ギアッチョと1/6のリゾット

















 リゾットが、右腕を怪我した。

 暗闇の中に倒れたターゲットは、何度かビクビクッと痙攣すると、ようやく大人しい死体になった。
 それを確認して、オレは慌ててリゾットに駆け寄る。

「ちょ、ソレ…………大丈夫かよ……」
「大丈夫だ、気にするな」

 リゾットはそう言って、たった今切りつけられたばかりの右腕をかばっている。
 畜生、あの野郎。最後の最後に無駄な抵抗しやがって。

 痛いのか、感覚がないのか、動かないのか。
 リゾットは右腕を力なくぶら下げたまま、顔をしかめている。

 そんなふうに腕が動かなくなるなんてことは初めてで、これはヤバイ、ってことが肌で知れた。

「動く……か?」

「いや、無理に動かさない方が良さそうだ。このまま医者に行く」

 右手を押さえながら、リゾットはいつもより慎重に足を進める。
 普段からその足の一歩ずつさえ慎重なリゾットが、何かを確かめるような緊張感を漲らせて、歩く。
 それだけ怪我が重いのだろう。

(クソッ……クソクソッ)

 オレは傍らに停めてあった車に慌てて駆け寄ると、ドアを開けた。
 そこまでリゾットをどう導けばいいのか、迷っているうちにもうリゾットは背後に立っている。
 ……あんなに慎重に歩いていたのに、もう。

「………………ん」

 オレは黙って、座席を示す。リゾットは黙って、影のように車に乗り込む。

 ドアを閉め、はやる気持ちを抑えて、オレは車の反対側へと走った。クソッ、足がふわふわする。
 

「病院、いつもの?」

 せわしない動作でエンジンをかけながら、尋ねる。

「ああ、すまない」

 そう言うと、リゾットはふぅ…………………………と長く深い息を吐いた。
 きっとそのため息には、オレなんかじゃ悲鳴を上げるくらいの痛みとか、屈辱とか、後悔とかが全部入ってる。

 はやる手足を抑えて、オレは車を出した。
 急ぎたいのはやまやまだったが、あんまり無茶するとリゾットの体に響く気がする。


「……………………クソッ」

 オレのイライラを、リゾットは敏感に察する。

「気にするな。オレのミスだ」

「…………気にしねーでいられると思うのかよ?」

 オレはだだっ子のように言い返した。ああクソッ、こういうところがいちいちガキみてえでホント、自分でも嫌になる。
 でもリゾットはそんなオレに、感情を抑えた静かな声で言う。

「いや、お前はお前の役割を果たした。これはオレのミスだ。リーダーとして、お前の責任ではないと判断した。異論は認めん」

「……………………」

 有無を言わさぬ命令口調。
 それが冷酷な響きであればあるほど、オレはこの人に守られているんだな、と思わざるを得ない。

「……………………」

 悔しい。
 オレはぎりりと歯を噛み締め、鼻の奥にこみ上げるつーんとした痛みを飲み込んだ。

 力が足りねぇ。
 自分の弱さに、腹が立って仕方ねぇ。

 オレはリゾットの右腕になるどころか、リゾットの右腕すら守れず、リゾットに守られてる。



 アクセルを踏む足に、力を入れる。

 今のオレにできることは、一刻も早く、安全に、この人を病院まで運ぶことだけだった。





【END】







ギアッチョとリゾット。うちのギアッチョはリゾットの役に立つことだけが生き甲斐みたいに思ってる。でもプロシュートとかホルマジオたち年上に対してどうしても越えられない壁をいつも感じてて、それを乗り越えてリゾットを守りたいんだけど力が及ばない。そういう自分といつも戦っている気がします。その分、まっすぐで素直で、どんどん鋭利に強烈に成長している。でもどこまでいってもまだまだ足りないと思っている。そういう若者だったらかわいいなぁと思います。
 By明日狩り  2011/10/23