プリゾで「……嘘つき」から始まる小説















「……嘘つき」

「いてててて……。おい、リゾット。嘘つきはねえだろうが。そりゃあんまりだぜリゾットよォ。オレはオレなりに頑張ったってのによ」

 黒い目でオレを見下ろすリゾットに言い訳すると、オレはケガした腕をさりげなく隠した。口では言い返してみたが、失敗した無様な姿を見られるのはやっぱり癪だ。

「……お前は嘘をついた」

 リゾットは低い声でもう一度言う。クソッ、うるせぇ奴だ。

「あーあー、分かってるさ。『オレなら必ずやれる。任務を全うする。安心して任せろ』って言ったのは、オレだ。失敗したのも、オレだ。結果が出せてねえんだから言い訳するなってことだろ? 暗殺チームのリーダーは手厳しいこった」

 腕のケガが、リゾットの責めるような声が、このプロシュート兄貴が任務に失敗したという事実が、体にも心にも痛ぇ。オレは顔をしかめた。

「お前がこんな失敗をするとは……な」

「そりゃあ誉めてんのか? けなしてんのか?」

「こういうこともあるだろう、とは薄々思っていたが……」

「おい、それは聞き捨てならねえな。オレが失敗することがわかってたって? 信用してなかった、ってことじゃねーか。このプロシュート兄貴の実力を信じてなかったのかよ?」

 そこまで言われちゃオレも立つ瀬がねえ。せめて「予定外だった」くらいは言ってくれよ、と言いたかったが、そんなこと言える立場じゃねえってことくらいは自覚してる。

 リゾットはオレを見下ろし、低い声でつぶやくように言った。

「……信じていなかった」

 リゾットの冷たい目がオレを見つめる。さすがにこれはキツい。

「……そうかよ。そこまで信用されてなかったとは知らなかったぜ」

「やはりお前は嘘つきだ」

「何度も言うんじゃねーよ」

 リゾットがオレの腕に触れる。醜く裂けた肉の周りをそっとなでられて、オレは顔を背けた。なんだよ、ケガしたのバレバレじゃねーか。みっともねえ。

「オレはバカだ」

 オレはカッとなって怒声を上げた。

「ハンッ! 哀れんでんじゃねーよ! こんなケガをさせるなんてリーダーとして面目ない、とでも言いたいのか? オレに任せたことを後悔してんのかよ。そこまで堕ちたもんかね、オレの信用は。これは失敗じゃねえよ。取り返せる。まだやれる」

「……お前なら、そう言うだろうな。だがこれは失態だ」

「……ッ!!」

 おい、やめてくれよリゾット。オレはまだやれる。見捨てないでくれ。これで終わりってわけじゃないだろう?

「な、なあ、リゾット……?」

「……お前たちが残した手がかりは、必ず次に繋げる。オレがやってやる」

「オレも連れてけよ! こんなケガなんてどうってことねーんだよ! オレはまだやれる! 地面に倒れることは失敗じゃねえって、アンタ言ってたじゃねえか! 失敗とは、倒れたまま起き上がれなくなることだって! 諦めたときに任務は失敗なんだって!」

 オレは必死で叫びながら、負傷した体を起こして何とか立ち上がろうとした。だがすっかりボロボロになっちまった体はいうことをきかず、それどころかもう手足を少し動かすことすらままならねえ。

 リゾットが立ち上がり、オレを見下ろす。ああ、アンタとの距離が遠い……。

「リゾット……」


「お前とペッシが残してくれた手がかりのおかげで、今メローネがブチャラティたちを追っている。お前たちがしたことは無駄ではなかった。ホルマジオも、イルーゾォも、命と引き換えに道を繋いでくれた。オレたちはそれを受け継いでいく。オレは必ず、お前たちの命と名誉に懸けて、ボスの正体を暴く」

「………………リゾット?」

 オレはもう、身動きすることも何か言うこともできなかった。

 呆然とアンタを見上げ、言葉を失う。

 アンタは空虚な目でもう一度オレを見下ろす。その黒い目の奥、闇色の光の中に、深い深いぬくもりの灯が点るのが見えた。

「………………」

 ああ、そうだ。口下手なアンタはいつもそうやってオレを見つめていた。飯を食ってても、ベッドの中でも、何か言うのが苦手だからとただオレを眺めているだけだった。

 その目の雄弁だったこと。無言の目に、言葉では伝えきれないほどの愛しさとか、優しさとか、想いとか、安心とか、いたわりとか、そういう熱くて厚いものがつまってたことを、オレは懐かしく思い出す。

「……プロシュート」

「ああ、リゾットよォ」

 オレは身体中から力が抜けていくのを感じた。



 そうだ、オレ、死んでるんだっけ。



 高速で走り続ける特急列車から地面に叩きつけられて、ペッシを援護するためにグレイトフルデッドにすべての力を注ぎ込んで。

 それで、死んだんだ。


 リゾットは千切れたオレの腕をじっと見つめると、空を見上げた。ひと呼吸、ふた呼吸。そしてリゾットは歩き出す。

 オレはその背中を見送る。この場から一歩も動けないオレにできるのは、その背中に祈りを捧げることだけだった。

 アイツと、生き残っている仲間たちに、栄光は訪れると信じて。






【END】






ツイッターの「リプくれたら指定のカプで小説書く」企画。プロ→リゾ。
 By明日狩り  2013/02/27