ホルマジオと1/6のリゾット
















「クッ……」

 数えられただけでも十数発、ひょっとしたらそれ以上かもしれねぇ。リゾットはひらりひらりと敵の攻撃を避けていたが、とうとう食らっちまったらしい。黒い服の裾が翻って、そのまま地面に倒れるのが視界に入った。

「おいおいおい……しょーがねえなああああぁぁ……っとォ……」

 だが、リゾットが敵の注意を引きつけてくれたおかげで、時間が稼げた。こっちの攻撃は『とっくの昔に終わってる』んだ。効果はすでに出始めていて、あと少し、あと数秒、待てばいける。

 3、2、1……。

「GO!」

 オレはあらかじめ用意しておいたドラム缶を蹴り飛ばした。派手な音を立てて、オイルのたっぷり詰まった重たいドラム缶が坂を転がり落ちていく。

「………………ッッッ!!!???」

 坂の途中で、手のひらサイズまで縮まった小さな敵が泡食ってるのが見える。ドラム缶は重力に従って容赦なく加速し続け、そいつを丁寧にプレスすると、ごろごろと地響きを立てながら坂を下って行った。

 近くに寄って、そいつがすっかりペシャンコのせんべいになってることを確認すると、オレは倒れているリゾットに駆け寄った。

「任務完了。計画通り、ターゲットは倒したぜ。……大丈夫かリゾット?」

「ああ」

 リゾットはまだ地面に座ったまま、足が小刻みに震えている。やべーな、どっか筋でもイッたか?
 それにしたってよぉ、「大丈夫か?」なんて我ながら意味ないこと聞いたな。たとえ足がもげたって、このリーダーが「大丈夫じゃない」なんて言うわけがねえのによ。

「リゾット……」

 オレは「立てるか?」と言いかけて、口をつぐんだ。そう問えばこのリーダーは必ず「ああ」と言って立ち上がるに決まってる。たとえ足がもげていたって、だ。
 だからオレは質問の代わりに、別の言葉を使った。

「動くなよ」

「ん?」

 予告もなしに、スタンドを出す。

「リトル・フィート!」

 その鋭い指先がリゾットを掠める。まだ臨戦態勢だったリゾットはとっさに鋭い殺気と緊張感を漲らせたが、オレが攻撃してるんじゃないってことをすぐに頭で理解したらしい。
 『リトル・フィート』の爪がリゾットの手の甲に小さなひっかき傷を付け、スタンドパワーを抵抗せずに受け入れたリゾットの体がみるみるうちに小さく縮んだ。あっという間に、手のひらサイズの人形の出来上がりだ。ハンカチを手の上に広げ、その上にリゾットを乗せる。

「さ、帰ろうぜ〜。このまま病院、寄ってくからな」
「……すまない」
「こういうとき便利だよなぁ、オレのスタンドはよ〜」

 少しだけ自虐的なニュアンスを込めて、オレは笑った。
 凶暴なスタンドも多い暗殺チームの中では、『リトル・フィート』の小さくするだけの能力は「くだらねー」と言われて評価が低い。使い方によっちゃあかなり暗殺向きのスタンドだし、そのことは奴らも認めてるんだが、そうなると今度は「便利」という言葉に置き換えられてやっぱりカッコがよくない。

 リゾットはオレのそういう複雑な男心を知ってるから、無機質な顔にほんの少しだけ困惑した表情を浮かべた。

「便利、というか……」
「いいっていいって。便利なのは間違いねーんだからよ〜」
「いや、本当に……」

 オレの手のひらの上で、リゾットは難しい顔をして考えている。そこまで気を使わなくってもいいんだぜ。オレはただちょっと自虐して、それをちょっと否定されたらそれで気が済むんだ。

「お前のスタンドは、とても有用だ。役に立てる場面が多い、というのは、それだけ可能性が多い、ということになる」
「おお、お目が高いねェ」

「お前の実力と共に、その可能性は高く評価している」
「へぇ、ありがとよ」

 オレは軽く受け流すと、なるべく振動しないように注意しながらゆっくり歩き始めた。リゾットはまだ何か言いたそうだったが、オレの顔が遠くなったのでそれ以上は声を張り上げることはしない。


 けど、オレはこのとき、リゾットに見えないように気をつけてたんだが、多分スゲーにやにやしてたんじゃねえかと思う。

 オレのスタンド。オレの能力。
 それをきちんと理解して、最良の言葉を選んで評価してくれるリーダー。
 そういうリーダーの役に立ってる、今のオレ。

 身動き取れなくなったアンタを大事に運びながら、オレはやっぱり『リトル・フィート』を持ってて良かったなぁと心から思った。

 バカにされても、「くだらねー」と言われても、便利屋だと揶揄されても。
 あいつらにはこんな真似はできねーんだぜ?

 そーゆーコトを思いながら、オレはひとりでニヤニヤしてる。



 ありがとな、リーダー。




【END】







大変お待たせ致しました! 3ヶ月ほど前に日記の方でいただいていた、りおさんからのリクエストで『リーダーとしての立場を背負うリゾットと、それを見てそれぞれが思うところ』です。すごくいいお題を頂戴して、どういうものにしようかずっと考えていたのですが、ようやくネタの神様が降りてきました。暗チ全員1人ずつ、ケガしたリーダーに対して思うことを書いていきます。ブログの方では「それぞれ、と言うと広すぎるのでキャラを指定して下さい」なんてワガママ言って、りおさんからは「ギアッチョかプロシュートで」ということでお返事を頂いていたのですが、結局6人分全員書けそうです(ソルジェラは今回はお休みです。ごめんねソルジェラ。ソルジェラとリゾット、というのはまたちょっと別の理由があってまだ考えている最中なので、今は書けそうにないのです)。 最初がホルマジオになってちょっと順番が前後してしまいましたが、ギアッチョが書きかけなので近日中にまたアップします。りおさん素敵なリクありがとうございました! お待たせしてすみません!

あ、そうそう。タイトルはこの後「○○と1/6のリゾット」って6作続く予定なのであって、決してホルマジオがリゾットを1/6スケールのフィギュアにしたわけではありませんw ツイッターでタイトルだけつぶやいたら友達にそういう指摘をされたw 違うのよ。

というわけで最初はホルマジオ。ホルマジオはプロシュートと並んでけっこう最初の頃からリゾットのそばにいたイメージがあって、プロシュートとはまた違った目線で「リゾットはオレが守る」っていう自負があるような気がしています。あと「くだらねー能力」っていう自虐を私はわりとすんなりスルーしてたんですが、相方のオシジョウさんが「ホルマジオはあれ、けっこう本気でムカついてると思う」って言ったので、そこにちょっとわだかまりのあるホルマジオで書いてみました。そしてここではあんまり書けなかったけど、うちのリゾットはホルマジオのことすっごい頼りにしてるのです。
 By明日狩り  2011/10/21