殺人事例 〜マーダーケース〜 ギアッチョの場合 |
その街に行くのは、二度目だった。 「………………クソ寒ィ」 裏路地に車を停めて外に出ると、ギアッチョは白い息とともに愚痴を吐いた。声が真っ白に凍り、頬を切る風が狭い路地を駆け抜ける。分厚いダウンジャケットの襟を立てて背中を丸め、ポケットに手を突っ込んで、ギアッチョは道行く人の中に何気ない顔で溶け込んでいった。 「………………」 雪の降る街は、誰もが他人に無関心だ。人々は一刻も早く暖かい家に帰り、暖かい食事を取ることだけを念じながらひたすらに歩く。うなだれたまま足元だけを見て、前を向くことさえしない。 こんな雪の街はよそ者が紛れ込んでも誰も気にも留めないもので、ギアッチョのような暗殺者にとっては仕事のしやすい環境だ。 寒冷地での仕事は、ギアッチョに回されることが多かった。スタンド『ホワイト・アルバム』の能力を使ってもバレにくいし、パワーの消費も少なくて済む。それにもし野外に取り残されるような状況になったとしても、『ホワイト・アルバム』を身にまとえば寒さをしのぐこともできる。そういうリゾットの判断に文句はない。 とはいえ、任務の間中ずっと『ホワイト・アルバム』を出しているわけではないし、実はギアッチョはけっこう寒がりなほうなので、寒冷地での任務はいつも機嫌が悪かった。 「あークソ……寒ィー……畜生ォー……寒いのなんか大ッ嫌いだっつーのによォー……」 鼻先まで引き上げたダウンジャケットのネックに顔をうずめて、ブツブツと文句を言う。けれどもう少しの辛抱だと自分に言い聞かせ、ギアッチョは寒さでひび割れそうな目を細めて街を見渡した。 雪降る街は、夜の訪れも早い。分厚い雲に覆われた空は、いつ太陽が落ちたのかすら分からないまま、ただ暗闇に飲み込まれていく。道端に立つ街灯にぽつぽつと明かりが灯るが、それさえどんよりと濁った色をしていて、灰色の街を明るく照らしてはくれない。道行く人の数も減り、黒い雲と白い雪に覆われた街はまるで影絵のように見えた。 (そろそろか) 辺りの様子を窺い、不意に体を翻して建物の陰に身をひそめる。 何気なくたまたまここを通りがかっただけだというような顔をしているが、実はこの建物は今回の標的の自宅で、本人ももうすぐ帰宅する予定になっている。家に入る前を襲撃して直接触って凍らせるか、ガードがついているようなら家の中に入った後でもいい。建物の中に標的を確保できれば、あとはギアッチョの好きなタイミングで建物全体を冷やして終わりだ。どっちに転んでも敵に逃げ場はない。 「あークソ………早く帰れっつーのよォー……外で待たされる方の身にもなってみろっつーんだ……ったくよー…………手間掛けさせんじゃねーぞコラ……」 辺りに人影はない。建物の陰、ダウンジャケットに首をうずめて、強い風が吹き付けるこの街角でいくら独り言を漏らしても誰の耳に入る心配もない。寒さのせいで意味もなくイライラが募り、ギアッチョは誰に聞こえることもない愚痴をひたすら吐き続けながら目標を待った。 ひときわ強い風が吹き抜ける。 (…………………ぁ…) 「あ?」 風の中に異音が紛れていたような気がして、ギアッチョは顔を上げた。 やっぱり人の気配はない。けれど確かに人の声が聞こえたような気がして、ギアッチョは注意深く辺りを見回した。 表の様子を窺い、ふと後ろを振り返って。 「!」 思わず叫び出しそうになった口を慌てて閉じて、後ずさる。 誰もいないと思っていたのに、街灯の光が届かない路地の傍らに人が倒れていることに、初めて気づいた。 「……おい」 「…………ぇ」 「オイ、死んでるのか?」 「………………」 声を掛けるが、ほとんど反応がない。建物に身を寄せるようにして横たわるその体にはすでに数センチの雪が積もっていて、血の気のない真っ白な顔も雪に埋もれかけている。小さな頭。細い体。長いウェーブのかかった亜麻色の髪はバリバリに凍りついて地面に固着している。 ……幼い女の子だ。 「オイ……」 しゃがんで顔を近づけ、揺さぶってみる。少女はうっすらと目を開けた。 「…………マ……」 「あー、こりゃあダメだ。もう死ぬな」 少女のかすれた声を聞いて、ギアッチョはあっさりとつぶやいた。これはもう助からない。手足は細く、頬はこけていて、長い間ろくに食べ物も食べていなかったことが誰の目にも明らかだ。今からでも病院に運び込めば命だけは助かるかもしれないが、医者にかかる金があるなら最初からこんなところで寝ていたりはしないだろう。そういう意味でも、この子供はもう助からない。 どういうわけでこんな幼い少女が極寒の街で行き倒れているのかは知らないが、運のない子供や貧乏な子供がのたれ死ぬのはよくあることだ。いちいち気に掛けていたらきりがない。すぐさま見捨てて忘れてしまおうと顔をそむけたギアッチョの耳に、また小さな声が届いた。 「…………マ…マ……」 「あー、もうすぐ会えるぜ。ちょっと目をつぶって待ってろよ。きっとママんところに行ける。……オメーのママが天国にいりゃあな」 ごわごわに凍った髪をそっと撫で、ギアッチョは何の感情も含まない声で少女にそう言い聞かせた。子供をこんな場所で凍死させるくらいだから、母親だってどうせ無事ではいないだろう。トラブルに巻き込まれたか、麻薬で死にかけているか、おおかたそのどちらかだ。それにもし母親が今生きていたとしても、どのみちロクな親じゃない。長生きなんてできるわけがない。 「静かにしてろ、な? もうすぐ寒いのも痛いのもなくなるぜー」 「…………マ………ぁ」 「よしよし、良い子にしててくれよなァー。こっちはこれから仕事なんだ。今騒がれると困っちまうからよォー」 どのみち、この死にかけた子供に騒ぐ力など残っていない。放っておいても構わないだろうと判断して、ギアッチョは立ち上がろうと腰を浮かせかけた。 「ん?」 ふと、地面に散らばるゴミが目に付く。雪の下に埋もれたものに目を凝らすと、それはどうやらマッチの燃えカスらしかった。雪でグチャグチャになったマッチの空箱を指でつまみ上げ、白いため息を吐く。 「こんなもんで暖まろうとしたのかぁ? 無理だぜ、無理。……ま、この寒さじゃ、マッチの火にだって頼りたくなるのはスゲー分かるけどよォ」 横たわる少女の虚ろな目を見つめて、ギアッチョは少し心が冷えるのを感じた。こんなところで凍えながら独りで死んでいくというのは、いったいどんな気持ちがするのだろうか。同情するつもりはないが、そんなことをふと考えてみる。ギアッチョは孤独は怖くないが、寒いのは嫌いなのだ。寒さで死ぬのだけは嫌だと、冷気を操るスタンド使いは常々思っている。 もし自分が死ぬ季節を選べるとしたら、暖かい春がいいと思う。それも、できれば夜じゃないほうがいい。最期くらいお天道様の下で、それもたとえばまぶしい朝日を見た瞬間にあっさり死ねるのだったら悪くないかもなんて考えたことがある。どのみち暗殺者にロクな最期は迎えられないだろうが、それでもこんな極寒の夜にゆっくり死んでいくのだけは嫌だ。考えうる限り、一番最悪の死に方だ。 「この街はよォ、ずーっと寒ィよなぁ……。前に来たときもスゲー寒かったしよぉー……」 マッチの空箱を弄びながら、ギアッチョは独り言なのか少女に話しかけているのか分からないような小声で、ぼそっとつぶやく。 あれは一年ほど前のことだ。 前にこの街に来たときも、今日と同じように雪が降っていた。この街を取り仕切っていた小さなファミリーが組織に歯向かったとかで、その首領を始末しろという指令を受けていた。寒さの厳しい季節だったので、いつものように寒波に見せかけて凍死させた。首領の死は疑わしいところもなく事故として処理され、そいつの弟か誰かがファミリーを継いだらしい。後継者選びで揉めている隙にパッショーネは勢力を拡大して、この地域の重要な拠点はだいたい押さえてしまったようだ。 そのファミリーの後継者という奴が懲りもせず再び反抗してきたので、こちらも再びギアッチョが派遣されたというわけだ。おまけにその弟というのが、かつて兄が住んでいた屋敷をそのまま自宅にしているという。つまりギアッチョは一年前と全く同じ場所で、全く同じ仕事をするハメになったのだった。弟だか何だか知らないが、兄と同じく氷漬けになってもらう。一度で懲りて大人しく服従していればいいものを、無駄な抵抗をするから仕事が増える。まったくもって面倒極まりない。 権力だの支配だのという話に、ギアッチョはほとんど興味がない。ただ命令に従って標的を暗殺するだけだし、それが自分の仕事だと割り切っている。ボスに対する忠誠心もないし、敵に対する同情もない。自分が納得のいく成果を上げて、リーダーが自分の仕事ぶりを認めてくれれば、それで満足だ。 ただ、寒いのだけは嫌だった。 「ほんとによォ……寒いのはたまんねーよなあぁ……」 かじかむ指先に息を吹きかけて、ギアッチョはつぶやいた。分厚いダウンジャケットの中でさえ、寒さが骨身に沁みてくる。ましてやこんな道端に寝ていたらどれほど寒いのだろう。横たわる少女の額から雪を払ってやりながら、ギアッチョは真っ白な息を吐いてつぶやいた。 「同情はしねぇぜ。こんなガキ憐れんだって、何にもなりゃしねーんだからよォ。……けど、寒いのには同情してもいいよな。それくらいはいいだろうぜ。……かわいそうになぁ。だからってどうするわけでもねーんだけどよォー。せめて最期くらいはそばにいてやるぜ」 「………ぁ…………」 「ああ、きっともうすぐ寒くなくなる。それまでオレがここにいてやっから、安心して寝てな」 もうこの子はどうやったって助からないし、助ける気もない。けれどギアッチョはどうせ標的を待ってここにいなければならないのだから、少女の命の火が消える瞬間までそばにいて見ていてやるくらいはしてもいいだろう。 それくらいには、同情している。 手持ち無沙汰にさっき拾ったマッチの空箱をいじくり回しながら、雪で湿ってよれよれになっている外装に指を滑らせる。きれいに箔押しされたマッチ箱はなかなか高級そうだが、けばけばしいピンク色の書体が踊るデザインは下品で嫌みったらしい。ただの模様だと思っていたものはよく見れば女の足と唇を模したもので、どうやらキャバレーかなにかのマッチだったようだ。 なぜ子供がこんなものを持っているのだろう。 「……つーかよォ、これ、どっかで見たことある気がするんだがよー。何だったっけか……」 この手の店にありがちな洒落たその名前には、覚えがない。だがその、人をイラッとさせるような下品で胸糞悪いデザインには見覚えがあるような気がした。自分でこんな店に行くはずはないから、テレビや新聞で見たのか、誰かに見せられたのか、あるいは……。 「資料だ」 不意に、ギアッチョはそのことを思い出した。 「前回のシゴトの資料だ。前の首領が経営してた店の写真」 一年前、この街で最初の暗殺をしたときに与えられた資料の中に、確かにこれがあった。万全を期するリゾットの方針で、任務の際にはかなり詳細な資料をジェラートが用意してくれるのだが、標的が経営しているという店の外観写真に写っていたのがこれだ。自宅で待ち伏せて殺ったので結局一度も店の実物を見ることはなかったが、寒そうな街の中に半裸の女の絵が掛かっているのがバカバカしくて失笑したのを覚えている。 「あの店か。……けど、店は跡継ぎの弟が潰したんじゃなかったか?」 ギアッチョは首をかしげた。今回ジェラートから渡された資料には、跡継ぎの弟は街に利益を還元するような商売はすべてたたんで、麻薬の取引一本に絞ったと書いてあった。となると、この店はとっくの昔になくなっているはずだ。いったいどこから店のマッチが出てきたのだろう。 横たわる少女の顔を覗き込んで、ギアッチョは眉根を寄せた。 「……オメーよォ、これ、どっから持って来た?」 「………………………」 少女はガラス玉のように虚ろな目をして、ぼんやりとギアッチョを見つめている。だがその顔を見ているうちに、ギアッチョの脳裏に一年前の記憶がゆっくりと甦ってきた。 「オメー、ひょっとしてあの日、この屋敷から出ていかなかったか?」 少女はやはり何も答えない。けれどギアッチョは確かにあの日のことを思い出していた。 一年前のあの日の計画は、こうだった。 目標となる屋敷には、首領とその妻、幼い娘、それに数人の部下がいた。まず、家族が外出のために家を出る。その後、一人になった首領を屋敷の中で始末するか、あるいは外に出た瞬間を襲うか、それはギアッチョの判断に任されていた。いずれにしても、その日標的が一人になるのは確かだったので、ギアッチョは屋敷内の人数を把握しながらタイミングを見計らっていた。 ところが、予定外のことが起きた。車に乗って外出したはずの家族が戻ってきて、家に入ってしまったのだ。 (全員まとめて殺っちまうか? それとも様子を見るか……) 家族が再び外出するかどうかは分からない。ひょっとしたら首領と一緒にどこかへ出かけることにしたのかもしれない。あまりぐずぐずしていると見つかってしまうし、やるならやると決めなければならなかった。 暗殺チームのリーダーであるリゾットは、暗殺の際に無関係な人間を巻き込むことを嫌っていた。無害な一般人は極力巻き込まずに済むよう尽力すべきだというのがリゾットの方針で、その教育を受けているギアッチョもまた標的以外の犠牲者を出さないよういつも注意を払っている。とはいえ、犠牲を恐れて標的を逃すようなことがあってはならないので、やむを得ない場合は命を奪うこともある。 (……いや、オレならイケる。オレならやれる) 暖かそうな屋敷の中をじっと外から観察しながら、ギアッチョは心の中でつぶやいた。焦って女子供を巻き込まなくとも、この任務は遂行できるはずだ。それくらい、どうということはない。落ち着いてチャンスを窺っていれば首領一人を狙って始末することくらいできるはずだと、ギアッチョは自分に言い聞かせた。 そして待つこと一時間。 屋敷の玄関が開いて、妻と娘が出てきた。幸い首領の姿はない。家族は運転手と部下を連れて高級車に乗り、予定より遅れて外出して行った。自分を信じたギアッチョはしてやったりとばかりに不敵な笑みを浮かべ、屋敷に潜入する。そしてこちらも少し時間はかかったものの、予定通り首領一人のみを暗殺して出て来ることができた。 予定外の犠牲者を出さずに任務を完遂したことに、ギアッチョは満足してアジトへと引き返した。 あの日、母に手を引かれて家から出て行った幼い娘は、長いウェーブのかかった亜麻色の髪をなびかせて笑っていた。 「オメー、もしかして、前の首領の娘か?」 ギアッチョはかがんで、真っ白になった少女の顔を近くでまじまじと見つめた。遠目に見ただけなので、どんな顔だったかまではよく覚えていない。あのときの幼い娘は高級そうな服に身を包み、ふっくらと柔らかい子供らしい頬に笑みを浮かべていた。目の前にいる少女のみすぼらしい外見とは似ても似つかない。 それでも、ギアッチョには何となく分かってしまった。 「そっか、オメー、あの日の子供か」 「………………………」 「何だ、親父が死んで、その後誰もオメーの面倒見てくれなかったのかぁ?」 「………………………」 少女は何も答えない。まだかろうじて呼吸はしているが、もう意識はないのかもしれない。それでも構わずに、ギアッチョは少女に話しかけた。 「オメーの母親、どうした? 権力争いに負けて、追い出されたか? それにしたって娘をこんな目に遭わせるなんてよォー、ひどい奴らがいるもんだよなァ」 その引き金を引いたのが他ならぬ自分であることは、ギアッチョも分かっている。ただ、暗殺者である自分が人を不幸にするのは当然のことで、それをフォローするのが「セケン」の「善人ども」の仕事であるとも思っている。 暗殺者に父親を殺された哀れな幼子の面倒を見るくらい、『世間』では『当然』のはずだ。 「ヒデーもんだぜ。兄貴の遺族の面倒を見ねぇ弟もヒデェ。娘をほっぽらかしてどっか行っちまった母親もヒデェ。それによォー……、こんな子供を道端に転がしといて平気な顔してるこの街の奴らも、全員ヒデェよなあァー……」 淡々とそう言って、ギアッチョはおもむろに立ち上がった。 暗い目で空を仰ぎ、ポケットに手を突っ込んで、じっと耳を澄ます。遠くから車のエンジン音が近づいてきて、屋敷の表に止まるのが分かった。足音、話し声、扉の開く音、ざわめき、そして扉の閉じる音。 今回の標的が、屋敷の中に入った。 「殺るか」 空を仰いだまま、ギアッチョは口笛でも吹くような気軽さで小さくつぶやいた。 不意に体中から白い煙が立ち上り、周囲の温度が急激に冷えはじめる。すでに凍りつくような寒さまで冷え切っていた街の気温が、さらにぐんぐんと下がっていく。 ギアッチョの体を包んで、白いスーツが形成され始めた。全身をスタンドで覆い、外気から隔離されたギアッチョは、真っ暗な空をじっと見上げたまま立ち尽くしている。気温は加速度的に下がり、もはや地球上の気温ではありえないほどの超低温にまで達していた。 それでも、ギアッチョはスタンドを止めない。それどころかますますパワーを開放し、街全体が静かに、しかし確実に「死」に飲み込まれていった。 空気中の水分が氷になってダイヤモンドダストがきらめく。 地面が凍りつき、土中から氷の柱が立ちあがってアスファルトが割れる。木造の建物が割れて倒壊する。 寒さに耐えかねて街灯が消える。家から火が消え、街全体が闇に包まれる。 生きている街路樹が割れ始める。鳥が地面に落ちる。生き物はうずくまり、二度と起き上がることができなくなる。 そして、空気が青く凍りつく。 「ジェントリー……ウィープス……」 スタンド『ホワイト・アルバム』に包まれて、ギアッチョは歌うようにつぶやいた。街全体が恐ろしいほどの静寂と暗闇に覆われ、動くものは何もなくなる。 永遠の静寂が街を支配する。 その中でただ一人、ギアッチョだけが温もりに包まれて息をしていた。 「…………………………」 暗闇の中、分厚い黒い雲に覆われた空は、もうどこまでが街でどこからが空なのかさえ判然としない。それでもまだ空を見上げたままの姿勢で、ギアッチョはひとつ大きく息を吐いた。 それと同時に、スタンドが、流れる水のようにギアッチョの体から解けて消え失せる。 世界は超低温の支配から解放されて、元の雪降る街へと戻った。けれど街は暗いままで、家にいる人も、道行く人も、すべての生きとし生ける者はその命の火を奪われていた。 ギアッチョは傍らの少女を見た。人形のような小さな体は静かに横たわり、とうの昔に息を引き取っている。 「逝っちまったか。……オイ、聞こえてっかよォ? みんなまとめて、そっちへ送ってやったぜー。これで一人ぼっちじゃねーからな。良かったなァ」 少女の凍りついた髪の毛をそっと撫でてやると、ギアッチョは顔色一つ変えずにその街を後にした。 夜風が啼いている。 雪に閉ざされたその街に、二度と明かりが灯ることはなかった。 <END> |
「暗殺者のモチベーション」について考えるための考察その2です。今回はギアッチョ。ホワイト・アルバムって、本体の熱血っぷりとは相反する静かなスタンドですが、その中にはギアッチョの性格もいくらかは含まれてるんじゃないかなぁと思います。あんまりホイホイ他人に同情したりはしないけど、けっこう優しいところがありそう。あったらいいな。ギアッチョってきっとサバサバしてて、付き合いやすい奴だと思ってます。 |
| By明日狩り 2010/12/30 |