どうしたのマスター!?     BY明日狩り

 ある天気のいい午後のジェダイテンプルにて。

「うわっ」
「どうかしましたか、マスター?」

 何気ない話をしながら歩いていると、突然マスター・オビ=ワンが小さな悲鳴を上げた。
 1歩前を歩いていたアナキンはいぶかしげに振り返る。

「?」

 オビ=ワンがその場に立ち止まり、なにやら慌てた様子でローブの前をごそごそと掻き合わせていた。
 わずかに頬を赤らめ、ローブの前を隠している。

「何してるんですか」
「いや、ちょっと待て、じゃなくて、先に行ってていいから、ちょっ……んんー……」

 おろおろするオビ=ワンに近づくと、オビ=ワンは「いいからほっとけ!」という目でアナキンを制した。
 そんな目で睨まれても(むしろそんなことを言われても)ひるむアナキンではない。

「一体どうしたんですか。どこが……」

 アナキンはローブの前でもぞもぞ動いているオビ=ワンの手を観察した。

 いや、前というか、良く見ると、お腹の辺りというか。

 というか、ズバリ下半身、というか、あの辺、というか……。

「オビ=ワン!? どこ触ってるんですか!?」
「バカ! 大声出すなアナキンッ!」

 一瞬にして興奮が頂点に達したアナキンは、興奮のあまり思わず叫んでしまった。
 オビ=ワンが慌てて制するが、周りの視線はなにごとかと2人に集中する。

「だってオビ=ワンがそんなとこいきなり……ッ!」
「そんなとことは何だ、妙な言い方をするな!」
「だってだって、そんなオビ=ワン、白昼堂々と股間……」
「バカパダワ〜〜〜〜〜〜〜ンッ!」

 オビ=ワンの強力なパンチがアナキンの顔面にクリーンヒットした。

 興奮のあまり避けることさえ忘れたアナキンは見事にすっ飛び、ジェダイテンプル中庭に美しく咲く白い花の一群を無残になぎ倒してしまった。
 それを見たオビ=ワンがさらに叫ぶ。

「ああっ、アホパダワン! 大切な花壇を!」
「いちち……アンタがやったんでしょーが、この……」

 謝りもせずさらにパダワンを非難しようというマスターに、さすがにアナキンも腹が立った。
 打った頭をさすりながら、まだ腰の辺りをもぞもぞやっているマスターにきつい一言をお見舞いしてやる。

「この、発情ジェダイ!」

「んなっ…………!!!」

 この一言にはさすがのオビ=ワンも顔色が変わる。
 楽しそうに2人を遠巻きにしているギャラリーからも感嘆のため息が漏れ、それがオビ=ワンの羞恥心に火をつける。
 顔がかぁっと火照り、さらに頬を赤らめた自分が『発情ジェダイ』に見えてしまうであろうことを想像して、いっそう頭に血が上る。

「取り消せ、性悪パダワン!」
「何ですかそれ、ヘタレマスター!」
「マスターに向かってヘタレとは何だ、このうぬぼれ不良ワガママ自信過剰エロパダワンめ!」
「うわっすごい言い方! 先に発情したのはそっちじゃないか、お色気ジェダイめ!」
「私は発情などしていない! っていうかお前が発情するな! クソバカエロパダワン!」

 もう恥も外聞もあったものではない。
 2人で言葉を極めて罵り合い、次第にエスカレートしていく。

「何だよ、夕べだって僕がちょっと触っただけであんあん言ってたくせに!」
「誰があんあん言うか! 発情期の犬みたいに所構わず盛るんじゃない!」
「嘘だ嘘だ嘘だっ! 夕べはあんあん言ってたね! だってオビ=ワンはどこもかしこも性感帯じゃないか」
「ふざけるな、品性下劣なヘボパダワン! その下品な口を今すぐふさげ!」

 オビ=ワンがアナキンにつかみかかり、そのまま泥仕合にもつれ込む。
 花壇をめちゃくちゃに蹂躙して、それでも派手な師弟ケンカは収まらない。

「認めない気なの!? 体中感じやすいけど本当はナカが一番感じちゃうんだって、僕は知ってるんだからね!」
「それはお前が堪え切れなくてとっとと挿れたいだけだろう、死ねこの青二才!」
「あああ言ったな! じゃあ今夜はナカに指も挿れないでじっくりいじめるからね! 挿れてって泣いてすがるまで許してあげないから!」
「ぜっっっっっっったいに部屋には入れないからな! 絶対にだ!」
「へぇ? じゃあ僕とこの前みたいにフォース対決する? あんたがフォースで閉めてる扉を僕がフォースでこじ開けようとしてさ、結局オビ=ワンが負けたんじゃないか」
「うるさいっ、扉が壊れそうだったから手を引いただけだ! 負けたわけじゃない!」
「フォースも体も僕に勝てないくせに、何をえっらそーに」

 芋づる式に2人のいけない秘密が暴露されていく。
 メイスが止めに入らなければ、それぞれジェダイとパダワンの肩書きを剥奪されるような「いろいろ」まで暴露していたかもしれない。

 というか、もう失格のような気がする。

「こらこら、明るい太陽の下でなに不謹慎なことを叫んでいるんだ?」
「あっ、マスター・ウィンドゥ」

 いち早くメイスの姿に気付いたオビ=ワンが、跳ね起きて申し訳なさそうに頭を下げる。
 のろのろ起き上がってきたアナキンの頭をひとつ殴るのを忘れない。

「いてぇ!」
「とっとと起きろ、バカパダワン」
「こらこら、ケンカはよしなさい」

 どこまでもケンカの止まらない師弟を手で制して、周囲を取り囲む者たちを一瞥する。
 それだけでギャラリーはおとなしく解散していった。
 どれだけの人数に見られていたのか改めて知り、オビ=ワンは動揺を隠せない。

「こ、これは失礼を……マスター・ウィンドゥ」
「ホント迂闊だよねー、オビ=ワンも」

 そして迂闊な一言を漏らしたアナキンは、またもや頭を殴られる羽目になる。

「いてっ」
「それはともかく、今度は一体どうしたのだ、マスター・ケノービ? 説明して頂けるかな?」

 わざと丁寧な口調で問いただすメイスに、オビ=ワンはいっそう恐縮してもじもじとローブの前を掻き合わせた。

「そ、それが……」
「オビ=ワンが発情したんです」
「アナキン!」

 ぶたれたアナキンは不機嫌丸出しの表情でそっぽを向いている。
 またアナキンに食って掛かろうとするオビ=ワンを制して、メイスはあくまでも冷静沈着に話を聞いていく。

「どうしたのだ?」
「それは……その……」
「ローブがどうかしたのかな?」

 お腹の辺りでもじもじしているオビ=ワンの手をじっと見やり、それからオビ=ワンの目をじっと見る。

「いえ、その……」
「どうした?」
「つまり、たいしたことじゃないんですが」
「ほう」

 長いローブの袖から指先だけを出して腰の辺りをもぞもぞやっていたが、オビ=ワンは意を決したのか、そっとローブの合わせ目に手をかけた。
 片方の手でローブをおさえ、もう一方の手でおずおずと割り開く。

「こ、こうなってしまって……」

 頬を赤らめ、恥ずかしそうに視線をそらしてローブをそっと開いて見せる仕草にアナキンが危うく鼻血を吹きそうになる。
 そして顔を寄せて「ほう」とか何とか言いながらそのローブの中に視線を潜らせるメイスに危うく蹴りを入れそうになった。

「てめー、どこ見てやが…………って、あれ? オビ=ワン?」

 恥ずかしそうにローブを開いたそこに視線が釘付けになったアナキンは、オビ=ワンの手が必死でズボンを押さえていることに気付いた。

「だから急にベルトが切れて、ズボンが落ちたものだから……」
「そ、そうだったのか」

 オビ=ワンはどういうわけか、ローブから何から身に着けている物がちょっとずつサイズオーバーで、ズボンもベルトでしっかり止めていなくてはズルズルと膝までずり落ちてくる。

 だからいつかオビ=ワンが歩いている時にベルトが切れたらいいのになー、とアナキンは常々思っていた。

 むしろ願っていた。

 言うなれば祈っていた。

 ていうかもう「とっとと切れろよ」とか思ってちょっと前にこっそりオビ=ワンのベルトの薄そうな部分を削っておいたことをすっかり忘れていた。

「なんだ、だったら早くそう言えば良かったのに」
「そんなみっともないこと、言えるかっ!」

 真っ赤になって怒鳴るオビ=ワンは、素直に「ベルトが切れた」と言っていたほうがよっぽど恥ずかしくなかったであろう、ということをすっかり忘れている。

「僕、いつかこんな日が来たらこうしようって決めてたんですよ」
「なっ……アナキン!?」

 アナキンは有無を言わさずオビ=ワンの体を持ち上げた。
 わきの下に手を入れ、膝の後ろにもう一方の手を入れて、マスターを少女のように抱える。

「何をっ!?」
「部屋まで連れてってあげますよ、オビ=ワン」
「いらんいらんっ! 今すぐ降ろせーっ!」
「あはははは、オビ=ワン。降ろしたらズボン落ちちゃいますよ?」
「ていうかなんで『いつかこんな日が』来ることを考えてるんだお前は〜〜〜〜〜〜っ!?」

 じたばたと腕の中で足掻いているマスターをものともせず、アナキンは楽しそうな笑い声を上げながら中庭を後にする。

「…………………………」

 マスター・ウィンドゥは小さく息を吐いて、黙って2人を見送る。

「バカパダワン! 降ろせ! うわっ尻を撫でるなー!」
「オビ=ワン、お姫さまみたいですよ〜? かわいいなぁ」
「死ねこの色情魔! 発情期! スケベ変態エロパダワン!」
「あはははは、囚われのお姫さまを助け出すってこんな気持ちですかね?」
「知るか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 大騒ぎしながら去って行く2人が、せめてジェダイコードに引っかかるようなことを口走らないように祈ることだけが、メイスにできる精一杯の厚意だった。


 今日もジェダイテンプルは平和そのものであった。
 おおよそのところは。


    <<END>>



というわけで上総様、ビターミルク初のキリ番ゲットありがとうございました! ココの管理人わりとネタに飢えているので、リクとかあると思わず萌えちゃうのです。アナオビは普段あんまり書かないけど、こうしてお題を与えられるとすごく楽しく書けますね。いや、確かにアナオビも書いてはいるんですが、イマイチ自分のものになってないっていうか……。ともあれ楽しく書かせて頂きました。いやマヂで、すごく楽しかったです。
ていうかBBSのリクをうろ覚えで書き始めたら止まらなくなってしまい、書き上げてふとBBS見たらリク内容微妙に違ってやんの(笑)。あれ〜、お姫さま抱っこじゃなかったっけ? ま、いいか。間違ってはいないしね! お楽しみ頂ければこれ幸い。
どうでもいいが、私、アナオビすごく好きかも知れない……。純クワオビストかと思ってたのに。最近アナキン大好き症候群です。


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