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暗黒の闇の中。上下左右の区別もなく、過去も未来もない。マイナス二七〇度の真空に生き物は存在せず、またこのあたりには星雲もチリもガスもない。
何もない、真に何もない空間を、カーズは漂っている。
「………………………………………」
時間という概念は、物体が運動することで生まれる。物体が移動するとき、太陽の動きや砂の落ちる速度(重力)や水晶の振動(クオーツ)を基準にして、「他の物体の動きに比べてどれほど早いか、あるいは遅いか」ということを判断するのが【時間】だ。
ここには、動く物は何もない。比較にする基準も対象もなければ、動きを観測する第三者もいない。あるのはただ、真空に浮かぶカーズという固形物質のみだ。
「………………………………………」
カーズは究極生命体である。地球の歴史をすべて体に取り込み、あらゆる生物の力を取り込んで、どんな生物をも凌駕する究極の存在に進化した。だが、小賢しい一人の人間によって火山の噴火に巻き込まれ、宇宙空間に吹き飛ばされて、そのまま果てしない宇宙を漂うだけの物体と化した。
超低温と希薄なエネルギーしかない空間に放り出されて、究極生命体は死ぬことができない。たまに衝突する宇宙のゴミを摂取し、恒星から放射される光などのエネルギーを代謝して生き延びてはいるが、生物としての活動が行えるほどではない。植物の種子のように、鉱物のように、カーズは体を丸めてじっとしていた。睡眠を取る必要もないので眠れず、ただ考えるのを止めたままでいるだけの状態だ。
何年、あるいは何億年、そうしていただろうか。長い長い「無」の中で、カーズの意識が不意に覚醒した。
「………………………………?」
体内に、何か懐かしい感覚が蠢いている。遙か遙か昔に知っていたその感覚。地球にいた頃、まだカーズが当たり前に「生物」らしく存在していた頃の感覚だった。
(……………………胃…………?)
消化器官が己の体内に存在していたことすら忘れていた。口で咀嚼し、食道で嚥下し、胃で消化して、腸で吸収する。そういう消化活動をしていた頃もあった。だが効率的に生物を取り込みエネルギーとして吸収する方法を身につけてからは、それらの器官はただカーズの肉体に収納されているだけの、いわば使い古しの不要な道具たちであった。
その古い消化器官の中で、何かが蠢いている。そしてそれに呼応して、カーズの胃袋が何億年ぶりの消化活動を始めていた。
(食い残しでもあったのか……? まさかな)
本体の疑問など知らずに、胃袋は「入ってきた食料を消化する」という機能を忠実に果たす。だがどういうわけだか胃袋の中の「食料」は一向に消化される気配はなく、むしろむくむくと膨れあがっているようにすら思えた。
やがて。
「ぐおおおおおおおっ! こ、こっ、ここはどこだッ! なんだ今度は! 暗い! 狭い! 苦しい! それにああああああ! 痛いッ痛い痛い痛い溶ける溶ける溶けるうううあああああああ―ッッ!」
(叫んでいる…………だと?)
カーズの腹の中からけたたましい悲鳴が上がった。苦しんでいるらしく、胃の中で暴れて内側から内臓を殴打しているのが分かる。だがそれも胃酸に溶かされ、腕や足が一本ずつもげてばらばらになり、次第に動きが小さくなっていく。
恐怖に震え、泣き叫んでいる何かが、腹の中にいる。
食われる者の苦痛と恐怖、食う者の満足と悦楽。過去に置いて来たものが己の中にもう一度蘇り、カーズは我知らず笑みを浮かべた。
「どこから来た?」
空気を出して喉を震わせる、という古風な方法ではなく、生物の意識に脳波を通して直接語りかける高度な方法でカーズは問いかけた。
「ぐああああ! ここはどこだ! 溶ける! と、溶けるううう! 痛い痛い痛いぎゃあああ死ぬ! また死ぬ!」
「貴様は誰だ?」
「ひいいい何だここは!? 食虫植物の中か? 熊の胃袋か? 最初から食われてるシチュエーションは初めてだぞ! 何か分からんが食われてるッ!」
「やかましい。質問を無視するのは許さんぞ。少しは静かにできんのか」
今まで静寂に包まれた宇宙を漂っていたので、この騒ぎはカーズの凍りかけた脳に刺激的に響く。イライラとも歓喜ともつかない感情に駆り立てられ、思わず力を込めて生命力を啜ってしまった。
「ぎゃーっ! 死ぬ……………………ぅ…………」
「おっと、つまらん」
実に久し振りの「獲物」だ。カーズは吸収をやめ、逆に腹の中の生物に生命力を戻してやった。
カーズの胃の中でエネルギーを受け取り、「獲物」は徐々に肉体を形成していく。
「………………ん……」
死の直前から生へ引き戻されて、その男―ディアボロ―は意識を取り戻した。
(なんだコレは? 今までに経験したことのない『死』だ。生まれる? 殺され、奪われるだけではなく、力を与えられて生まれるというのか?)
液体に浮かび、柔らかい肉に包まれて、ディアボロはまるで胎児のような気分だった。だが生まれる端から肉が溶け、呼吸すれば酸が肺の中を浸食する。母の優しい羊水とは程遠い、究極生物の強力な酸だ。それなのにディアボロの肉体はどこからかエネルギーを与えられ、形を取り戻そうとしている。
溶かされながら生まれていく奇妙な感覚。表皮と肺を酸に焼かれる痛みに耐えながら、ディアボロは声を上げた。
「貴様は何者なのだ!」
すると肉壁は答えた。
「それは人間の言葉、だな。懐かしい。……だが、自ら名乗りを上げることなく相手に質問をするのは、人間の中でも程度の低い奴のすることだ。下層階級の人間か」
「なっ……! ふざけるな! 私は帝王だッ!」
久し振りにその言葉が出て、ディアボロはハッとする。
(そうだ、私は帝王なのだ。死に続けるうちにそんなことも忘れていたのか……)
恐怖と苦痛と断末魔の連続で、ディアボロは己が何なのかということももはや忘れかけていた。ただひたすら目の前の『死』に恐怖し、生き延びようと足掻いて結局死に至る。その繰り返しの中ではひたすら絶叫することしかできず、いつの間にかディアボロは帝王のプライドも、人間としての自意識さえ失いかけていた。
「帝王?」
肉壁は嘲笑った。
「帝王がなぜおれの腹の中で消化されているんだ?」
「知るか! オレは殺されてばっかりだ! なぜ死に続けているかなんてオレに聞いても分かるものか! それより貴様こそ何なのだ!」
そこでカーズは思い出した。宇宙を漂う我が身のことを。
「……おれは究極の生命体。死ぬことはなく、かといって今のままでは生きていくこともできない」
その言葉にディアボロは不思議な共感を覚えた。生きることも死ぬこともできずに、永遠に狭間を漂う存在。
「なぜ生きられない?」
「宇宙は寒く、食料もエネルギーになるものもない。岩のように丸くなったまま、おれは宇宙を漂っている……」
静かに語るカーズの悲壮な物語を、ディアボロは嘲笑った。
「ハハハハ! バカみたいだな! 究極生命体が口ほどにもない。手も足も出せずにただぼんやり宇宙を漂っているだけどはなッ!」
「黙れ、名ばかりの帝王とやら」
「ぎゃーっ!」
またもや生命エネルギーを吸い尽くされて死の寸前まで追いやられ、そして再びエネルギーを与えられて生まれてくる。
「ううう……死にかけても苦しい! 戻ってきても消化されて苦しい! どこへ行っても苦しいばかりだ……!」
「そうだろうな。だが貴様の生命エネルギーを食わなければ、今のおれは考えることも話すこともできない」
カーズがこうして久し振りに何かを考えることができているのも、体内のディアボロからほんの少しではあるが生命エネルギーを奪っているからだ。そう言うと、ディアボロはまた居丈高に鼻で笑った。
「ふん。究極といっても所詮は生物。食わなければ死ぬのだな」
「死ぬ……というのは正しくない。おれは死ぬことはない。エネルギーが尽きれば、化石になった植物の種子のようにじっとして、ただ命の種を繋ぐばかりだ」
「そうか…………私とは逆だな」
腹の中の男は溶かされながら、静かに何かを考えているらしい。消化されながらもこんな風にある程度冷静でいられる生物は今までに食ったことがない(もっともついさっきまでは取り乱していたのだが)。カーズは腹の中の男に興味を持った。
「逆、とはどういうことだ?」
「私は自分の『組織』の部下に裏切られて、死から死へと渡り歩き続けるはめになった。生きたまま漂う貴様と、死にながら生き続ける私は、逆だが、同じようなものだ」
「そうか。それでお前の次の『死因』は、『宇宙を漂う究極生物の餌になって死亡』というわけだな」
「そうらしい」
胃の中でぼろり、と内容物が動いた。肩の肉が削げ、右腕が体から離れて胃酸の中に落ちる。
(これ以上消化してはこの男と話すことができなくなってしまう。それでは至極つまらん)
カーズは密かに消化の速度を緩めた。思考し、会話するために必要なエネルギーは吸収しなければならないが、そのためには少しの血肉があれば事足りる。
死ねない男と、死に続ける男。長い長い、永遠とも思える時間の中で、この二人が巡り会うこともありえない話ではない。
「貴様、名前はあるのか?」
「カーズ」
「ふん、たいそうな名だ。どうせ化け物のような姿をしているのだろうに」
そう言ったディアボロの脳裏に、ひとつのビジョンが浮かび上がった。筋骨隆々とした肉体、翼を羽ばたかせて大空を舞う姿は天使か悪魔か、雄壮で威風堂々たるその生物は王者と呼ぶに相応しい。カーズの記憶が脳に直接投影され、ディアボロは口をつぐんだ。
「……………………」
「見えたか? 単一の生物でない、という意味でなら、化け物ではある。化け物の定義次第だろうな」
「…………ああ、悪魔のような姿だな。私の名はディアボロ」
「お前も悪魔(ディアボロ)か。なるほど、悪魔の帝王ディアボロ」
「バカにしているだろう? 貴様の腹の中で消化を待っているだけの帝王などと」
「いや………………そうでもない」
ディアボロはこうしている間にも皮膚を溶かされ、内臓を焼かれながら会話している。常に与えられ続ける苦痛と恐怖に苛まれながらも、こんなにも冷静に会話ができる相手にカーズは敬意を覚えていた。
(さすがに長い間、死に続けているだけある。ここまで腹の据わった男は久し振りだな……)
話し相手にしては悪くない。もげたディアボロの右腕を吸収すると、頭が冴えてきた。代わりにディアボロの皮膚を再生し、唇と舌と肺も治してやる。
「話がしたい」
「話? くだらんな……と言いたいところだが、聞いてやらんこともない」
右腕を奪われたディアボロは、溶けたり再生したりする体を奇妙に思いながら、不機嫌そうに答えた。
「長い間、一人でただ何も考えずにこうして漂い続けていた。久し振りの会話だ。楽しませて欲しい」
「孤独な阿呆の相手をするなど、以前の私ならありえないことだ。そんなことは阿呆なボランティアが老人や病人相手にすることであって、ギャングのボスで帝王である私のすべきことではない」
「…………………………」
カーズが黙ったので、ディアボロは慌てて補足した。
「だが! 待て、早まるな。消化するんじゃないぞ。私はひどい裏切りによって死に続ける羽目になった。いつも誰かの『死』を体験し、それが終わるとまた次の『死』へ移動する。それは落ち着きがなく、そしてひどく苦しい」
「…………………………」
「ここは痛みさえ我慢すれば、少なくとも落ち着いて考えたり話したりすることができる。私は私が誰だったかも思い出すことができた。貴様と会話することも悪くはない、と思っている」
「そうか。人間の帝王よ、もっと話を聞かせろ」
「だったら消化するのは止めろ。痛いぞ」
「胃袋に酸が満たされているのは肉体の構造だ。止めることはできん。だからこうして、溶ける端から治してやっているだろうに」
「拷問よりひどい。治して溶かして治して溶かして、その間も私の痛覚は常に強酸に曝され続けているんだぞ!」
「貴様は今までに消化した食べ物の意見を聞いたことがあるか?」
「ないな。だが究極生物を名乗るのだから、それくらいはしろ」
「おれの胃袋に勝手に飛び込んできたのはお前の方だ」
「人のせいにするな。死んでやるぞ。そうすれば貴様はまたひとりぼっちだ。ハハハ!」
「そうしてお前はまた次のせわしない『死』へと渡り歩くのか」
「…………………………」
「…………………………」
「……まあ、それはいい。どちらに転んでも苦しいのは同じだ。痛いのも同じだ。だったらここで酸に焼かれながら死に切るのを待つのも同じだからな。慌てることはない」
「落ち着いて思考する暇があるから悪くない、と言ったのは貴様だ」
「言ったかもしれんな。なんだ、文句でもあるのか?」
「文句というのは違う。事実の確認だ」
「小賢しい奴だな。貴様が私の部下になりたいと言ったら確実に断るところだ」
「言うわけがなかろう。人間など皆おれの食料にすぎん。いや、食料の餌だ。人間が食べるために育てる豚の餌と同じだな。そんなものに興味はない」
「だったらその豚の餌を食って、豚の餌にすがりついて孤独を癒やそうとしている己を省みろ、究極生命体とやら」
「……………………」
「待て! 消化する気なら止めておいた方が良いぞ。互いの利益にならんからな」
「……………………」
「ムゥ、黙ると何を考えているか分からないじゃないか。とにかくだ。私を消化してしまうのは得策ではないと肝に銘じておけ、カーズとやら」
「……おれに噛みつくのも得策ではないと覚えておけよ、帝王ディアボロ」
「…………承知した」
いがみ合っても何も生まれない。地球から絶望的なほど離れたこの宇宙の中で、心の安らぎはただお互いの中にしか存在しない。奇妙な協定が結ばれ、他に何の生命も存在しない宇宙空間で、二人の会話は始まった。
* * * * * * *
カーズとディアボロはそれから長い間、話し続けた。
ディアボロはカーズからエネルギーを与えられ、溶かされながら再生し続けて、命を長らえる。自然な生命活動ではないせいか、眠ることもなかった。
二人が思考し、対話するためのエネルギーは、唯一ディアボロの血肉からもたらされた。最初は右腕を、次に左腕を、カーズは吸収して取り込み、そしてまたディアボロに一部を還元した。それでも足りずに、今度は右足、そして左足。究極生命体の胃の中でディアボロは少しずつ欠損し、次第に小さくなっていった。
消費されたエネルギーは取り戻すことができない。ディアボロの肉体は二人が会話するために消費され、皮膚が再生することはあっても手足が戻ることはない。
胃の中に浮かぶ崩れかけた肉塊と会話しながら、カーズは満足そうに声を上げた。
「ふう……。貴様はなかなか面白い」
体中の神経を焼かれ続け、痛みに耐えながら、ディアボロも呵々と笑う。
「そうだな。私もこんなに長い間、何かを考えたり、誰かと話したりするのは久し振りだ」
「くだらん人間と対話するのも悪くないものだな」
「くだらんのは貴様も同じだ! 違う! 私はくだらなくなどない!」
「……威勢が良いな、フフ……」
そう言ったカーズの言葉尻が小さくなる。ディアボロは眉根を寄せた。
「おい、どうした?」
「…………なに、大したことはない」
「また腹が減ったのか。案外もたないな。しかし……」
ディアボロは己の体を見た。
両手と両足はすでにない。それどころか、いつの間に食われていたのだろう。腹もすでに形はなく、心臓より下は内臓が千切れて切れ端がゆらゆらと酸の中に揺れている。髪の毛もいつの間にか溶かされ、ひどく短く細ったものが頭皮にまとわりついているばかりだ。もう与えられるものがない。
「おい、カーズ」
「……………………」
「フン、腹が減ると途端にこれだ。おい、返事をしろ」
「………………そろそろ………限界のようだ………」
「おい、どうした。この帝王を食っているのだぞ。感謝しろ。そしてくたばるな」
「お前ごときの質量では……たかが知れている……」
カーズの声は小さくかすれ、ディアボロの脳にもうっすらとしか届かない。
「おい、カーズ! カーズ! クソッ、寝るなカーズ!」
「……冬眠……状態だ…………種子のように…………」
「こら、勝手に寝るんじゃない! 私を一人にするな! 消化されたまま独りぼっちではあんまりだぞ!」
「……ディアボロよ」
電波の悪いラジオのように、カーズの声にノイズが混じり始める。ディアボロの脳に直接語りかけていたカーズの能力が薄れ始めているのだろう。
「ディアボロ、自ら帝王と名乗る者よ。教えてくれ……」
「何だ! 何を知りたいというのだ?」
「究極とは何だ? 生命を極めるとは何だ? ……仲間は要らぬ。快楽も要らぬ。それが究極だ。だが…………それは……今のおれの現状と……何が…………違う……」
最後の最後に、カーズはディアボロに問うた。
頂点を目指し、生命を極めようとしたカーズの、それは長い間の疑問だった。
ディアボロは必死になって叫んだ。
「答えてやるから寝るな! 起きろ! 私の言うことを聞け! 私はその答えを知っている!」
「…………………………」
だが、カーズの反応はもはや薄れ、川に流されていく木の葉のように小さくなっていく。
「おいカーズ! オレを全部食べたら元気になるのか!? 手加減して食っているから腹が減るのだろう? もういいから食え! 全部食え! 許してやる、特別にな!」
朦朧とする意識の中で、カーズにその声が聞こえていたのだろうか。それとも、空腹を覚えた肉体が本能に従って忠実に働いたのだろうか。
カーズの胃袋は貪欲に、『食糧』を全て食らい尽くした。
「………………」
「…………………………」
「……………………………………」
ふと、意識が戻った。
静寂の中にただ一人、カーズの意識が浮かんで漂っている。カーズは声を上げた。
「…………ディアボロ?」
返事はない。
あんなに騒々しかった生物は、どれだけ意識を巡らせても体内のどこにもいない。光もぬくもりもない宇宙空間に、カーズの肉体がひとつ漂っているだけだった。
胃の中はからっぽだった。
そこに何かが入っていた形跡すらない。
肉も骨も毛も爪も内臓も眼球も神経も脳も、やかましく人を罵る小さな舌も、欠片さえ残さずに消化しきっていた。
(………………いつか……)
ディアボロから吸収したエネルギーを使って、脳を働かせ、カーズは思考する。
(いつか、おれの体がどこかの星にたどり着くことがあったら)
(そこでたんまりと食い、エネルギーを手に入れて、地球に戻ることがあったら)
(私はたくさんの人を殺そう。一人ずつ、顔を見ながら殺そう。何百万人という人間を殺そう)
(そうしたら、おれはまたお前を見つけるだろう。たくさん殺したらその中にお前がいるだろう。人の『死』にお前は紛れて生き続けているはずだからな)
(そのとき、おれはお前に尋ねよう。先ほどの答えを。『生命を極めるとはどういうことか?』 お前はそれを知っている、と言った……)
一人であれこれと考え、それからディアボロのことを思い出す。
彼が話したこと、それを聞いて自分が考えたこと、互いに交換した情報の内容をもう一度吟味して、そうしてカーズは思った。
(……楽しかった)
闘いの中に感じる高揚感や、敵を踏みにじり勝利を勝ち取る達成感とはまた違った感情が、カーズの中に生まれていた。
だが、時間の概念さえなくなる無限の宇宙空間では、どんな思考も価値を持たない。意味を持たない。
やがてカーズは考えるのを止めた。
ディアボロ……宇宙を漂う究極生物の餌になって死亡。
【END】
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