知らない人だったけど、他に誰もいなかったから。 最初はライトセーバーの手合わせをしてもらった。 待ち合わせて、練習をするようになって。 会えば会うほど、話が合って。 一緒に食事するのも当たり前になるくらい、僕らは仲良しになっていた。 ジェダイマスターと、パダワン。 年齢も全然離れてるのに、僕らはすっごく仲良しになった。 お互いの一番大事なヒミツを打ち明けあった頃には 僕らは、すっかり「親友」になっていたんだ。 僕らは、まだまだたくさんの話をする。 「親友」になって、僕はパダワンを卒業して、ナイトになって。 戦争は忙しくなるし、共和国もジェダイも混乱してるけど、 僕はもっと混乱してた。 ねえ、ハルシオン。また僕の相談にのってください…………。 |
ぼくとハルシオン |
「ハルさーーーーーん!」 アナキンが親しみを込めた呼び方でハルシオンを呼び止める。周りにいたジェダイは少し驚いたような顔で振り返るが、当の本人は何も気にせず、笑顔で振り向いた。 「やあ、chosen one」 こちらもまた、あまり普段は使われない呼び方でアナキンに応える。 アナキンを「選ばれし者」と呼ぶのは、厳粛な話し合いの場面か、さもなくば嫉妬とやっかみから出る悪口の場合が多い。けれどハルシオンは特に気にした様子も、気を使う様子もなく、アナキンを「選ばれし者」と呼ぶ。 アナキンもハルシオンにそう呼ばれるのは、悪い気がしないらしい。 「ハルさん、ご飯でも食べに行きませんか。マスターが会議で帰ってこないんです」 軽く駆け足で近寄ってきたアナキンは、ハルシオンのローブの裾を引っ張った。 「ちょうどよかった。私もまだだったんだ。よし、街に下りようか」 「どこ行きましょうか? たいしたことないけど僕最近『ビルディ』好きなんですよね。ミックスグリルランチとか」 「うーん、今日はラーメンが食べたいなぁ」 「ハルさん、デザートなくていいんですか? デザートないと嫌でしょ?」 「それが、この間見つけた辛みそラーメンの店の杏仁豆腐がおいしかったんだ。君の好きそうな豚角煮丼もあった」 「それだ!! それ行きましょう! 僕、角煮ちょーダイスキなんですよ!!」 アナキンはハルシオンのローブをぐいぐいと遠慮なく引っ張って、エアスピーダーの発着場へと向かう。もしもオビ=ワンがそんな光景を見たら、「目上のマスターに対して礼節をわきまえろ」と怒鳴るところなのだろうが、幸いにもオビ=ワンは会議中でここにはいない。 ハルシオンもそんなアナキンに苦笑すらせず、「わかったわかった」と言いながら楽しそうについて行く。 要するに、二人は仲良しなのだ。 「それでねー、また昨日マスターがあんまりなんですよ」 「ふぅん」 辛みそラーメン(半熟卵トッピング)と豚角煮丼を食べつくし、デザートの杏仁豆腐を食べながら、二人は他愛ないおしゃべりに興じていた。 ついこの間ブレイドが取れたばかりの新米ジェダイナイトは、最低限の敬語こそ使っているものの、ほとんど相手を年上扱いしていないような気楽な口調で次から次へとおしゃべりをする。それを聞いているほうのジェダイマスターも、半分はデザートの味に集中しながらうんうんと適度に話を聞いている。 この気の置けない雰囲気が、アナキンは大好きだった。 「昨日も僕が触ったら、適当にあしらわれたんです。冷たいよ!」 アナキンの話は、もっぱら自分のことだ。自分と、自分が好きな人の話を思いつくままにしゃべる。 「そりゃしょうがないだろう。ケノービはそっち方面にはあまり活発でないから」 「そうだけどー、僕としてはああいう扱いは納得いかないんですよね。フェロモン出してる方が悪いっつーの」 「フェロモンねぇ……分かるような、分からないような」 おいしそうに杏仁豆腐のスプーンを舐めながら、ハルシオンはのんきに相槌を打った。 ジェダイの誰かが聞いていたら顔色を変えるような会話を、二人は平気な顔で交わしている。 こんなとんでもない話にマスター・ハルシオンがついていけるのは、彼がすでにアナキンからとんでもない「告白」をされているからだった。 パドメと結婚している話を最初に聞かされたときは、ハルシオンも驚いた。 しかもアナキンは、ほかに二人、好きな人がいると告白してきた。 しかもそれは、どちらも男性だと言う。 「誰かに言わないと……僕は駄目になりそうなんです……。誰かに相談にのってもらいたいんだ……ねえ、ハルシオン。僕の話を聞いてください……お願いします」 親友として信用されることは嬉しかった。けれどこのアナキンの告白は、ハルシオンが想像した以上にすさまじいものだった。 「僕が好きな人は、パドメ。それから、パルパティーン議長と、マスター・オビ=ワン」 「………………………………」 言葉にもならなかった。 ナブーの元女王にして元老院議員。 それに銀河元老院の最高議長。 さらにシスを倒した伝説のジェダイマスター・オビ=ワン。彼はハルシオンの昔からの友達でもある。 とてつもないラインナップだ。 けれど、そんなとてつもない告白も、時間が経てばどうにか受け入れることができた。驚きよりも、アナキンの悩みをどうにかしてやりたいという気持ちのほうが強かったせいもある。 アナキンの話すことにはいまだに驚かされることも多いけれど、真剣な恋心を持て余して苦悩する若者を少しでも楽にしてやりたい、と思う。 ハルシオンも秘密の結婚をしている。そのめったにない共通点において、二人はジェダイの中でも数少ない同志だ。 「オビ=ワンは自分がどんな顔してるか、ちゃんと認識するべきです。かわいいことは罪だ!」 デザートの皿に残った赤いシケルバの実をスプーンで転がして、アナキンは不満そうに訴えた。 「それは無茶な理屈だよ。オビ=ワンがそう見えるのは、君の視点のせいでもあるし」 「じゃあハルさんは、オビ=ワンをどう思うの?」 食べ残した赤い実(アナキンはこれがあまり好きではない)をスプーンに乗せて突き出すと、ハルシオンは当たり前のようにそれに食いついた。甘酸っぱい実を味わいながら、うーん、とうなる。 「イノセントな表情がなんかいい……とは思う。あの顔はたまに……何と言うか、『くる』ときがあるけど」 「それをどうこうしたいと思うのは、僕だけ?」 「いや、他にもいるかもしれないが、客観的に認められるのはそこまで、だなぁ。それ以上は君のさじ加減だよ」 シケルバの赤い種を手のひらに出して、ハルシオンはアナキンを見つめた。 「うー………………そうかなぁ…………」 腕組みしてため息を吐く。 オビ=ワンにもっと自覚を持って行動してもらいたい、とアナキンは思うのだが、そこまで要求するのはどうやら行き過ぎのようだ。 「ハルさんにそう言われると、そんな気がしてきます」 「うん。あんまりケノービに負担かけるんじゃないぞ」 「はいっ」 アナキンだって、オビ=ワンを困らせたくてあれこれ言うわけではない。どの程度なら言っていい範囲なのか、ハルシオンに相談すると公正にそれが分かるのでアナキンは嬉しかった。 「僕、ハルさんと話すとすごくうまくできる気がします」 「そう言ってくれると嬉しいね」 「こんな話まともに聞いてくれるの、ハルさんだけだもん」 「…………ま、そうだろうなぁ」 杏仁豆腐の最後のひと口を食べ終えて、ハルシオンはニッコリ微笑んだ。 アナキンは少々(いや、だいぶ)変わっているところがあるが、素直で嘘をつかない良い青年だ。話していると楽しくなる。 「でもねぇ、オビ=ワンはちょっとずるいんです」 まだ少しむくれた表情を残して、アナキンは空のスプーンをくわえた。 「ずるいって、何が」 「昨日はちょっと触っただけなのにすんごい嫌そうな顔するし、僕がしようよって言っても駄目とか言うし、エッチなくせにガードが固いってどういうことなんですかね。ムジュンしてますよね。だいたいこの前はすごくて、最後には自分からほしがってきたんですよ? それも……」 「わーっわーっ、ちょ、ちょっと待ったーッ!」 ハルシオンは両手をばたばたさせながら、顔を赤くした。 「それもマスターは自分の…………何?」 「それ以上は、だめ!」 あんまり大きな声を出すので、周りの客が何事かと注目する。が、それがジェダイだと分かるとすぐに各自の会話に戻っていった。 「生々しい話をするな! そこまでは聞けないぞ!」 「えー? だめですか?」 「だめだったら…………ああもうっ想像してしまうじゃないかっ!!」 どうやら頭の中の「スイッチ」が入ってしまったらしい。 顔を真っ赤にしたハルシオンは、頭を抱えたり顔を隠したり、一人でぐらぐらしている。 「うわっうわあっやめてくれーっ」 「何もしてませんよ。何想像してるんですか、ハルシオン? オビ=ワンのどんなこと考えちゃってるの?」 アナキンは頬杖をついて、意地悪な笑みを浮かべた。 「くうぅ…………なあ、chosen one」 「はい?」 「私はケノービとは友達なんだ。変なこと言われたら簡単に想像できちゃうってことくらい分かってくれ!」 「だから、何を想像したんですか?」 「それは…………うわあああっいかんっこんなこと考えちゃいかーーーんっ」 またもやハルシオンは一人で奇妙なダンスを踊っている。 (あるよねぇ、こういうこと) 別にいじめたいわけではないのだが、こういうハルシオンを見ているとつい楽しくて、アナキンの心にぷちダークサイドが芽生えてしまう。 良く知った人の「プライベートな」話を聞かされると、考えたくなくてもつい想像してしまう、……ということが人には良くあるものだ。ハルシオンは決して不純な心の持ち主ではないが、アナキンの実に刺激的な話を聞くと、たまにこういうふうになってしまう。 「あああ…………もうケノービにあわせる顔がない…………ううう……」 「大丈夫だって。多分ハルさんが考えてるより、本物はもっとすごいことしてるからさ」 「だからそういうことを言うな…………あああっまた考えてしまったじゃないか!」 「ねー、何考えたのー? 僕に教えてハルさん〜v」 楽しそうにニコニコ笑いながら、アナキンはハルシオンのローブを引っ張る。 (純粋な人だなぁ……) 「ね、僕がおごりますから、別の店でお茶しましょう。この間の焼きプリンなんかどうです?」 「うう……そうやって私をいじめて楽しむつもりだな、このchosen one は……」 「もういじめないから、もうちょっと話を聞いてくださいよ、マスター・ハルシオン」 「嘘だ……絶対に嘘だ…………」 ぶつぶつ言いながら、結局焼きプリンの誘惑には勝てず。 二人は並んで午後のカフェへと向かう。 要するに、二人は仲良しなのだった。 <<END>> |
| あのう、私「ジェダイの試練」読んでないんですけど(笑)。忍城さんが書けと言うので書いてみました。「暗黒の会合」と「悪の迷宮」の後に読むから待っててください。でもハルさんは読む前からキャラクターイメージが決まっちゃった上に、「それでいいよ。間違ってないよっていうかむしろそれであってるよ」と忍城さんが言うので、いいんだと思います。ええ。 なんか中身のない話になっちゃったけど、こんな感じのハル&アナを作っていきたいと思っているわけです。ハルシオンは朗らかで純粋で気さくで砕けた会話のできる人で、ちょっと想像力逞しくて、甘いものダイスキで、アナキンのことを「堕天使chosen one」って呼ぶのです。なんじゃそりゃ。すごい偽り設定だらけだぞ。 ハルシオンはアナキンにとって「本当の」相談相手になれるんじゃないかと思って期待してます。頑張れハルシオン! アニーも誰かに相談しないと人間だめになるぞ! ザナトスに引き続き、またもやキワキャラにはまりそうな悪寒。 忍城さんデザインのハルシオンを貰ってきました。このイメェヂで。かわいいオッサン大好き! ![]() あと、某所で見たポスターがハルアナだったので興奮して写真とってみました。もう見た瞬間「ハルさんだ!」って思った。こういうのってだめなのかなぁ? ![]() |