ジェラートの悪夢

















 こんな、夢を見た。

 オレは敵のスタンド使いの攻撃を受けて、自分の影に体力を奪われている。影は切り離せないから、オレは光の中にいるだけで体力を消耗していく。でも、こうして自分の影を消してしまえば、少なくともその間は無事でいられる。
 階段の陰に身を寄せ、自分の影を消して息を潜めながら、オレはソルベを探さなきゃって思ってた。

(ソルベもスタンド攻撃を受けてるはず…大丈夫なのかな……ソルベ……ソルベぇ……)

 もし同じ攻撃を受けてるのなら、ソルベも建物の陰から出られないはずだ。こうして陰から陰へと慎重に移動していけば、いつかソルベと合流できるかもしれない。

 ……そう考えた矢先の事だった。


「……ソルベ!?」

 目の前にソルベが飛び出してきた。

「ウオオオオオヲヲヲヲヲヲヲーーーーーーーーーーーーーッ!!」

「え……ソルベ…………?」

 ソルベは長い刃物を振り回し、何もない空間をやたらめったら斬りつけている。ソルベの目は赤く光り、喉を震わす咆哮は虎のようで、まるで鬼神の舞を見ているみたいだ。

 刃物が建物の壁に当たるたびにガチャン!ギァンッ!と耳障りな金属音を奏でる。それを聞いたオレの耳に「声」が聞こえた。

《この男はもう破壊の虜だ……ヒヒヒッ》

(これは、刀の、声……?)

「ソルベ! その刀を棄ててッ!」

 オレは思わず叫んだ。

 ソルベの紅い眼がギロリとオレを睨む。

 ソルベはゆらりとオレを見下ろし、ニタリと笑った。その蛇のような視線に釘付けにされてオレの体は凍りつく。

「ウオオヲヲヲヲヲヲヲーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 ソルベが刀を振りかぶり、オレに斬りつけた!

《逃げろ、ジェラート!!》

 その咆哮の中にソルベの「声」を聞いて、オレはすんでのところで刀を避ける。

 オレはソルベのために、ソルベにオレを傷付けさせないために、逃げた。
 建物の陰から出るとすぐに自分の影が足にまとわりついてきて、肉にとりつき、神経に絡みつき、骨の芯にべったり貼り付いて体力を奪っていく。それでもオレは駆けた。逃げた。ソルベから、逃げ出した。

「うっうっ……ソルベ…ソルベ……」

 ソルベは絶え間なく叫んでいるから、何を考えているかすぐわかる。そんなソルベから逃げ切るのは案外簡単だった。
 ソルベの姿はすぐに見えなくなり、オレは身を隠して荒い息を吐いた。


(ソルベが持っていた刀は、それ自体がスタンドだ! 持ち主を操るスタンド……)

 ソルベも自分の影に喰われている。おまけに刀に操られて、それでも咆哮の中にオレを気遣う理性を残していた。

「ソルベ…ソルベを助けなきゃ…」

 オレは涙が止まらなかった。オレの非力なスタンド『レディオ・ヘッド』は声の真意を聞き取るだけで攻撃力はない。刀が金属音を立てれば、《こいつを操って皆殺しだァ!》と考えている刀の意思が聞こえる。ソルベが吠えれば、《オレは下へ行く。お前は上へ逃げろジェラートぉ!》と叫んでいるソルベの心が聞こえる。

 でも、それだけだ。
 こんなときには、嘘のない真実が聞こえたって何の意味もない。

 ……オレは、ソルベを助けなきゃ。

「ソルベ……ソルベぇ……」

 オレは建物の陰から這い出して、ソルベを探しに出掛けた。足下に伸びた自分の影が、早速オレを食い始める。それでもいい。かまうもんか。
 オレはソルベを助けなきゃ。出来ないなんてもう言わない。助けたいんだ。ソルベを、オレの命に換えてでも。
 オレはぼろぼろ泣いていた。

 ソルベ、どこにいるの?
 もうソルベの声は聞こえない。
 刀に操られた獣のような叫びも、オレを気遣う優しい心の声も、何も聞こえない。

 体がつらい。オレが食われていく。
 もう足も引きずるみたいで、痛みも苦しみも分からないくらいに全てが重い。
 でも、ソルベを探さなきゃ。

「ソルベ……ソルベ……ソルベ……」

 ソルベ、どこにいるの?
 早く探さないと。
 でないとオレ、本当に死んじゃうかも。
 もうすぐ死んじゃうかも。

 ソルベ、

 どこ………………?





***************************




「…………ハッ!」

 目が覚めたらいつものベッドの中だった。枕が涙で濡れている。
 首を曲げると、隣には寝ているソルベがいる。

「夢だったんだ……」

 そう思った。だけどオレはまだ安心できなくて、ソルベのまぶたをぐいっと引っ張りあげた。

「!?」

 ソルベが起きた。ソルベの目が赤くなかったんで、オレはようやく安心した。

「ねえソルベぇ……オレ、ソルベが死んじゃう夢見たんだよ……怖かったんだよ……」

 涙ながらにそう言うと、ソルベは無言でオレをまじまじと眺めた。寝起きの悪いソルベは無理矢理起こされて、きっとすごく機嫌が悪いだろう。殴られると思ったけど、ソルベが死んじゃう恐怖に比べたらそんなのは全然怖くないし、むしろ生きてるソルベに殴ってもらえるならオレは嬉しいとさえ思った。

「……………………」

 でも、ソルベは何も言わずに、うなり声ひとつ上げることもなく、そのまま目を閉じてまた寝てしまった。

「…………ソルベ……」

 ソルベは何も言わなかったから、怒ってたのか呆れたのか分からなかった。


 けど、とにかくソルベはオレを殴ったりしなかった。


【END】




昨日見た夢の話です。私はなぜか自分がジェラートで、泣きながらソルベを探していました。なんでこんな夢見たんだろ〜って思ってツイッターにつぶやいたら「ユー小説にしちゃいなYO!」ってフォロワーさんにプッシュしていただいたのでつらつらと11回に分けて投稿。それをまとめてみました(貧乏性。せっかく書いた文章が流れるのはMOTTAINAI)。
夢の話なので、敵がブラックサバスっぽいとかアヌビス神っぽいとか、なんかそういうのも夢ってことで。

ところでソルジェラSSはカップリングのほうに分類してないんですけど、いいんでしょうか(苦笑)。デキてるかどうかはさておき、うちのソルジェラは同じ部屋の同じベッドで寝てたりする設定なんですが、別に腐カップリング的な意味ではなくて原作的な意味で「デキてんじゃあねーか?」っていう感じの設定にしてるだけなんですが。もうわからん。原作からホモ設定やめてくれ! うそ! やめなくていい! いいから、原作準拠ってことで、ホモみたいだけどカップリングではないということで。
 By明日狩り  2012/09/17