「ねーねー、オビ=ワン!」 「……アニー」 子犬のように飛びついてきたパダワンを、オビ=ワンは叱るような目つきで軽く睨んだ。 「ごめん、マスター」 ついうっかり「オビ=ワン」と呼んでしまうことを、もう何度も咎められている。アナキンはちろっと舌を出して、上目遣いにマスターを見た。 「どうした?」 「あのね、あのね! さっきアウターリム・ストリートでね……」 「お前またあそこへ行ったのか? あんまり遊びまわるなとあんなに言ったのに!」 辺境の惑星の出身者が集まる通りの名前をうっかり口にしてしまい、アナキンはもう一度小さく舌を出した。興奮しているとついうっかり、オビ=ワンを怒らせるようなことを言ってしまう。 「イエス、マスター。ごめんなさい。もうしません」 「よろしい」 まだ若いマスターは、できる限りの包容力を示して、優しく微笑んだ。 (オビ=ワンて素直だなぁ) そんなマスターを見ながら、小生意気なジェダイのパダワンは心の中でつぶやく。 もし口に出していたら今度こそオビ=ワンは許してくれなかっただろう。……が、アナキンもさすがにバカではない。今度はちゃんと心の中だけに言葉を押し留めることができた。 「あのね、それで…………続きを話してもいい?」 「ん…………ああ、いいとも」 少しためらって、オビ=ワンは苦笑しながらうなずいた。 「ストリートで、細い枝を飾ってたんだよ。お札みたいなのをたくさんくっつけて、あれ何かのお祭りなの?」 「枝に…………? ああ、テライアンの星祭りか」 「ほしまつり?」 初めて聞く言葉にアナキンは目を輝かせた。 お祭り、と聞いて喜ばない子供はいない。 「辺境の惑星の習慣だと聞いたことがある」 「へえ! 星祭りなんて面白そう! それってどうやるの?」 「どうやるというか…………まあ、引き離された恋人をしのぶとか、そんな伝説があるそうだ」 オビ=ワンの言葉に、小さなパダワンはあからさまに不満そうな顔をした。 「楽しくないじゃない! そんなの!」 「伝説があるらしいんだよ。よく覚えてないけど」 「つまんないなぁ。その星祭りで、アイエゴの月の天使と結婚できる……とかなら楽しいのに」 「こら」 不謹慎なアナキンに、オビ=ワンは眉根を寄せる。 「自分が楽しくないんじゃ、お祭りじゃないよ〜」 「困った奴だな…………。ちゃんと楽しいことだってあるさ」 「本当に?」 アナキンの顔がぱっと明るくなる。 「ああ、何でもその恋人たちが願い事をかなえてくれるんだそうだ」 「ヒュー、気前がいいじゃん! それならいいや」 「あくまでも伝説、だぞ」 「それどうやればいいの? 僕もお願い事したい!」 どうやらこのパダワンには、都合のいい部分しか聞こえていないらしい。オビ=ワンはローブの中で腕を組んで、首をかしげた。 「確か、願い事を書いてつるすんじゃなかったかな?」 「ええっ、何を? 僕を!?」 「…………なんでお前をつるすんだよ」 「だって嫌な予感がしたんだもん」 アナキンは顔をしかめた。おしおきとか、罰とかいうことは、しょっちゅう自分につきまとっているような気がするのだ。 被害妄想気味のパダワンに苦笑して、オビ=ワンは首を横に振った。 「違うよ。短冊をだよ」 「願い事を書いて? ああ、そうか! あの枝に結ぶんだね!」 「そうそう。そうすると願い事が叶うそうだ」 「マスター、僕、願い事してくる!!」 アナキンはぱっと身を翻すと、弾丸のように聖堂をつっきって走り出した。 「こら、アナキン! 勝手に出歩くんじゃない!」 慌ててローブのすそを跳ね上げたが、アナキンはもう柱の陰に隠れて影も形も見えない。 やれやれ、と肩をすくめる。オビ=ワンは世話の焼けるパダワンを追って、ゆっくりと歩き出した。 その日アウターリム・ストリートに飾られた笹という笹すべてに、いたずらな部外者のつるしたお札が何枚もひらめいていた。 『つよくなれますように』 『みんながしあわせになれますように』 『みんなたのしくくらせますように』 『平和になりますように』 けれど、優しい願い事ばかり書かれたその短冊が、ジェダイのパダワンのものだとは誰も気付かなかったという。 そして。 たくさんの短冊に混じってただ1枚。 ひっそりと、けれどとりわけ大切そうにつるされていた短冊があったことを、誰も知らない。 『マスターがいつでも笑ってくれますように』 <<END>> |
| イエーイ! アナオビ! EP2の時、アナキンがあんまり悪い子三昧だったので、この3年間かなりアナキンのことを悪者扱いしておりました。でもアナキン良い子だった! EP3見て本当に分かった! ギィさんが2の頃から「アナキンは素晴らしい子だ!」と力説していたのが今ようやく納得できたよ! |