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「まいったねえ」
口でそう言いながら、メローネは何も困ったことはなさそうな顔で呑気に苦笑した。
だが、リゾットは顔色一つ変えず、じっとメローネの手元に見入っている。メローネの感情と表情が一致しないことはいつものことで、不謹慎と思われる態度をとっていても本人はいたって真面目だということを、リゾットは心得ていた。だからメローネがお気楽な表情で笑みを浮かべていても、咎めたりはしない。
腰に手を当て、画面に映るデータを凝視する。一見パソコンのようなメローネのスタンド『ベイビィ・フェイス』のには、複数のデータが絡み合って複雑な形を成していた。
「どうすればいい?」
「このサンプルだけじゃあ、オレにはどうにもできないよ。血液が混じりすぎちゃってて、うまく『息子』を作ることができない」
メローネは両手を軽く挙げて降参のポーズを取る。
「そうか……」
リゾットはため息を吐いた。
今回の任務は、少々厄介だった。
組織の売人が殺されて、麻薬を奪われた。
その犯人を消すのが今回の任務だが、実は肝心の犯人が特定できていない。
街のチンピラグループの仕業であることは分かっているのだが、まずいことにそのグループには有名なギャングのドラ息子が混じっているという噂で、そいつにうかつに手出しをすることは組織にとって望ましくない。
とはいえ、黙って引き下がれば相手に舐められる。
そこで与えられた指令は、「売人を殺害した実行犯だけを探し出して、見せしめに殺せ」ということだった。
復讐の対象だけをピンポイントで殺せば、チンピラどもも文句は言えない。もしそのドラ息子が実行犯だったとしても、正しく報復をしただけなのだからこちらに分がある。その後の交渉も有利になる。
とにかく、ドラ息子に無益な傷をつけることだけは許されない。
あくまでも慎重に、実行犯だけを探し出して潰す必要があった。
「……このうちの誰か、というのは分かるのか?」
売人の死体の付近から採取した血液は、被害者以外の何人かの血液が混じっていた。売人を殺害する際に何人か負傷したらしい。
キーボードをカタカタと操りながら、メローネがうなずく。
「そうだね。このうちの『どれが実行犯か?』というのは分かるんだ。死体の致命傷付近に一番多く血液を残している奴がいる。そいつが、殺害の実行犯だ。……だが、これだけ交じり合ってしまっていると『それ』だけを父親にすることは難しい。『ベイビィ・フェイス』の息子が混血になっちまう」
「実行犯のDNAは、どれだか分かっている……か」
「そう、あとは混じりっけなしの純粋な血液が採取できれば、血統書つきの『ベイビィ・フェイス』の息子が作れる。そうすればオレたちには分からなくとも、息子は自分の父親だけをきちんと選んで抱っこをせがむことができるよ」
メローネは楽しそうにそう説明した。息子を作る話をするとき、メローネはいつも少々興奮気味だ。本人いわく、「スタンドで息子を作るのは、セックスするときと同じくらい性的興奮を覚える」のだそうだ。
「血液か……」
「そう。血液でなくてもいいけどね。涙でも、唾液でも、鼻水でも胃液でも。体液なら何でもいいよ」
「だが全員を泣かせたり吐かせたりするのは難しいな。……血を吐かせるのなら得意なんだが」
リゾットの『メタリカ』を使えば全員から血液を採取することはたやすい。だが無差別にケガをさせてしまえば敵のギャングに付け入る口実を与えてしまう。あくまでも実行犯だけを暗殺し、それ以外のメンバーには傷ひとつつけてはいけない。
リゾットは固い表情のまま、顔を上げた。
「オレが何とかしよう」
「よろしく、リーダー。オレは母親のあてを見繕っておくよ」
ディスプレイに目を向けたまま、メローネは顔も上げずにそう言った。
リゾットは踵を返し、音もなく部屋を後にする。
後には、キーボードを叩く乾いた音だけが残った。
* * * * * * * * * *
「ヒャハハハハ、でよぉー」
「んなわけあるか、アホ」
「マジですって。見に行きます?」
「ウゼー。どーでもいいじゃねえか」
汚れた街角の暗い裏通りに、無粋な大声が響く。
いかにもガラの悪そうな声に、乞食は寝たふりをしてちいさく背中を丸め、不良たちは顔色を変えてさっと別の道へ逃げる。
この辺りを仕切っているチンピラグループだ。
真っ赤なブランド物のシャツに光沢のある高価そうなジャケットを着た男がリーダー格らしい。やたらと貴金属の飾りを身につけ、見せびらかすようにジャラジャラと音を立てて道の真ん中を歩いている。その周りにはいかつい刺繍の施されたジャンパーを着たリーゼント、薄着のスキンヘッド、柄物のシャツをだらしなくはおったモヒカン頭、奇抜な模様のシャツに剃り込みの角刈り……と、チンピラを絵に描いたような若い男たちが5人、誰彼構わず睨みをきかせながら練り歩いている。もちろん、肌にはもれなくタトゥー入りだ。
そこへ。
「兄さん達、ずいぶんと景気が良さそうじゃあないか」
声をかけた怖いもの知らずがいた。
「ハァ?」
「あんだコラ。オレらに何か用か? あ゛ぁ?」
暗い裏通りの、さらに薄暗い路地から声をかけた男に向かって、チンピラは胸を大きく反らせてズカズカと近寄っていった。
「お前か、気安く声かけやがってテメェなめてん…………」
「…………………………」
壁の陰に潜んでいた男の胸倉を掴み、勢いよく持ち上げてやろうとしたチンピラの手が途中で止まる。
無言で暗闇から姿を現した男は、まるで下から照らし出された影のように大きく伸び上がり、チンピラを上から見下ろしている。優に190センチを超えるであろう高身長の男に、チンピラは思わず息を呑んだ。
リゾットだ。
(なんだこいつ……?)
リゾットの服を掴んだまま、チンピラは蛇に睨まれたかえるのように立ちすくみ、動けなくなっていた。
背が高い、というだけではない。
『この男』には何か得体の知れない迫力がある。
カンの悪いチンピラでも肌で感じるほどに、男の威圧感は並大抵ではなかった。
「………………」
ひるむチンピラを見下ろして、リゾットは胸倉を掴んでいる手を事も無げに振り払った。
それを見ていたリーダー格がニヤニヤと笑みを浮かべて近づいてくる。
「ナンだよ、デカブツ。俺たちに何か用か?」
「……そんな怖い顔をするな。オレはただの客引きだ」
「客引き?」
リゾットはうなずき、自分が立っている路地の奥を指差した。奥のほうにほんのりと明かりが灯っている。ピンク色のネオンサインが、そこに娼館があることを示していた。
「あそこの店だ。今日は客が少なくてな。安くするから遊んでいかないか?」
「アンタみたいなおっかねえのが客引きじゃあ、客も寄りつかねえに決まってるぜ、なあ?」
冗談めかしたリーダー格の口調に、リゾットの雰囲気に呑まれかけていたチンピラたちはハッと我に返った。
「そ、そうですよねえ!?」
「ちげえねぇ! 怖いんだよデカブツがよぉー!」
ゲラゲラと笑うチンピラに、リゾットは肩をすくめて見せる。
「普段は客引きじゃなく、用心棒なんだ。こんなシけた日はオレまで借り出されてたまったもんじゃない」
「そうかよ。そりゃあご苦労なこった」
「そう思うなら、どうだ? 安くするぞ。……これだけでいい」
指を1本立て、ニヤ、と笑って上目遣いにリーダー格を見る。
路地の奥にある小さな娼館は、今夜はリゾットが借り切っている。娼婦の女たちには全員、チンピラの「体液」を取っておくように指示してあり、店に連れて行くことができればあとは娼婦が仕事をしてくれるはずだ。
血液を採取するのは難しいが、娼館ならばある種の「体液」を採取するのは容易い。ティッシュでもシーツでも、それが付着した物を部屋ごとに分けて回収すれば、どれが誰の体液だったか簡単に判別できる。
「ふう〜ん…………安いじゃねえか……」
リゾットの顔を見て、リーダー格がニヤニヤ笑う。
「よし、買った」
「カルロさん、まじすか?」
「おう。ちょっとムラムラきたからな」
嬉しそうな顔をする手下にうなずいて見せて、リーダー格はリゾットの手を取った。
「買うぜ。1人1枚でいいんだよな?」
「ああ、それでいい」
(かかった)
交渉が成立すればあとはこっちのものだ。リゾットはうなずき、路地の奥へ案内しようと足を踏み出した。
だが、強い力で腕を引かれる。
「おっと、どこ行くんだよ」
「え……?」
「買う、って言ってんだよ。……アンタを、さぁ」
リーダー格が崩れたような凶悪な笑みを浮かべ、後ろからリゾットの体を抱きすくめる。
それを見たチンピラが「ヒャッ」「出た出た!」と口々に嘲笑いながら、バラバラとリゾットを囲んだ。
「な……っ?」
「アンタみてーな奴見てっと、ムラムラくるんだよなぁー。上から偉っそうに見下してきて、威圧してくるよーなガタイのいい男はさあ。ムカムカして、ムラムラすんだよなあぁ〜〜〜〜?」
「大人しくしてたら気持ちよくしてやるからよォー」
「ま、大人しくするしかねーと思うけど?」
そう言いながらチンピラの1人がリゾットの腕を後ろで縛り上げる。
「な……、お、オレじゃない……ッ!」
予想外の展開にさすがのリゾットも焦りを見せる。だがその反応がチンピラの気に入ったらしい。
「いやいや、アンタだよ。アバズレの娼婦なんかよりも、こんなコトしたこともするつもりもないアンタのほうがよっぽどそそるぜェ」
「な……っ!?」
「いいカオするじゃん。せっかくだ、楽しもうじゃねーか。ヒャハハハ!」
幾つもの手がいっせいにリゾットに伸びる。
ある者は上着を剥ぎ取り、ある者は肌に手を這わせる。
「クッ……」
ベルトが外され、下着ごとズボンを下ろされる。
狭い路地で、辺りに人影はない。その暗がりで、リゾットは一瞬のうちに肉体を剥き出しにして晒されていた。
がっしりと筋肉のついた体に、複数の手が這う。
「スゲェー。なにこのデカイの。パネェな」
両腕でリゾットを抱えたリーダー格が、下肢をまさぐる。
遠慮なく性器を握ってこすり上げ、男の手にも余るほどのサイズに驚嘆の声を上げる。
「うわっマジパネェ。デケェ!」
「体だけじゃねーんだ、デケーの」
「これマジに本物? 作り物じゃねぇ?」
面白がって、何人もの手がいっせいにリゾットの物を乱暴に握る。
「う…………クッ……!」
敏感な部分を粗雑に扱われて、屈辱と少しの痛みにリゾットが顔をしかめる。それを見てチンピラがゲラゲラと笑った。
「コイツ、気持ちいいみたいだぜ?」
「案外マワされるの好きなんじゃねーのォ?」
「なら遠慮なく犯っちまうかー」
リーダー格がドン、とリゾットを地面に叩きつける。
「クッ」
後ろ手に縛られたリゾットは手をつくこともできず、顔から固い石畳の上に倒れ込んだ。裸の膝がガッと鈍い音を立てる。
犬のように膝を突いたリゾットの腰を掴み、双丘を撫で回して谷間に指を滑り込ませた。
「やめろッ!」
「ルセェな。おいジャコモ、黙らせろ」
ジャコモと呼ばれたチンピラは拳銃を取り出し、地面に顔をこすり付けているリゾットの唇にごりっと押し付ける。
「おっきな兄ちゃん、あんまし騒ぐなよなァ。これから気持ちよくしてやるっつってんだからよ」
「………………」
リゾットは無言のまま、その拳銃を避けようと頭を振りたてた。
「暴れんなっつってんだよ。……ったく。おいエンリコ、チェーザレ、ぼけっとしてねえでコイツ押さえてろ」
「あっ」
「ハイッ」
後ろでぼんやり見ていたチンピラが2人、リゾットの足を両側から押さえつける。
「マッシモ!」
「わーかってますよォ〜。カルロさん、こーゆーときは行動早いんだからなぁ〜」
マッシモと呼ばれたモヒカンがにやけた顔でポケットからなにやら取り出している。リゾットの頭を押さえつけ、後ろ手に縛った腕にそれを押し付けた。
「…………ッ!?」
腕に小さな痛みが走る。
(麻薬か!?)
おそらく注射器だ。体内に異分子が注入されているのが分かり、反射的に総毛立つ。
暴れて振り払おうとしたが、モヒカンの動作は恐ろしく手馴れていて、抵抗する間もなくクスリを入れられてしまった。
「う……くぅ…………」
「ソッコー効くだろ? うへへ、上物だぜぇ。オメーみてーな奴には勿体ないくらいのなぁ〜」
いったいどんなクスリなのか、やけに回りが早い。
一瞬にして体が熱を持ち、体の芯から溶けて崩れるような感覚がリゾットを襲う。
意識が根幹から揺さぶられ、世界がゆらゆらと踊り出した。
そこへ。
「ぅあッ!?」
何の前触れもなく、後ろの孔に指を穿たれる。体がビクンッと跳ね、思わず声が出てしまった。
「お、いい声」
「なんだ、いきなりカンジてんのかよ? ケツで」
「く……ぅ……うう……ッ」
チンピラの嘲笑が、皮ふから体の中にじわじわと浸透してくるように感じられる。屈辱の熱が臓腑に染み渡り、発熱してやけに疼いた。
(なんだ……何のクスリだこれは……?)
リゾットに麻薬を使った経験はほとんどない。これほど即効性があり、しかも骨の芯が蕩けてしまうような感覚をリゾットは初めて味わっていた。
「う……うあ……ぁ…………」
体中をまさぐる手の感触に敏感に反応して、堪えきれない声を漏らす。歯を食いしばろうとしても力が入らず、内からこみ上げる感覚を押さえ込むことができない。
「クッ」
「すげー効くなこのクスリ。もうすげぇカンジまくってるじゃん」
地面に顔をうずめているリゾットの背中を撫で回し、チンピラの手がするりと胸元を這う。
胸の突起を指先で強くねじり上げると、リゾットがひときわ大きな声を上げた。
「うあああっ!」
「いいねえ。イヌはイヌらしく吠てくれよなぁー」
「あっ……く、ぅ…………ッ!」
無遠慮に蕾を摘み、グリグリとひねって押しつぶす。そのたびにリゾットの体はビクビクと激しく跳ね上がり、途切れ途切れに引き攣れた声を上げる。
「ぅあ……あ…く……っ」
骨が固さを失い、柔らかい肉だけになってしまったような錯覚に襲われる。
力の入らない体をくたりと地面に預けるが、腰をリーダー格に抱え上げられていて横たわることは許されない。
「おっと、グデングデンだな。……まぁ、余計な力がはいらねー方が挿入れるのラクだけどよ」
「ユルユルなんじゃないスかァ?」
「どうだろうな。挿入れてみりゃわかんだろ」
そんな会話がやけに遠くのほうで聞こえる。だが熱くなったリゾットの下肢をまさぐる手の感覚は鋭く、肌がピリピリと刺激を受け止める。
体を支えようと無意識に足を突っ張ると、両腿を左右に割り開かれた。
「う…………」
「足開けよ。ホラ」
「ク……っ!」
持ち上げられた下半身の中心に、リーダー格が指を這わせる。そのまま爪を立てて内部に侵入し、一息に根元まで挿入した。
「うあ……あああっ」
「お、いい具合」
情けないほどにはしたない声が出る。だがそれを制する理性もクスリで溶かされていて、自分がどんな恥ずかしい声を上げているのか、リゾットはもう判断すらできない。
グチュグチュ……と厭な音を立てて、肉をまさぐる。抵抗する力を奪われ体はゆるやかに指を飲み込み、内部は息づくように蠢いている。
2本目…………3本目…………と突き立てる指の数を増やし、狭い後孔を乱暴に押し広げる。
「もうイケるか。すげー反応いいぜコイツ」
「普段からしてんじゃねーッスかねぇ?」
「かもなー。こんなコエー顔に似合わず、毎晩男に抱かれて悶えまくってたりしてよォ」
そんな罵声が他人事のようにリゾットの耳をすり抜ける。
急に、下半身を圧迫していたものが引き抜かれた。
(………………ッ!?)
ほぅ……、と思わず息を吐いたその瞬間。
「う……あ……ああああああああっっ!!??」
「クッ……きつ……」
先ほどまでとは比べ物にならないほどの質量が、リゾットの体内を浸食する。
「ああ………………あ……ッ!!」
咽喉が引き攣れ、息が詰まる。
強い圧力と、痛み。
けれどそれを遥かに凌駕するほどの………………快楽の波。
「クッ……あっ……あああっ!」
複数の手にまさぐられてビリビリと痺れるほどの肌。
敏感になりすぎた胸の突起を転がされ、
すでに張り詰めて漲っている下半身の物を扱かれて、
屈辱も、嫌悪も、軽蔑も、吹き飛ぶほどの……、
激しい快楽が、リゾットを襲う。
「あ……ッ……あ、あ、ああ……ッッ!」
ビクビクと体が痙攣する。
「う……すげ……ナカめちゃくちゃイイ……」
リーダー格が堪りかねたように熱い息を漏らした。
肉付きのいい腰に挿入した自身を締め付ける、心地良い圧迫に思わず「うっ」と声を上げる。
「コイツ、マジでいいぜ……。絡みつくみてー……」
「そんなにイイすか?」
リゾットの物を手で扱いていたチンピラが、興奮した面持ちでリーダー格の顔色を窺う。
「マジだぜ……うお……やべ……イキそ…………」
「ちょ、カルロさん早すぎるっしょ」
「ほっとけ……やべ……出る…………うっ」
うめき声を漏らして、リーダー格が強く腰を押し付ける。
熱いものが脈を打って体内に放たれるのが分かり、リゾットは顔を歪めた。
(………………『メタリカ』……)
麻薬に浮かされた意識の奥底で、己のスタンドを呼び出す。
主の声に応えて、リゾットのスタンドが体内で蠢いた。
『ロオオオォォォォ…………ロォォォォーーーーードォォォーーーーー』
「くっ…………」
腸内の壁を裂いて、『メタリカ』が血管の外へ流出する。主の血液から鉄分を取り出し、『メタリカ』はまるで獲物に食らい付く粘菌か何かのように、リーダー格が放った精液を取り囲んだ。
(そいつが「カルロ」だ…………)
リゾットの念に導かれて、『メタリカ』は忠実に仕事をこなす。リーダー格・カルロの精液を鉄分で閉じ込めると、その鉄球の表面に「Carlo」と刻み込んだ。
内部でそんな処理が行われているとも知らず、リーダー格は息を吐いて己の物を引き抜く。
「ふぅ……スゲエいいわコイツ。……次お前いけ」
「いいンすか?」
うわずった口調でそう言いながら、チンピラの手は早くも自分のベルトを外しにかかっている。急いで滾ったモノを取り出すと、まだヒクついているリゾットの後孔にあてがって前のめりに体重をかけた。
ズ……ッ……。
「くぅ…………ぅ…………」
「うお、何だコレ……すげ……っ」
内部でリゾットの肉壁が、そして『メタリカ』が取り巻いて、チンピラの物を誘うように包み込む。吸い付くような動きに、チンピラは荒い息を吐いた。
「ちょ、これ……マジすげぇ……パネェ……」
「だろ? こいつナカすげーんだよ。素人じゃねーって絶対」
「マジすか。おい、オメー絶対ウリやってんだろ?」
チンピラがリゾットの顎をつかみ、持ち上げる。
「あの店で客取ってんの、女じゃなくてコイツだったりして」
「う…………」
「目ェ完全にイッちまってんな。……へへ」
チンピラはニヤリと下卑た笑みを浮かべ、片手でズボンのジッパーを下ろした。中からいきり立った物を取り出し、リゾットの顔に押し付ける。
「咥えろ」
「……ク……ッ」
眉根を寄せて顔を背けようとするリゾットの顎をつかみ、奥歯に親指を噛ませて無理やり開かせる。そこへ己の分身を捻じ込んで奥まで突き上げた。
「ぐぅ……ッ!」
「噛んだら殺すぜ」
後ろから、前から、リゾットの体内に肉棒が押し込まれる。
激しく抽送を繰り返すその動きについていけず、リゾットは体を震わせた。
「く……うぐ…………ゥ」
「ウリやってんだったら、舐められるだろ? 早く終わらせたかったらしっかりフェラしたほうがいいぜ」
荒々しく口内を犯されながら、リゾットは朦朧とした意識の中で舌を動かす。ゴツゴツと勢いよく押し込まれる物を舌で包み込み、吸い上げる。
「お、やっぱできるじゃねーか。……いいぜー、そのまま舐めてろ。ひひひ」
ゲスな笑い声を上げながらチンピラがニヤニヤ笑って腰を使う。口内を蹂躙する物を懸命に受け止め、舌を這わせて、リゾットは苦しげな吐息を漏らした。
「く…………ふ……ぅ………………」
「なに、フェラしてんのかよ」
「ああ、もう全然いけるぜコイツ」
リゾットの口を乱暴に犯しながら、チンピラが興奮した声で笑う。
「じゃあオレもこすってもらおうかなァ? おい、こっちもやれよ」
調子に乗った別の男が、後ろ手に縛っていたリゾットの戒めを解く。ようやく解放された手を下ろす間もなく、ねじ上げられて男根を握らされた。
「こうやって、こするの。わかるだろォ?」
リゾットの手を上から握り、腰を振りながら己のものをこすり上げる。その手の動きに従って、リゾットは指を動かした。
「お、いけるいける」
「じゃあこっちもだな」
反対側の手も同じように取られ、同じように握らされる。
「う……出る…………イク…………」
背後で男がうめき、体を震わせて射精した。
(……こいつは「ジャコモ」……)
体内で『メタリカ』がジャコモの精液を確保し、鉄球に包み込むと、その表面に「Giacomo」と刻んだ。
「う…………舌すげえ動く……何こいつスゲー喜んで舐めてるじゃんかよ」
チンピラが軽蔑を込めて嘲笑する。だがこの男もすでに快楽の限界が近い。
「………………うっ」
激しく腰を動かし、リゾットの咽喉の奥まで突っ込むと、そこで欲望を吐き出した。
「グッ…………」
吐き気をこらえ、奥に出された精液をすべて飲み下す。
(「エンリコ」……だ……)
咽喉の粘膜を裂いて『メタリカ』が現れ、男の精液を包み込んで表面に「Enrico」と銘を入れた。鉄球はそのまま飲み込まれ、胃袋へ落ちていった。
「すげぇな。中出しされまくりで感じてるぜ」
「スキモノなんだろ。最初から自分がこうされたくて誘ってきたんだぜ、絶対」
チンピラは左右から自分の物を握らせ、同時にリゾットの耳元や胸の敏感な部分を指先で愛撫する。
「ん……う…………」
「スゲェな。せっかくだからもういっちょいくか」
リーダー格がリゾットの腰を掴み、再び勃ち上がってきた己自身を谷間に挿入する。
「うああ……あっ」
「やっぱりケツがイイんだなコイツ。変態だぜ。輪姦されて感じまくってやがる」
ゴリゴリと抽送を繰り返しながら、リゾットの内部の感触を楽しんでうめき声を上げた。
「う……手だけで出そう…………っ」
擦られて、手の中に射精する。
(これは……「チェーザレ」……)
「こっちもイクぜ。しっかり握れよ…………んっ」
ほぼ同時に、反対側の手のひらにも生暖かいものがぶちまけられる。
(こっちが「マッシモ」だ……間違えるなよ……)
リゾットの手の皮が少しやぶけて血がにじみ、『メタリカ』が仕事を始める。もちろん間違えるなんてことはない。
『メタリカ』は忠実に精液を確保し、「Cesare」「Massimo」と表面に名前を刻んだ。
リゾットは採取した鉄球を手のひらに隠し、口元を拭う振りをしてそれらを口に放り込んだ。飲み込んでしまえば奴らに見つかることもない。
(これで、全部だ)
麻薬のせいで意識が拡散し、ともすれば溺れてしまいそうなその瀬戸際で、リゾットが理性を保っていられるのはひとえに「仕事」への執念だ。
やや計算違いではあったが、全員の体液を採取するという目的は達成できた。
だが。
「3回目でも全然イケるじゃねーか」
「く……っ」
後ろから犯され、下肢を突き上げられて、ゾクゾクと肌が震える。
肉体の痙攣と、漏れ出す喘ぎ声が止まらない。
「おい、もう1回咥えろよ」
また口を開かされ、咽喉を犯される。
薄暗い、人気のない路地で。
無法者の宴はまだ始まったばかりだった……。
* * * * * * * * * *
「これで、判別できるか?」
リゾットから渡された5つの小さな鉄球をまとめて『ベイビィ・フェイス』に投入し、メローネは背中を丸めてカタカタとキーボードを叩いた。
「うん……うん、バッチリだ。5人の精液がしっかり分別されているし、本体の名前も分かっている。これで前回の混在した血液のDNAと照合して……」
メローネがエンターキーを叩くと、画面には大きく「カルロ」の文字が表示された。それを見てメローネが「あ〜、やっぱり」と声を上げる。
「売人を殺した実行犯は、リーダー格のカルロで間違いないようだよ」
「そうか、ならばそいつだけを殺れ。死体は回収して、交渉に使う」
「オーケー。『ベイビィ・フェイス』の息子を作って、パパのところへ向かわせよう。フフフ、新鮮な精液で息子を作るのは久し振りだ……」
メローネは笑みを浮かべてディスプレイを食い入るように見つめている。
「後は任せたぞ。……オレは少し、休む」
「おつかれー」
画面から顔を上げようともせず、メローネは片手を上げてひらひらと振った。
(…………疲れたな)
体のあちこちが痛み、疲労が溜まっている。それにクスリを打たれたせいで少し神経の調子もおかしかった。
重苦しい息を深く長く吐き出して、リゾットは仮眠を取るためにアジトの自室へと向かっていった。
【END】
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