが大事だ。あとは浸出液を頻繁に洗い流しながら、清潔に保って治るのを待つしかない」
「へぇ。治療法も変わるモンだな」

 がやがやと話しながら仲間の傷の手当てをしている暗殺チームを眺めて、トリッシュはずっと口を閉ざしている。
(この人たち……どういう人たちなの…………?)
 母が死んですぐ、『組織』の人間だという人たちが迎えに来た。何も分からず、半ば連れ去られるようにして家を出ると、ペリーコロという男が「君の安全を守るよう、お父さんから言われている」と説明した。そして変装させられ、ブチャラティと名乗る男たちに引き渡された。
(でもすぐに、この人たちに連れ去られてしまった……)
 最初の隠れ家で、トリッシュは「買い物をしてきて欲しい」と彼らに頼んだ。ハンカチとジバンシーの二番のホオ紅、フトモモに補強の入ったストッキング、最新号のイタリアンヴォーグ、フランス製のミネラルウォーター。けれどそれを買いに行った少年は戻ってくることはなく、代わりにこの男たちが襲ってきた。
 何があったのかは、トリッシュは見ていない。部屋にいたら激しい物音がして、何が起きたのか見に行こうと思った瞬間に彼らに拉致されていた。
 殺される、と思った。ペリーコロは「裏切り者がトリッシュを捕まえたら、ボスの秘密を吐かせた後に殺すだろう」と言っていたので、きっとそうなのだろうと思った。
 けれどトリッシュを捕まえた男たちは、少なくとも今までに何かひどいことをしたり、怖いことを言ってきたりすることはなかった。

(………………分からない)
 目の前で仲間のケガの治療をしている彼らを見ていると、何が本当のことだか分からなくなる。彼らは見ていると仲間同士が強い信頼関係で結ばれていて、そして誇り高い。下種な話で盛り上がることもしないし、弱い者や女の子を傷つけるような真似もしない。特に、リーダーと呼ばれている強面の男は、見かけは恐ろしく近寄りがたい雰囲気があるものの、いつもトリッシュの状態に細やかな気を遣ってくれる紳士的なところがあった。
(……誰が敵で、誰が味方なの…………)
 何かを判断するための情報が少なすぎる。トリッシュはずっと父親の顔を見たことがなく、唯一の肉親である母親が死んだとき初めて父を名乗る者の使いが現れた。けれどその男たちは、母親が死んだばかりで不安と悲しみに暮れるトリッシュの気持ちを無視するように強引に、彼女を家から連れ出した。本当にこの人たちは自分の味方なのかどうか、それすら半信半疑のまま、トリッシュは必要な荷物をまとめる時間すら与えられずに家を追い出されてきた。
(今思えば、あれはまるでナチスのユダヤ人狩りのようだったわ……)
 本で読んだユダヤ人狩りは、ナチスが家に押しかけてきたら荷物をまとめる時間も許されずに体ひとつで収容所へ連れ去られていた。本当にトリッシュを大切にしてくれるつもりがあるなら、日用品や母の写真くらいは持ち出すことを許してくれても良かったはずだ。それすら許されず、トリッシュが彼ら『組織』を名乗る者たちに不信感を抱いても仕方のないことだ。

(でも、少しずつ分かってきた。そんな場合じゃなかったってこと)
 トリッシュが荷物も持たずに家を出た直後、この男たちはトリッシュを探しに来たらしい。そして、トリッシュが余計な買い物を頼んだばっかりに、あの少年は隠れ家に戻ってこなかった。今は、ファッション誌だのストッキングだのといった甘えた日常を引きずっている場合ではないのだ。誰かが誰かを探している。それは本当に一分一秒を争うことで、女の化粧品を買っている余裕なんて彼らにはこれっぽっちもないようだ。
 けれど、だからといって、唯一の肉親を失ったばかりの女の子が乱暴に引っ張り回されて、その人たちを味方だと素直に信じられるだろうか?
 あの、ペリーコロという男は味方だったのか。彼が頼ったブチャラティという男たちは味方だったのか。自分を拉致し、父親であるボスを殺そうとしているこの男たちは敵なのか。
(あたしは、父のことなんて知らない。その人がギャングのボスだったなんて、そんなこと知りたくもない。ギャングなんて怖い……)

 トリッシュは膝を抱えた。心細くて、何も信じられなくて、涙が出そうだった。だけど弱みを見せたらきっと悪いことになる。だからトリッシュはできるだけ気丈に振る舞い、男たちに負けまいとして無表情を装っている。
 そんなことを考えているうちに、どうやらホルマジオの手当は終わったらしい。ラップフィルムであちこちを巻かれたホルマジオが気味悪そうに顔をしかめている。
「ひえ〜、何だこれ。気持ち悪ィ」
「後は上から包帯で押さえよう。体液がにじんできたらまた拭いてやる」
 リゾットはそう言いながら、包帯を巻き始めた。くるくると白い布を巻き付け、ふと手を止める。
「……ハサミ」
 救急箱の中に視線を送るが、そこにはハサミは入っていない。ぐるりとメンバーの顔を見渡すが、誰もハサミを差し出す者はいなかった。
「ないのか」
「お……おいおいおい、ハサミねーのかよ。それじゃどうやって包帯切るんだよ」
 慌てるホルマジオを見て、プロシュートがクックッと笑う。
「包帯が入ってるのに、ハサミはなしかよ。ボスってけっこう抜けてるとこあんだなァ〜。仕方ねぇ。リゾットに出してもらえよ、ハ・サ・ミ」
「おいおい! やめてくれよォ。それだけのために『ハサミ』出すなんて、それはしょーがなくねーぞっ?」
「ホルマジオ…………仕方ないだろう」
 リゾットが何を考えているか分からない黒い目を向けて、ホルマジオをじっと見つめる。
「いやいやいや! しょーがなくねえ! それはしょーがなくねえって!」
 何を慌てているのか分からないが、ホルマジオは真っ青になって首を横に振っている。それを見ていたトリッシュは、傍らに置いてある自分の小さな化粧ポーチに目を落とした。バタバタしていて特別な物は何も持ち出せなかったが、これだけは習慣でずっと身につけていたのだ。
 ポーチを開けると、中にはホオ紅以外の化粧品が一揃いと、それに眉毛を整えるための小さな化粧ハサミが入っていた。

「………………あの」
「あァ? どうしたお嬢さん。気分でも悪いのか?」
 恐る恐る声を掛けると、包帯まみれの痛々しいホルマジオが心配そうに尋ねた。むしろ具合が悪そうなのはそっちのほうでしょ、とトリッシュは妙な気分になる。
「これ、小さいけど…………切れ味は良いわ」
 そう言って化粧ハサミを差し出すと、ホルマジオは砂漠でオアシスを見つけた旅人のように歓喜した。
「マジ!? ヒョーッ、たーすかったぜーッ!」
「ずいぶん小さなハサミだな」
 暗黒を思わせるリゾットの黒い目に見つめられて、トリッシュはぞくっと恐怖を感じる。だが、彼に悪気はないらしい。
「化粧用品なの。女の子なら誰でも持ってるわ」
「さすがは女性だなっ! グラッツェ、お嬢さん!」
「借りるとしよう」
 リゾットは小さな化粧ハサミを受け取り、指を通した。だが女性のポーチに入る程度のごく小さなハサミでは、男の指にはあまりにも小さすぎる。試しに先端を何度か開閉してみるが、見ていておかしいほどぎこちない。

「…………クスッ」
 ついつい笑ってしまい、男の機嫌を損ねたかと思ってハッとする。だがリーダーと呼ばれたこの大柄な男は気にした様子もなく、むしろ小さなハサミを使いこなせないのを恥じるように四苦八苦している。
「むぅ………………」
「いいわ、貸して。やってあげる」
 トリッシュはそう言い、化粧ハサミを受け取った。細い指で器用にハサミを扱い、余分な包帯をスッとカットしてやった。
「さ、これでいいんでしょう?」
「うまいねぇ。さすがは女の子だ。それに引き替え男ってのはしょーがねーなあぁ」
「ありがとう、トリッシュ」
 リゾットは礼を言い、丁寧に仲間の手当の始末をしてやる。その手つきを見ていると、この人は本当に仲間を大切にしているんだということが感じられた。
「お嬢さん、良い仕事するじゃねーか」
 役者のように整った顔をした伊達男が声を掛けてくる。確かプロシュートという名だ。見かけは綺麗な顔をしているが、その粗暴な発言や過激な発想は間違いなく彼がギャングだということを証明している。トリッシュはまだ彼らに心を許したわけではない。
「……………………」
「おいおい、睨むなって。ホルマジオを救ってくれたお嬢さんに、これはほんのお礼だぜ」
 笑いながら、プロシュートは雑誌を差し出した。
「…………これは?」
「言ってただろ、イタリアンヴォーグの今月号」
 それは確かにまだ読んでいない最新号の雑誌だった。驚くトリッシュに、プロシュートは満足そうに「ハン」と鼻を鳴らす。

 ブドウ畑の隠れ家からこの男たちによって連れ去られたとき、トリッシュはブチャラティたちに言ったのと同じ要求を彼らに突きつけた。
「ハンカチ、ジバンシーの二番のホオ紅、フトモモに補強の入ったストッキング、最新号のイタリアンヴォーグ、フランス製のミネラルウォーター。それを買ってきてくれなきゃ死んじゃうわ」
 それはトリッシュなりの、精いっぱいの強がりだった。男に舐められたら、弱い女なんてすぐに付け入られて利用し尽くされる。それは母ドナテラがいつも口癖のように言っていたことであり、気の強いトリッシュもまたそれを信条にしてここまでやってきた。たとえギャングだろうが何だろうが、女性が化粧をしたいと思う気持ちは邪魔させない。
 けれどこの男たちは、ブチャラティたちとは違っていた。トリッシュのワガママを一笑に付し、「お嬢さん、今はそんな場合じゃないんだ」とひと言で片付けた。食い下がろうとすると、陽気に見えた男たちは一瞬で犯罪者の目つきに変わり、視線だけでトリッシュを黙らせた。それが怖くて、それきり何もしゃべらなくなった。

「……そんな場合じゃない、って言ったくせに」
 雑誌を受け取りながら文句を言うと、プロシュートはニヤッと笑って足下を指さす。
「今、ここは、そんな場合だ。安全だし、時間もあるからな。あん時は買い物に行く余裕なんてなかったが、この亀に入る前、駅の売店に寄るくらいの時間はあったんだ」
「そう」
「お嬢さん、オレたちはアンタの言うことを何でもかんでも却下したいワケじゃねーんだ。できる限りのことはしてやる。だが、できないときはできないと言う。そこの判断はオレたちに任せて欲しい」
「……………………」

 プロシュートの言うことは正しかった。安全が確保できない状態で女物のホオ紅だのストッキングだのを買いに行くのは、はっきり言って愚かな行為だ。ブランド物のホオ紅を買うならそれなりの店に寄らなければならないし、あの時お使いに出たナランチャにその余裕があったとは思えない。要求したのは自分だけれど、それを許可したのはブチャラティだ。ブチャラティは、判断を誤った。あそこは、女のワガママを聞いている場合ではなかった。
 プロシュートは、「今はそんな場合じゃない」と言った。けれど、それが可能な時にはちゃんと覚えていて、駅の売店で雑誌を買ってくれた。

「そうだ、イルーゾォ。あれを」
 リゾットが何かを命じる。イルーゾォは鏡の中に入って、中から何かを持ってきた。
「はい、お嬢さん。これ。ここに来る前に買ってきた」
「…………………………」
 イルーゾォが差し出したのは、ハンカチとホオ紅、それにストッキングだった。トリッシュは眉根を寄せた。
「ジバンシーじゃないわ」
「悪ィな。これしかなかったんだよ。一応店員にも聞いたんだぜ?」
「それにこれ、ストッキング。補強が入ってない」
「それも分かんなかったんだよ。男にそんな難しい注文しねーでくれよなあぁ!」
 イルーゾォは頭を抱えた。ただでさえ長髪で女に間違われやすい外見をしているのに、コスメショップで「ホオ紅とストッキングをくれ」と言うのがどれだけ恥ずかしかったか。聞いた店員がぎょっとしていたのは、多分「コイツ、ひょっとして自分で使う気なんじゃないの?」と疑われていたからに違いない。そのことを思い出すだけでイルーゾォは死にたくなった。
「ま、しょーがねーよ。うちは男所帯だからよォ。アンタが欲しい物は落ち着いたらいくらでも買ってやるから、今はそれで勘弁してくれ、な?」
 ニカッと笑ってホルマジオが両手を合わせて見せる。こんな大ケガを負った男に「我慢してくれ」と言われて、嫌とは言えない。
「……分かったわ。ありがとう、イルーゾォ」
「お、おう。気にするなよ」
 トリッシュが素直に礼を言うと、イルーゾォはドギマギと強ばった表情で笑みを作った。

 受け取った化粧品と雑誌をまじまじと眺めて、トリッシュは目を細める。
(ちゃんと覚えていてくれたんだわ……)
 女のワガママなんて、無視されたと思っていた。でも彼らは自分たちにできる範囲をきちんと見極め、できる限りのことをしてくれた。補強の入っていないストッキングも、それが彼らに今できる精いっぱいの誠意なのだと思うと何だかとても嬉しく感じられる。
(あたしのワガママのせいで彼らの仲間が帰ってこなくなるくらいなら、補強の入ってないストッキングでもいいわ)
 今はそんな場合じゃない、と彼らは正直に言ってくれた。そうやって遠慮なく、そして正しく今の状況を説明してくれる人は、信頼が置ける。

 トリッシュは最新号のイタリアンヴォーグを開いた。そこにはいつものように、世界の最先端をいく鮮やかなファッションが溢れるように立ち並び、見ているだけでアロマをかいでいるように心が柔らかくなっていく。非日常的な騒動に疲れた心が、優しく暖かく癒やされていくのが自分でも分かった。
 嬉しそうに雑誌に見入るトリッシュを見て、ペッシが首をかしげる。
「こんな時によく呑気に洋服なんか見ていられますねぇ、兄貴? オレにはわかんねえや」
「ペッシペッシペッシよォ〜、オメーはもうちっと女心ってもんを勉強した方がいいぜ? 女ってのは、好みの服といつもの化粧品と、あと毎日違う甘い物を摂取しねーと死んじまう難儀な生き物なんだ」
「そ、そうなんですかい?」
 目を丸くするペッシに、ホルマジオも苦笑する。
「まあ、だいたい合ってるな」
「ふえー、女ってのはめんどくさいもんなんですねぇ。オレなんかうまい魚の煮物(アクアパツツァ)があれば一ヶ月だって生きられる自信がありますぜ」
「女はオメーみてーに簡単にできてねーんだよ」
 男たちが談笑する。その傍らで雑誌をめくりながら、トリッシュは少しだけ気持ちが軽くなるのを感じた。


 その時だった。
「……ボスからの指令だ!」
 リゾットが気色ばんだ声を上げ、それにつられて全員が立ち上がった。ノートパソコンのキーをタッチすると、電子メールが開いてメッセージが現れる。
『全員無事だろうか? 娘を護衛してくれていることに感謝する。最後の指令を送る』
 メールの続きに目を走らせたリゾットが驚愕の表情を浮かべた。
「なん…………だと…………?」
「オイ、どうしたリゾット。何て書いてあるんだ?」
 ただ事ではないリゾットの様子に、プロシュートがメールを覗き込む。
「………………オイオイ、冗談じゃねえぞ」
 百戦錬磨のリゾットも、自信と威勢では誰にも負けないプロシュートも、これには血の気が引いた。
 そのメールにはこう記されていた。

『アバッキオの『ムーディ・ブルース』をダイニングチェアーのそばにて十時間以上巻き戻せ』

「……さすがは、ボスだな。抜け目はねーってか」
「ああ。一方的に投げたメールが確実にブチャラティに届いていたのかどうか、それを確認する方法はボスにはなかった。確認する必要がそもそもなかったんだ」
 リゾットは顔を歪め、テーブルに拳をたたき付けた。アバッキオのスタンド『ムーディ・ブルース』がなければ、この先の指示は受け取れない。指示通りの行動を取らなければボスはすぐに、トリッシュの側にいるのがブチャラティでないことに気付くだろう。それは五分後か、十分後か、指示の内容次第では今すぐにでもボスに気付かれる恐れがあった。
「時間を巻き戻す…………そんなことはオレたちにはできない……ッ!」
「ああ、まずいな。何とかしてこの次の指示を解読しねえと、トリッシュを確保してるのがオレたちだったってことがバレちまう。だが、ダイニングチェアーのそばで、十時間前に何があったってんだ?」

 プロシュートはいきなり床に這いつくばり、ダイニングチェアーの下を覗き込んだ。辺りを探り、床に顔を付けて隙間まで目をこらす。
「何も残ってねえな。……ん? なんだこりゃ」
 ダイニングチェアーの下に指を擦りつけると、黒く汚れが付いた。
「何だそれは」
「…………灰、みてえだ。何でこんなところに?」
「誰か煙草でも吸ったんじゃねーの?」
 イルーゾォが口を挟むが、プロシュートは首を横に振った。
「ここに敷かれた絨毯は真新しい。家具も家電も全部新品みてーだし、おそらく今回の『作戦』ためにすべて新調したんだろう。それなのに亀を引き渡す前に誰かがここで煙草を吸うなんておかしくねーか?」
「………………」
 プロシュートの言葉を腕組みして聞いていたリゾットは、ふと視線を床に向けた。膝を落とし、灰が落ちていた絨毯に顔を近づけると、そこに何か小さなものが落ちていることに気付く。
「…………切れ端」
 つまみ上げると、それは小さな三角形の紙の切れ端だった。やや厚めで光沢のある紙は焦げていて、何かを燃やした残骸のように見える。
「どうやらここに、指示を書いたメッセージか写真のようなものがあったようだ。十時間前、それを説明して、そして証拠が残らないように燃やしてしまった」
「クソッ、それが分かったって時間を戻す能力がなけりゃどうにもなんねーだろうがよォ!」
 プロシュートが腹立ち紛れに床を蹴る。とその瞬間、まるで怒りに呼応するかのように携帯電話が鳴った。

「もしもし(プロント)!? 今こっちは大変な…………何ッ?」
 電話を取ったプロシュートの顔色が変わった。
『おいジジイ、何怒ってんだよ。こっちだって重要な情報をゲットしてきてんだぜ〜? いきなり怒鳴るたぁどういうこったあぁ!?』
 電話してきたのはギアッチョだった。ギアッチョとメローネはトリッシュに同行せず、外で独自に情報収集を行っていた。
「ギアッチョ、情報って何だ?」
『先に謝れクソジジイ。……まあいいぜ、こっちだって時間がねえ。いいかよく聞けよプロシュートよォ〜。オメーあてに手紙が届いた』
「ハン? なんだそりゃ」
『死人からの遺言だ。うちの『組織』の幹部が十時間前に自殺した』
「十時間前!?」
 思わず声を上げたプロシュートに、亀の中にいる全員が目を見開く。
『そう、十時間前だ。自殺の動機は不明。ただ、『組織』のためだったってことらしい。ソイツの死体は部下が片付けたんだが、その中の一人が幹部の遺品の中からプロシュートあての手紙を見つけた』
「中身は?」
『写真だ。ヴェネツィアの入り口、国鉄サンタ・ルチア駅前の像が映ってる』
「サンタ・ルチア……!」
『自殺した幹部の死体を処理した部下は、プロシュートってのがつい先日『組織』を裏切った暗殺チームのメンバーだってことを知らなかったらしい。遺品からプロシュート宛ての手紙が出て来たってんで、正直に届けてくれたぜ』
「幹部の名前は?」
『あァ? 確か……ペリーコロって奴だ』
「………………そうか、分かった。オレたちはこれからサンタ・ルチア駅前に行く。お前らも来い」
『ケッ、テメーが命令するんじゃねーよ。リゾット出せ、リゾットをよォ〜。オレはリゾットの命令じゃねーと何も聞かねーからなァ!』
 プロシュートは黙って携帯電話をリゾットに渡し、パソコンを叩いてヴェネツィアへの地図を出した。それを見せながら、プロシュートが説明する。

「リゾット、ボスからの最後の指令の内容が分かった」
「何?」
「十時間前、ここにいたのはペリーコロって幹部だ。そいつはここでサンタ・ルチア駅前の写真を持っていた。そしておそらく、その写真の場所へ行くように口頭で指示して、そして写真を燃やすと自殺した」
「自殺…………」
「証拠を残さないために、ボスから命じられたんだろう。ペリーコロはボスに恩義を感じていたからな。……アイツはオレの親友だった。そして…………」
 プロシュートの顔に冷たい怒りが浮かぶ。傍らでそれを聞いていたペッシが涙ぐんで鼻をすすった。
「……オレの、親父です」
「アイツは……ペリーコロは、おそらくボスの非道な命令とオレたちへの情との間で苦しんだ。それでボスの命令通りに自殺して、そしてオレたちへも希望を残してくれたんだ」
「……父さん…………グスッ……」
「リゾット。これはペリーコロが残してくれた最後の手がかりだ。サンタ・ルチア駅前に行くぜ」
「……分かった。ペリーコロを信じよう。ギアッチョ、聞いての通りだ」
『おう。それじゃあオレとメローネもサンタ・ルチア駅に向かうぜ』
「そこで落ち合おう」
 電話を切ると、リゾットは全員に告げた。

「目的地はこのままヴェネツィア、そしてサンタ・ルチア駅だ。ヴェネツィアで護衛の任務は終わると鍵に記されていた。おそらくサンタ・ルチア周辺で、ボスは『娘』を引き受けに現れる」
 一同に緊張感が漲る。それはこの旅の終わりを意味し、暗殺チームがボスを倒せるかどうか、そしてトリッシュがどんな運命をたどることになるのかも、そこで決まる。
 リゾットはトリッシュに向かって厳しく告げた。
「トリッシュ。分かっているだろうが、オレたちはお前の父親を、組織のボスを倒すためにお前を連れてきた。ボスはお前の身柄を引き受けるために姿を現す。その瞬間だけが、オレたちにとって唯一のチャンスとなる。……お前が父親をどう思っているかは知らないが、オレたちにはやらなければならないことがある。協力してもらわなければならない」
「……………………」
 トリッシュは「はい」とも「いいえ」とも言わない。ただ黙ってうつむき、怯えた表情で唇を噛んだ。それ以上はリゾットも無理に返事を強要しない。
「……大人しくしてくれれば、それでいい」
 そう言って、リゾットは静かに視線をそらした。


* * * * * * *


 サンタ・ルチア駅前の像の中にはディスクが隠されていた。それをパソコンに入れると、最後の指令が出る。
『君たちへの最後の指令である。『サン・ジョルジョ・マジョーレ島』にあるたったひとつの教会の、たったひとつの塔の上に娘を連れてくること。トリッシュと護衛ひとりのみが塔のエレベーターに乗れる。護衛の者は一切の所持品を禁ずる。他の物は船上にて待ち、上陸を禁止する』
「……ずいぶんと用心深いものだ。だが」
 リゾットは額に指を当て、画面に黒い目を向ける。
「付け入る隙はいくらでもある。ボスがこちらへの接触を極力避けてくれたため、こちらの状態があっちへは一切伝わっていないことだ」
「まったくだなァ。まーだ、護衛してる人間が入れ替わってるってことに気付いてねえみてーだしよォ。身を隠しすぎるってのも考え物だよなァ」
「そう、ボスはこちらの状態が分からないと自ら白状している。誰が何人残っているのか、それすら分かっていない。それに、実際にはブチャラティチームの中には名前も分からない『新入り』がいたはずなのに、そのことにも一切触れてこない。つまり……」
 リゾットが顔を上げ、プロシュートがこれに答える。
「船に何人残っていてもいいし、トリッシュを連れて行く人間が誰でもいいってことだ」

「その通りだ。そこで、船には四人が乗ることにする」
「四人?」
「オレとトリッシュ、ペッシ、メローネだ。オレがトリッシュを連れて塔へ上がり、ペッシとメローネは護衛の生き残りを装って船に待機」
「オレらは?」
 ギアッチョがずいと前に出る。ここまで活躍の場があまりなかったギアッチョは、役に立ちたくてうずうずしているのだ。
「ギアッチョ、お前には少々苦労をしてもらわなければならない」
「?」
「お前はメローネの『ベイビィ・フェイス』で組み替え、オレの上着になってもらう。いざというときに解除させる」
「すごーい。ギアッチョ、『ホワイト・アルバム』を身にまとうだけじゃなくて、リーダーの上着にもなっちゃうんだな。ベリッシモ面白い。つくづく洋服になる運命なのか」
「ホルマジオとプロシュートは、『リトル・フィート』で小さくなる。ホルマジオは船に残り、プロシュートはオレに付いてきて、お互いに電話で連絡を取り合え。そしてもちろんイルーゾォは」
 視線を向けられて、イルーゾォはニヤリと笑った。
「もちろん、鏡の中で待機。だろ?」
「そうだ。これが最後の戦いだと思え。行くぞ!」
「おう!」

 男たちの目は真剣だ。それぞれがバタバタと準備を始め、これから恐ろしいことが起こるのだということが肌で分かる。トリッシュは一人取り残され、部屋の隅にうずくまって膝を抱えていた。
「……行けるか?」
 リゾットが近寄って、そっと頭を撫でる。それを振り払う気力もなく、トリッシュは弱々しく首を振った。
「…………分からないわ。恐ろしくて。どうしたらいいか分からないの」
「今は分からないだろう。だが、いずれ分かるときが来る。自分が何をしなければならないのか。その時、お前は自分で自分の未来を選ぶことになる」
「でも、今は? 自分の父親が殺されようとしているのに、あたしはどうすればいいの……?」
 トリッシュは固く膝を抱え、顔を埋めた。
「今は、オレたちの言うことを聞くしかない。お前に与えられた道は、それきりだ。諦めて従うんだ」
「でも……でも…………ッ」

「逆らえば、オレはお前を殺す」
「!」

 恐ろしい言葉に、トリッシュはビクッと肩を震わせた。けれども頭を撫でている大きな手のひらは優しくて、とても「お前を殺す」と言った人の手とは思えない。
「だから、お前は今は父親を見殺しにするしかない。今のお前にはそれしかできないからだ。だがいずれ、お前が父親を愛しく思うことがあれば、お前はいつでもオレを殺しに来ることができる」
「え…………」
 トリッシュは思わず顔を上げてリゾットを見た。死の淵を覗き込むような赤錆色の目がじっとこちらを見下ろしている。その目はひどく静かで、トリッシュには男の真意が分からない。
「お前がオレを憎むというなら、それもいいだろう。オレを殺して父親の復讐を遂げたいと願うなら、それもまたお前の道だ。だが、今日のお前はオレの虜囚だ。諦めて、従え。そして未来に備えろ」
「……………………」

「……オレは、幼い頃にいとこを奪われた」
 唐突に、リゾットはそんなことを言い出した。ますますその意図が分からなくなり、トリッシュは真剣に耳を傾ける。
「ギャングの圧力で、いとこの子の命を奪った奴はロクに裁かれもしなかった。オレはそれが許せず、その男に復讐を果たした。四年かかった」
「……………………」
「そのまま裏の世界に入り、この組織に入った。だがボスはオレたちを信用せず、虐げた。オレやオレの仲間がどんなにボスに忠誠を尽くしても、ボスはオレたちを信用することはなかった。そして、仲間を殺された」
「…………どうして」
「裏切りを疑われたのだ。そうして一人は生きたまま輪切りにされ、一人はそれを見ながら窒息死した」
「ひどい……」
 トリッシュは顔を覆った。あんなに仲間を大切にしているこの男が、そんな残酷な方法で部下を奪われるなんて。それがどれほどの苦しみだったか、悲しみだったか、トリッシュにはありありと想像できた。

「だからオレたちはボスを許さない。そうしなければオレたちは大切なものを奪われたままなんだ。だが、復讐は新たな復讐を呼ぶ。オレが仲間の復讐を遂げれば、今度はお前が父親の復讐のためにオレたちを狙うことになるかもしれない。……だがそれでも構わない。お前が自らの意志で未来を選ぶ時が来たら、オレはお前の邪魔はしない」
「……………………」
「今はお前のことを利用させてもらう。だがこのツケはいずれ払うことになるだろう」
 そう言うとリゾットは立ち上がった。

「リーダー、準備できたよ。はい、ベイビィ特製のギアッチョコートォ〜。白装束だなんて、カッコイイじゃないか」
 メローネが差し出したのは真っ白な上着だった。リゾットは黒い上着を脱ぎ、代わりにその白い上着を羽織る。
「さ、連れてってくれよな。鏡も持ったぜ〜」
 小さくなったプロシュートが手に鏡を持って振っている。肩に乗せると、もぞもぞと頭巾の中へ隠れていった。

 準備は完了した。リゾットは手を差し伸べ、トリッシュに言う。
「来い、トリッシュ」
「……………………」
 まだ、トリッシュの心は決まらない。けれどリゾットが言ったように、今の自分には「従う」という選択肢以外は何もない。後悔というのは、選択を誤ったと思ったときに感じるものである。選ぶ道がない場合、人は納得や諦めを交えつつそれを「運命」と呼ぶ。
(ついていくしか、ないのね)
 トリッシュはこの「運命」に対峙する覚悟を決めた。リゾットの手を取り、立ち上がる。
 こうして、一行はサン・ジョルジョ・マジョーレ島へと向かった。


* * * * * * *


 夜が明けたばかりの島は、まだ観光客もいない。小さなボートは男三人と女一人を乗せて島に接岸した。
「…………いくぞ」
 ボートを下り、リゾットは振り向いてトリッシュに手を伸ばした。
「えっ?」
 その顔を見てトリッシュが目を見開く。そこにいたのはリゾットではなく、一番最初にトリッシュを護衛していたブチャラティだった。
「え、ブチャラティ……?」
「いいや、オレだ」
 優しい瞳も芯の強そうな表情もブチャラティそのものだったが、声は確かにリゾットだった。それを見ていたメローネが笑う。
「アハ、リーダーの変装、初めて見たかい?」
「へ、変装ですって?」
「そうそう。リーダーは砂鉄を身にまとって自分の姿を変えることができるんだよ。こんな風にね」
 そう言われても、目の前のブチャラティが変装した姿だとはとても思えない。実に完璧に見た目を変えている。
「行くぞ、トリッシュ」
「は、はい…………」

 言われるがままに手を繋ぎ、島に上陸する。人気のない教会に近づくと、緊張で空気が張り詰めているように感じられた。
 教会の中を抜けると、奥にたった一機だけあるエレベーターの扉が開いていた。無人の建屋に、乗客を待って口を開けているエレベーター。すでにボスはどこかから二人を見ているらしい。
「……エレベーターは直通、まっすぐ上へ行くだけだ」
 ブチャラティの姿になったリゾットは、手を繋いだままトリッシュと共にエレベーターに乗った。無言の室内に、かごが上昇する機械音だけが響く。
「あたし…………どうなるのかしら」
 トリッシュはポツリ、とつぶやいた。心細い少女の独り言を聞いて、リゾットは繋いだ手に力を込める。
「ボスはお前を、『裏切り者』の手から守ってここまで連れてくるように言った。きっとお前の身の安全を守ってくれるだろう。そしてオレも、お前が傷つくことは望まない」
「………………」
 どこでボスが聞いているか分からないので、リゾットはブチャラティになった振りでそう言っているのだろう。けれどもその「傷つくことは望まない」という言葉は、彼の本心に違いない。トリッシュはそう思った。

「ねえ………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」

 ひと言何かを言いかけたトリッシュは、それきり黙り込んでしまった。どうしたのだろう、と後ろを振り返ったリゾットは、目を見開いたままその場で立ちすくんだ。

「な…………ッ!?」
 後ろには、誰もいなかった。手を繋いで後ろに立っていたはずの少女の姿がどこにもない。密閉されたエレベーターの狭い空間の中で、トリッシュの姿は忽然と消えていた。
 頭が混乱する。手には、彼女と繋いだ手の感触が、温もりが、まだ残っている。いや、温もりが残っているなどというありきたりな表現は正確ではない。
 繋いだ手の中には、彼女の手首だけが残っていた。
「なっ…………あっ………………!」
 鮮血が溢れる手と握手をしている。けれどその先に繋がっていたはずのトリッシュがどこにもいない。

「『メタリカ』ッッッッ!」

 その瞬間、リゾットは己のスタンドを発動した。鉄製のエレベーターの天井と床に穴を開け、人影を探す。
「いた!」
 トリッシュと、そして何者かの影が、かごの下方にぶら下がっているのが見えた。
(あれが…………ボス!)
 リゾットもすぐさま縦穴(シャフト)に体を入れ、後を追う。
 影は一階に到着すると、エレベーターホールに出て行方をくらませた。
「どこだ……ッ!」
 辺りの様子を窺うが、何かが動いている気配はない。リゾットは体にまとった砂鉄を放棄すると、自らの手首に噛みついて皮膚を破った。

 ―…ロオォオォォドオォォオオオォォォドオオオォォ……

「行け、『メタリカ』」
 自らの血の中に潜むスタンドを放ち、辺りに残る血痕を探させる。

 ―ロオオォォドオォロオォォォドオオォォドォオォォォ

「……そこか」
 主に忠実なスタンドたちは血液特有の酸化鉄の匂いをかぎつけ、すぐさま床に残されたわずかな血痕を探し出す。床に置かれたサイドボードの扉の前に、数滴の血が付いている。
「なるほど……な」
 慎重に扉を開くと、その中には地下へと続く穴が空いていた。
「おいリゾット、これはどういうことだ?」
 頭巾の中に潜んでいるプロシュートが首をひねる。地下へ続く階段に足を踏み入れて、リゾットは小声でつぶやく。

「つまり、オレたちは全員が騙されていたんだ。ボスは最初から娘を守るつもりなんてなかった。自分の過去に繋がる唯一の手がかりだった娘を、自分の手で完全に殺すために、ここまで連れてこさせた」
「うへ。ヒデー奴だな。どうせあんな小娘調べたって、ボスのことなんか何にも分かるわけねーのによォ」
「ああ。スタンド能力とて、父と娘では全く似通うことはない。あの娘自身を調べたところで、ボスのことなど何も分からなかっただろう。だからこそこうして護衛になりすまし、ボスに接近するおとりとして利用したんだ。それを、父親のことなど何も知らない無害な娘を、こんなに手の込んだ方法を使ってでも始末したがるとは……見下げ果てた男だ!」
 リゾットの声には強い怒りがこもっていた。無知で弱い者を権力で虐げるような真似は、リゾットが最も憎む悪の形だ。

 地下へ続く階段がどこへ向かっているか、それは教会の構造を考えればすぐに分かることだ。教会の地下には納骨堂があり、そこでなら安心して娘を殺すこともできるし、別の階段で外へ出ることもできる。
「…………いくぞ。イルーゾォ、頼む」
 頭巾の中のプロシュートが、手に持った小さな鏡を前に出す。その中からイルーゾォが叫んだ。
「『マン・イン・ザ・ミラー』ッッ! リーダーとプロシュートを許可するッ!」
 その叫びと共に、リゾットの体は鏡に吸い込まれた。反転した鏡の中の世界で、リゾットは急いで納骨堂への階段を下りる。
「リーダー、安全な鏡の中を通って追いかけるのはいいけど、どうすんの? 鏡から出るには出口にも鏡がなくちゃあいけないんだ。納骨堂に鏡なんてあるのかな……?」
「大丈夫だ、手は打ってある」
 そう言うと、リゾットは階段を駆け下りて納骨堂へ入った。キョロキョロと辺りを見回し、階段のすぐ側の床に落ちている小さなブローチ状のものを見つけた。
「あれだ! イルーゾォ、あそこから出る!」
「『マン・イン・ザ・ミラー』ッ! リーダーが外へ出ることを許可するッ!」
 次の瞬間、リゾットはボスの目の前に姿を現していた。

「何ィィィィッッ!?」
 リゾットが出て来たのは、トリッシュの服の飾りだった。普通のブローチを鏡面の飾りにすり替え、いざというときにトリッシュのすぐ側に飛び出すことができるように仕掛けておいたのだ。
 ボスの姿を確認しようと、リゾットは顔を上げた。
「なっ……?」
 だが、そこにいたのはボスではなかった。

「お、オレが………………?」
 目の前には、白い上着を羽織った自分がいた。トリッシュを抱えている自分の姿を見て、リゾットは驚愕する。

「…………驚いたぞ。まさかこんな至近距離から現れるとはな」

 真後ろから声が聞こえた。

「教えてやろう。お前が見ているのは、数秒先の未来のお前自身。そして未来の自分を見ているお前は、数秒過去のお前だ。時間を消し去って、飛び越えさせた……」
 リゾットは硬直した。何が起きたのか分からず、体が反応しない。
 過去と未来の自分同士が対面するリゾットに、ボスは拳を振り上げた。
(このまま…………死んでもらう!)


 だが、その拳がリゾットの肉体を貫く直前。


 過去と未来が繋がる一瞬の隙間に。


「解除しろ! メローネええええええええ!」
 かすかな、けれども確かな声が響いた。

 リゾットの頭巾の中に隠れていたプロシュートだ。戦場で長年鍛え抜いた勘が働き、今がとんでもなく「ヤバイ」状況だということを本能が察知する。

「何かわからねーが、やべえ! 『解除』だメローネッ!」
 携帯電話の連絡を受けて、ホルマジオが叫ぶ。
「解除だってよォ〜〜〜!」
「『ベイビィ・フェイス』ッッ! ギアッチョを解除しろッッッ!」

 ―ドンッッッッッッッッ!

 時間をすっ飛ばしてリゾットに攻撃をしようとしたボスとほぼ同時。
 いや、勝利を確信したボスのほうが、ほんの一瞬だけ、遅れた。

「くらえッ! 『ホワイト・アルバム』ッッ!」

 リゾットがまとっていた白い上着が、人間の形に変化する。その瞬間、恐ろしい冷気の塊がボスを襲った。

「ぐおおおおおおおお!」
 マイナス百度以上の冷気をまともに食らったボスは、もんどり打って後転した。時間をすっ飛ばし、さらに距離を稼いで後退する。ギアッチョの目からは一瞬にして標的の姿が消え去った。

「んなあっ!?」
「……それだけの人数を隠しておくことができるとは、そしてこの連携プレー。……お前たち、私が呼び寄せた護衛の者ではないな?」
 柱の陰から声が聞こえる。
「……そうか、お前たちが裏切り者の暗殺チームか。そしてお前が、あのリゾット・ネエロ……ッ!」

「出て来て顔を見せろ、ボス。この人数ではお前に勝ち目はないぞ」
「ほう、裏切り者がたいそうな口を利く。さて、本当に勝てない、の、か、な……?」
 言葉の最後がひと言ずつ、柱の後ろから出て来て近づいてくる。だが姿は見えない。
「何だ……何が………………えっ?」

 次の瞬間、リゾットの背後に気配があった。

(これは……ッ!)

 ようやく、ボスのスタンド能力の秘密に気付いた。これは時間を操る能力だ。人が感知できない時間の中を渡り歩き、そして他人の時間を飛ばすことができる。過去と未来を一瞬にして繋ぎ、その間を自分だけが自在に闊歩できる。

 だが、それが分かってももう遅い。
 背後で振り上げられた拳は、今度こそリゾットの体を貫こうとしている。



「『マン・イン・ザ・ミラー』ッッ! ボスのスタンドを許可する! だがボス本体は許可しないィィィ―ッ!」
 リゾットが抱いているトリッシュの鏡型ブローチから声が上がった。スタンドパワーが空間を歪め、ボスのスタンドを引きずり込もうとする。
「させるものか……ッ!」
 しかしイルーゾォのスタンドがボスを捕らえるその瞬間の時間さえ消し飛び、ボスはスタンドと共に射程範囲外へ飛び退いた。

「な…………、お、おれの『マン・イン・ザ・ミラー』が……効かないなんてッ!」
「ハァ……ハァ……次から次へと小賢しい真似を…………もう、許さんぞオオオォォォ―ッッッ!」
 ボスが咆哮を上げた。本気のエネルギーがびりびりと納骨堂の空気を震わせ、空間を揺さぶる。

「やべえ……イルーゾォ! 逃げるぞ!」
 プロシュートが声を上げる。
「で、でもっ……」
「退却して態勢を立て直す! このままじゃどうにもならねえ!」
「『マン・イン・ザ・ミラー』ッ! 暗殺チームを許可するッ!」
 その掛け声に呼応して、震える空間の中にイルーゾォが作り出した小さなひずみが生じる。そのひずみの中に体が吸い込まれそうになる瞬間。
 リゾットが叫んだ。
「ダメだイルーゾォ! トリッシュもだ!」
「え? ええええええー? と、トリッシュも許可するうううぅぅ!」
 リゾットはトリッシュを抱き、頭巾の中に隠れたプロシュートと共に鏡の世界へと逃げ込んだ。
「逃げるぞリゾット! 走れ!」
「くっ……」

 意識を失ってぐったりしているトリッシュを抱えたまま、リゾットは走り出した。鏡の中の世界には、ボスの力も及ばない。だがこの島から逃げるには乗ってきたボートに戻るしかないということを、ボスも知っている。船着き場へ先回りされたら逃げ切れない。

「ちょ、ま、待って! ギアッチョが! ギアッチョが鏡の中に入ってないよぉぉぉ!」
 イルーゾォが叫んだ。どうやらギアッチョはスタンドの射程範囲内に入っていなかったらしい。

 だが、リゾットは冷酷に告げた。
「置いていく」
「はああぁ? な、何言ってんのリーダー!?」
「時間を稼がせる。今、ボスを足止めできるのはアイツの能力だけだ。来い、イルーゾォ! 急いで船に戻るッ!」
 鏡の中の納骨堂を抜け、トリッシュを抱いたリゾットとイルーゾォは教会の一階へと駆け上がった。



 一方、現実世界の納骨堂では、ボスとギアッチョが一対一で対峙している。
「……どうやら仲間は逃げたようだな。お前を置き去りにして」
 柱の陰から聞こえる声に、ギアッチョは「ケッ」と嘲笑した。
「オメーを足止めする大役を任されたんだってんなら、光栄だぜ。リーダーにそれだけ信頼されてるってことだしよォォ〜〜〜〜」
「仲間を見殺しにして、自分は逃げる、か。しょせん裏切り者のリーダーなどその程度の男に過ぎん」
「オメーこそいつまでもこそこそ逃げ回ってんじゃねーっつのよォォォ〜〜〜〜。そんなに顔を見られたくねーってのかあ?」
「……お前のような小物に、私の素顔を晒す必要はない」
「よっく言うぜぇ。逃げ回ってばっかりでオレらの力が怖いんじゃねーのか、実際よォォォ〜〜〜〜」
「フン、時間を越える最強の能力に、「冷やす」程度の簡単なスタンドが敵うとでも思っているのか?」
 そう言われて、ギアッチョはクックッと肩を震わせた。

「いいぜ、やってみようじゃあねーか。オレの冷気が早いか、ボスの時間をすっ飛ばすのが早いか、比べてみるのも悪くね―ッ!」
 そう叫ぶと、ギアッチョの体中からすさまじい勢いで冷気が吹き出した。

「『キング・クリムゾン』ッッッ!」

 同時に、ボスが時間を飛ばす。

(な…………こ、これは……っ?)

 驚いたのは、ボスの方だった。

(舐めていた…………たかが温度を下げる程度の能力と侮った…………!)
 時間をすっ飛ばした状態でなら、確かにギアッチョに近づくことはできる。だが、今のギアッチョは周囲の気温がマイナス二百度近くも下がり、容易には近づけない。わずかな間であれば接近していることも可能だろうが、「ギアッチョの時間をすっ飛ばし」て、「結果だけが残る」この状態では、ギアッチョの側にいる間に経過するはずだった時間はそのままボスの肉体に蓄積し、冷却によるダメージが増大する。マイナス二百度を下回る超低温の中で生身のまま動き回り、しかも氷のような固いスタンドスーツを身にまとっているギアッチョの本体を叩き潰すのは至難の業だ。

(これは…………離れた距離で時間を「すっ飛ばし続ける」しかないな……)
 勝機があるとすれば、これだけ広い空間を急激に冷却するスタンドの消費パワーは大きいだろうというところだ。そう長いこと超低温を維持できるはずがない。気付かないうちに時間をすっ飛ばし続けて浪費させ、スタンドパワーを使い切ったという「結果」だけが残ったところで、接近して叩く。時間を掛ければ倒せない相手ではない。

「無駄だったな。お前は捨て駒としてリーダーに見捨てられ、このまま死ぬ運命だったのだ……。食らえ、『キング・クリムゾン』ッッ!」
 ギアッチョの時間を飛ばし続け、スタンドを解除する隙も与えずに冷却させる。

「……………………あ?」
 次の瞬間、ギアッチョはとてつもない疲労感に襲われて、足下から崩れ落ちた。

「………………な、何だ…………ァ?」
 ついさっきまでパワー全開で『ホワイト・アルバム』を出し続けていたはずなのに、気がついたら全てのエネルギーを使い果たしていた。もう、立ち上がる力さえない。

(こんな…………クソックソッ!)

「時間を操るスタンドに敵う能力など、この世には存在しない」
 足音が近づいてくる。顔を上げることもできず、ギアッチョはギリリ……と奥歯を噛み締めた。
 その時だった。


 ―ヒュウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!

 ―ヒュンッッ!

 空を切って、何かが飛んできた。「それ」はまるで吸い寄せられるようにギアッチョに向かって跳び、床に倒れている体を引っかけると、再びすごいスピードで巻き戻っていく。

「なッ…………逃がすか!」
 ボスは慌てて「それ」に向かって攻撃を仕掛けた。だが、ギアッチョを吸い寄せたその細い糸にスタンドの拳がヒットした瞬間、ボスの体に激痛が走る。

「ぐあああっ!」
 どこから攻撃を食らったのか、すさまじい痛みがボスを襲う。視界が一瞬真っ白になったその隙に、糸はギアッチョの体を釣り上げて納骨堂から消えて行ってしまった。

「おのれ……おのれおのれおのれえええええ…………」
 床に這いつくばり、ボスは悪鬼の形相で拳を床に叩き付ける。古い石畳が砕け、虚しい破壊音だけが地下の納骨堂に響き渡った。


* * * * * * *


「やあ〜〜〜〜ったぜえええ〜〜〜〜! ギアッチョ! 生きてたんだねッ!」
 ペッシが歓声を上げる。『ビーチ・ボーイ』でギアッチョを釣り上げ、最後の一人が帰ってきたところでボートはすぐさまサン・ジョルジョ・マジョーレ島を離れた。
「おいおいおい、ぐったりじゃねーか。大丈夫かぁ?」
 プロシュートにつつかれて、ギアッチョはうっすらと目を開けた。
「…………るせぇ……ジジイが………」
「ハンッ。そんだけ口がきけりゃあ大丈夫だな」
 リゾットも心配そうに覗き込む。
「ギアッチョ、すまなかった。強敵を前にお前だけを残して逃げるなどと」
 だが、ギアッチョはゼェゼェと荒い息を吐きながら、満足そうな笑みを浮かべてこう答えた。
「……い、い…………役に……立った………………」
「ギアッチョ」
 いつもこうなのだ。リゾットの役に立てるならどんなことでもすると、ギアッチョは思っている。

「なあー、これからどこへ行けばいいのかなぁー?」
 ボートを操縦しているメローネが呑気に尋ねた。本人はいたって真面目なのだが、表情や口調のせいでどうしても呑気に聞こえてしまう。
 リゾットは一同を見回した。全員、指示を待つ顔だ。

「……ボスのスタンド能力の秘密が分かった。時間をすっ飛ばす能力だ。その間に起きることは、ボスだけが関与できる」
「なんだそりゃ、無敵じゃねえか」
「ああ。実に恐ろしい能力だ。だが、今回の件で分かったことがある。……一対一ではダメでも、オレたちの能力を合わせればいくらでも対策は取れる、ということだ」
 これを聞いて、プロシュートがうなずいた。
「確かに。さっきだって、バラバラじゃあ殺されてた。だけど全員の能力が連携したからこそ、一人も死なずに逃げてこられた」
「そうだ。だから次はもっと有利な場所や時間を図り、再び全員で掛かる。そうすれば勝てない相手ではない。なおかつボスの過去も探り、弱点を探し出すことができれば、確実に仕留められる!」
 それを聞いたメンバーが色めき立つ。ついにボスの秘密に触れて、勝機を掴むことができたのだ。

「やったじゃねーか。案外どうとでもなるもんだなァ」
「スゲーやっ! 本当にボスを倒せるんだねッ!」
「これでソルベとジェラートの仇も打てるってモンだぜ」
 嬉しそうに声を上げる一行を見て、トリッシュが声を上げた。
「あたし……」
「あ………………トリッシュ…………」
 つい盛り上がってしまったが、ボスはトリッシュの実の父親なのだ。そのことを思い出した一同が口をつぐむ。だが、トリッシュの口から出たのは思わぬ言葉だった。

「あたしも、連れて行って」
「トリッシュ?」
 驚くリゾットに、トリッシュはしがみついて顔を見つめた。
「あたし、自分が何者から生まれたのかを知りたい! アイツを倒すとか倒さないとかは、別の問題だわ。自分が何者かも分からずに殺されるなんてまっぴらなのッ!」
「……………………」

「思い出したの。あたしの母は昔、父親とは「サルディニア島で出逢った」と言っていた。母親が旅行した先で知り合い、「すぐ戻ってくる」と言ったきり写真も本名も何も残さずに永遠に消え去ったのよ」
「サルディニア……ボスが『組織』のボスになる前のことか。十五年前のことと言ったらそれは……ボスが生まれ育った場所、ということになる……」
 リゾットが額に指を当てて考える。トリッシュはうなずいた。
「そう、そこにアイツの『過去』と『正体』があるはずよ」

 トリッシュの目はまっすぐだった。その瞳に宿る輝きを見て、リゾットはうなずく。
「……いいだろう。お前を連れて行く」
 スタンド能力もない、ただの一般人の娘。けれども、これだけの激烈な運命に巻き込まれながらなお、自らの意志で未来を選び取ろうとする強い意志がある。
「……お前が自ら道を選ぶ時が来たら、邪魔はしないと約束した。だからオレたちと一緒に探しに行こう。あの男の『過去』を」
「ええ、よろしくね。リゾット。そしてみんなも」
 トリッシュはボートに乗っている『仲間』の顔を見回して、うなずいた。

 運命は、変えられないものなのか。人間は奴隷のように運命に翻弄され、使われるだけの存在なのか。
 彼らの未来は誰にも分からない。
 今は、まだ、誰にも。







【END】




2012年11月4日発行「リゾットさんが全部やる本」より再録。全部で9本短編を書いたんですが、これが一番好評だったように思います。「もしも暗チがトリッシュをゲットしていたら」というIF設定のハイライトシーンのみです。これを引き延ばして5部全部を換骨奪胎したいという壮大な夢はあるのですが……果たしてできるものやら。
By明日狩り  2012/11/04