「……ここ、いいか」 そう言われてギアッチョは本から顔を上げた。 昼時でバールはすでに満席、空いているのは二人席を一人で占領している自分の目の前だけだった。 「……いいぜ」 少し間を置いて、目を合わせずに答える。相手は礼も言わず、椅子を引いて向かいの席へ着いた。 (オレ、こいつ、なーんとなく苦手なんだよなァ…) ブチャラティチームのアバッキオは、どことなく人を寄せ付けない雰囲気がある。クールとかドライというより、むしろ常に機嫌が悪そうなのだ。 それにブチャラティチームは暗殺チームより花形の仕事も多く、なんとなくイケ好かない。 このまま何も話さずに、ランチを食べ終わったらとっとと席を離れてしまおう。 そう思った矢先、ギアッチョのケータイが鳴った。 「プロント? ……ああ、リゾットか。大丈夫、問題ねえよ」 そんな話をしていると、アバッキオのケータイも鳴った。 「プロント? ……ブチャラティか。大丈夫だ、問題ねえよ」 「あぁ、今ランチしてる。終わったら帰るぜ」 「ああ、ランチしてるとこだ。済んだら戻る」 ギアッチョとアバッキオはほとんど同じないようの会話をして、ほとんど同時に電話を切った。 「…………」 「…………」 気まずい沈黙が流れる。 「アンタの」 「オメーの」 ほとんど同時に話しかけて、お互いにビックリする。 どちらが話せばいいか分からず、こんなときいつも先手を取るギアッチョがすかさず言葉を続けた。 「アンタのとこのリーダー、心配性かよ」 するとアバッキオは不機嫌に唇を曲げてフンと言った。 「オメーんとこのだって、同じじゃねえかよ。つーか、オレは心配されてるんじゃねえ。確認の連絡だ」 「オレのだって確認だよ! リゾットはキッチリしてっからよォ〜。だからオレたちも安心してついていけんだぜ」 リゾットのこととなるとつい鼻が高くなり、自慢げな口調になる。 するとギアッチョの態度に触発されたのか、アバッキオが少しばかり前のめりになって睨みを利かせる。 「そりゃあ、オメーらみてーなロクデナシをまとめあげるなら、いちいち連絡も必要なんだろうさ」 「ざけんなテメェ! それ言ったらオメーんとこも一緒じゃねえか!」 「あのよォ、さっきから思ってんだが、そもそもうちのブチャラティとオメーんとこのリーダー、同格だと思って話してねえか?」 「は? 同格だぁ? リゾットのが上に決まってんだろボケが」 勢いよく机を叩くと、食器が跳ねてガチャンと鳴った。 アバッキオは哀れみを浮かべた顔で嘲笑する。 「ブチャラティは幹部だぜ。オメーんとこみてーな下っ端構成員とは格が違うんだよ、このクルクル頭」 「うっせーんだよ厚化粧。どーせ世話になった幹部の隠し財産ガメただけじゃねえか、知ってんだぜ?」 「幹部は幹部、間違いのねえ事実だ。噂がどうあれな」 「セコい盗みが事実だろ」 「テメー、ギャングの格付け甘くみてんじゃねえぞ」 「格付けがなんだってんだよ。リーダーとしての存在価値でリゾットに叶うやついねーんだよ!」 「ふざけんな、ブチャラティほどリーダーに相応しい男は他にいねえんだよ。なにも知らねえくせによ」 「オメーこそ何にも知らねーんだな!」 二人ともどんどん声が大きくなっていく。周りの注目を集めつつあるが、ここで引くわけにはいかない。 「ブチャラティはどんな境遇のやつでも見捨てねえ。オレらに居場所をくれたんだ」 「リゾットだってすげーさ。ここでいいならいればいい、ってよォ。誰もチーム抜けたりしねーぜ?」 「オレらだって抜けたやつぁいねえよ」 「けどオメーんとこのブチャラティって、独断つーかよぉ、人の話聞かねーで勝手に決めたりするだろ」 「オメーんとこのリゾットほど不器用なやつはいねーよ。組織の上と交渉するなんてとてもじゃないができないだろうぜ」 「あのなー! リゾットは確かに不器用なとこあっけどよォ! オレらのこと一番に考えてくれんだよ! だから最高のリーダーなんだぜ!」 「フン。確かにブチャラティの独断に驚かされることはあるぜ。でもあいつについていけば間違いねぇ。そういう信頼がオレらにはあるんだよ」 「認めねえ!」 「認められねえな」 「リゾットのが上だ!」 「ブチャラティだ」 もうこれ以上は何を言っても無駄だ。口論しながら頬張っていたランチもそろそろなくなりかけている。最後の一口を頬張って、ギアッチョは席を立った。 「リゾットが一番だぜ」 「テメェ、ブチャラティだっつってんだろ! 認めていけ!」 アバッキオもお茶を飲み干して席を立ち、ギアッチョの背中を追う。試合はそのまま店の外へと持ち越されるようだ。 外からは先程よりも大きな声で言い争う二人の喧嘩が聞こえてくる。ようやく静かになった店の片隅では、ボブヘアーに編み込みの男と、玉飾りのついた頭巾を被った男が、いたたまれない顔でランチを食べている。 「すごい剣幕だったな」 「ああ、すごかったな」 「は、恥ずかしいもんだなぁ、ははは」 「……そう、だな」 ブチャラティとリゾットだ。 今日は仕事のことで用事があり、たまたまこの店でランチを取りながら二人で話をしていた。途中で連絡を取った部下がまさか同じ店内にいるとは思わず、なにやら自分のことで口論している二人の会話を聞きながら出るに出られなくなったのだった。 「独断、か。うーん、確かに自分の中でこうだと決めてしまうと、きちんと説明することを忘れてるかもなあ」 「不器用なのは自覚しているが……部下にも見抜かれていたか」 「いやはや」 「恥ずかしい話だな」 顔を見合わせて二人で苦笑いをする。 「しかし」 「……ふふっ」 二人の苦笑いが、微笑みに変わる。 「随分と部下に慕われてるじゃないか、リゾット」 「お前の方こそ」 あんなに正面切って誉められて、悪い気はしない。それに、自分だけではなく、目の前にいる男が部下にこれだけ認められているというのも嬉しいものだ。 「帰ってあいつの顔を見たら思わずニヤけてしまいそうだな」 「あいつら勘がいいからな。気付かれないようにしなければ」 「そうだな、さすがにあの会話を聞いたと知れるのは、気まずい」 「ああ」 二人のリーダーは嬉しさと困惑の混じった微妙な顔を見合わせてうなずいた。 【終】 |
| うこっKさんからのリクエストで、「うちのリーダーがいちばん!」ってやりながらお昼食べてるギアッチョとアバッキオでした。やばいかわいい。チョとアバさんの忠犬っぷりパネェwww リーダーに絶大な信頼を寄せる二人がケンカしたら絶対に引かないでしょうね。そして実は面識があって仲良くしてるブチャラティとリゾットという関係に密かに萌え。 |
| By明日狩り 2014/05/25 |