ぴんぽ〜ん。 そのたった一度のチャイムの音が、すべての始まりだった。 「ちひです。 りっぱなべんごしになりたいんです。 きょうからここにおせわになります。 よろしくおねがいしますっ」 そこにいたのは。 ちいさなちいさな、弁護士の卵だった……。 |
| ちひを飼いたいんですが 〜ちひのゆずれないコト〜 |
ちひは一人前の弁護士を目指す、ちいさなちいさな弁護士の卵。 今日も星影法律事務所で頑張って勉強をしています。 「かみのぎせんぱい、こーひーはいりました!」 「ああ、今行くぜ」 給湯室から声がかかったので、神乃木はコーヒーを取りに行った。 お盆の上に乗ったカップを取り、傍らに立っているちひに礼を言う。 「ありがとよ」 「おいしいですかかみのぎせんぱい?」 「ああ、うまいぜ。コーヒー淹れるの、上手くなったじゃねえか」 「ちひひっ」 誉められたちひは嬉しそうに笑った。 いったいこの小さな体でどうやってコーヒーを入れているのだろうか。 神乃木はいつも不思議に思う。 ちひは小さい。 小さいというか、もうそういうレベルの話ではない。 なにしろ、体の大きさが神乃木のコーヒーカップと同じくらいしかないのだ。 たとえて言うなら、ハムスターが立ち上がったらこんなかも知れない。 セブンスターと背比べをしたらかろうじて勝てるかもしれない。 (こいつはいったい、何なんだ……) 神乃木はいつもそう思っている。 なぜかそれを口に出せない雰囲気なので、聞いたことはないが。 「コネコちゃん、コーヒーを入れるのは大変じゃねえか?」 なみなみとコーヒーの注がれたカップを片手に、神乃木はちひに尋ねた。 「たいへんじゃありません。がんばってますからっ」 (いや、頑張ればいいってもんでもない気がするんだが……) 胸を張って「えっへん」のポーズを取るちひが可愛いので、とりあえずよしとする。 「ちひ、いったいどういう風にコーヒー淹れてるんだい? 今度いっぺん見せちゃくれねえか……」 給湯室で立ったまま、コーヒーに口を付ける。 何気なくつぶやいた一言だったのだが、それを聞いたちひは途端に顔を真っ赤にした。 「かみのぎせんぱいそれは『せくはら』ですか!?」 「違う。セクハラじゃねえ」 「そうですか、ならいいです」 どういうわけか、ちひはセクハラに敏感だ。 「コーヒーを淹れるとこ、見ちゃいけねえのか?」 「だめです。ちひがひとりでやるのです。ほんにかいてあったのです」 「そうか……ま、好きにしな」 「はいっ」 どういうわけか、ちひはコーヒーを入れるときは誰も給湯室へは入れてくれない。 (だれもみちゃいけないのです。みられたらここにはいられないのです。ほんにかいてあったのです) ちひは勉強熱心なので、いろいろな本を参考にしているらしい。 彼女が「鶴の恩返し」を愛読していることを、神乃木はまだ知らないようだ。 「ちひ、そろそろ仕事にかかろうぜ」 「はいっ、いきますっ」 神乃木が差し出した手の上にちひが乗る。 ちひは小さいので、神乃木といっしょに行動しているのだ。 「あっ!」 「どうした」 手に乗せようとしたとき、どうも指先が当たってしまったらしい。 ……胸に。 |
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小さくてもいっちょまえに出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。 そんなちひを持ち上げたり移動させたりするのはけっこう難しい。 「せくはらですかみのぎせんぱい! せくはらっ!」 「クッ……違うな。今のは事故だ」 「そうですか、ならいいです」 (いいのか) どうやら認めなければセクハラにはならないらしい。 (単純なコネコちゃん、だぜ……) もっともこの小さな生き物にセクハラする気などさらさらないが。 (いや、しかし気をつけなきゃならねえな……) この世にはちひをどうこうしようという変態だっているに違いない。 そんな奴の本当のセクハラからちひを守ってやらなければ。 それが神乃木の仕事だ。 「クッ、まるで王子様だぜ……」 「かみのぎせんぱいはおうじさまですか?」 ゆれる手の上で人差し指の指輪につかまったちひが、神乃木を見上げる。 「そうかも知れねえな」 「じゃあちひはおひめさまになります。おひめさまべんごしになります」 「そうか……頑張れよ……」 「ちひひっ」 ちひにチューリップのような笑顔を見せられて。 今日も頑張ろうと思う神乃木先輩なのでした。 <END> |
| 地の文を放棄してみました。らくがきですから。絵描きにはらくがきとフルカラーCGの違いがあるのですから、文章書きにもらくがきがあっていいわけです。とりあえずちひです。飼いたいです。シリーズ化キボンヌ(業界用語)。自分で言ってるし。 ちひが好きで日記連載を思い立つのも若気の至り。ここはちひサイトです。ごめん、ちょっと、うそ、ついた。 By明日狩り 2004/3/12 |