■自分の居場所を確かめる     BY明日狩り

自分の居場所を、確かめる。

今自分がいる場所を。


私の前の道は灼熱の太陽に干上がり、蜃気楼の彼方までどこまでも続いている。

渇いて、熱くて、逃げ場もなくて。

ただ照り付けられ、歩かされるしかない道。

(いつか見たあの星のように)

そして私にはその道さえも許されていないらしく。

眼の前にはどこまでも横に張り巡らされた金網の壁。

(どこへも行けない)

ただ灼熱の砂漠。

金網に手をかけ、乗り越える気力すらなく。

後ろを振り返れば揺らめく地平線まで何処までも続く砂。

どこが前でどこが後ろなのか。

自分の足跡さえもう消えた。

どこへも行けない、私。




……そんな、夢を見た。




目覚めればいつもの生活が始まる。

どこへも行けないなんて言ってはいられない。

何しろ恐ろしく手のかかる弟子が、私の指導を待つことなく好き勝手を始めるのだから。

「マスター、次は何処へ行くんですか?」

「少しは落ち着け、アナキン」

苦笑して彼の前を行く。

他愛ない会話を交わしながら、ふと、すれ違った見知らぬ人に視線がそれる。

(アノヒトニニテイル……)

けれどそれはアナキンに気付かれることもないほど刹那の行為。

「お前は忍耐を学ばなければならないな」

「またマスターは、そればっかり」

すぐに現実に戻る。

そして、一瞬でも夢を見た自分を恥じる。

知らない他人の横顔に……甘い夢を……花の蜜のような思い出を……

いつでもあなたの面影を探してしまう自分がいる。




















どうすればいいのだろう。

この場所から動き出すには。

うずくまっていたところで、どこへも行けない。

過去へは戻れない。

今を生きられない。

未来など見えない。

過去でも現在でも未来でもありえない、私はどこにいるんだろう。

誰か私に与えてください。

ここからどこかへ走り出すための力を。

そのきっかけを。




見上げれば途方もない空。

どこまでもどこまでも続く青い青の空。

果てしないその空はあの頃の私に続いているんだろうか。

走ってあの丘を越えれば、

『オビ=ワン』

そう言って微笑むあなたはいるだろうか。

いつものように、いつもそうだったように。

あなたはそこにいるだろうか。

優雅にその長身で私を包んでくれる、私のマスターはいるだろうか。

私は唇をちょっとかんで、

幼稚な夢想に別れを告げる。




『お前はいい子だ』

何度でも言ってくれた。

愛しい声で、とろけるような温かさで。

(記憶の中のあなたを何度でも味わう)

『お前を幸せにしてやる』

何度でもしてくれた。

甘い唇で、息苦しいほどの幸せを。

(夢の中でまた、あなたにキスをしてもらう)




「マスター、また何か考えてますね」

「すまない、アナキン。つい……な」

パダワンに向ける笑みも、彼の純粋さを思うと恥ずかしくなるほど歪んでいる。

それでも嘘の笑みを作る。

時には泣き叫びすべてを壊したくなることもないとは言わないけれど。

「どうしてそう、考えこんじゃうんでしょうね」

「できのいいパダワンを持つと苦労が耐えないんだよ」

「できがいいのに、何で苦労するんだろう?」

皮肉を皮肉とも分からず、考えこむアナキンを見て苦笑する。

例えすべてに嘘をついても、この子はまっすぐに育ててやりたいと。

願わずにはいられない。




「マスターが僕に素直になれば、いいと思うんだけど」

「馬鹿をいうな」

「馬鹿じゃないです、本気ですよ」

近頃のアナキンはもう私の背を越していて、真剣な眼差しを上から降らせてくる。

奔放な風、灼熱の陽射し、そして時には潤いの雨さえ。

アナキンの中には故郷がつまっている。

厳しく険しい砂漠の惑星のような、アナキンが私の前に立ちはだかる。

そして、彼は言った。

「マスター・クワイ=ガンのことなんか忘れなよ、オビ=ワン……」




見上げると、まるで灼熱の空に浮かぶ2つの太陽。

アナキンの瞳が私を見下ろしている。

砂色の髪、そして彼の後ろには。

どこまでも続く底抜けに青い空の色。

めまいがする。

どうして、私はここにいないのだろう。

あの丘を越えたら、あなたがいるような気がして。

こんなときでさえ、あなたの面影をどこかに探して。

どこにもいない自分を探す。

甘い夢を捨てて。

アナキンの顔を見つめて。

「ここにいてよ、オビ=ワン」

渇いて、熱くて、逃げ場もなくて。

ただ照り付けられ、歩かされるしかない道。

「アナキン……私はここにいるよ」

そして私はまた、嘘をついた。




   <<END>>



だーかーらー、A/Oは不幸でしかありえないってば。私的にな! でも書いちゃう。思わず書いちゃう。だってダークが好きだから。
誰か「クワイ=ガンに思いを寄せるけれども当のクワイさんはアナキン一直線ラブラブ状態で嫉妬しまくり、その嫉妬の種を任されて一時はおかしくなりかけたものの、アナキンに愛を告白されて胸キュンになってしまいそのままクワイ=ガンのことなんか忘れてアナキン一筋、でもそんなアナキンはパドメと結婚しちゃってあらあら結局オビ=ワンときたらまた失恋?」みたいなA/O書いてないかな。ありえないけどな。


ちなみに素敵挿絵は「Lingua Franca」の服部亘様より拝領いたしました! 素晴らしすぎる……(感涙)


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