ミュージック・シェア













(あ、いる)
 アジトのリビングのソファに座っているホルマジオを見つけて、イルーゾォは声をかけた。

「ホルマ……」

 だがすぐにその手を引っ込め、気まずそうに口をもごもごする。

 ソファに深く身を預けてリラックスした様子のホルマジオは、目を閉じ、両耳にイヤホンを入れて音楽を聴いている。眠ったように見えるが、膝に乗せた人差し指がトントンと一定のリズムを刻んでいるので、どうやら起きてはいるらしい。

(声を掛けても、いいんだろうけど……)

 肩をたたけば、ホルマジオはすぐに目を開けて「おう」と笑ってくれるだろう。それは分かっている。けれどイルーゾォにはなんとなくそうする勇気がなかった。

(邪魔、したら、悪いかなぁ……)

 何か用事があるなら、イルーゾォだって遠慮なくホルマジオに声をかけただろう。だが今は特にこれといった用事もなく、キッチンの方でリゾットに「ホルマジオならリビングにいたぞ」と言われたので「ああそう、ありがとう」などと返事をしてしまい、それでつい何となく「ホルマジオを探していた自分」という設定になってここまで来てしまっただけのことだ。

 イルーゾォはしばらく迷っていたが、そっと足を忍ばせると、息をひそめてホルマジオの横に腰を下ろした。

「……………………」

 わずかばかりソファが沈んだが、ホルマジオは気づかない。近くに寄るとイヤホンからシャカシャカと小さな音漏れがしている。

(何聴いてるんだろう)

 イルーゾォはあまり音楽に詳しくない。きっと「何聴いてるの?」と聞いたところで、返ってくる答えには「知らない」と言うことしかできないだろう。

 そんなことを考えていると、不意にホルマジオが目を開けた。

「うおっ!?」

「あっ」

 隣にイルーゾォがいたことに気づいて、ホルマジオは驚いて少しばかりソファから腰を浮かせた。だがすぐに笑顔になり、「おう」と言う。

(あーあ……余計に悪いや……最初から声掛けておけばよかった)

 ホルマジオを無駄に驚かせてしまって、イルーゾォは少しうつむく。

「なんだよ急に。びっくりするじゃねえか」
「ごめんね……そんなつもりじゃなかったんだけどさ……」
「ったく、オメーはいつも神出鬼没だなぁ。しょーがねーなあ」
「ごめん……」

 謝るイルーゾォの頭をくしゃっと撫でて、ホルマジオはくっくっと面白そうに喉の奥を鳴らす。

「おもしれーなあ、オメーはよォー。オメーといると飽きねーなあ」
「………………」
「なんだよー。何考えてんだ? 思ったこと言えよ」
「………………」

(何も言うことなんか、ないけど……)

 イルーゾォは口を閉ざしてうつむく。だが、声をかけないで失敗したついさっきの自分の行動を反省して、顔を上げた。

「あのさ」
「うん?」
「何聞いてんの?」
「あー……」
 ホルマジオが何か考えてから、小さく苦笑する。
 それを見ただけで、自分があまりいい質問をしなかったことをイルーゾォは悟った。

(ああ、またバカなことした……)

 きっと、それはイルーゾォのような知識の浅い人間には通じない、趣味人でないと分からないような音楽の名前なのだろう。もしくは普通の人間なら誰でも知っているようなごく当たり前の名前だけれど、イルーゾォがそんなことすら知らないということを予想して言わないでいるのか。

 ホルマジオはその質問には答えず、代わりに自分の耳から片方のイヤホンを外してイルーゾォに差し出した。

「聞いてみるか?」

「……うん」

 それを耳に入れると、少しアップテンポの音楽が心地よく頭の中に流れてきた。ポップな間奏の後に、意外にも野太いブルースのような歌い方のボーカルが入ってくる。

「あ、面白い」
「だろ? あんまメジャーじゃねえんだけどさ。好きなんだ」
「……うん、いいねこれ」

 そう言いながらイルーゾォはもっとよく聞こうとイヤホンを奥へ押し込む。だが短いコードがピンと張ってそれ以上引っ張ることができない。

「ん」
「おっ」

 イヤホンに軽く引っ張られて、ホルマジオはイルーゾォの方へ体を傾けた。頭がコツン、と当たる。

「あっ、ごめん」
「いやいや。……あ、次の曲、一番有名な奴。……っつっても知るわけねーよなぁ」
「……うん、知らない。でも好きだな」
「そのうち売れるんじゃねーかと思ってんだけどよォー。なかなかブレイクしねえんだよなァ」


 肩を寄せ合い、2人はイヤホンを分け合って音楽を聴く。


「ホルマジオってさ、趣味イイよね」
 おもむろに、イルーゾォが口を開いた。

「そうかぁ? いいかどうかはわかんねーな。自分の好きなモンが好きってだけだしよ」
「趣味、イイよ。オレなんか全然こういうの自分じゃわかんないし、でもホルマジオの好きなものってけっこういいなって思うの多いし」
「ふーん。だったらオメーも趣味いいってことになるよなぁ。自画自賛だな」
「そっ……! そういうわけじゃないけどっ!?」
「ははっ」

 おかしなロジックでからかわれて、イルーゾォは顔を真っ赤にさせる。だがホルマジオは楽しそうに笑うと、イルーゾォの肩に頭を預けて目を閉じた。

「だったらよォ」
「うん?」
「オレが趣味いいんだったら、オメーもかわいいってことだよな」
「なっ……!?」
「オメー、けっこうオレの趣味だもんなぁ。おもしれーし。手がかかるしよォ。見ててあきねーし」
「なんだよっ! 悪口じゃないか!」
「悪口じゃねーよ。オメーがオレのこと、趣味がいいって言ったんじゃねえか。オレが好きなモンは良いモン、だろ?」
「からかうのは許可しない!」

 肩を取られて身動きが取れないイルーゾォは、硬直したまま非難がましく声を上げた。
 だが、振り払おうとしないイルーゾォの気持ちは、ホルマジオに筒抜けだ。

「オメーってかわいいよなぁー」
「ウルサイッ! 黙って音楽を聴けっ!」
「オレってほんと、趣味いいよなぁ〜」
「ああもう、二度と誉めてやるもんかあーっ!」


 リビングのソファで2人、イヤホンを分け合って、

 趣味のいい音楽を聴く。

 そんなひととき。



【END】






ムッハー。ハズカチイ! ホルイルはハズカチイですね! うちのイルーゾォが乙女すぎるものですからね! でもホルイルは一番肩の力抜いてさくさく書けるのでとても楽しいです。プリゾとかメロギアはけっこう気合い入れないと書けないというか、じっくり楽しんでしまう。ホルイルは手癖のようにポロポロ出てくる。
今回のはたわしたさんの妄想ツイートから勝手にお借りして、全然違うものになりました! 何だっけ、イルーゾォが「これ、いいと思うんだけど」とおずおずイヤホンを差し出して、ホルマジオが「ああいいなあ」とか言って2人が音楽の趣味が合うといいなぁとかそんなツイートだった。萌えた。たわしたさんいつも萌えをありがとー!
 By明日狩り  2011/07/15