ナゾリゾで「……嘘つき」から始まる小説





※オリジナル設定注意※

ソリッド・ナーゾが暗殺チームの幹部で、リゾットの上司という捏造設定です。
過度の捏造が苦手な方は注意してください。



















「嘘つき」

 まるで気の置けない友達に軽い不満をぶつけるような、そんな親しい口調で言われたので、オレはいささか面食らった。

「………………」

「嘘つき。付き合ってないって言ったくせにね」

 大きくどっしりとした高級そうな机。そこに両肘をつき、手に顎を乗せて、あなたは柔らかい笑みを浮かべながら静かに言う。

「……………………」

 オレは今、どういう状況に置かれているんだろう。
 それさえ分からないような気がして、オレは息をのんだ。


 あなたは、オレの、上司。
 組織の幹部という重要な立場にあり、そしてオレのチームの責任を負う男。
 ソリッド・ナーゾというこの男に、オレはもう何年も世話になっている。いとこの子の仇討、『組織』に入ったこと、スタンドの訓練、暗殺稼業、そしてチームの運営。
 あらゆるシーンで手を借り、世話になり、相談をして、受けた恩恵は数えきれない。


 そんな上司であるあなたが、やけに親しげな口調でオレに言う。

「嘘つき」

「……嘘をついた覚えは、ありません」

「お前は誰か特定の人間と、いわゆる恋人としての交際はしていないと言ったね?」

「言いました」

「だから、嘘つき」

 あなたの表情は変わらない。いつものように穏やかな笑みを浮かべ、見守るような優しい目でオレを見つめている。

 それなのに、なぜだかオレはいたたまれないような雰囲気にさいなまれていた。

「………………特定の個人とだけ親しく付き合う、ということはありません」

「別にいいんだよ、おまえに恋人と呼ぶべき存在があっても。暗殺チームのリーダーが恋人を作っちゃいけないというルールはないからね」

「それでも、いないものはいないのです」

 言いながら、オレは、自分の言葉に自信が持てなかった。

 恋人、というものは、オレにはない。それは双方に強い好意があり、それを明かして確かめ合い、その上で合意して「契約」するものだ。
 そういう「契約」は、誰とも交わしていない。


「でも、好きなんだろう?」

 まるでオレの心を見透かすように、あなたは鋭い言葉を発する。オレの心はナイフで刺されたようにズキンと痛んだ。

 オレは、好きなのだろうか。


「お前のチームの奴らは、みんながみんな、お前のことを好いているね」

 ありがたいことだ。皆、オレのような優柔不断で不完全な人間を、それでもリーダーとしてついてきてくれている。

「リーダーへの尊敬もある。腕利きの暗殺者への憧憬もある。生きる場所を与えてくれたおまえに感謝している者もいるだろう。……でも、それだけじゃあないね?」

 脳裏に、ふとあいつの顔が浮かぶ。その顔を忘れようとして思わず目を閉じ、目を開く。そこであなたと目があって、オレはかすかに動揺した。

 きっとあなたにはオレの思考がすべて見えているのだろう。
 人の心が見えるわけはないのに、あなたにはきっとオレの考えていることが見えている。

 だからその、不安になるような穏やかな微笑を崩さないのだ。

「リゾット・ネエロ。……それはおまえの恋人だ」

「違います………………いえ、分かりません…………」

 自分の気持ちが分からない。
 この気持ちは恋なのか。
 欲か、寂寥か、好意か、甘さか、苦さか。
 あいつは、他の奴らとは何が違うのか。
 オレは、あいつにだけ何か「特別」を感じているのか。

 自分では何も決められないような気がする。
 自分の気持ちが、分からない。

「それがおまえの恋人だよ」

 あなたは断じる。
 それさえオレには理解できない。

「だから、嘘つきと言ったんだ」

「……………………」




「リゾット・ネエロ」

 あなたはおもむろに立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってくる。その一歩ずつがオレには息苦しくて、けれども逃げ出すこともできずに。

 すぐそばに、あなたが立つ。

「リゾット」

 あなたの手が伸び、オレの顎をつかむ。

 まるで処刑を待つ罪人のような気分だった。


(だが、オレは何の罪を犯したのだ?)


 あなたの手が、オレの顔を間近に引き寄せて。



「リゾット・ネエロ。……オレに心がないとでも思っているのか?」

「えっ…………?」

 あなたの顔から、笑みが消えた。

 静かな怒りをたたえた目は、青い炎のように冷ややかに燃えている。

「オレが何も感じていないと、思うか?」

「……………………」

 分かりません、分からないのです。ナーゾさん。

 あなたは何を感じているんですか?


「オレをなんだと思っているんだ?」

 それはオレが教えてほしい、と思った。

 その時。




 あなたの唇がオレに重なり。




 めまいのようにふうわりと離れて。




 あなたはいつもの笑みを浮かべる。



「リゾット・ネエロ」





 ああ、ああ。

 どういうことだ。

 オレの頭は混乱をきたす。

 心が嵐のようにかき乱される。



 何も考えない鉄の塊になってしまいたい、と思った。

 血管の中の『メタリカ』は、応えてくれなかった。





【END】







ツイッターの「リプくれたら指定のカプで小説書く」企画。
こんなリクエスト出すのはうちの相方のオシジョウさん以外ありえませんね。というわけでナゾリゾでした。ソリッド・ナーゾは原作の中に出て来たボスの偽名ですが、うちではボスの第三人格として独立していて、なおかつ暗殺チームの幹部だったという設定です。そこで生まれる上司×部下のリーマンBLキタコレ。ナーゾさんはリゾットをパッショーネに誘って、暗殺チームに入った後もずっと面倒を見ているので、リゾットとは強い信頼関係で結ばれています。でもナーゾさんもリゾットもお互いを想いすぎて、一線を越えそうになったりならなかったり……。ナーゾさんについては「組曲暗殺」シリーズ最終巻でボスの本を出したら、もうちょっとカップリングやら何やらをサイトで書いておきたいなぁと思います。脳内ではかなりいろいろ出来上がってるので……。
By明日狩り  2013/04/26