コーヒーを淹れたら、二杯分できてしまった。とりあえずカップ二つに分けて注ぎ、両手に持ってキッチンを出る。
 誰かいないか、とリビングを覗くと、ギアッチョがパソコンを睨み付けたまま難しい顔をしていた。

「…………」

 そんなに怖い顔をして見るようなサイトがあるんだろうか。無言で近づき、後ろから覗き込む。

「……うわっ! うわああああっリゾットッ!!?」

 気配を感じたギアッチョが何気なく後ろを振り向き、絶叫した。

「ああ、すまない。覗き見るつもりは」
「ビビるだろーがよおォ! なんで気配消して忍び寄るんだよ!」

「いや、そんなつもりは」
「消してただろ! 気配! 完ッ全に!」

「いや、そんなつもりは」
「アンタにはそんなつもりねーのかもしれねーけどッ! 元々静かすぎんだよ! せめて足音くらい立ててくれよ!」

「足音くらいはしただろう」
「してないッ! 聞こえなかった!」

「それはお前がパソコンに集中していたからだろう」

 そう言われてギアッチョは、慌ててノートパソコンのディスプレイを伏せた。
 先程からの慌てぶりといい、これは、あれか。

「ギアッチョ、リビングは公共の場だぞ」
「分かってるよ、だからなんだよ?」

「エロサイトを見るなら部屋に帰ってからのほうが……」

「エロサイトじゃねーよおォォ!」

「だって前にもお前、ここでエロサイトを見てて」
「あ、あれは調べものしてただけだっつってんだろ! エロ見たくて見てたんじゃねーっつーのよォ!」

 顔を真っ赤にさせて怒鳴るギアッチョは、恥ずかしいのかそれとも逆上しているのか。

「そうか。なら今も『調べもの』をしてたのか?」

 リゾットが冷静にそう尋ねると、ギアッチョは気まずそうにもぞもぞと視線をさ迷わせた。

「お、おう。まあ……」
「お前はなんで調べもののたびにそんなに大慌てする必要があるんだ?」
「べっ別に慌ててねーし!」

 むきになるギアッチョがかわいくて、リゾットもついうっすらと笑みを浮かべる。

「あーっ! 笑ってんじゃねえぞ!」
「笑ってない」
「笑ったじゃねーかよォ! クソックソッ! もういいぜ!」

 そう言うと、ギアッチョは素早い動作で電源を引き抜いてパソコンを携える。

「共用パソコンの持ち出しは禁止だぞ」
「わかってっからここで見てたんだよ! 少しくらい貸せっての!」


 足音をドスドス鳴らしながら自室へ帰っていくギアッチョを見送って、リゾットはクスッと笑った。

「やりすぎたか」

 別に恥をかかせるつもりはなかったのだが、むきになるギアッチョがかわいくてつい、からかってしまった。それに共用スペースで見られたくないサイトを見ている方が悪い。

「無防備に油断していたお前が悪いんだからな」

 リーダーとして、そのくらいは言ってもいいだろう。少し言い訳がましくそんな独り言をつぶやいて、リゾットは仕方なく一人で二人分のコーヒーを消費することにした。





 翌日。リビングにきちんと返却されていたノートパソコンを立ち上げ、リゾットはちょっとした検索のためにブラウザを立ち上げた。

「……ん?」

 検索窓のところでもたもたしていたら、「最近の検索履歴」が勝手に出てきた。別に見るつもりはなかったのだが、何気なくそれに目をやる。


『父の日 プレゼント ベスト』

『兄 父の日 プレゼント』

『父の日 おすすめ 兄』

『28歳 プレゼント 父兄』


 苦労のあとが忍ばれる検索ワードの数々に、最初は驚き、次第に顔が赤らみ、そして唇が変な形の笑みを作る。

「……なんだ、28歳って」

 なにがあったのかは、だいたい分かった。そしてもうすぐ何が起きるのかも、なんとなく予想できた。

「……まったく。見られたくないなら履歴くらい消しておけよ」

 リゾットは込み上げる照れ笑いを噛み殺して、そっと履歴を消去してやった。


【終】






土師さんからのリクエストで、リゾットとギアッチョのほのぼの話。リゾギア親子風味のほのぼのなら一番の大好物ですよヒャッハーヽ(゚∀゚)ノ いつもはそつのないギアッチョも、どういうわけかリゾットの前だとちょっと抜けたところも見せちゃう。
By明日狩り  2014/05/30