「……誕生日、おめでとう」 静まりかえった夜のしじまに、リゾットの低い声が心地よく響く。プロシュートは機嫌良く目を細めて「おう」と応えた。 今日がプロシュートの誕生日だと分かり、ガキンチョたちが騒ぎ始めたのは夕方のこと。お祭り好きのメローネが「お祝いしたい」と言い出し、急遽アジトにあった酒類をかき集めてやっつけのバースディホームパーティとなった。アジトの一階にあるリストランテに食事を注文し、ショーケースにありったけのケーキも買い込んで、二階のリビングへと運ぶ。あり合わせでもどうにかそれらしい形にはなるもので、誕生日会とは名ばかりの酒宴はいつも通り賑やかに盛り上がってお開きとなった。 もう家に帰るのは面倒だ。アジトにある私室に転がり込み、ようやく落ち着いて煙草を一服。そのタイミングで入って来たのがリゾットだった。紫煙をくゆらせながら、プロシュートは歌でも歌い出しそうな陽気な表情で口の端を上げた。 「今日はわざわざありがとよ。こちとらもういい年なのに、あんなに盛大に祝ってくれてよォ。ハハハ」 「お前はみんなに慕われているからな」 「おいおい、冗談はよせ。ただ飲みたいだけの酔っ払い集団じゃねえか。オレの誕生日なんざ口実だ」 「そうでもなかろう。みんながお前を心から祝っていた」 リゾットは本気で言っているらしい。プロシュートは目を見開いて言葉を失い、それから盛大に笑い転げた。 「ハハハハハ! 今日は酔ってンな!」 「オレは酔っていないぞ」 「酔ってる酔ってる。だいぶのもんだ」 「酔ってなどいない」 そう言いながらリゾットはずいと近寄ると、プロシュートに顔を近づけた。コツン、と額同士が軽くぶつかる。 「なんだ、酔っ払いのマンモーニ? 甘えたいのか?」 「いいや」 「じゃあ何だ?」 「誕生日、おめでとう」 「それは聞いた」 プロシュートはまだニヤニヤしている。ほんのり顔を赤らめたリゾットは、プロシュートの視線を受けてそっと目をそらした。その顎を掴み、引き寄せる。 「おい、なに逃げてんだ?」 「………………逃げてなど」 「だったら何しにここへ来たんだよ」 機嫌の良い、そして意地の悪い笑みを浮かべたプロシュートを見て、何もかも見透かされていることを悟る。体裁を取り繕うことを諦めて、リゾットは肩の力を抜いた。 「そうだな」 「だろう?」 もう何もかもお見通し、という顔だ。ならば、とリゾットはプロシュートの肩を掴んだ。 「お?」 「プロシュート」 わずかばかり力を入れると、後ろのベッドへそのまま押し倒す。慌てて手にした煙草をかばい、そのせいで抵抗することができなかった。 「っぶねーな! こっちは火ィ持ってんだぞ!」 「落としたりはしないだろう、お前のことだ」 「なんだその無意味な信用はよォ……チッ」 小さく舌打ちをして、ベッドサイドの灰皿に煙草を押しつける。上にのし掛かっているリゾットは、そんなプロシュートの挙動を真顔で見守っている。 「やっぱり酔ってんだろ」 「酔っていない、と言っている」 「嘘吐け」 「本当だ」 「じゃあ、何やってんだよ」 そう言われて、リゾットは少し居心地が悪そうに口ごもった。 「……プレゼントを」 「あん?」 「お前に、プレゼントを…………な」 低い声でそう言って、ふいと顔を背ける。恥ずかしかったのか、酔いが回ったのか、顔がまた少しほんのりと赤く染まった。 「へぇ」 くっくっく、と喉で笑って、プロシュートはリゾットの頬に手を添えた。 「何をくれるんだ?」 だが、そんなことは聞くまでもない。この状況で、この顔だ。何かを買う時間もなかっただろうし、あり合わせの酒でパーティをやった後に用意できるプレゼントといったら、一つしかない。 桜色に上気した頬。うなじから鎖骨、胸までをはだけたリゾットの服はこんなときひどく扇情的に見える。リゾットは恥ずかしそうに視線を泳がせ、この状況でもまだ迷っているようだったが、やがて覚悟を決めてプロシュートを見据えた。 「プロシュート」 「おう」 「お前を……気持ちよくしてやりたい」 「おう………………ん?」 「お前を一晩中抱いてやる」 「………………ん?」 「失心するまで抱いてやるから」 言葉にしてしまうと吹っ切れたのか、リゾットは上半身をかがめると、露出したプロシュートの胸にキスを落とした。そのまま唇を肌の上へ滑らせ、手を這わせる。 「ん? んん? あれ?」 「プロシュート……」 胸の蕾を指先でくりっと捏ねられて、プロシュートは悲鳴を上げた。 「おいっ! リゾットッ!」 「なんだ?」 「おかしいだろこれは!」 「なにがだ?」 リゾットは相変わらず真顔で、まだしつこくプロシュートの胸を撫でている。その手を邪険に振り払い、プロシュートは呆れとも怒りともつかない変な笑みを浮かべた。 「あのなぁ、こういうときプレゼントっつったら、オメーがオレに抱かれるんだろ?」 「いや、オレはお前を気持ちよくしてやりたいんだ」 「だから、フェラなり騎乗位なりで、ご奉仕プレイしてくれりゃあいいだろうが。ふつープレゼントでプレイっつったらそっちだろ?」 当然だ、という顔で主張するプロシュートをじっと見つめ、リゾットはやっぱり真顔で首を横に振った。 「いや、それでは申し訳ない」 「だからなにがだよ!」 「オレばっかりが気持ちよくなってしまう。それではプレゼントにならない」 「いいじゃねえか。感じてるオメーがいいんだよ」 「そういうんじゃないんだ、プロシュート。オレの手で、オレの物で、お前に気持ちよくなってもらいたい」 「なんだそれ。オレがいいって言ってんだから、素直にケツ貸せよ!」 「それではいつもと一緒だと言っているだろう。そうじゃない、今夜はお前の誕生日だからな。オレがお前に天国を見せてやる」 (……どうしてこうなった?) 開いた口が塞がらない。プロシュートはぽかんとリゾットを見上げ、その黒い目が真剣にプロシュートを見つめているのをぼんやりと眺めた。 なるほど。 「お前、酔ってるな」 「酔っていない」 「おい、いいからオレの言うことを聞け。その寡黙な口を使って丁寧にフェラしろ。それから上に乗ってオレのち×こをそのでっけぇケツで咥えやがれ。そんで女みてえにあんあん喘いで見せろ」 わざと挑発的な言葉を並べ立てて煽るが、リゾットは夜の山の如く泰然としてまるで動じない。 「断る。今夜はそういうのじゃあないんだ」 「断るなよ」 「いいや、違うんだ。今夜はオレがお前を良くしてやる。お前をオレの手で隅から隅まで愛してやる。体をほぐして、とろとろに蕩かして、皺のひとつまで舐め尽くしてやる。それからこのオレの物を埋め込んで、滅茶苦茶に突き上げて喘がせて、壊れるほどによがらせてやる」 「………………」 思わず、体が疼いた。 (こんなこと……言うような奴じゃあねえのに……ッ) リゾットと体を重ねるのは初めてじゃない。もう何度もこういうことはしてきているし、それどころかこれまでにけっこうきわどいプレイだってこなしている。だがそれはいつでもプロシュートのほうから仕掛けたことで、生真面目なリゾットが自ら淫らな行為に耽ることはほとんどなかった。 だからこそ、この挑発が、…………効いた。 「……オメー、酔ってるな?」 「酔っていない」 「嘘だ」 胸を這うリゾットの手を掴み、プライドを懸けて押し返す。このまま流されてしまいたい、という誘惑に駆られつつ、酔っ払いの思い通りにされるのは面白くない。 リゾットは小首をかしげ、不思議そうに尋ねた。 「何をする」 「だから、オレが上。オメーは下だ」 「ダメだ。今日はお前が下だ。そう決めた」 「言うことを聞けよ。オレの誕生日だぞ?」 「お前の誕生日だから、プレゼントをするんだ」 まるでだだっ子のようにその一点張りだ。やっぱり酔ってやがる、とプロシュートは舌打ちした。だがリゾットの舌がぬるりと胸を這い、服をくつろげていくとそんな余裕もなくなる。 「おいっ! なに勝手に進めてんだよッ!」 「受け取ってくれ、プロシュート」 「だからなんで誕生日に犯されなきゃなんねーんだよ! おかしいだろ!」 「犯すなんて言っていない。抱いてやる、と言ったんだ」 「ほとんど同じだ!」 「……オレの物を受け入れるのは、そんなに嫌か」 リゾットはそう言うと、おもむろにプロシュートの上に跨がった。服の上からでもはっきり分かる。ズボンの中の巨根は早くも大きく膨らみ、性的興奮を抑えられないと訴えていた。 「う……」 「嫌か」 こんなに積極的なリゾットは滅多にない。 (だから、その積極性がどうしてこっちへ向かっちまったんだよ!) セクシーに誘ってくるかと思いきや、なぜか強面のガチムチに犯されかけている。それでも普段見せないこの表情も、この声も、プロシュートを疼かせるには十分だった。 「リゾットォ…………」 「全部任せろ。お前ほどうまくはできないかも知れないが、体力なら自信はある」 「そんなん知ってるっつうの! 死ぬぞ!」 「天国へなら行かせる、という意味なら合っている」 あの朴念仁がよくもまあこんな口説き文句を操れるものだ、とプロシュートは感心した。これが酒の勢い、というやつだろうか。つくづく酒は恐い。 抱かれてみたい。 抱かれるわけにはいかない。 プロシュートの苦悩と葛藤は、そしてリゾットとの熱い一夜は、まだ始まったばかりである。 【終わり】 |
| 茜さんからのリクエストで、プリゾプロのリバ要素ありなお話でした。イエース!プリゾプロ!普段はプリゾを基本に書いてますが、根っこにはリバが横たわっているそんな私です。だってリゾットさんだって男の矜持があるじゃない。立派な逸物もあるじゃない(下品)。たまにはそんな下克上。 |
| By明日狩り 2014/04/29 |