メロギアで「……嘘つき」から始まるBL小説















「……嘘つき」

 メローネの恨みがましい目を見て、ギアッチョはうっと軽くひるんだ。いつも明るいメローネにしては珍しく、暗い顔に怒りをにじませてじっとりとギアッチョをにらんでいる。

「……嘘つき」

「う、嘘はついてねーだろうがよおォ〜。…………チョット忘れてただけ、だぜ」

「結果としては、嘘になった。だから君は嘘つきと呼ばれても拒否する権利はない」

「そりゃそうなるけどよォ〜、わざとじゃねーんだよ。うっかりだって。……ていうか一年も前の約束を覚えてられるほうがおかしくねえか? フツー忘れるだろ!」

「人の誕生日は一年に一回と相場が決まってる。フツー、という曖昧な基準を持ち出すというのなら、フツーのやつらは誕生日ともなるとバカみたいに食べ物を準備したり、山のような贈り物を用意したりして、満を持してその日を祝うものじゃあないか?」

 メローネの冷静で的確な指摘には、ギアッチョも納得せざるを得ない。






 メローネの誕生日を初めて聞いたのは去年のことだった。

「今日、オレ、誕生日なんだ!」

 そう言って期待に満ちた目をキラキラさせながらメローネが近づいてきたとき、生憎とギアッチョは任務に向かう直前だった。もうすぐ殺しに向かう、というピリピリした空気も読まずにヘラヘラしているメローネを見て、ギアッチョはチッと舌打ちをした。

「そうかよ」

「祝福してくれ! 誕生日にはそれが必要だ! あと誕生日の贈り物もほしい」

「オレはこれから任務だ! そんでお前が誕生日だなんてこたぁ今知った! 無理だっつーのよォ!」

 ブチ切れ寸前のギアッチョだが、メローネはまったく気にしていない。「そうか」とうなずいてにっこり笑った。


「なら、来年だ。来年はオレの誕生日をお祝いしてくれ」

「ああ、わかったわかった。来年な!」

 今はとにかく任務に集中したい。ギアッチョが適当にあしらうと、メローネはおとなしく引き下がった。






 確かに約束したのはギアッチョだが、そんな些細な会話のことはすっかり忘れていた。それで今日は任務もなく暇を持て余して街へ出たところ、メローネに見つかって「誕生日プレゼントは?」と唐突に尋ねられたというわけだ。

 あんな口約束を一年も暖め続けていたメローネもメローネだ、と怒りすらわいてくる。


「せめて予告くらいしろよなァ。もうすぐ誕生日だ、とかよー。なんで言わねーんだよクソッ」

 思わず愚痴をこぼすと、メローネはむっつりと不機嫌を丸出しにした顔で口を開く。

「ギアッチョなら忘れないと思ったから」

「うっ……」

 その一言が心に痛い。

(そんなのずりーだろうがよおォォ〜ッ! クソックソッ!)


 信頼されていたのに、期待に沿えなかった。

 そんな失態を犯してしまったと思うと悔しくてたまらない。


 メローネという男は、意外に思えるかもしれないが、その軽そうな印象とは裏腹に信頼関係を重んじるところがある。恋人とか、仲間とか、メローネが自分のテリトリーに入れる相手は限られていて、それに選ばれなければメローネの感情に近づくことはできない。

 そんなメローネが最も近くまで、最も深くまで受け入れる相手がギアッチョだった。

(メローネの期待を裏切るなんてのはよオォ〜、リゾットを失望させるのの次ぐらいに嫌なことだぜ……クソッ!)

 いつも明るく、何を言ってものれんに腕押しでフラフラしているメローネが、こんなに怒っている。よほど楽しみにしていたのだろう。そしてよほどギアッチョを信用していたのだろう。

(クソッ……キチンと確認しろよ! 試すような真似すんなよこの卑怯者がッ! オレは悪くねーからなあァ!)

 心の中で反論しても、口には出さない。メローネは試したわけでもなく、意地悪でわざと隠していたわけでもないということを知っているからだ。

 メローネは本気で、ギアッチョが自分の誕生日を祝ってくれると信じていた。そういう男なのだ。




「嘘つき。ギアッチョの嘘つき」

 メローネはまだふて腐れている。

「クソッ……」

 ギアッチョは辺りを見回した。これから何か軽く食べにいこうかと思っていたところで、周囲には気のきいたプレゼントが買えるような小洒落た店はない。ピッツァ、コーヒー、ケーキ、パニーニ……。目につくのは食べ物屋ばかりだ。

(メシでもおごるか? けどそんなんじゃあ誤魔化せねーかな。っつーか、そんなんじゃオレが納得いかねー……)


「あ」

 ふと、その店が目に留まった。


「メローネ、ここで待ってろよ」

「待ってるよ。オレはちゃんと待ってる」

 メローネはまだほほを膨らませたまま、けれども素直にうなずいた。ギアッチョは小走りに一軒の店を目指し、中へ入った。



 そして、数分後。

「ほらよ」

「ナニコレ」

 ギアッチョが差し出したのは、ワッフルコーンに盛り付けられたアイスクリームだった。特にこれといった特徴もない、ごく普通のアイスクリームだ。ギアッチョが入ったのはありきたりなアイスクリームのチェーン店で、こだわりの店とか珍しいブランドだというわけでもない。

 メローネの目が不審そうにギアッチョを見る。


「た、誕生日おめでとう……みてーな」

「プレゼント?」

「おう」

(いくら準備をしてなかったっていっても、こんな姑息なやり方で誤魔化すなんてあんまりじゃないのか?)

 複雑な表情のメローネがそんなことを考えていることくらい、ギアッチョにも分かっている。


「あー、これな。メロン味」

「そうみたいだね」

「そんで、下がチョコミント」

「そうなの?」

「……オメーがよォ、前に言ってたじゃねーか。『ギアッチョはチョコミントのアイスクリームみたいだな』ってよ」

「うん、言ったね。そう思うよ」

 チョコミントのアイスクリームは、氷のようなブルーでひんやりとミントの香りがついている。ときどき混じるチョコのかけらが甘くて、いつもクールだけどたまに優しくなるギアッチョのようだとメローネはいつも思っていた。

「そんで、一番下は、なんつーか、あの、ばかみてーなやつ! オメーの好きな!」

「ポッピングシャワー?」

「そうそれ! ばかみてーな名前でうめぇやつ!」

 ギアッチョが嬉しそうに叫ぶので、メローネも思わず口元を緩ませる。


「ギアッチョもポッピングシャワー好きなのに、なかなか名前覚えないもんねぇ」

「ウルセーなァ。いちいち覚えてられるかよ。とにかく、それだ」

「いいね。ベリッシモいい組み合わせだ」

 メローネが笑ったので、ギアッチョも満足げにうなずいた。




「オメーが生まれてよ、オレと出会えてよォ、そんでばかみてーな毎日を過ごしてんなーっていう意味だぜ。そのアイスはよォ〜」

「………………」



 そう言われて、メローネはまじまじとアイスクリームを見つめた。

(オレが生まれて、ギアッチョと出会って、ポッピングシャワーみたいにディ・モールト素敵な毎日を過ごしてる……)


 生まれてから今日までのすべてが、ここに詰まっている。

 メローネの人生の縮図を積み上げて、ギアッチョは言う。


「誕生日おめでとう」



「……ああ、オレ、祝福ってどういうことか今生まれて初めて分かったような気がするよ。ギアッチョ」

「そうかよ」

 アイスクリームを手にして、メローネが顔を上げる。
 そこにはいつも以上に明るい表情のメローネがいた。


「グラッツェ! ディ・モールト、ディ・モールト、ディ・モールト嬉しいよ!」

「そうかよ。そりゃあよかったぜ」

「ギアッチョ! このアイスクリームを一緒に食べよう。そうしたらきっと二倍美味しくなる!」

「おう。どれも好きな味だからなァ〜」



 道端でトリプルのアイスクリームを分け合い、ときどき顔を見合わせて意味もなく笑う。

(こういうのが、祝福された誕生日ってやつだ)



 メローネは生まれてきてよかったな、と心から思った。














【END】






ツイッターの「リプくれたら指定のカプで小説書く」企画。
メロギアはサーティーワンの「ポッピングシャワー」が似合うと常々思っている私です。メロギアって、メローネのピンクとギアッチョのブルーで赤青か、メロンの緑と氷の青で緑青か、どちらかだと思うんですよ。んでポッピングシャワーは緑色のアイスクリームの中に赤と青の粒が入ってて、もう見た目がすっごいメロギアだと思うんですよ。なおかつ赤と青の粒はパチパチキャンディーなので、食べると甘い中にパチパチ弾ける食感があって遊び心満載で、バカみたいに笑ったり泣いたりケンカしたりするメロギアにすごく似合うと思うんですよ。あとサーティワンのアイスクリームっていうものがとてもティーンズのイメージで、まだ若い恋人のメロギアにお似合いだと思うんですよ。メローネのお誕生日にギアッチョがポッピングシャワーをおごってあげる話は去年か一昨年にツイッターでしたと思うんですが、それを小説にすることが出来て嬉しいです。
最後の写真は、リクくれた京子さんが、わざわざ小説と同じオーダーでサーティーワンのアイスクリームを買って写真を撮ってくれた物です。本当に嬉しい! ありがとうございました。
 By明日狩り  2013/03/21