ディア☆サンタクロース















 今年も、クリスマスの季節がやってきた。

「……ついに来たか」
 カレンダーを見ながら、リゾットが真剣な表情でつぶやく。その後ろ姿を見ながら、暗殺チームのメンバーも黙ったままそれぞれが物思いに耽っている。
「今年も、来るんだよなァ…………サンタは?」
 意味もなく挑戦的なプロシュートの言い方に、リゾットは無言でうなずいた。
「無論、今年も来るだろう」
「そうかい。そりゃあ楽しみだな」

 なぜかニヤニヤと笑っているプロシュートを睨みつけて、リゾットは眉間にしわを寄せた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 



 暗殺チームのクリスマスには、サンタがやってくる。
 それは去年、アジトでのクリスマスパーティの最中にえらく酔っぱらったリゾットが言い出したことだった。

 そもそもの発端は、イルーゾォが「オレのとこにはサンタなんて来たことがない」という話をしたことで、あまり恵まれた子供時代を過ごしたことのない暗殺チームの多くがこれに賛同した。

「オレも親いなかったからよォー。クリスマスにプレゼントがもらえるとか、アコガレだったなぁ」
 ホルマジオが良い心地に酔っぱらって、機嫌良く言った。イルーゾォは激しくうなずいて、酒で真っ赤になった顔をさらに赤くする。
「だよね! だよね! あんなもん、恵まれない子供にはもはや苦痛でしかない幻想だよねええ!?」
「まーなぁ。うらやましかったもんなぁ」
「ほんとだよ! サンタなんかこの世にいなきゃいいのにさあぁ!」
「いねーけどな」
「けど、いるってことになってんじゃん! ソイツはさ、恵まれた子供の家には来るっていうじゃん! んで本当に来るじゃん! 親だけどさあ!」
「まーなぁ」
「なのにオレには一回も来てくれたことないんだよ!?」
 テーブルを激しく叩いて、イルーゾォのあふれだす怨嗟は止まらない。

「オレもそーゆーの記憶にねーなー。物ごころついた頃にはもう、戦争してたからなァ」と、プロシュート。
「兄貴の子供時代は大変だったんスね。オレんちも母子家庭だったからそういうの余裕なかったみてーで」と、ペッシ。
「オレも親に嫌われてたからよォー、そういうのもらったことねーぜ」と、ギアッチョ。
「オレんちはお金持ちだったからもらったよ。オレが欲しくないような、健全で小ぎれいで心底くだらないガラクタばかりをね」と、メローネ。
「お兄ちゃんがお菓子とかくれたけど、さすがにサンタは来なかったなぁ」と、ジェラート。
「……………………………」と、ソルベ。

 この会話を聞いていたリゾットが、顔色一つ変えずにいきなり立ち上がった。
「サンタはいいものだぞ」
 いつもと変わらない真面目な顔だが、明らかに酔っている。イルーゾォが顔をしかめた。
「ハァ? いいものなワケねーじゃん。だってオレんとこ来なかったし」
「しかし今夜は来るかもしれないな」
「こねーよ。てか何? リーダーがプレゼントとか用意してるってこと?」
「いや…………それは、していない」
「じゃあ無理じゃん」
「だがサンタは来るかも知れない」
 リゾットの主張は支離滅裂だったが、やけに迫力があった。

「オレは……この稼業に手を染めるまでは、貧しいが暖かい家庭に育った。クリスマスの朝には、母親がこっそり焼いておいた大きなクッキーが枕元に置いてあってな。それは嬉しかったものだ。サンタはいいぞ」
「へー。いいね。よかったね。オレはなーんにももらったことがねーよ!」
「だから、今夜は来るかもしれないと言っているだろう?」
「だから、リーダーがプレゼント用意してるのかって聞いてるんだよ!」
「オレは何も用意していないと言っている」
「だったらこねーじゃん! サンタ!」
「来るかもしれないと言っているだろう。よしわかった、やってみよう」

 すっかり酔っているらしいリゾットは、全員に命令を下した。
「今夜は、各自が欲しいと思うものを紙に書いて、枕元に吊るした靴下に入れておけ。もしかしたらサンタがそれをくれるかもしれない」
「本気かよ、リゾット?」
 プロシュートが愉快そうに笑った。
「う……うまくいけば、だが」
「マジかぁ? 今からじゃどこの店も開いてねーぞ?」
「だ、だから、オレが用意するわけじゃあないしな。サンタが持ってくるんだしな」
「アンタ何考えてんだよ。引っ込みつかねーんだろ。意地張んなって」
 ニヤニヤ笑って肩を抱いてくるプロシュートをはねのけて、リゾットは大々的に宣言した。

「とにかくだ! 各自、欲しいものを書いておけ!」
「ばっかじゃないの。意地んなってさぁ」
 イルーゾォは吐き捨てるようにそう言ったが、「サンタが来る」と誰かに言ってもらえたことは生まれて初めてで、それだけは少し嬉しい気がした。

 メンバーはそれぞれ、リゾットの命令通りに欲しいものを書いて床に就いた。
 そして翌朝。

「……なんだこれ」
 イルーゾォが目を覚ますと、枕元にはビデオデッキがどんと置かれていた。それはアジトのリビングに設置してあったはずのもので、なぜか「HDD」と書かれた紙が貼ってある。
「これでHDDレコーダーのつもりかよ……。リーダー、アホすぎる」
 昨夜イルーゾォが紙に書いたものは、「HDDレコーダー」だった。当然、一夜でそんなものを用意できるわけがない。どうするのかと思っていたが、リゾットなりに頭をひねったようだ。
「これじゃ、ぜんっぜんプレゼントじゃあねーじゃん……アホなリーダー」
 けれど、クリスマスの朝に目が覚めて、枕元に誰かの「思いやり」がそっと置かれているのは悪い気がしない。昨日は酔っていたし、暴言を吐いたイルーゾォにリーダーがこんなに気を使ってくれたというのが嬉しくも申し訳なかった。

「おはよー。オレんとこ、サンタ来たよー」
 ビデオデッキをかかえてイルーゾォがリビングに行くと、すでにクリスマスパーティの二次会が始まっていた。
「よォ、イルーゾォ。オレんとこにもサンタ来たぜー。願いどおりに「うまいもん」くれた。……ま、冷蔵庫に入ってたソーセージとマスタードだけどよォ」
 ホルマジオが茹でたソーセージを食べながら笑っている。
「オレももらったぜー。「酒」。……ま、リビングの棚に入れてあった呑みかけのウイスキーだけどよォー」
 ギアッチョがグラスを回しながらクックッと肩を震わせる。

「へー。けっこうやるね。「サンタ」もさ」
「お、オメーもなんかもらったんだ。なんだそれ?」
「HDDレコーダーだよ」
「いいもんもらったじゃねーか」
 ギアッチョとホルマジオが顔を見合わせて笑う。

「…………お、おは………」
 そこへプロシュートが入ってきた。青い顔をして、ドアを開けるなり床に倒れ込む。
「……てつ………鉄分をくれぇ……」
「おはよー、プロシュート。何もらったの?」
「て……鉄分を………ぐはぁ……」
 その言葉を残して、プロシュートはぐったりと床に息絶えた。その手に何かを握っている。

「あ、死んだ。……このせいか」
 イルーゾォが拾い上げたものは、鉄でできた血まみれの靴だった。「フェラガモ」と銘が入っている。間違いなく、プロシュートと血液型が一致するであろう。
「ばーか。いい年してリーダー困らせてんじゃねーよ。レね」
 自分のことは棚に上げて、イルーゾォは死にかけているプロシュートを指でつっついた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 



 そんなことが去年あったので、今年も「サンタのサプライズプレゼントがもらえる」という噂がひそひそと囁かれていた。というか、リゾットの困る顔を見たいプロシュートが触れまわっているだけなのだが。

「去年は「ふぇらがも」の靴、片っぽしかもらえなかったからなァー。今年はもっといいもんがほしいぜ。なァ、リゾット?」
 たっぷりと含みのあるプロシュートの言い草に、リゾットはすました顔で答える。
「そうか。片方では足りなかったな。両方揃いで欲しかったか?」
「いやいやいや。それされたら本気でレんでたし……」
「今年も欲しいものを頼むといいぞ。……材料が足りればいいがな」
「いやいやいや、鉄製のはもうカンベンだし」

 そんなやり取りを聞きながら、他のメンバーも今夜「サンタ」に何を頼むか、話し合っていた。
「あんまり困らせるよーなことはしたくねーしよォ〜」
 リゾットに気を使って、ギアッチョが困った顔でふんぞり返る。ホルマジオも苦笑してうなずいた。
「まーなぁ。「サンタ」だってそれなりに、頑張るつもりでいるんだろうしなぁ。しょーがねーなぁ」
「プロシュートのバカみてーに全力で困らす気はねーけどよォー。当たり障りなさすぎるっつーのも、芸がねーっつーか、「サンタ」をバカにしてるっつーか……」

「いいじゃん。欲しいもの書けば。オレはもう決めてるし」
 メローネはご機嫌で体をゆらゆら揺らしている。
「そうはいくかよ」
「ええー、だって本当に欲しいものって、お金じゃ買えないよ。プライスレスなものを頼むのがイイ。あと、すぐ手に入るところにあるのに、手に入ってないものとかね」
「……………………」
「もう手に入っているけど、改めて「あなたのものです」って言ってほしいものとかね」
「……………………」
 珍しく、メローネがいいことを言う。

「そうすっかァー」
「そりゃ、わるくねーアイディアだな」
「オレもそうしよっと」
「あの、オレもそのアイディアもらっていいかい?」
「イイヨー。みんなでハッピーになれるとイイネ」
 正しいとは言い難いが、間違ったことは決して言わないメローネだ。とにもかくにもそのアイディアは使えそうで、メンバーはようやく落ち着いた顔になった。

 そしてアジトでのささやかながら騒がしいホームパーティが終わり、それぞれ自分の部屋へと戻っていく。

「…………ふぅ」
 夜中に起き出して、リゾットは小さく溜息を吐いた。
(どうしてこんなことになってしまったのか……)
 とはいえ、なぜかみんなこの「サンタからのプレゼント」を妙に楽しみにしているらしいことは、今日のパーティの最中にもひしひしと感じた。どうせ去年と同じようにごまかすことしかできないのだが、それでも一応、何かしら行動は起こさないといけない。……リーダーとして。

(リーダーってのはこんなことまでしなきゃならないものか? ……まあ、かまわないが)
 暗殺チームのみんなが喜ぶことなら、苦労はいとわない。リゾットは寒い夜のアジトを、足音を忍ばせて歩き出した。

「まずはここらいくか」
 とりあえずリゾットの部屋から一番遠い、ホルマジオの部屋まで行ってみる。ホルマジオなら無理難題も言わないでくれるだろうという安心もある。
 音もなくドアを開けて中に入ると、酔ったホルマジオが幸せそうな顔で寝こけていた。もちろん、枕元には靴下がぶら下げてある。

「なになに……………うっ」
 中に入っている紙を開いて見て、リゾットは小さくうめいた。

『信頼できる仲間がいりゃあオレは満足だぜ〜……と言いてぇとこだが、それじゃあ芸がねーよなぁ。というわけでひとつ、「かわいい巨乳っ娘」をください。よろしくな、サンタさんよ』

「ホルマジオ……お前だけは信じていたのに……」
 リゾットの恨みがましい視線を受けても、ホルマジオは目を覚ます気配もない。幸せな巨乳の夢でも見ているのだろうか。ニヤニヤ笑って枕にしがみついている。
「……うーん……しょーがねー…なあぁ……んー……」
「……とりあえず、次に行こう」

 考えていても仕方ないので、隣の部屋に入る。こちらはメローネの部屋だ。訳の分からない怪しげな物が所狭しと置いてあり、妙なオリエンタルな匂いが部屋に立ちこめている。
 枕元に吊るしてあるのは、少し形がおかしいが、靴下のつもりだろうか? 東洋の「足袋」とかなんとかいう履物だったと思う。その中に入っている紙には、去年と同じように、デカデカとただ一言が主張されていた。

『ギアッチョ』

「……だろうな。まあ検討してみよう」
 去年はギアッチョのシャツ(洗濯済み)を枕元に置いておいたのだが、メローネがなかなか返却してくれなかったために、ギアッチョにたいそう恨まれて困った。今年はどうごまかそうか……。

 その隣はイルーゾォの部屋だ。本やDVD、それに人形(フィギュアというらしい)が山ほどあってかなり狭苦しいが、一応きれいに整頓はされているので、不快な感じはしない。
 イルーゾォもまた、けっこうな難題を押し付けてきそうでリゾットは身構えた。だが、願い事の紙を開いたリゾットは、口元にうっすらと笑みを浮かべる。

『ビンに入った小さいホルマジオが欲しい。小さくなくてもいいからホルマジオが欲しい。でもサンタさんにもらわなくても、自分でホルマジオに頼むし! てゆーかサンタなんていねーよっ! リゾットお疲れ』

「……素直じゃないな、イルーゾォは」
 口は悪いが、性根は優しい子なのだ。
「しかしホルマジオを勝手にプレゼントするわけにはいかないしな。本人の承諾も得なければならないが……サンタとしては今夜中にどうにかしたいしな……」
 やるとなったら最後まで責任を持って遂行するのが、暗殺チームのリゾットのポリシーだ。とりあえずこの願い事も保留して、今度は向かい側の部屋に行く。ここはギアッチョの部屋だ。

「……んー」
 ベッドでギアッチョが身じろぎをする。だが、一度寝たらなかなか起きないギアッチョのことは知っているので、リゾットは慌てることなくそっと枕元に忍び寄った。
 さっきまでごちゃごちゃとした部屋を回ってきたので、ほとんど荷物のないギアッチョの部屋は寒々しいような気がした。衣類と少しの雑誌が置いてある程度で、私物らしい私物はあまりない。
 吊るした靴下の中に入っていた紙には、こんな願い事が書いてあった。

『一人で寝るのは寒いから、ぬくぬく寝たいぜ。リゾットと一緒にぬくぬくがいいぜ。リゾットが欲しいぜ。メローネはイラネ』

「ぬくぬく、か。悪くはないが……」
 以前、ギアッチョが酔って部屋を間違え、リゾットのベッドに潜り込んできたことがあった。一緒に寝るのは暖かで気持ちが良かったが、どうやらそのときに味をしめたらしい。
 だが、一人だけを贔屓していると言われるのは少し困るかもしれない。とりあえずこの問題も保留して、リゾットは部屋を移動することにした。

 下の階に降りて、一番手前の部屋から行くことにする。中の様子に耳を澄ませ、物音が聞こえないことを確かめてから、リゾットはドアを開けた。
 ここはソルベとジェラートが共同でひとつの部屋を使っている。二人がデキているかどうかはリゾットの知るところではないが、万が一「お楽しみ」の最中であったりしたら目も当てられない。一応、声がしないことを確かめてからでないと……恐い。

 ベッドでは、ジェラートがソルベにしがみついて仲良く寝ていた。この二人はさすがに願い事などないんじゃないかと思ったが、枕元を見るとしっかり靴下がふたつぶら下がっている。両方から願い事の紙を取り出して、リゾットは開いて見た。

『ソルベがほしい』(ジェラートの筆跡で)
『ジェラートがほしい』(ジェラートの筆跡で)

「……意味ないだろう」
 ジェラートが何をしたいのかはさっぱり分からないが、まぁ「なんにもいらないよ」という意思表示だと受け取っておく。

 その隣はペッシの部屋だ。ここはそれなりに青年らしい部屋のレイアウトになっているが、ときどきあからさまにコンセプトのおかしいものやら服やらが落ちており、おそらくプロシュートが勝手に放りこんでいくのだろうということが窺える。
 ペッシの紙にはこう書いてあった。

『兄貴が優しくなりますように』

「……サンタはプレゼントはくれるが、願い事は叶えられないんだ。すまない、ペッシ。オレにはどうすることもできない」
 己の無力さを嘆きながら、リゾットは廊下へ戻った。

 最後は、プロシュートの部屋だ。もう面倒くさいのでここは見ないでスルーしてやろうかと思ったが、一応「サンタ」としてはそういうわけにもいかないだろうと思い直す。
 プロシュートの部屋は相変わらず物が多くて、整理されていない。とにかく服が多い。体はひとつしかないくせに……とリゾットは、そこらに散らかされている服や靴や装飾品の類を一瞥して眉根を寄せた。
 枕元にはちゃんと靴下が吊るされている。その中身をチェックして、リゾットはため息を吐いた。

『エロいリゾットが欲しい! なんかスゲー、エロいのがいい。「プロシュート、もう、我慢ができないんだ……頼む、挿入れてくれ」とか言っちゃうリゾット。そんでオレがエロい言葉を言わせたら、恥ずかしがりながらもちゃんと言ってくれるの。うお、燃える。羞恥プレイとかさせてくれ。卑語連発ですごいことしようぜ』

「お前はサンタを……というかオレを何だと思ってるんだ……」
 すかさずメタリカしてやろうかと思ったが、プレゼントの内容とは関係がないのでやめておく。何か他の方法で懲らしめてやることにして、とりあえず今はいったん退却する。

 全員分の「欲しいもの」を確認して、リゾットはどうするべきか頭をひねった。
(今回は全員、物ではなく人を希望している。しかも微妙に被っている奴もいるし……それに誰かを誰かに勝手に贈るわけにもいかないし……ううむ、どうしたものか)

 リゾットはしばらく考えていたが、おもむろに立ち上がると、リビングに置いてあるソファやテーブルを片づけ始めた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 



 そして翌朝。

「……あ、もう朝か。ふわあぁ……サンタさん来たかな………あ、あぁ?」
 イルーゾォが目を覚まし、様子が違うことに気がついて飛び起きた。
「ふわああぁ? 何だこれ!?」
 昨日は確かに自分の部屋で寝たはずだ。それなのにいつの間にか様子が変わっている。

 なぜか、イルーゾォはリビングの床で寝ていた。

 しかも周りを見渡せば、チームのメンバーが全員集合して、床で寝ている。
 みんな同じように部屋の中心に頭を向け、ぐるりと輪を描いて並べられていた。
 床には毛足の長いふかふかの絨毯が敷かれ、その上にごろごろと寝転がって、ご丁寧に一人ずつ毛布が掛けられている。

「な、な、な、なんじゃこりゃああ!」
「お、イルーゾォ。おはよ……って何だオメー、そのカッコ」
 騒ぎを聞いて起き上がったホルマジオが、イルーゾォを指さして笑った。
「はわあああぁ!?」
 指摘されるまで気づかなかったが、イルーゾォの胸のところがふっくらと大きく膨らんでいる。
「ナニコレ! 中! 中に何か入ってるうぅ!?」
 イルーゾォの服の中に入っているのは、ぬるめのお湯を入れた水風船だ。

「お、もしかしてオレが頼んだ奴だな、それ」
「はわわああぁぁ?」
「オレよォー、「かわいい巨乳っ娘」頼んだんだよなぁ。確かにかわいいしよー、偽物だけど巨乳だしよォー、これオレのだろマジで」
 そう言いながら、ホルマジオはイルーゾォの胸に顔をうずめた。
「うは。柔らけぇ〜。たまんね〜」
「ちょ……な……待っ……バッ……きょっ……」
「あったけーなぁおい。やっぱサンタに頼んでよかったぜ〜」
 両手で偽乳をわしづかみにしてもみもみしながら、ホルマジオは嬉しそうにため息を漏らした。

「な、ちょ、きょ、許可しないいいぃぃ!」
「いーじゃねーか。オレんだしよォ〜。うはーすげー幸せだぜこれ〜」
「きょかしないいいいっ!」
「いーじゃんよー。オメーは何頼んだんだ?」
「お、オレは……」
(ホルマジオ頼んだ、なんて言えないし!)
 目の前に本人がいるのに、そんなこと言えるわけがない。口ごもっていると、ホルマジオはますます本格的に顔をうずめてきて、そのうち床に押し倒された。
「はうっ」
「やべー超きもちいー」
「うぅ……恥ずかしいよおぉ……」
 珍しく強引なホルマジオに体を求められて(?)、イルーゾォは嬉し恥ずかし、真っ赤になってホルマジオの背中に両手を回した。

 その傍らでは、ジェラートが嬉しそうにソルベにしがみついたまま、まだ寝ている。
「うにゅう、ソルベぇ」
「………………………」
 ここは放っておいてもいつもこの状態なので、今日に限ったことではない。

 さらに向こう側では。

「やったあああああ!! ギアッチョもらったああああああ!」
「うるぜえええええ! オメーにやった覚えはねええええ!!!」
「だってサンタさんがくれたんだもん! 君はオレのものだ!!! ディ・モールト・メリー!!!!」
「いみわかんねええええ! ンなわけねーだろうがよおおおぉぉー!」
 メローネとギアッチョもこれまた相変わらず、いつものように追いかけっこをしている。ギアッチョはリビングを逃げ回り、まだ床に転がって寝ているリゾットの懐へ飛び込んだ。

「助けてくれ! リゾットおおおぉ!」
「ん……」
「オレはメローネなんかいらないぜ! リゾットがいいんだぜ! ぬくぬくするんだぜ!」
「ああ、そうだな。ぬくぬくはいいな……おいでギアッチョ」
「ぜ!」
 昨夜は「サンタのプレゼント」に頭を悩ませていて、リゾットは少々寝不足だ。寝ぼけながらギアッチョを抱きよせ、そのままうとうとと眠りに落ちる。

「リゾットずるーい! ソレはオレのギアッチョだよー!」
「メローネうるさいぜ。オレはリゾットもらったんだぜ。ぬくぬくするんだぜ」
 リゾットの腕の中で小さく丸まって、ギアッチョはもぞもぞとメローネに背を向けた。

「おおっとォー、ソイツは見過ごせねーなぁ?」
「な!?」
 不意にプロシュートがギアッチョをつかんで引きずり上げた。

「オレもサンタに、リゾット頼んだんだよなァ〜」
「オメーは悪い子だから、サンタなんか来ねーよバーカ!」
「うるせーな。お子様は黙ってろっての。オレはサンタにエロいリゾット頼んだんだよ! それが手に入ったんだからオメーは邪魔すんじゃねーよ」
「ますます許せねー! エロいリゾットなんかいないぜ!」
「いるモン。エロリゾはいるモン。なー、リゾットぉ?」

 そう言いながらプロシュートは、まだ寝ているリゾットの耳に息を吹きかけた。
「ひあっ!?」
「ほーら、感じやすくてエロくてイイ声出すエロリゾだぜ?」
「ふざけんなエロシュート! リゾットは渡さねーぜ! オメーにだけは絶対に渡さないんだぜ!」
「お、やるかガキッチョ?」

 にらみ合うギアッチョとプロシュートは、一触即発、今にも殴り合いになりそうな険悪な空気をまき散らしている。その間に割って入った勇者がいた。

「兄貴! 冗談が過ぎますぜ!」
「ぺ、ペッシ……!」
 かわいい弟分の捨て身の仲裁に、プロシュートが思わず怯む。

「ギアッチョをからかいたいのは分かるけど、兄貴やりすぎだよ!」
「ちょ、ま、ペッシ……」
「オレはサンタに「優しい兄貴」を頼んだんだ! サンタはそれをくれると思うかい?」
 ペッシの一途で純粋な視線に射抜かれて、プロシュートは一撃で即死した。

「はうっ」
「ねえ兄貴、サンタは……」
「皆まで言うなペェェェェーーーーッシ! オメーが願わなくったって、優しい兄貴はオメーのもんだぜペッシペッシペッシよオォーーーーー!」
「あ……アニキィーーーーーッ!!」

 がしっ、と力強く抱き合う美しい兄弟愛を見ながら、ギアッチョが冷めた顔でため息を吐いた。
「うざいぜ。……はーやれやれ、これでオレはリゾットとぬくぬくできるぜ」

 そう言いながらリゾットの懐に潜り込もうとしたギアッチョは、ふいに腕を掴まれた。
「あァ!?」
「ギアッチョつかまえたー。わーいわーい可愛いギアッチョ素敵なギアッチョプレゼントギアッチョ〜ぅ〜」
「はっ、離せえええ!」
「ディ・モールト・ギアッチョ〜。ベリッシモ・ギアッチョ〜。ベネベネ・ギアッチョ〜」
 いい加減な鼻歌を歌いながら、メローネがギアッチョの体にぐるぐるとリボンを巻いていく。
「ちょ、、ま、は、離せやゴルアアアァァァ!」
「サンタのプレゼント〜うっ! ギアッチョ・ベネベネ〜」
 長いリボンでがんじがらめにされたギアッチョは、自由を奪われたあげく綺麗にラッピングされてしまった。


「……ん」
 肌寒さにリゾットがふと目を覚ますと、仲良く身を寄せ合っている仲間たちの姿が目に映った。
 ホルマジオとイルーゾォ、プロシュートとペッシ、メローネとギアッチョ、ソルベとジェラート。
 みんな仲良く(?)、幸せそうに(?)している。

(うん、良かった。オレは正しかった)
 みんなの願いをいっぺんに叶えるのは難しかったので、全員の枕元に全員がくるように並べて寝かせておいたのだが、どうやらうまくいったようだ(?)。
 リゾットは満足そうに微笑むと、再び目を閉じた。なにしろ昨夜は、みんなを起こさないようにこっそりとこのリビングに運び込む作業が思いのほか大変で、とても疲れているのだ。


 今年もサンタの活躍によって、みんなが(?)ハッピーなクリスマスになったのでした。



【END】






暗殺チームが仲良しだと嬉しい楽しい。9人全員いるとうれしいたのしい。みんななかよくね!
 By明日狩り  2010/12/24