| 「マスター、今日は休みなんですね? 僕もなんですよ! いやぁ奇遇だな」 「……奇遇じゃない」 もうパダワンとしての経歴の長いアナキンは、いわゆる授業などのカリキュラムはもう卒業している。 任務に赴く予定がないときは、マスターもパダワンもそろって休日、ということになる。 しかしアナキンにとってそんな常識など、問題にもならないようであった。 「さ、どこに行きましょうか? ショッピング街? 映画? カラオケ? ショッピングなら僕はブティックよりジャンク屋に誘ってくれたほうが嬉しいんだけど。おっと、図書館なんて僕はイヤですからね。……いきなり室内プールに誘ってもマスターはきっとついて来てくれないんだろうなぁ。やっぱり中央公園の桜を見に行くのが、この時期のセオリーかな。いやーときめくなぁ!」 「……何の話だ」 勝手にデートプランを組むパダワンを置いて、すたすたと去ろうとするオビ=ワン。 「あ、待ってよオビ=ワン! オビ=ワンはときめかないの? このかっこいい僕に!」 「ときめくか!」 まっすぐ廊下を歩いていくオビ=ワンの回りと、ちょこまかとやかましくついて来る。 「ねーねーマスタァ〜。ちょっと働きすぎですよ? 今日は僕とデートすると大吉だって、朝の星占いでやってたんですから」 「お前は休んでいてもいいから、私の仕事の邪魔をするんじゃない」 「だめですよマスタァ〜。今朝の血液型占いによると、今日のマスターのラッキーアイテムは『ミディ=クロリアン値の高いパダワン』なんですよ? そんなあなたにお勧めのこのアナキン・スカイウォーカー! さ、遠慮なくどうぞ」 「いいから邪魔をするな」 うるさくまとわりついて来るアナキンを冷たくあしらって、オビ=ワンは今日やるべきことを頭の中で考えていた。 しかしそんなことでへこたれるほどアナキンはしおらしい人間ではなかった。 「ね〜え〜、僕を放置しておくとどんなことになるかわかんないですよ?」 にやりと笑うアナキンに、さすがのオビ=ワンも眉をひそめて振り返る。 「どういう意味だ?」 不審げに問うマスターに、アナキンはわざとらしい不吉な笑みを浮かべて見せた。 「そりゃもう、暇を持て余した有能なるアナキン・スカイウォーカー様……趣味:ドロイドいじりとオビ=ワンいじり、あとオビ=ワンいじめ……が、何をするかわからないマスターじゃありませんよね?」 アナキンの笑みにぞっと背筋を凍らせて、オビ=ワンは嫌な過去を思い出さざるを得なかった。 ローブを着たドロイド(アナキン作)をジェダイと間違えて話し掛け、馬鹿だと思われたこと。 「僕がいない間にあなたを守らせる」とか何とか言って作った「アナキン弐号機」が暴走して襲い掛かってきたこと(幸い貞操は守ったが、「飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ」と言ってアナキンは塞ぎ込んでいた)。 さらに「今度こそあなたを守る」と言って作った浮遊する小さな偵察機のようなものは、一日中オビ=ワンの頭上を虫のように飛び、オビ=ワンに近づくすべての人間をレーザーで攻撃した。 ……アナキンを放置しておくとろくなことがない。 「おとなしく休日を過ごしてはいられないのか、パダワン」 「無理です。僕みたいな若くて才能があって元気でたくましくてかっこいい青年は、あふれるパワーを発散しないとやり切れません」 「だったら自主トレなりスポーツなりで発散させたらどうだ?」 正論を述べるマスターに、やれやれ、と目いっぱい呆れ顔を作るアナキン。 「馬鹿だなぁオビ=ワンは。僕の2万のミディ=クロリアンが、そんなつまらない方法で発散できると思ってるんですか?」 そして後ろからぎゅっとオビ=ワンの体を抱きしめる。 「僕は激しい刺激でないと満足できないお年頃なんです」 「なら……激しくしてやろうか?」 オビ=ワンの手が不意にアナキンの腕をつかむ。 「えっ……」 どきん、とアナキンの心臓が高鳴った。 オビ=ワンの手はそのままアナキンの体を引き寄せる……。 マスターの蕩けそうな唇に目がくぎ付けになった。 「マ、マスタ……」 「アニー」 甘えたような鼻にかかった声がアナキンの心を狂わせる。 唇から見え隠れする濡れた舌が扇情的で、アナキンは思わず頬を赤らめた。 そして。 オビ=ワンはアナキンの腕をぐっと引き寄せて。 見事な一本背負いで投げ飛ばした。 「せいっ」 「うわーーーーーーーーーーーーっ!!」 ばちーんっ、と痛そうな音を響かせて、アナキンの体は背中から固い床に打ち付けられた。 何事か、と振り返るジェダイたちは、それが「例の師弟」であることを確認すると、何事もなかったかのように去っていく。 「い……てて……」 「いい刺激になっただろう?」 オビ=ワンは優雅に微笑むと、倒れたパダワンのブレイドをくい、と引っ張った。 「休日ぐらいおとなしくしていなさい、パダワン」 手を放し、そのままアナキンを置き去りにして行こうとしたオビ=ワンは、アナキンがいつまでたっても立ち上がってこないことに気付いてわずかに顔を曇らせた。 首だけ振り向いてしばらくパダワンの様子をうかがっているが、かすかにうめき声があがるだけで、立ち上がる気配がない。 「あ、アナキン? どうした?」 打ち所でも悪かったのだろうか。顔を苦痛に歪ませてうめくばかりのアナキンは、よく見れば体が妙な方向に曲がっていた。背骨のラインと足が、並みの着地では曲がらない方向を向いている。 「アナキンッ!?」 さすがのオビ=ワンも慌てて、倒れたパダワンにすがりつく。 「大丈夫か、アナキン、アナキンッ!!」 肩をつかんで揺さぶりかけ、重症の怪我人にそんなことをしてはいけない、と瞬時に手を止める。 苦痛に歪むアナキンの顔が、オビ=ワンの胸を潰す。 「アナキン、アナキン……」 パダワンの名を呼ぶ声が涙混じりになる。 さすがに何事かと人が注目し始めたそのとき。 「なんちゃって」 ちゅうっ。 むぐむぐ……。 始め何が起こったのか、オビ=ワンにはわからなかった。 アナキンの両腕ががばっとオビ=ワンの体を抱きしめ、そして電光石火で唇を寄せて。 公衆の面前でキスをされた。 ……しかも舌を入れられた。 「……………………」 「ごちそうさま」 呆然とするオビ=ワンに合掌して、アナキンは礼儀正しくごちそうさまをした。 そして立ち上がり、服の埃を払うと、 「マスター、ヒゲが気持ちよかったです」 と、礼儀正しくにっこりした。 「…………あ……」 「マスターの投げ技って上手ですね。受け身を取らなくてもしっかりど真ん中から落ちた」 「………………パ、ダ、ワ、ン……」 「いやあ爽やかな休日だなぁ」 「死ねこのくそパダワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンッ!!」 怒号と共にオビ=ワンが身を翻す。 それきた、とばかりにアナキンは全力疾走で走り出した。 「あははははは、オビ=ワン大好き〜〜〜〜〜〜〜!」 「ふざけるのも大概にしろこのバカ! アホ!」 「ボキャブラリー貧困ですよマスター? 『ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせるぞ』くらいは言ってほしいですね」 楽しそうに笑い声をドップラー効果させながら聖堂中を駆け抜けていくアナキンと、それを追いかける怒り顔も可愛いオビ=ワンを見て、ジェダイたちはやっぱり「ああ、またか」としか思わなかったそうである。 <<END>> |
| 5000HITありがとうございました。波路様より「休日のアナオビ」ですが、ギャグでよかったでしょうか?だ、ダメ? アナオビってギャグが書きやすくてなー。アナキンが独りで勝手にいろいろしてオビ=ワンが怒るのが一番書きやすいですね。つーかこのベタネタ加減はどうよ? 書いてて「こんなにベタでいいのかなぁ」と不安になっていましたが、ベタネタはアナオビの基本だから! というわけでありがとうございました。今後ともよろしくv |