アジトのリビングはメンバーの共用になっている。リビングにあるものは、何を食べても飲んでも、自由。使っても壊してもなくしても、自由。テレビは早い者勝ち、ソファは自由席。そういう暗黙の了解のもと、リビングはみんなの集まる場所として賑やかに機能している。
 だが、そんなリビングにも唯一の例外がある。

「ソルベー! もらいもののトリュフチョコレートだって。うふふっ、嬉しいね。一緒に食べようねぇ」
 リビングのテーブルに広げられたチョコレートの箱からいくつかつまみ出して皿へ載せ、ジェラートは隅にある二人がけのソファへ戻っていく。

「…………」
「ソルベ、甘いもの好きだもんねー。はい、あーんして」
「…………ん」
「次はこれ? おれも半分たべたーい」
「……ん」
「え、いいの? ソルベやさしーい。でも半分こにしようねぇ」
 一人相撲のようにも聞こえる会話(というか限りなく独り言に近い)を交わして、ジェラートはご機嫌だ。

 ソルベとジェラートはいつも一緒にいる。リビングの隅のソファは二人がいつも占領していて、たとえ不在のときでも誰も座ろうとしない。実質二人の専用席になっていた。

 チョコレートを食べさせている二人を見ながら、イルーゾォは不機嫌そうにチョコレートを口に放り込んだ。

(ちぇっ、見せつけるよな。ていうかあれ、デキてるよなぁ。本人はデキてねーって言ってるけど、デキてるよ。イチャイチャしやがって。だいたいソファは自由席のはずじゃん? なのにあそこはなんかもうソルジェラ用って感じになってるし、座りにくいし、こんなのってアリか?)

 相手がギアッチョやプロシュートなら文句のひとつも言いたいところだが、相手は他でもないジェラートだ。『生物の発する声から本音を暴き出す』という彼のスタンド『レディオヘッド』は手強く、余計なことを言えばまた揚げ足をとられるに決まっている。

 だが、心の声が聞こえなくとも、ジェラートはめざとい。

「あれ? イルーゾォ、ご機嫌ななめじゃない?」
「あぁ? 別に。フツーだし」

 反射的に答えて、(しまった!)と思う。だがもう遅かった。
 ジェラートはニヤニヤしてイルーゾォを見る。

「あっれぇ〜? イルたん、おれとソルベに嫉妬?」
「嫉妬じゃねえよ! あと勝手に心読むんじゃねえよ! あとイルたんて呼ぶな!」
「文句が多いなぁ。三倍返しだよ。口数が多いときって、頭が焦ってる証拠なんだって。知ってた?」
「うるせー! 人前でイチャイチャしてんじゃねーよっ!」

 もう隠していても仕方ない。イルーゾォは本音で叫んだ。

「第一、そういうのさあ、ソルベは喜んでるわけ? そりゃあお前には心の声が聞こえてるのかもしれないけどさ、おれには聞こえてねーし、それにソルベは全然嬉しそうに見えねーし。ひょっとして無理強いしてんじゃねーの?」

 ほとんど言いがかりだが、イルーゾォだってそんなことはわかっている。ジェラートは苦笑して、頬に人差し指を当てた。

「うーん、ソルベの声はイルたんには聞こえないしぃ、証明することなんてできないけどー」
「だろ? そういう、お前らにしかわからないコミュニケーションをここで見せられてる方の立場になれよ。おかしいよ。変なんだよ」

「じゃあさ」
 ジェラートは少し真面目な顔になって、首をかしげる。

「イルたんはおれとソルベがどういうことしてたら、納得いくの? リビングを出ていく以外にさあ」

 そう言われてイルーゾォは言葉につまる。

「それは……」

「ソルベが話すのは無理だよ? この通りの無口な人だもん」

「それは……」

 ただのイチャモンに真っ向反論されて、イルーゾォもすぐには答えが出ない。

(なんてゆーか、楽しそうにさあ、せめてやっぱりソルベが笑ってたりとか、もつと返事したりとか、そーゆーんだったらいいわけじゃん? でもソルベって絶対笑ったりしないし、無理だし……)


「よし、分かったよ!」
 ジェラートが手を叩いて笑った。

「え?」

「ホルマジオにさ、チョコレートあーんしてもらってよ! それでイルたんがどんな反応するか見ててあげる! それが、イルたんがソルベに求めることなんだよね?」

「は、はあぁー!? なにいってんの!? ばかじゃねーの!?」
 突然ホルマジオの名前が出てきたので、イルーゾォの顔が真っ赤になる。

 呼ばれたホルマジオが振り返った。
「お、俺の出番か? イルにチョコ食わせればいいのか?」

「ちょっ!マジオ!」
「なんかさっきから騒いでると思ったらよォ〜。なんだ、俺にチョコあーんしてほしかったのかよ」
「ち、ち、違うし! そんなこと言ってねーし!」
「しょーがねーなあ。ほら、あーんしろよ」

 ホルマジオが愉快そうに笑ってチョコレートを突きつける。

「ちょっ、まっ、なっ、や、やめてよっ! ジェラートがふざけてるんだよ!」
「いやいや、まんざらでもねーんじゃねーの? ほれ」
「ほらあ、イルたん。食べさせてもらいなよー。うらやましかったんでしょ?」
「うらやましかったんならそう言えよなぁ〜。素直じゃねーんだからよ、オメーはよぉー。しょーがねーなあ」

 ジェラートもホルマジオも面白がってニコニコしている。

「か、からかうなよ!」
「あれー? イルたんはソルベがそんなふうに照れて逆ギレしたらいいと思うの? それで満足?」


 意地悪な問い詰めに、イルーゾォはとうとう降参した。

「悪かったよ! 謝る! お前らがいっつも仲良くしてるから、うらやましかったんです! ほんとです!」
「そっかー、寂しがらせてごめんな、イル」

「あれ? そういや二人はデキてんの?」
 勝利を納めたジェラートが余裕の笑みで尋ねる。

「デキてねーよ!」
 顔を真っ赤にしたイルーゾォの悲鳴と。
「今はまだ、な」
 軽く流すホルマジオの声が重なった。

「なっ…!」
「ま、いずれもっと仲良くなるかもしれねーけど。とりあえずイル、はい。あーん」

 ホルマジオが差し出したチョコレートを拒否することも受けとることもできずに、イルーゾォはそのまま部屋を飛び出していった。

「ばかーっ!」
「おいおい、素直じゃねーなぁ」

 呆れるホルマジオを見て、ジェラートがくすくす笑う。

「俺、応援するよ? ホルマジオのこと」
「おっ、ありがとよ。イルのやつ、あんなだからよォ。なかなか仲良くなれなくて」
「でも両想いは確実だもんね」

「心読んだのか?」
「そんなの読まなくたって分かるよ」
「……だよなぁ」

 暗殺チームの諜報係、ジェラートにかかれば分からないことなど何もない。くすくす笑いながら、「さあて、どうやってくっつけよーかなー?」と楽しそうに言うジェラートを遠巻きにして、(あのソファにちょっかい出すのは絶対に止めよう)と心に誓う暗殺チーム一同であった。


【終】







九十九屋さんからのリクエストで、ホルイル+ソルジェラのお話でした。案外考えたことない組み合わせでしたが、ここはプリゾ+メロギアと比べると受けがカワイコチャンなカプなうえ、そのカワイコチャン同士が結構気が強い(笑)。なのでこんなケンカ騒ぎになりました。でも暗チではジェラート最強説。
By明日狩り  2014/05/09