「あーあ……みっともねぇ」

 空を仰いで、プロシュートはチッと舌打ちをした。

「………………」

 リゾットも黙って俯いている。


 よく晴れた五月の空が眩しい。夜に行動する任務が多かったので、こんな昼間から外にいることなどいつ以来だろうか。そのわりには二人とも不機嫌そうな顔をしている。

「だっせぇ……」
 タバコをくわえ、火を付ける。ギアッチョの声を思い出してプロシュートは顔をしかめた。


『あんたら、邪魔なんだよ。二人でチームの和を乱してんじゃねーよ!』


 そう言われて、追い出された。チームの和を乱した覚えはないが、近頃リゾットと衝突ばかりしていたのは確かだ。忙しかったのは確かだ。そのせいで余裕を失っていたのも確かだ。
 自覚が足りなかった。年下の仲間たちにアジトから追い出されるほど周りが見えていなかった。
 仮にもナンバーツーを名乗る身としてはこんなに恥ずかしいことはない。

 ナンバーワンであるリーダーはというと、こちらもまた落ち込んでいるのか、縁石に腰かけて俯いたままさっきから何も言わない。

「……プロシュート」
「ハン。いい大人が意地張ってケンカして、揃いも揃って追い出されるたぁ情けねえな!」
「俺たちは何時になったら帰れるんだ?」
「知るかよ。まあ半日くらいは帰らないほうがいいんじゃねえか? あいつらもかなりピリピリしてたみてーだしよォ」
「そうか」

 リゾットはおもむろに立ち上がった。
 その顔を覗き込んだプロシュートは、思わずくわえていたタバコをぽろりと落とす。

「お、おい……? リゾット?」


 リゾットは、笑っていた。


 滅多に笑わない男の、それも部下に態度を諌められて頭を冷やせと追い出されたリーダーの笑顔に、さすがのプロシュートも呆然とする。



「遊ぶか」

「え?」

「無理をしすぎた。そして、無理をさせ過ぎた。自分ではわからなかったが、あいつらが分かっていた」

「……おう」
「あいつらが、二人で出直してこいと言ったんだ。今日はもう遊ぶか」

「……アンタらしくねぇ」
 発想の転換、柔軟な考え方、臨機応変、そういう言葉にはとことん縁のない男が、珍しく一瞬で立ち直っている。こういう切り替えはプロシュートのほうが早いはずなのに、逆転している。

「アンタなにか変なものでも食ったか?」
「いや、むしろ変なものをあまり食べていない。変わったものでも食べにいこうか」
「だ、だってよ。アジトはあいつらだけでいいのか? 今夜もでけぇヤマがあるじゃねーか。放っておくわけには……」

「一日くらい、なんとでもなるだろう」

「おいおい」
「いや、正確に言えば、一日くらいなんとでもしてくれるだろう、だ。あいつらなら何とかしてくれる」

 平然とそう言うリゾットに、足の力が抜けそうになる。へたりと縁石に腰を下ろして、プロシュートは新しいタバコを取り出した。

「……こんなこと言うやつだと思わなかったぜ」
「そうか。呆れたか?」

 真顔で言うリゾットから顔を背けて、プロシュートはタバコに火を付けた。最初の一服をゆっくりと吐き、それから顔を見上げてニヤリと笑う。

「いいや、好きだな。腹をくくれるようになったじゃねぇか」
「お前たちの教育の賜物だよ」
「俺たち、ね」
「そうだな、あいつらの気遣いに甘えて、今日は昼間っからデートと洒落込むか」

 考えてみれば、季節が変わってからこのかた、まともにリゾットと外出などしていない。二人が付き合っていることは公にこそなっていないが、仲間たちはそれとなく察しているのだろう。

「そうと決まれば行くぞ」

 タバコを揉み消し、プロシュートは立ち上がる。

「近場でな」
「分かってるって」

 何かあったときに駆けつけられないほど遠出をするつもりはない。だが久しぶりに与えられた時間だ。たっぷり遊んでやろうと覚悟を決めて、二人はネアポリスの街へ繰り出した。



【終】






急にお休み頂いた兄貴とリーダーが一緒にお出かけするお話を甘めで……というリクだったのですが、全然甘くならなかったものです。でも仲間に見守られている、ちょっと大人げない二人の感じが気に入ってます。
By明日狩り  2014/05/13