ギャングのボスを務めてるんだが、もう私は限界かもしれない

part4







「ううむ……今日は冷えるな」

 ため息を吐くと窓ガラスが白く曇る。窓越しに見上げると、今にも雪が降りそうな空だ。
 ディアボロはカーテンを閉め、少し考えた後、再びカーテンを開けた。

(こうしておかなければ、「あいつ」が来ても気づかないかもしれないからな……)

 そんなことを考えながら、キッチンに向かう。そろそろ昼食の時間だ。クリームソースのパスタでも作ろうかと、鍋を火に掛け、冷蔵庫からミルクを取り出す。
 すると、窓を叩く音が耳に入った。

 ……コツコツ、コツ。

「ぎああ〜〜〜〜〜!」

「来たな」

 やはり、思った通りだ。窓の方に目をやると、さっき開けたカーテンの隙間から白い猫がこちらを覗いているのが見えた。ギアッチョだ。

「入れ」
 窓を開けてやると、待ち構えていたように素早く身をひるがえして中へ入ってくる。すぐさまホットカーペットの上に乗り、またディアボロの顔を見上げてやかましく鳴き立てた。

「ぎあ〜〜〜ん! ぎああ〜〜〜〜〜んっ!」
「分かった分かった。うるさいぞ。お前は寒いのが嫌いだからな」
「ぎあっ!」

 ディアボロはホットカーペットのスイッチを入れた。全館暖房が効いている部屋は十分に暖かいのだが、ギアッチョはそれでも満足しない。店で見つけてつい購入してしまったホットカーペットがギアッチョはいたくお気に入りで、それに味をしめて以来ずっとこの調子だ。

 スイッチを入れてもらったのを見ると、ギアッチョはすぐその場で丸くなって目をつぶった。

「まったく……猫が居眠りで、私が食事を作るというのか。帝王なのに。こんなの絶対おかしいぞ」

 文句を言いながら、ディアボロは再びキッチンへと向かう。そうは言っても、この部屋には他の人間など入れたくもないし、料理人やメイドを雇うつもりもない。猫に食事を作れと言ってもできるわけがない。結局、自分でやるしかないのだ。

 パスタを茹でる。ソースは塩味のついたのと、味付けをしていないのを2種類に分けて作り、それぞれにシャケをほぐして入れた。サーモンのクリームソースパスタはギアッチョの好きな料理だ。そして、猫には人間用のパスタソースでは塩分が多すぎる。

「別に、あいつが今日あたり来そうだから用意していたわけではないぞ。そういうわけでは、決してないぞ。猫の好みなどに合わせてこの私が食事を選ぶわけがないのだからな。帝王だからな。まったく、バカバカしい」

「ぎあ〜?」

「お前の健康を考えているわけでもないぞ。別にお前が塩分過多で死んでも、私には関係のないことだからな。ただ私は、そこらのバカな人間どもとは違って、人間と猫の食べ物は違うということを知っているのだ。知っているからには、実践するのだ。それに猫などが食べるものにわざわざ調味料を入れてやるほどのこともない。お前など、味のないパスタで十分なのだ。分かるか?」

「ぎあぁ」

 ぶつぶつと言い訳がましく言葉を並べたてながら、出来上がったパスタを2皿持ってギアッチョの前に座り込む。

「ほら、できたぞ。寝てばかりいないで食べるときは食べるのだ」
「ぎあ〜〜〜ん」

 いいにおいにつられて顔を上げたギアッチョは、立ち上がって大きく伸びをした。差し出された皿のにおいをかぎ、それが熱くないことを知るとおとなしく食べ始める。

「にゃふにゃふ……はぐっ……ぎあ……」

「猫には出来たての熱々など、贅沢が過ぎるからな。しっかり冷やしてやったぞ。お前には冷や飯で十分だ。やくたいもない猫め」

「ぎああ……はふはふ……がふがふ……」

「私もすっかり慣れたものだな。まあ、帝王たるもの、猫の1匹や2匹飼うことなどたやすいものだ」

 独り言を言いながら、ディアボロも出来たてのパスタを食べる。

「ずいぶん勢いよく食べるのだな、お前は」
「ぎああー……がふがふ……」
「そうだろう。お前はサーモンが入っているとよく食べるからな。私は魚など好きではないのだが、これも食べなれると良いものだ。魚は体にもいいらしいしな」
「ぎあっ」

 ギアッチョはぺろりとクリームパスタを平らげると、満足そうに口の周りを舐め、顔を掃除した。それから体を伸ばし、ディアボロの足の間に入ると、あぐらをかいた中に体を入れて丸くなる。

「こら、私はまだ食事中だ」
「ぎあ〜……ふあぁ〜〜〜〜ん……」
「まったく、礼儀を知らない奴だ。猫だからな」
「ぎあん」

 足に重みを感じながら、ディアボロはゆっくりとパスタを味わう。一人で食べるときは、食べ物をさっさと処理するように胃の中へ投入して終わりなのだが、話し相手がいるとついのんびりになってしまう。
 ようやく自分もパスタを食べ終えて、ディアボロはひざの上で丸くなるギアッチョの額をぐるぐると撫でた。

「お前がいると、食事に時間が掛かって仕方がない」
「ぎあ〜」
「まあ、急ぐことも別段ないのだがな。用事もないし、それにどうせお前がそこで寝ていたら、動くこともできない」
「ぎああ〜ん」

 食事の後、ギアッチョがひざの上に乗ってくるのは想定済みだ。手の届くところへあらかじめ置いておいたお茶を取り、片方の手でギアッチョを撫でながら、ディアボロはゆっくりと食後のひとときを楽しむ。

「今日は寒いな」
「ぎああ」
「お前はどこから来るのだ?」
「ぎあ〜?」
「また来いよ、と言うと、必ずまた来る。何か言うと、返事をする。お前は几帳面な奴だ」
「ふあぁ……ぎぁ…………」

 何を言っても返事は同じだが、聞いていないというわけでもないらしい。適当に、しかしきちんと返事をするギアッチョに向かって、ディアボロは際限なく独り言を漏らす。

「礼儀はないが、律儀ではある。お前はなかなか悪くない。『ネズミ捕り』もできるしな」
「ぎあ〜」
「お前を私の部下にしてやってもいいぞ。まあ、仕事ができるなどとは期待していないが」
「ぎあ?」
「せいぜい、ここへ来ることがお前の任務かな。話し相手にもなる」
「あふ……ふぎぃ……」

 ギアッチョは眠そうに大あくびをした。頭をなでながら、ディアボロは静かにつぶやく。

「ギアッチョ。お前はここへ来るだけで、『任務完了』だな」










 そのときだった。








 急に、ギアッチョが大きく叫んだ。




「ぎあーーーーーーーーーっ!!!!!」







「なっ!!!!????」










 驚く暇もない。

 次の瞬間、ディアボロはひざの上に大きな重さを感じた。たかが数キロの猫が、一瞬にして何十キロという岩のように大きく重くなる。


「なんだ!?」

「ぎあああああ!」


 視界がふさがれ、何かが目の前に立ちはだかる。










 目を見開いたディアボロの前に、一人の青年が姿を現わしていた。


「な、な、な……?」

「んぁ? ……なんだァ?」

 くりくりに巻いた髪の毛。
 長袖を肘まで捲り上げた活発そうな服装。
 若者らしく個性を主張した、フレームの太い眼鏡。

 若い青年が、ディアボロの膝の上に乗っていた。

「何だ! 何者だ貴様は!」
「あぁ? アンタ誰だ?」
「質問に質問で返すんじゃない! 私が聞いているのだ! 貴様は、誰だ!?」

 だが、青年はきょろきょろとあたりを見回すだけでディアボロの質問には答えない。

「あー、もしかして白猫に餌、やってくれてたのかァ?」
「あれはッ! 私の猫だ! 私が飼っているのだ!」

「そうか。なるほどな。アンタ、あの白猫に「ギアッチョ、また来いよ」って言ったか?」
「そんなことを私が言うはずが……」

 そう反論しかけたディアボロは、ふと口をつぐんだ。

 たった今、自分で「ギアッチョは私の猫だ」と言った。ギアッチョは自分の飼い猫だ。だから否定する必要はない。この無礼きわまる青年に堂々と主張してやればいいのだ。

「そうだ、ギアッチョは私の猫だからな。「また来い」と言って何が悪い」

 胸を張ってそう言ってやったが、青年は恐れ入る様子も反省したそぶりもなく、「あーあー」と勝手にうなずいている。

「あー、だからだ。名前を呼ばれて新しい『命令』がかかっちまったから、元に戻れなくなってたんだなァ。リゾット心配してっかなァ〜」
「リゾット……?」
「ああ、リゾットって食い物じゃねえぜ。オレのチームのリーダー」

 青年はそう言ってぽりぽりと頭を掻いた。

(リゾット? リーダー? どこかで聞いたことがあるような……)

 頭をひねって、ディアボロは記憶をたどる。
 そうだ、部下の『暗殺チーム』のリーダーの名前が、リゾットだ。

(ということは、こいつ、暗殺チームのメンバーか?)

「お前は……ギアッチョ、というのか?」
「ああ、そうだぜ。なんだよ、知らなかったのに名前呼んでたのかぁ?」
「本当の名前など知らん。私が名付けたのだ。猫に。ギアッチョと」

 組織の末端の構成員の名前まで覚えてはいないが、もしかしたらその名前を以前どこかで聞いたことがあるのかもしれない。

 だから、「ぎあ〜」と鳴く猫に思わず、「ギアッチョ」という名前を付けた。それは記憶の片隅に残っていた構成員の名前だったらしい。

 きょとんとしている「ギアッチョ」を見ながら、ディアボロは考えた。

(そういえば、そんなスタンド能力を聞いたことがあるな。誰ということまでは知らなかったが、『獣の姿に変身して、命令を遂行する』能力……。それが、これか)

 任務を与えられている間は、猫に変身する。
 その任務を『完了』と認められると、変身が解ける。

 どうやらギアッチョのスタンド能力はそういう仕組みになっているらしい。


(猫は私のことを好いて通っていたわけじゃなかった。ただ偶然、名前が同じで、「また来い」と『命令』されたからにすぎないのか……)

 ディアボロは肩を落とした。

(別に、がっかりすることなどないのだ。猫が人間を好きだの嫌いだのと判断したところで私の価値に影響はしない。第一、猫などに好かれたところで何の得もしないからな)

「お前は何なんだ。まずはさっさとそこから降りろ」
「あ、悪ィ」
 不機嫌な顔で指示すると、ギアッチョは素直に膝の上から下りた。猫のギアッチョより扱いやすいくらいだ。
 だが、人間は信用できない。ディアボロは慎重に言葉を選んで質問した。

「お前は、猫になるのか」
「あー……バレちまったらごまかせねーなぁ。オレは猫に変身することができるんだ。猫の間の記憶はねーんだけどな」

「そうか」
 ならばまずは安心だ。今まで不用心にこぼし続けた独り言を全部この青年ギアッチョに聞かれていたら、大変なことになる。

(だが、完全とはいえない。私の正体に気づいていないとはいえ、素顔を見られたのだからな。それにコイツが嘘をついていないとは限らない……)

 ディアボロの目が、悪魔の色を帯びる。
 かわいそうだが、ここで死んでもらうしかないだろう。

(猫は七代祟ると言うが、猫のスタンドはどうなのだろう? まあ、祟りなど信じる私ではないが、な)

 きょろきょろと興味深げに部屋を見回しているギアッチョにそっと忍び寄り、首を掻っ切ろうとする。
 その瞬間だった。

「なあオッサン」

 ギアッチョが不意に振り返ったので、ディアボロは心臓が口から飛び出すほど驚いた。そしてとっさに反論が口をついて出る。

「オッサンではない!」

「オッサン、猫好きなのかぁ?」
「猫など好きではない! 猫に好かれたこともないしな」

 そのことはついさっき、証明されたばかりのはずだ。
 だがギアッチョは首をかしげる。

「そんなことねーだろ。オレは猫になってる間、そんじょそこらの人間には近づいたり、ましてやなついたりしねえはずなんだ。けど、どうしてもハラが減って動けなくなったとか、身に危険が迫った時とかは、絶対に安全な場所を自分で選んでそこに身を隠す。そういう『能力』があるんだ」

(まあ、ここならば安全だろうな、絶対に)
 なにしろ史上最強のスタンド『キング・クリムゾン』の使い手であり、街を仕切るギャング組織のボスの隠れ家だ。ここ以上に安全な場所など、イタリア中を探してもないに違いない。

「それに、猫のオレに何か『命令』したりできるのも、オレがボスと認めた相手だけだ」

(まあ、そうだろうな。私はお前のボスなのだから……お前は知らないだろうが)
 たとえそうと知らなくても、ギアッチョはディアボロに『ボス』の資質を認めたのだろうか。まあ当然のことだな、とディアボロは納得する。

「なあアンタ、一体何者なんだ?」
 ギアッチョは不思議そうにディアボロの顔を覗き込む。その瞳は好奇心に満ちて輝き、猫の「ギアッチョ」と重なって見える。

 ディアボロは視線をそらし、険しい表情で答えた。

「……知らないほうがお前のためだ」
「そうかよ。オレは正体を明かしたのに、ずるいぜー」
「ずるくはない。お前が勝手に正体をバラしただけだ」
「まーなぁ。そりゃそうか。しょーがねーなぁ……ってこれじゃホルマジオだぜ」
 ギアッチョはディアボロが知らない誰かの名前を口にして一人で笑った。

「……まあ、猫が隠れ家にするにはここは一番安全な場所だ。それだけは言える」
「そうかよ。じゃあきっとまたここに来るぜ。猫のオレが気に入った人間なんて、リゾットの他には今まで一人だっていなかったんだからなァ」
「……そうか」
 そう言われて悪い気はしない。ディアボロは感情を悟られないように無表情でうなずいた。

「それにアンタ、寂しそうだしなー」
「さっ、寂しくなどないッ! 私をバカにするな!」

「じゃ、オレは帰るぜ。邪魔したなオッサン」
「はあ!!???」

 来た時と同じように、何の前触れもなく急に帰ろうとするギアッチョに、ディアボロは驚いて手を差し伸べた。

「オッサンではない! こら! 待て! 待たんか! 話は終わってないぞ!」
「オレもヒマじゃねーんだよ。とりあえずリゾットに報告しねーといけねーし。オッサン、多分また来るからよろしくな。猫のほうでな〜」

 背を向けてひらひらと手を振るその無防備な後ろ姿は、とてもギャングの暗殺者とは思えない。
 殺そうと思えば、今すぐにでもできる。
 だが、ディアボロは狼狽した。ついさっきまでは殺すつもりでいたはずなのに、なぜか手が止まる。

(殺すか……ギアッチョを?)

 立ち去ろうとするギアッチョを、この場で始末すべきかどうか。

 姿を見られたのだから、たとえこちらの正体に気づいていなくても、今すぐ抹殺するべきだ。いつボスの正体に気づくかもわからない。

 けれども、ペットの白猫によく似た巻き毛、生意気な口調、しなやかな足取り。

 その姿を見ていると殺すことができない。


「じゃーなー」


 黙って見守っているうちに、ギアッチョは軽やかなステップで入り口のドアをくぐると、姿を消してしまった。



「……フン、あんな猫だか人だか分からないようないい加減なスタンド使いに、私の秘密がバレるわけがない。心配するほどのこともない」

 ディアボロは苦い表情で、それだけをつぶやくのがやっとだった。







********************







 後日。


「ぎああーん」

「また来たのか」
「ぎぁん」
「お前に『命令』などしていないぞ。それでも来るのか」
「ぎああ」

 額に渦巻きのような模様のある白猫は、当然のような顔をして窓から入ってきた。それを部屋の中へ招き入れながら、ディアボロは文句を言う。

「何をしに来たのだ」
「ぎあああ〜〜〜〜〜んっ!」
「ホットカーペットか?」
「ぎあっ! ぎあっ!」
「ん、違うのか?」

 てっきり暖かい場所で眠るのだと思ったのだが、ギアッチョはまっすぐキッチンに向かうとテーブルの上へひょいと上った。

「ぎあ〜〜〜ん! ぎああ〜〜〜〜〜んっ!」

「分かった分かった。餌がほしいんだな。だがテーブルに土足で乗るのは許さん。テーブルの上は人間の領地なのだぞ。依然変わりなくだ」
「ぎあ〜〜〜ん! ぎああ〜〜〜〜〜んっ!」

 やかましく鳴きたてるギアッチョをテーブルから下ろし、食料棚を漁る。

「イワシの水煮の缶詰があるぞ。これでパスタか? それともピッツァを焼くか?」
「ぎああっ! ぎあぎあっ!」
「お前は何でもいいのだろう。聞いた私が愚かだった。よし、アンチョビのピッツァにする。異論は認めん」
「ぎああん。ぎあん」
「半分は塩漬けのアンチョビを乗せて、半分はこの味もそっけもない水煮を乗せる。もちろん私とお前では食材のレベルが段違いなのだ。当然だ。偉大なる帝王とやくたいもない猫が同じものを食べられるわけがないのだぞ」

 独り言をいいながら、ピッツァを作り始める。足元ではギアッチョがうろうろと歩き回り、ご飯が出来るのを待ちきれない様子だ。

「ぎあっぎあっ」
「まったく、リゾットはお前にきちんと餌もやらんのか。きちんと食事をしていないのか? ……暗殺チームの報酬をもう少し上げてやった方がいいかもしれんな」

 ぶつぶつ言いながら料理をして、独り言を漏らしながら食事をする。その合間には猫の鳴き声が合いの手のように挟まる。

「何をしに来るのだ、お前は」
「ぎああ」
「まさか私の秘密を調べているわけではあるまいな?」
「ぎあ〜ん」
「ぎあー、じゃ分からん。ちゃんと答えろ」
「ぎああん」
「こら、まだだ。ピッツァが冷めるまで待て。愚かで判断力のないケモノめ」
「ぎああああー!」
「まだだと言っているだろうが! ええい、『キング・クリムゾン』ッッ!」

 「待つ」という仮定をすっとばして、「冷えたピッツァ」という結果だけが残る。ギアッチョは何が起こったのかも分からず、ただひたすら空腹に任せて目の前の塩抜きピッツァにかじりついた。

「がふがふ……ぎあっ……」
「まったく、理性もへったくれもないな。お前などのような下っ端の、チンピラ以下のケモノに、私の秘密など暴けるわけがないな」

 ディアボロはそう言いながら、ギアッチョの頭をそっと撫でた。








********************






 通帳を見ながら、リゾットが首をひねっている。

「なんだか最近、報酬が多い気がするな……」

 仕事の量はそれほど変わっていないのに、振り込まれる金額が少しずつ上がっている。連絡係のドッピオは特に何も言ってこないが、どういうことなのだろうか。

「ボスがオレたちの仕事を高く評価してくれてんじゃねーのかぁ?」
 ギアッチョがのんきに言う。
 リゾットはしばらく考えた後、ゆっくり口を開いた。

「まあ、……そう考えられるだろうな」
「オレらがちゃんと働いてるから、ボスも考え直したんだろ。いいことだぜ」
「そうだな」

 組織のボスはとても用心で疑り深いと聞いているが、組織に忠誠を誓う者にはきちんとした評価を下すのかもしれない。
 もっとも、そうでなければこんな仕事でモチベーションが保てるはずもない。

「きっとボスがオレたちを信頼してくれているのだろう。近頃は妙に待遇も良いし。お前も頑張ってくれているしな」
「オレはわかんねーけどなァ。なにしろ、猫になってたら何も分かんねーし。……けどよぉ〜〜〜」

 ギアッチョはソファにふんぞり返って座り、大きく伸びをしながら言う。

「オレ、多分、猫になってる間にまたあのオッサンのとこ行ってるんだぜ。最近ちっとも腹が減らねーんだよ」
「……そいつは大丈夫なのか?」
「あー。変なオッサンだけど、猫好きみてーだし、悪い奴じゃあねーと思うぜ」
「そうか。ならいい」

 リゾットは静かに微笑んだ。




 こうして、ボスは部下に裏切られることもなく、部下はボスの采配に不満を覚えることもなく、『パッショーネ』は末永く栄えたということです。




【完】








前回から半年以上も経ってしまいました。ああんっすみません。お待たせしました!?(誰も待ってねーよ)(そういう自虐は待ってた人に失礼だろう!謝れ!)(ごめんなさい)
オフラインが落ち着いたら続き〜なんて思ってたら、去年はジョジョオンリー続きでオラオラで大変でしたね。でも2・22でねこの日だからこれをアップせねばなるまい! ねこギア!
と意気込んでいたのですが、まんまと2/22を逃し、「でもにゃんにゃんみーで2/23とか、にゃんにゃんなーおで2/27とかあるからいいし!」と油断していたらこれも逃す。「だったらみゃーおにゃーおで3/2はどうだ!?」と思っていたら、今日書き終わってしまったので中途半端に3/1に更新する。あーあ。

ともあれ無事完結することができて、ほっとしました。ハッピーエンドマニアなので、白猫に癒やされたボスには幸せになって欲しいのです。最後までお付き合いありがとうございました!
 By明日狩り  2012/03/01