| 頬に触れる風も温かく、すっかり春が到来したと思われたある日の午後。 ジェダイ聖堂の中庭にいたクワイ=ガンは、ベンチに座って少しうとうとしながら可愛いオビ=ワンの夢を見ていた。暖かい午後の日差しが柔らかく降り注ぎ、人肌のようにクワイ=ガンを包み込む。 (まったくお前は淫乱なパダワンだ、お仕置きが必要だな……来なさい、オビ=ワン……) 安らかな笑みさえ浮かべながら、クワイ=ガンは夢の中でオビ=ワンと戯れている。素肌の上にローブをまとったオビ=ワンが抱きついてきた、と思った瞬間。 「おおお〜〜〜っ」 突然の叫び声に何事か、と飛び起きたときにはもう抱きつかれていた。 「なななななっっ!?」 クワイ=ガン・ジン。身長193センチメートル。ジェダイのヒューマノイドの中でもかなり長身のほうである。自分より大きな人間などめったに会うことがない。 それなのに、抱きついてきたこの男はクワイ=ガンと同じくらい大きな体をしていた。背の高い壮年の男に思いっきり抱きつかれて、クワイ=ガンは激しく動揺する。 「なななな何事っ!?」 「クワイ=ガンッ! いい男になったじゃないか!」 「は…………マスター?」 喜色満面の男の顔を見て、クワイ=ガンはあきれ果ててしまった。忘れたくとも忘れられない、この顔は己のマスターだった男、ドゥークーではないか。 「なんなんですか、マスター・ドゥークー」 「なんなんだとは冷たいな。ほめてやっているんじゃないか、我がパダワン」 「もう私はパダワンなんかじゃないですよ。とっくの昔、もう40年近くも前に卒業しました」 (だからアンタとは40年分、他人なんだよっ。赤・の・他・人!) 心の中で毒づいて、クワイ=ガンはぐいぐいとドゥークーの体を引き剥がした。いきなりおかしな事を言い出すのはドゥークーの常であったし、いまさら怪しみもしない。 しかし今日に限って何を感極まっているのか、ドゥークーは「イイ男だ」とか「こんなに育って」とか訳の分からないことを言いながら、クワイ=ガンを放そうとしない。 「いい加減にしてください!」 「いやいやいや、もう少し見せてくれパダワン。ほほぅ、ここもすっかりオヤジだな」 などと言いながら、尻を撫で回し始めた。 「固く締まっていい触り心地だ。さすがだなクワイ=ガン」 「ぎゃあああああああっっっっ!!」 「ふっふっふ、いい声は相変わらずだな、パダワン」 「いぎゃああああああ〜〜〜〜〜っ」 ばたばたともつれ合いながら中庭の芝生を踏み荒らす。 「だだだだいたいっ!! なんなんですかアンタはっ! イイオトコだのなんだのって、今更何の話なんですか! 私をバカにしてるんですかコケにしてるんですか混乱させて楽しむつもりかああそうだそうにちがいないこの毒マスターめ!」 「これこれ、錯乱しすぎだ、パダワン。はっはっは」 ドゥークーは快活に笑い、クワイ=ガンの肩をぽんぽんと気さくに叩いた。 「死ねクソマスター!」 「口が過ぎるぞクワイ=ガン。まったくこの程度のことで取り乱しおって……まだまだ学ぶべきことは多いな」 やれやれ、と肩をすくめるドゥークーの手から、クワイ=ガンはやっとのことで逃れることに成功した。 「ぜいぜい……犯されるかと思った……」 「犯すとは失礼な。なに、無理にはせんよ。長い間していなさそうだから、時間をかけてちゃんとほぐしてからローションを……」 「せんでいいっ!」 グーで殴ってやろうかと思ったが、さすがに相手はマスターである。握ったこぶしをブルブル震わせて、クワイ=ガンはやっとの思いでそれを押さえつけていた。 「いやいや、かわいい我がパダワンがこんなナイスミドルになったのが嬉しくてな。ついつい興奮してしまったよ」 「だから……」 (そんなに長いこと会ってないわけじゃないだろーが……) マスター・ドゥークーはクワイ=ガンのことが気に入っているらしい。しかもめくら滅法、やたらめったら、むやみやたらと気に入っているらしい。今でも何かというと部屋を訪れたり(居留守を使ってもなぜかばれてしまう)、外食に誘われたり(断ると後でひどい目に遭うので強制的に連行される)、つい2週間ほど前にもコルサントのダウンタウンのバーに連れて行かれた覚えがある。 「あれから大して経ってないでしょう、マスター」 「いや、それが違うのだよパダワン」 ドゥークーは大げさに首を振り、理解しがたいことを話し始めた。 「私は50年前の昔から、時を越えてここまで来たのだ」 「マスター、カウンセリング受けたほうがいいですね」 「こらこら、私を心の病んだ人みたいに言うな」 呆れ顔のクワイ=ガンの頬に触れ、どさくさにまぎれて尻も撫でる。不快そうにそれを振り払って、クワイ=ガンはため息を吐いた。 「ああ、ついに我がマスターはアルツハイマーを病まれてしまったのですね。最強のジェダイの一人とまで謳われたあのドゥークーがこんな妄想を口走るように……」 「こらこら、私をボケ老人みたいに言うな」 これは本当なのだよ、とドゥークーは真顔で言う。 「時空のひずみに巻き込まれてな」 「……まさか……」 「私も驚いたよ。どこかに私のかわいいパダワンも落とされたはずなので、いっしょに探してくれないだろうか?」 50年前というと、クワイ=ガンはまだパダワンになったばかりの頃だ。 (幼い私が……この世界に……?) 少年の自分がこの世界のどこかでマスターを見失い、探しているのかと思う。 ふと、幼い頃の自分のことを思い出した。 あの頃、クワイ=ガンはマスターが大好きだった。自分の才能を見出してくれたマスター。誰からも尊敬されているマスター。強く、厳しく、そして誰にでも優しいマスター。そんなドゥークーに師事することは誇りであり、自慢でもあった。 まだ若く、疑うことを知らず……そしてこの毒マスターがいかに変態で卑猥で猥褻な男かということを知らない……そんな無垢な自分が、どこかで心細い思いをしているのだ。 「……マスター」 「うむ、協力してくれ。ひとまずコルサントのダウンタウン辺りに下りてみよう。いいダイニングバーを見つけたんだ」 「ええ……って、なぜ飲み屋なんですか?」 不審な視線を向けるクワイ=ガンにあくまでも真面目な顔で、ドゥークーは首を振った。 「パダワンがそこにいるような気がするのだ」 「……そうですか、分かりました」 あの頃、クワイ=ガンとドゥークーはジェダイ聖堂で比べるもののない、誰よりも強い絆で結ばれた師弟だった。そんなマスターが感じるというのだから、信じてみる価値はありそうだ。 「では、行きましょう」 「ああ、私の可愛いクワイ=ガンが待っている」 身長193センチ、壮年のジェダイマスター2人は並んで歩き出した。壮麗なジェダイの2人組に、見るものは思わずため息を洩らしたという。 そして。 「……………………………………あ?」 クワイ=ガンが目を覚ましたのは、自分のベッドの上だった。何も着ていなかった。二日酔いの頭ががんがんする。 「うう……………………」 夕べのことを思い出してみるが、毒マスターと2人でダイニングバーへ行き、そのあと何軒か飲み屋をはしごした後が思い出せなかった。 「マスター、ここにはいないようですね」 「いやいや、間もなくここへ来るような気がする。いざというときこのようなバーで待ち合わせすると約束していたからな。覚えていないか?」 「いえ……」 そんな会話をして、少し飲みながら待ってみようという話になり、少しだけのつもりがどんどんお代わりを注がれ、「ここには来ないようだな。他を探そう」ということで次のバーへ行き、そこでもしこたま飲んで、「次へ行こう」とまたはしご……。4軒目までは覚えているが、後はどうやってここまで帰り着いたか覚えていなかった。 「………………ううう」 枕を抱きしめ、頭を抱える。 「まさか……」 まさか、とは思うが。 というか考えたくないことだったが。 一つの考えが、クワイ=ガンの二日酔いの頭に浮かんで離れなかった。 すべて、ドゥークーの狂言だったのではないだろうか? 「ううう……頭が……」 あまり考えたくない。 クワイ=ガンは布団をかぶって、すべてを忘れようと固く目を閉じた。 なんとなく。 いや、きっと気のせいに違いないのだが。 なんとなーく。 尻が痛い気がするのは、きっと気のせいだろう。 気のせいに違いない。 絶対に気のせいだ。 「クソマスターめ……」 きっと会いに行って問い詰めたところで、はぐらかされてしまうのだ。もう昨日のマスターの話が本当だったのかどうか、確かめることはできない。 「ダイキライダ……シンデシマエ……」 呪いの言葉をつぶやきながら布団にくるまる。クワイ=ワンは眠ってすべてを夢にしてしまおうとベッドに引きこもり、その日一日、部屋から出てこなかったという。 <<END>> |
| ビバ毒桑! いいよね毒桑! パダクワイだけじゃないYO! 毒マスターはクワイのことが大好きで大好きで、そりゃあもうマスターになろうが還暦祝おうがクワイのこと大好きでしょうがないんだよね。だからクワイさんはいくつになっても毒マスターにケツを狙われる運命なのですよ。時代はクワイ受け! |