a frozen child

















「ついに捕えた……氷のスタンド使い、ギアッチョ」

 先ほどまでの寒さが嘘のように和らぎ、リゾットは柔らかい温度の空気を吸い込んでほっと胸をなでおろした。

 抵抗を続けていたギアッチョはスタンドパワーを使い果たし、地面にうずくまってぐったりしている。気を失っているようだが、強情そうに顔をしかめてまだまだ負けるつもりはないらしい。

「……こんな子供が、恐れ入ったな」

 組織から指示された今回のリゾットの任務は、『誤ってポルポの矢を受けた一般市民を捕獲して処分すること』だ。『組織』に入る試験の最終に、ポルポのスタンドが誤って無関係な一般市民に矢を撃ってしまったらしい。その被害者が、この少年というわけだ。

「やはり、スタンドを得ていたか」

 ポルポの矢を受けても、全員がスタンド使いになれるわけではない。ただ、少年は矢を撃ち込まれても死ななかった。スタンド使いになっている可能性は高いと思っていたが、まさかこれほど強力な冷気を操るとはリゾットも思っていなかった。

「さて、どうしたものか……」

 リゾットはあたりを見回した。逃げるギアッチョを追いつめて、ここは人里離れた山の中だ。このまま少年を『処分』すれば、すべては滞りなく完了する。小さな悲鳴も、小さな死体も、誰の目にも止まることなく時の流れから消え去り、忘れ去られることだろう。

「だが…………………………惜しい……」

 リゾットはため息を吐いた。目の前に倒れている少年のスタンドパワーの強さ。気の強さ。そして何よりも、恐れを知らない強い目の光。生きる力を宿した若い命をむざむざ散らすのは胸が痛い。

 かといって、少年を生かしておけば問題が起きるのは間違いなかった。それは『組織』に対する裏切りだ。

「…………………………………………」

 リゾットは眉根を寄せ、少年の体を軽々と背負った。心地よい重みが背中にかかり、その頼りなくも健気な体重にまた眉をひそめる。

 どうする、ということも決められないまま、リゾットは黙って歩き出した。










*****************************









「ちょっと、リゾット。これなんだよ」
「ああ、すまないが何か食べさせてやっておいてくれないか」
「え、え、何、これ何? 誰? 何なの?」
「オレは今から急ぎの仕事がある。後はお前に任せた。頼むぞ」

「ちょ、ちょっとお!?」

 取るものもとりあえず服の裾を翻してアジトを出ていくリゾットの背中を見送って、メローネは呆然と立ちすくんだ。

「えっ、えっ、何? 何これ?」

 そっと後ろを振り返ると、やっぱり「それ」はそこにいて、夢でも幻覚でもなかったということが分かる。




 メローネが今日、いつものように暗殺チームのアジトへ来ると、見慣れたリビングにあり得ない「もの」がいた。

 くるくると見事な巻き毛。唇をとがらせ、爆発寸前の水風船のように膨らんだ真っ赤なほっぺ。ギュッと固く結んだ小さなおてて。そのくせ鋭い視線は大人でもビビってしまうほど強烈だ。

 そんな、4〜5歳くらいの、小さな子供。

「あ、あのさベイビィ、君はその……誰なのかな?」

 メローネはうすら笑いを浮かべながら、恐る恐る声をかけた。
 これはこんなギャングの暗殺チームにいるべき「もの」ではないし、なぜ「これ」がここにいるのかも分からない。予想外の事態にすこぶる弱いメローネは、ぎくしゃくしながら子供に近づいた。

「…………………………………………」

「ううん、黙ってちゃ分からないよ」

「…………………………………………」

「あ、あのねベイビィ。そんなに睨んだらおニーサン壊れちゃうよ。優しくしてね?」

「…………………………………………」

「……うぅ、何これ。こわいよぉ」


 子供は微動だにせず、一直線にメローネをガン見している。その視線はまるで、スナイパーがターゲットを狙うレーザー光線のようだ。

 遠隔操作型のスタンド『ベイビィ・フェイス』を持つメローネは、計画通りに指示を出したり判断したりするのは得意だ。だがその反面、自分自身に直接降りかかる危機にはとことん弱い。おまけに、子育てスタンドを操る割には本物の子供の扱いが苦手という一面もあった。


「…………ぇ」

 不意に、子供が唸り声をあげた。

「えっ?」

 メローネは驚いて子供を見る。声が聞き取りずらいので身をかがめ、危険物を観察するようにそっと子供の顔を覗き込んだ。

「何? なんて言ったのベイビィ?」

「…………ねえ」

「え? 何? おっきな声で言ってよ」





「ベイビィじゃねえっ!!!!」





「ぎゃっ」

 急に大きな声を出したので、メローネは驚いて尻もちをついた。その隙をついて、子供がカエルのようにメローネに飛びかかる。

「ベイビィじゃねーぜ! ギアッチョだぜ!」
「ぎゃああーーーーーー! 襲われるッ!」
「バカにすんな!! クソックソッ!」
「たすけてええええええーーーーー!!」

 じたばたと暴れるメローネの胸倉をつかみ上げて、ギアッチョはすごんで見せる。
 だが、子供の力では「胸倉をつかみ上げる」なんてことは到底できない。メローネの首元をつかんだまま、オシャレなアクセサリーのようにぶらぶらとぶら下がってギアッチョは声を上げた。

「赤ん坊扱いすんな! ギアッチョって呼べ!」
「いやああああああ何これこわいいいいい!!!」
「大人のくせにうるさいぜ!! イラつくぜええ!!!」

 興奮したギアッチョの体からシュウシュウと冷気が漏れ始め、メローネの服が凍りつく。それを見たメローネの顔色がさっと青ざめた。

「何これ!? 何!? なにこれこわい! 誰! なにこれー!」
「ギアッチョって呼べ!!!」
「いやああああああ何これ死ぬうううううう誰かたすけてえええええ!!!!!!」

 部屋の空気が一瞬にして真冬のようになり、息が白く染まる。予測不能の展開にメローネは半狂乱になって絶叫した。




「おいおい、何の騒ぎだよ」
「え、あれ? 何でこの部屋こんなに寒いんですかい?」

 不意に、リビングの扉が開いた。仕立ての良いスーツを着た伊達男が、咥えた煙草を指でつまんで眉根を寄せる。後ろからはモヒカン風に髪を立てた大柄な青年がついて来て、リビングの寒さに目を見開いた。

「プロシュート! ペッシ! いいところに来た! 助けて!!」
「あァ? なんだそいつ。敵か?」
「ワカンナイ! でも殺されそう! タスケテ!!」
「あー、ウルセーな……」

 プロシュートはため息を吐き、メローネの首元にぶら下がっている子供を抱き上げた。袖がバリバリと凍りつくのも意に介さずに遠慮なく顔を近づける。


「オメー何やってんだ?」

「………………………………」

「つめてーんだよ。これスタンドか? ひっこめろ」


 子供を抱きかかえているプロシュートの手は、「冷たい」などという言葉ではもはや足りないほど変色し、青紫色に凍りついている。

「兄貴ィ! 大丈夫ですかい!?」
 慌てるペッシを無視して、顔色一つ変えずにプロシュートは子供の目を見据えた。
 

「すたんど、ってなんだ?」
「何だよ、スタンドもわかんねーのか、ガキンチョ」

 そう言われたギアッチョはまた大きな声を上げた。

「ガキンチョじゃねーぜ! ギアッチョだぜ!!」

「ギアッチョ? オメーの名前か?」

「ぜ!」

 うなずくギアッチョに、プロシュートは「そうか」とつぶやいて口の端に笑みを浮かべる。


「なあ、ギアッチョ。オレの腕がもうすぐボキッといっちまいそうなんだが、助けてくれねーか?」

「ぜ?」

 穏やかなプロシュートの言葉に辺りを見回し、自分を抱き上げている両手が変色していることに気づいて、「あっ」と小さく声を上げた。
 気まずそうな顔をするギアッチョを見て、(子供もこーゆー微妙なカオするもんなんだなァ)とプロシュートは内心おかしく思う。

「おい、ギアッチョ。大きく息を吸え」

「すぅーーーーーーーーー」

「そんで大きく吐け」

「はぁーーーーーーーーー」

 プロシュートの言葉に素直に従って、深呼吸をする。その呼吸に合わせて、南極のように寒かった部屋の空気がすうっと温まり元に戻った。


「あー……、大丈夫かこれ?」

 ギアッチョを下ろし、こわばった両手を他人事のように眺めて、プロシュートは顔をしかめた。ドサッ、とソファに寝転がり、両手を宙に掲げて舌打ちをする。
 プロシュートが口に咥えている煙草の灰がずいぶん長くなってしまったが、灰皿に落とすことはできそうにない。やがて重力に耐えかねた灰はほろりと床に落ちた。

「…………………………」
 ギアッチョは無言でプロシュートを睨みつけている。

「プロシュートおニーサン、両手大丈夫?」
「兄貴! 兄貴の腕が!」
 メローネとペッシが心配そうに近づいて来る。

「さーなぁ。変な色になってっけど、まぁ大丈夫なんじゃねぇ?」
「これ大丈夫じゃないッスよ!」
「ちょっと待って。凍傷の応急処置ってどうするんだっけ?」
「あっためりゃあいいんじゃねえ? ヤケドの逆だろ」
「そうねぇ。ちょっとパソコンで調べてみようか」

 メローネがパソコンを立ち上げる。
 それを待たずに、ギアッチョがててて……と小走りでプロシュートに駆け寄った。

「お?」

 不審がるプロシュートに馬乗りになり、ギアッチョはじっとプロシュートの顔を見上げる。そしてスモックのような上着のジグザグにカットされた裾をめくり、その中へプロシュートの両手を抱きこんだ。

「…………………………」
「お、ぬくぬくだ」

 直接触れるギアッチョのお腹は暖かく、感覚のなくなった指先がじわじわと痺れるように温まっていく。子供の体温が冷え切った手に染み込んでくるようで、プロシュートは味わうようにゆったりと目を閉じた。

「ワーッイーナーッ。子供体温いいなぁー。オレにもやってよ」
 子供が苦手なくせに、そういうスキンシップは好きらしい。メローネがニヤニヤと笑みを浮かべながら両手をわきわきさせて近づいていくと、ギアッチョはほっぺたを膨らませて首をぶんぶんと横に振った。

「嫌ぜ」
「えー、なんで? コワクナイヨ?」
「きもいぜ」
「ええー、ひどいよベイビィちゃん」

「ベイビィじゃないぜ!」

 その言葉に反応してまたギアッチョの体から冷気が吹き出す。

「ちょ、ちょっ。ごめん。そんなつもりじゃないんだよ。オレは小さいものはなんでもベイビィって呼んじゃうんだ。クセなんだよォ」
「悪いクセは直せだぜ」

「おいおい、ギアッチョを刺激すんなよ。なー、ギアッチョ?」
「ぜ」

「オメーどっから来たんだ? ここで何してる?」
「……………………」

 プロシュートの問いに、ギアッチョはむっつりと黙りこんで下を向く。

「ここは恐いオッサンたちがいっぱいいるとこだぞ? マンモーニはママんとこへ帰りな」
「……………………」

 だが、ギアッチョはやっぱり口を利かない。代わりにメローネが口添えした。

「あのね、プロシュートおニーサン。リーダーが「何か食わせてやれ」って言って、置いて行ったんだ」
「リゾットが? なんだコレ、リゾットの隠し子か?」
「さぁ、知らないけど。違うんじゃない?」
「まあアイツがそんな甲斐性のある男とは思えねーしな。どっから来たんだ、ギアッチョ?」

「…………………………」
 やっぱりギアッチョは黙ったままだ。

 プロシュートは肩をすくめ、ようやく温まって感覚の戻ってきた両手をスモックの下から引き抜いた。
「ありがとよ、ギアッチョ」
「……………………」
「腹減ってんだろ? 下のリストランテに何か食いに行こうぜ」

 アジトの1階はリストランテになっていて、そこそこの物を食べさせる。限界まで短くなっていた煙草を摘まんで灰皿に押し付け、プロシュートは立ち上がった。

「……………………」
「そんな不安そうな顔すんじゃねえよ。オレらじゃなく、リストランテのおやじが作るんだ。毒なんか入ってねえよ」

「………………ない」

「あ?」


「…………おかね、ない」

 プロシュートを睨みつけたまま、ギアッチョは消え入りそうな声でつぶやいた。それを聞いたプロシュートがクックッと笑いをかみ殺す。

「金なんか取るかよ。チビスケが食べる飯なんざ煙草より安いぜ。それにこれはオレらのリーダーの命令なんだ。オメーに飯を食わせるのが、オレらの任務だ。そうだろ、メローネ?」
「まあね。リーダーはそう言っていた」

「だからオメーは飯を食え。腹ガリッガリに痩せてるぞ、ガキのくせに。もっとちゃんと食え」
「ガキじゃねーぜ! ギアッチョぜ!」
「へいへい。分かってるぜギアッチョ」

 ようやく元気になったギアッチョを促して、プロシュートはリビングを出ていく。
 プロシュート、メローネ、ペッシ、そしてギアッチョ。

「ねえ、おニーサン」
「何だよ」
「子供連れで、オレたち親子みたいに見えるかな?」
「ゲッ、気持ち悪いこと言うな。誰と誰が夫婦だって?」
「オレとおニーサン。アンジーとブラピみたいじゃないか」
「メローネ、それならオレの役割はなんなんだい?」
「ペッシはねえ、ギアッチョのお兄ちゃんかな?」
「これから飯食おうってのに、吐き気を催すようなこと言うんじゃねえ。だいたいオレとオメーからできたにしちゃあ、顔の遺伝子が息子たちに全然引き継がれてねぇ」
「あ、ひどいこと言う。ギアッチョはディ・モールトかわいいのに」
「かわいくねえよ」

 そんな戯言を言いながら、4人はリストランテに向かって階段を降りて行った。










*****************************










「それで?」

「ム………………」

 その夜。
 任務から帰還したリゾットをすぐさま捕まえて、リビングに引っ張り込む。プロシュートは不機嫌そうな顔で煙草に火を付け、乱暴にライターを放り投げた。

 傍らのソファではギアッチョが小さく丸まって寝ている。何をそんなに怒っているのか、眉間にしわを寄せたままずっと苦しそうな顔で時折唸り声を上げる。

「こいつをどうしようってんだよ、アンタ」

「……………………………………」

「……アンタにしちゃあ、後先考えねぇ行動だな」

「……すまん」

 リゾットは素直に頭を下げた。

 前回の任務でリゾットが『処分しろ』と言われていたターゲットは、プロシュートが驚くほどガツガツとスパゲティを平らげて、今はソファの上で寝息を立てている。

「処分しろ、って言われたんだろ?」

「そうだ」

「処分してねぇよな?」

「…………………………」

「命令に背くつもりかよ」

「…………………………」

 リゾットの苦悶の表情を見て、プロシュートは「ハン」と鼻を鳴らした。

「ガキに同情してンのか?」

「…………………………」

 普段から寡黙なリゾットではあるが、今夜はとりわけ口が重い。何を聞いても埒が明かず、プロシュートは大きくソファにふんぞり返った。


「このガキッチョ、どうするつもりだ? 親元に戻すつもりか?」

「……………………できることなら」

「やめとけ。虐待されてる」

 プロシュートの言葉に、リゾットははっと顔を上げた。その反応を見てプロシュートは呆れたように煙草の煙を吐き出した。

「何だよ、気づいてなかったのか?」

「そこまでは……」

「昼間触ったガキッチョの腹、かさぶたとヤケドの跡があった。アイロンでも押しつけられたんだろ。多分調べたら体中にあざがあるだろうぜ」

「……………………」

「親に虐待されて、おまけにポルポの矢に刺されて、よくよくツイてねぇなコイツ」

「……………………」

 リゾットが悲痛な面持ちで足元の床を睨む。
 どうする、という結論も出ないまま、連れ帰ってしまった。だがこのまま少年を始末するのも、元の家に返すのも、リゾットにとってはつらい決断だ。

 リゾットの脳裏に、幼くして命を奪われたいとこの子の顔が浮かぶ。

(どうすれば………………)






 そのとき。

 カタン……。

 窓の外で小さな音がしたのを、2人の熟練の暗殺者は聞き逃さなかった。

「何者だッ!」

 リゾットが窓を開けると、黒い影が窓の外でひらりと翻った。
 壁を伝う排水管にへばりついて、誰かが中の会話を盗み聞きしていたらしい。飛び出したと同時に排水管が大きな音を立てて外れ、勢いよく水が噴き出した。

「『メタリカ』ッッ!!」
「『グレイトフル・デッド』ォ!!!」

 反射的にスタンドを出すが、2階の窓から地上へと飛び降りた影にはもう届かない。

「あれは……?」

 リゾットが暗闇に目を凝らす。地上に降りて逃げていく後ろ姿は、近頃うるさく暗殺チームの身辺を嗅ぎ回っている敵対組織の下っ端に違いなかった。

「クソッ、アジトの場所を知られた!!」

 プロシュートが血相を変えてリビングを飛び出す。
 だが、階段で降りて行ったところで今からでは追いつけないだろう。

「クッ……」
 リゾットは顔をゆがめ、取り得る手段を高速で考えた。



 と、その時だった。


「まてええええええええーーーーーーーーーっっ!!!」

 いつの間に目を覚ましていたのか。
 窓に取りすがって、ギアッチョが大きな声を上げていた。

「ギアッチョ?」

「あいつ、止めたらいいのぜ?」

 キッと見つめてくる真剣なまなざしに思わずうなずくと、ギアッチョはケンカをする野良猫のように鋭く吠えた。

「とまれえええええーーーーーーーーーーー!!!!」


 その瞬間、すさまじい冷気が部屋を襲う。

「うっ……」

 顔をかばい、凍りつきそうになるまぶたをかすかに開ける。

 排水管から吹き出す水がみるみるうちに凍りつき、アーチを描いて前方に張り出した。

「いっけえぇ!!」

 ギアッチョの小さな体が窓から躍り出る。氷の橋に飛び乗ると、まるですべり台のように勢いよく地上へと滑り落ちていく。


「ギアッチョ!!」

 リゾットが驚いて見ていると、ギアッチョの体は一瞬にして1階にたどりつき、地面に落ちて跳ね上がった氷のアーチに沿って今度はふわっと宙に浮いた。

 そのまま宙を舞い、あたふたと逃げていく影の上に見事に着地する。

「ギャッ!! 何だあァ!!?」

「とまれ!!!!」

「ぎゃあああああああ!!!!!!!………………………………」

 ターゲットは頭にしがみついたギアッチョを振り落とそうとやみくもに体を振ったが、すぐに動かなくなった。常識では考えられないほどの猛烈な冷気に襲われ、体中の細胞に含まれる水分が凍りつく。






「……おいおい、まじかよ」

 陸路でようやく追いついたプロシュートが見たものは、獲物を捕えた野良猫のように鋭い眼光のギアッチョと、その下で1割ほど体積が増えて醜く凍りついた敵の氷像だった。











*****************************











「……というわけで、ギアッチョを正式に暗殺チームのメンバーとして認めることにした」
 リゾットに紹介されて、ギアッチョは相変わらず怒ったような不機嫌そうな顔で、集められたメンバーを睨みつけた。

「リーダーが決めたんなら、別に文句はないし」
 イルーゾォが頬杖を突いて言う。子供は嫌いだが、リーダーに反論する理由が見つからない。

「ネエロの好きにしたら?」
 ジェラートもあまり興味がないらしく、ソルベのセーターの毛玉をひとつずつ摘む作業に余念がない。

「…………………………」
 ソルベはいつも通り、何にも関心がない。だるそうにソファに身を預けて、話が終わるのを待っている。

「いいね。かわいい子が入ることはディ・モールト良いことだ」
 メローネだけは一人で喜んでいる。最初はあんなにビビっていたくせに、現金な変態だ。

「ま、オレはかまわねーけどよォ。誰が育てるんだ?」
 ホルマジオがもっともなことを言う。


「オレだよ」

「えっ?」

 リゾットとホルマジオ、そしてペッシが驚いて振り返る。

 手を挙げているのは、プロシュートだ。

「なかなか見所のあるガキッチョだ。オレが育てる」

「ガキッチョじゃねえぜ! ギアッチョぜ!!」
 すぐさま反論するギアッチョを見て、プロシュートは満足げに唇の端を上げた。


「ちょっ、あ、兄貴ィ!? オレはどうなるんです!?」
 ペッシがおろおろとプロシュートに取りすがる。

「あン? オメーはいつまでマンモーニのつもりなんだよ。もう立派なギャングだ。暗殺者だ。マンモーニ卒業を認めてやるよ」
「ほ、本当なのかい、兄貴ィ!?」
「いつ手放すか考えてたんだが、いい機会だ。まだコロシはしたことがねぇが……オメーの度胸はもう一人前だぜ。ペッシペッシペッシよォ〜。自信を持ちな」
「う、うんっ! ありがとう兄貴!」

 ペッシは力強くうなずいた。



「プロシュート…………いいのか? これはオレが……」

「今さら新人研修と子育てをいっぺんにやってる暇は、アンタにはねーだろう。オレが責任持って育ててやっからよ。安心しな、リゾット」


「育てなくていいぜ。ひとりでなんでもできるぜ」
「おうおう、せいぜい手間掛けさせンじゃあねーぞ、ガキッチョ」
「ギアッチョ!!!」

 暴れるギアッチョの頭を押さえつけて、プロシュートはクックッと笑った。









【続……かない】










ツイッターで「ギアッチョ欲しい!ギアッチョほしいーっ!」と叫んでいたイマダさんを見て、「交換リクエストしませんか?」と持ちかけたのはそう、この私!
イマダさんが「かわいいショタギアッチョください」と言うので、「じゃあエロいボスリゾください」と見当違いのリクエストを食らわせたのも、そう、この私!
おまけにけっこう前に「ボスリゾできました〜☆」と超絶エロースなボスリゾ(しかもカラーイラスト!)の納品が済んでいるのは、そう、イマダさん!
今さらのこのことリクエストを仕上げ、しかも全然ショタッチョがかわいくないのはそう、この私!(涙)

というわけで飢えた者同士で他給他足しようと思ったのですが、不平等な結果になりましたテヘペロ☆ ごめんなさいイマダさん遅くなりました。ショタッチョです。謹んで進呈します。あんまりショタっぽくないですね。しかも何だこの話? 「リゾギアになります」って予告してたくせにプロギアになってるし。なんか……すいません。でも書き始めたらなんか楽しくなっちゃって、メローネそっちのけで兄貴が出張ってきて、気がついたらギアッチョ活躍してて、兄貴がギアッチョの面倒見たいとか言い出して、何にも考えずに書き始めたのにいつの間にかお話が出来上がっていました。ほとんど自動書記でした。勝手にキーボードが動いてお話ができました。ううん、楽しかった!
イマダさん、いろいろとありがとうございました! これからも宜しくお願いします。
 By明日狩り  2012/03/22