あの時、最高議長の言葉を無視したのは、正しかった。

「ドゥークーを殺せ、アナキン」

体がその言葉に反応し、従いそうになったが。

けれどアナキンは、二本のライトセーバーをゆっくりと下ろした。

なぜと問われれば、おそらくは哀れな老人に対するただの憐れみだったのだけれど。



それが正しかったことを、アナキンは痛感していた。









「パルパティーンが、シスだ」

捕虜となったドゥークーの口から、恐るべき情報がもたらされた。

最高議長が、長年探していた暗黒卿だった。

ジェダイ聖堂は揺らいだ。


任務で聖堂を空けていたヨーダとオビ=ワンがいないまま、メイスらは動いた。









そして。




アナキンは、堅固な牢を開けてドゥークーを解放する…………。

















分岐点

〜EP3・BAD END ver〜





















 こんなにも大きく揺れた議会は、共和国の歴史の中でも初めてだった。
 第一、こんな形で召集された特別議会そのものに前例がない。銀河元老院は、驚くべき人物からの特別な要請によって、共和国の歴史の中でも初めての……そして結果的にこれが最後となる……異例の特別議会を開いた。

「我々がここに立っている、というだけで、それが雄弁に真実を語る証拠になるでしょう」
 いまだざわめきの収まらない元老院アリーナの中心で、アナキンは動揺する議員たちの視線を平然と受けていた。
 深い縦穴のような元老院アリーナの中心にせり上がった演壇には、最高議長の姿はない。そこにいるのは、ジェダイの英雄アナキン・スカイウォーカーと、そして驚くべきことに、分離主義勢力の最高指導者であるドゥークー伯爵だった。ドゥークーには捕虜らしい拘束具も、逃亡を防ぐ守衛もない。

 この特別議会を召集したのは、他ならない、アナキンとドゥークーだった。

「パルパティーンの策略のせいで、我々は大きな罠にかかっていました。パルパティーンは銀河を我が物とするため、分離主義者との和平交渉を拒み、好んで戦争を長引かせていたのです。戦争が起こったこと自体が、彼の計画でした」

 アナキンが提出した事実は驚くべきものだった。
 ドゥークー伯爵が捕虜になった後、彼は一度も共和国の公の場に姿を現さなかった。それはジェダイが、パルパティーンの野望に気付いて彼を隔離していたからだ、とアナキンは説明した。

「ジェダイはドゥークーを保護し、対等な立場での話し合いを行いました。そこで初めて分かったことですが、分離主義勢力にはずっと昔から和平交渉を望む声があったというのです。せっかくの和平のチャンス、それをこの元老院からひた隠しにしてきたのが、パルパティーンでした」
 ひとしきり動揺し、思うさま驚愕して、元老院はようやく事態を把握しようとしていた。何よりも、これまで何度となく共和国の危機を救ってきたアナキン・スカイウォーカーの発言というだけで、理屈抜きに説得力がある。

 それに、今まで敵だと考えられてきたドゥークー伯爵が、余裕の表情でアナキンの後ろに控えている。何か大変なことが起こったことを、すべての元老院議員が理解した。あとは、いったい何が起こったのか、それだけが知りたい。

「パルパティーンはジェダイに、ドゥークーの処刑を再三求めてきました。それは彼の悪事が、ドゥークーを通じて露見することを恐れたからです。ジェダイはその要求に応じなかった。ドゥークーから必要な情報は得られていたからです」
 アナキンの言葉を裏付けるように、ドゥークーが控えめに頷いた。
 動揺、疑惑、混乱……。元老院のあらゆる感情を意に介することなく、アナキンは声を張り上げた。

「パルパティーンはジェダイ抹殺を計画しました。まったく同時に、ジェダイもまた、パルパティーン暗殺を計画していました。しかも……恐るべきことに……」
 感情で胸がいっぱいだ、というように、アナキンは声を詰まらせた。
 元老院全体が、アナキンの次の言葉を待って身を乗り出す。
 アナキンは自分の感情を振り切って、声を絞り出した。

「ジェダイもまた……銀河を支配しようと、野望を持っていたのです。パルパティーンの裏切りに乗じて、ジェダイは自らがこの銀河を支配する権力を握ろうと画策していました」
 震える声でそう言って、アナキンはしばらくうつむいたまま黙っていた。議長に裏切られ、ジェダイに欺かれた。怒りと悲しみに耐えるアナキンの演技はこの上もなく効果的だった。

 元老院は沸き立った。裏切り者に対する非難の声があちこちで上がる。

 アナキンは重圧に耐えるように、ゆっくりと顔を上げた。
「ジェダイは、パルパティーンを逮捕するという名目で、彼の暗殺を実行しました。パルパティーンは、ジェダイが反乱を起こしたという名目で、その鎮圧に踏み切りました。そうして、奇しくもジェダイオーダーとパルパティーンは…………」
 高い元老院アリーナ全体を振り仰ぎ、アナキンは議員たちを見回した。

「互いに滅ぼしあい、相討ちに終わったのです」

 元老院はどよめいた。
 最高議長とジェダイという、共和国のもっとも力ある権威が、裏切りによってたった一晩で消滅したというのだ。


 動揺する元老院のポッドを見回し、アナキンはその中にひとつの議席を発見した。
(いた…………パドメ!)
 議会が始まってからずっと探していたのだが、どうしても見つけることができなかったのだ。どんな人ごみの中でも見つける自信があったその温もりを、こんなに長い間見落としていたことに少しだけ落胆する。
(でもしょうがないよね。こんな汚れた場所じゃ、君の輝きだって隠れてしまうのかもしれない)
 演壇よりずっと高い場所にあるナブーのポッドに向かって、アナキンは密かに微笑んだ。パドメの顔はほとんど見えなかったが、パドメのほうはずっとアナキンの顔を見守っていてくれただろう。

 あそこでパドメが見ていてくれる。
 そう思うと、いっそう力が湧いてきた。アナキンは心に勇気を満たして、再び声を張り上げた。

「共和国は、元老院は、もっとも信頼していた者たちに裏切られていたのです。彼らの私利私欲のため、権力の奪い合いのために、無意味な戦争をしてきました。分離主義者との戦争は、意味のないことだった。戦士は、家族は、我々の愛する者たちは、彼らのせいで死んでいったのです」

 大きく叫びながら、アナキンの心は怒りに燃えた。
 タスケンのキャンプで息絶えた母の顔を思い出す。母は、パルパティーンのせいで、ジェダイのせいで、死んだのだ。彼が叫んだ言葉に、一番突き動かされているのはアナキン自身だった。

「私は戦争の終結、平和のために、ずっと力を尽くしてきました。ジェダイの嘘に気付いたとき、最高議長の裏切りに気付いたとき、私はどちらにつくべきか決断を迫られました。そして、どちらも選ばなかった。私は、共和国に、この元老院に、仕える決意をしたのです。」

 元老院は沸き立った。

「私はジェダイを捨てました。そして国のため、元老院のために働く一人の交渉人となりました。そして私の最初の仕事として、ここにいる分離主義者のドゥークー伯爵との和平交渉を成功させたのです」

 元老院は興奮のるつぼと化した。

「私たちは、ここに宣言します。戦争は終結した!」
 嵐のようなどよめきが元老院を揺らす。ドゥークーが一歩前に出て、元老院アリーナを振り仰いだ。
「私からも、言わせてもらう。分離主義勢力の指導者として、これ以上の戦いは望まないと!」

「戦争は終わった!」
 アナキンとドゥークーが、声を揃えて叫ぶ。元老院は恐ろしいほどの歓喜に満ち溢れ、議員たちは声を揃えて叫んだ。

「戦争は終わった!」

「戦争は終わった!」

 誰もが望んでいた長年の悲願が、ついに達成された。
(僕の手で……僕の力でだ!)
 アナキンは体中に力が満ちるのを感じた。大いなる宇宙の平和を作り出したのは、この自分なのだ。
 いまだかつて感じたことがないほどの高揚感に、アナキンはわなわなと打ち震えた。

 ドゥークーが、アナキンの肩にそっと手を置く。まだ終わってはいない、とその目が言っていた。
(分かっているさ。ここまでで、まだ半分だ)
 アナキンは頷いた。ここまでは、いわば手術で病巣を摘出したようなもの。しっかりと傷痕を縫いつけ、二次感染を防いで治癒させなければならない。

 狂喜する元老院に向かって、アナキンは声を上げた。再び銀河中が演壇に注目する。
「元老院、最高議長、ジェダイオーダー、そして分離主義勢力。……大きな力の分散により、この悲劇は生まれました。二度と同じ過ちを繰り返さないためには、この国のシステムが根本から改革される必要があります」
 賛成の拍手が沸きあがる。元老院の誰もが、この劇的な変化に酔いしれていた。

「戦争が終わる。国が変わる。より安定した社会が新しく生まれるのです」
 拍手は鳴り止まない。
「共和国はここに解体、再構成され、力のある指導者によって統率された新たな帝国が生まれるでしょう」
 拍手、拍手、嵐のような拍手。
 元老院アリーナは大きな太鼓を打ち鳴らしたようにどよめいた。

 ドゥークーが叫ぶ。
「私は提案する。ご覧の通り、ここに、ジェダイの正義感を持ちながら、ジェダイコードに縛られることなく公正な判断を下した若者がいる。しがらみに惑わされることなく、和平を成功させた若者がいる。類希なる力を持ったこの者を、皇帝に!」

「銀河帝国、万歳!」

「皇帝陛下、万歳!」

 元老院の轟きは止まない。ドゥークーは狂ったように叫ぶ元老院に向かって、大きく宣言した。
「共和国は進化し、成長した。この新しい国家と指導者の誕生を祝して、相応しい名前を与えよう。我々は第一次銀河帝国の創設者となる! その正しき指導者、エンペラー・ヴェイダーの名前を、永遠に称えようではないか!」


 エンペラー・ヴェイダー!
 エンペラー・ヴェイダー!
 エンペラー・ヴェイダー!


 雨のように、風のように、嵐のように、その名前がアナキンに降り注ぐ。アナキンの皮膚から内臓へ、骨へ、エンペラー・ヴェイダーの名が染み渡っていく。



 ここに、新しい皇帝が誕生した。




 万雷の拍手は鳴り止まなかった。



<<BAD END>>












EP3バッドエンドバージョン、分岐点は「もしもアナキンがドゥークーを殺さなかったら」です。ドゥークーは捕虜になり、その口からシスの秘密が明らかになりますね。ドゥークーはすでにシディアスに裏切られているから、もうシディアスのいうことを聞くつもりはない。かといって今さら傲慢で堕落したジェダイに与する気もなく、目をつけたのがアナキン。ドゥークーはアナキンをそそのかしてエンペラー・ヴェイダーにしてしまうのです。
多分、あそこでドゥークーが死ななかったらすごく大変ですよ。ダース・シディアスの秘密だだ漏れだもん!

9月19日発行の「Unchain the Fate 〜赤刃〜」から抜粋。