また4月が来たよ

同じ日の事を思い出して









everlasting April









「集まったか」

 ネアポリスにある暗殺チームのアジト。
 そのリビングに集合したメンバーを見回して、リーダーのリゾットはイスに腰掛けたまま黒い目を細めた。



「はいよ。ちゃーんと来てるぜ。しょーがねーなあ」

 ホルマジオがほぅ、と息を吐いて、暑そうに手で咽喉元を扇いだ。首筋あたりにちらりと揺らめいたように見えたのは、火影か。


「来てるに決まってる。遅れるなんて許可しない」

 イルーゾォが水鏡のように静かな声でつぶやく。よく聞くとその声は少しかすれていて、小さく咳をすると肺の奥から苦しそうな濁った音が漏れた。


「まだオレらは栄光を掴んでねぇ。そのためなら何度だってやってやるさ。当然だ」

 プロシュートが煙草を咥えてソファにふんぞり返る。煙を吐いたときに煙草をつまんだ手首は、ボロボロにちぎれたスーツの袖にカフスボタンで器用に留めてある。


「兄貴はスゲーッすね。オレなんかジッパーちゃんと留めとかねーとすぐどっかいっちまうんです」

 そんなプロシュートを見て、ペッシが傾きかけた頭を押さえた。体のあちこちに回るジッパーは少しでも気を抜くと緩んで外れてしまう。


「みんら、相変わらずらねぇ。リィ・モールト嬉しいよ。楽しくやろうらないか」

 ゆるゆるとした声を出すメローネは、自分の舌に蛇が噛み付いてぶら下がっていることなど、一向に気にかけていないようだ。


「クソッ、メガネがねぇとよく見えねーぜ。新調してもすぐブチ割れちまうしよォー」

 割れたメガネを鼻の上に乗せて、ギアッチョはイライラと床を蹴り飛ばした。気合いを入れすぎるとメガネが勝手に割れるという妙な癖がついてしまったらしい。しゃべるたびに、ひゅうひゅうと咽喉の穴から息が漏れた。



「で、まだオレらの目標は達成できてない、と。……あ、ソルベずれてるよ。もーソルベはオレがいないとダメなんだからぁー」

 ジェラートは口に布を咥えてぶら下げたまま、実に器用にしゃべる。びっくりすると息が詰まることもあるが、ソルベがそばにいる間はいつも調子がいい。

「あァ………………」

 ソルベは昔と変わらず、いつもぼんやりしてジェラートの成すがままに任せている。そんなソルベの体は、いつも支えていないとすぐユラユラと揺らいで崩れてしまうので、ジェラートがはみ出た部分を押し戻したりして形を保ってやっている。



 一人も欠けることなく集合したメンバーを眺めて、リゾットはおもむろにイスから立ち上がった。

 黒いフードの陰になったその顔にも、黒のロングコートから見える素肌にも、痛々しい弾痕が無数に穿たれている。だが穴だらけになってなお、リゾットはリーダーとしての威厳を失わない。

 敵の攻撃を体中に受け、無残に散ったリゾットが胸を張る。
 暗殺チームのメンバーはいっせいにリーダーに目を向けた。その眼差しはリーダーに対する信頼と尊敬に満ちている。

 リゾットは口を開いた。



「我々は、我々自身の尊厳を守るために戦った。
 飼い犬と蔑まれ、誇りを踏みにじられて、黙っていることはできなかった。

 だが、二人を失い、そして残る七人も目的を達成することはできなかった」


「まだ、な」

 プロシュートが付け加える。リゾットはうなずいた。

「そう、『まだ』目的を達成することができないでいる。
 ギアッチョ、オレたちの目的とは、何だ?」

 名前を呼ばれたギアッチョが、斜めにリゾットを見上げて答える。

「ボスをブッ殺すこと」

「それだけか?」

「今となっちゃあ、それだけだな。もう金も麻薬もいらねーし。新しいメガネは欲しーけどよォー」

 ガラスの抜けたメガネのフレームに指を突っ込んで、ギアッチョは「ケッ」と吐き捨てた。


「メローネ、お前はどう思う?」

 ディスプレイから顔を上げて、メローネが思慮深い顔で首をかしげる。

「そうらなぁ。オレは元々、金とかもあんまり興味らかったし。たら、ボスに侮られるのらけは、許せらかった」

「ペッシ」

「お、オレは兄貴と一緒です。栄光は、オレタチにあるって」

 おどおどしながらも懸命に胸を張るペッシの姿を横目に見て、プロシュートはにやっと笑った。

「いいオトコになってきたじゃあねーか、ペッシペッシペッシよォー。そうだ。オレたちが欲しいのは、栄光だ」

 それを聞いて、イルーゾォがうなずいた。

「ボスだけは絶対に、オレたちが殺す。逃げるのは許可しないよ」

「そうそう。だけどあのジョルノって奴も、結局はボスを殺すことはできなかったんだよなぁ。しょーがねーよなあぁ。せめてオレらの仇くらいは取ってくれよなァ〜」

 ホルマジオが苦笑する。

「オレたちをこんな風にしておいて、まだ死んでないなんて。ねぇソルベ?」

「あー……な…………」

 ソルベとジェラートも寄り添って憤慨する。



 全員の意見は、一致していた。


 リゾットがうなずく。

「オレたちの目的は、まだ達成されていない。だが、今でもそれを完遂することが、オレたち暗殺チーム全員の願いだということでいいんだな」

 全員がうなずく。

「よし。それではまた始めよう。……時のはざまに落ち込んで彷徨うボスを捕獲し、確実なる『死』を与えるために」

 リゾットは自分の胸に開いた銃創に指を差し込んだ。そこにはまだ生々しい鮮血が残っている。

「メローネ。これはオレが最後の戦いで浴びた、ボスの血液だ」

「OK、早速『ベイビィ・フェイス』で息子を作るよ。永遠にボスを追い続ける立派な息子をね」

「イルーゾォは鏡の中を、死の世界へ繋げ。お前ならできる」

「鏡の中の物質は、死の世界のもの。……できるよ」

「ホルマジオはジョルノのところへ行って情報収集だ。何かつかんで来い」

「また一番最初に情報、つかんできてやるぜ」

「プロシュートとペッシは、トリッシュの身辺を当たれ。まだ何か出てくるはずだ」

「娘をゲットできなかった面目躍如のチャンス、ありがたいぜ。今度こそうまくやる。絶対にだ」

「兄貴、頑張りましょうね!」

「ギアッチョはイルーゾォについていけ。何か見つけたら絶対に逃がすな」

「超低温は静止の世界。万が一ボスを見つけたら、時間から時間へブッ飛ぶ前に全てを止めて逃がさねぇ」

「ソルベとジェラートは、2年前に見聞きしたことをオレに話せ。もう一度整理して、手がかりを見つける」

「分かった。2人分の命をかけた情報、必ず役に立つよ」

「ああ……」



 手はずは、整った。

 目的は、『ボスを殺すこと』。ただひとつ。

 死してなお、尊厳のために、栄光のために、戦うことをやめない。


「リゾット率いる暗殺チームの力、今度こそボスに味わわせてやる」


 リゾットの黒い目が、空間を、時間を、生死を超えて未来を見据える。




 暗殺チームの尊き魂に、輝きと栄光を。

 そしてボスの哀れな魂に、安らぎを。






 また、4月が来る。




【never ending......】











暗殺チームは、9人で1つ。
死んだって別れない。死んだって手を離さない。殺したって死なない志を永遠に。
そうして、いつか必ず、ハッピーエンド。
ついでにかわいそうなボスも救っちゃってあげちゃったりしたら、スゴクかっこいい。
そんな暗殺チームが、魂が震えるほど大好きです。
 By明日狩り  2011/04/03