かわいいぱだわんEpisode2〜おじいちゃんの攻撃〜    BY明日狩り

 昔々、遙か銀河の彼方に、ジェダイという修行僧の集団がありました。
 修行し、業を極めた者はマスターの称号を受けました。
 しかし修行僧なので恋愛は許されていません。そして、ジェダイの才能は決して遺伝しないのです。

 だからジェダイは、才能のある子供を宇宙中から捜し出してきて、自分の弟子にしました。
 息子を生み育てる代わりに、その弟子をわが子同様に育てて自分の業を伝えるのです。

 弟子は、自分の子供と同じ。
 そう、「赤ん坊の頃に」弟子を見出し、「赤ん坊の頃から」一人前になるまでマスターの手で育てる。それがジェダイの習わしでした。(←この辺、設定なので要注意)

 これは、そんな親子のようなある師弟の物語です。





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 今日はクワイ=ガン師弟の休日。
 厳しい修行の間にきちんと休息を取ること、そしてきちんと疲れを癒すこと、それは修行と同じくらい大切なことだと考えられている。

「おや、オビ=ワン。もう修行を始めていたのか?」
 朝食の片づけを済ませてリビングに戻ってきたクワイ=ガンは、修行の準備を始めているオビ=ワンを見て苦笑した。熱心な彼のパダワンは、食事が終わるとすぐさま『修行箱』を引っ張り出してきて、今日は何をするのか考えている。
 『修行箱』は、ミカン箱に綺麗な包装紙を貼り付けたもので、オビ=ワンの修行のための道具が入れてある。

「きょうはどれをしますか?」
 オビ=ワンは『修行箱』から12色入りのクレヨンの箱を取り出しながら尋ねた。ぬいぐるみ、スケッチブック、絵本、積み木……。オビ=ワンの周りは『修行箱』から出した道具で一杯になっていた。

「今日はお休みの日だ。修行はしなくて良いんだぞ」
「おやすみ?」
「ああ、そうだ。だからまずこれを片づけよう」
「いえす、ますたっ!」
 休みのことをすっかり忘れていたらしい。オビ=ワンはぱっと明るい表情になると、『修行箱』に道具を放り込んだ。

 休日はたいてい、どこかへお出かけする。
 綺麗なお店で美味しいパフェを食べさせてもらうこともあるし、公園でうさぎを抱かせてもらったりすることもある。オビ=ワンは修行も大好きだけれど、お休みの日も大好きだ。
「ますた、きょうはどこへいくの?」
「う〜ん、そうだなぁ」
 落ちていたスケッチブックをパラパラとめくりながら、きょうのプランを考える。鮮やかな色彩で『ますたーがらいとせーばーをみせてくれたこと』を上手に描いている我がパダワンを、今更ながら(この子は天才だな……)などと思い、独りで悦に入るクワイ=ガンである。
 まだ3歳にならないというのに、この子は天才じゃないだろうか?

「オビはどこへいきたい?」
「んと…………おかしやさん」
 ちゃんと自分の希望を述べられるお利口なオビ=ワンの笑顔は天使のようだ。クワイ=ガンはこの愛らしいパダワンを今すぐ抱き上げて高い高いして頬ずりして、肩車してお菓子屋さんに連れて行ってやりたい衝動をぐっとこらえた。
「そうか、お菓子屋さんか。きょうは何を買うんだ?」
「ん〜と……」

 ちょっぴり小首をかしげて考えるオビ=ワンのあどけない顔がたまらなく可愛い。マシュマロのようなほっぺに口づけしてからぱくっと食べてしまいたい、とクワイ=ガンはお菓子屋さんつながりで妄想していた。

 そのとき。

 ぴんぽ〜ん。
「クワイ=ガン、いるか。私だ」

(げっ)
 オートにしてあるインターホンを通じて聞こえてきたのは、忘れもしない、忘れたくとも忘れられない、マスター・ドゥークーの声だった。どうして楽しい休日の始まりに限ってこの男が訪ねてくるのだ!?

(やはりあの男……うちの子を……?)
 渋い顔をして、勘ぐるクワイ=ガンをじっと見上げていたオビ=ワンは、マスターが動かないでいるので不審に思ったらしい。ローブのスソをくいくいと引っ張り、

「ますた、おきゃくさまです」
「あ、ああ……」
 誰かが来たら返事をして出る、と教えている手前、居留守を使うわけにはいかない。そんなことをしたらオビ=ワンの教育に悪い。教えたことは自分でも必ず実行、がクワイ=ガンの信念だ。
 かといってあの(自分の中では)悪名高い毒マスターを招き入れ、おめおめと我がパダワンを危険にさらすような真似は、マスターとしてあってはならないことだ。

 クワイ=ガンのかつての師、マスター・ドゥークー。
 最強のジェダイの1人と言われている。
 その強さ、鋭さにはクワイ=ガン自身も正直まだ及ばないと思っている。
 しかし、世間的な評価はともかく、クワイ=ガンは彼が苦手だった。

 かてて加えて、奴はオビ=ワンを狙っている(と、クワイ=ガンはそう決めつけている)。

(どうする……どうするクワイ=ガン・ジン!! 考えろ、考えるんだ……)

 脂汗を流しながら激しく自問する。不思議そうに見上げてくるオビ=ワンのつぶらな瞳を守るため、その清い輝きを守るため、この扉を開けてはならない……!
 クワイ=ガンは鋭い眼差しを扉に向けた。
 この向こうに、悪魔がいる。
 オビ=ワンの輝きを汚さんとしている恐ろしい魔物が潜んでいる。

 オビ=ワンを守らなければ!

 クワイ=ガンはゆらり、と一歩踏み出し、壁に掛かっているインターフォンを外した。短く息を吸い、腹に力を溜めて気合いを入れる。


「クワイ=ガンと可愛いパダワンはただいま出かけております。大変申し訳ありませんが後ほどお越し……」

「おおっ、オビ=ワン。久し振りだったな」
「あ〜、ますたのますたっ」

 声をひそめてインターフォンにぶつぶつ呟いているクワイ=ガンをよそに、入ってきたドゥークーとオビ=ワンは再会の喜びを分かち合っていた。
 茶色の紙袋を抱えたドゥークーは、入って来るなりオビ=ワンの頭をよしよしと撫でて人の良さそうな笑みを浮かべた。オビ=ワンもお客様をお迎えしてきゃあきゃあと嬉しそうな声を上げる。

「なっ……」
 驚くクワイ=ガンを無視して、ドゥークーは持っていた紙袋をオビ=ワンに差し出した。
「ほら、お土産だぞ。前に約束しただろう」
「わ〜いっ。なに、なに?」
「それは開けてのお楽しみだ」
 大きな袋を振ってみせると、ドゥークーはちょっぴり意地悪な笑みを浮かべた。早く中身を知りたくてたまらないオビ=ワンはうずうずしながら、けれど決して勝手にそれを取ったり開けたりはしない。

「よしよし、おいでオビ=ワン」
「はぁ〜いっ」
 もどかしそうに待っているオビ=ワンを、ドゥークーは片手で軽々と抱え上げた。

「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 思わずクワイ=ガンが悲鳴を上げる。可愛いパダワンを抱き上げていいのは自分だけなのに!
「おお、いたのかクワイ=ガン」
「いたのかじゃありません!」
 ずかずかと足音も荒く近づくと、抱えられているオビ=ワンを力尽くで奪い取る。
「ふあっ」
 小さな悲鳴を上げるオビ=ワンをぎゅうっと抱きしめ、噛みつくような目でドゥークーを睨みつけた。

「どうやって入ってきたんですか!」
「その子が開けてくれたのだが」
 事も無げに即答され、クワイ=ガンは腕の中のパダワンをのぞき込む。
「……開けたのか」
「あいっ」
 お客様が来たらお出迎えする。教わったことをきちんと守れるお利口さんは、「ぼくちゃんとできました」と言いたげに誇らしげな笑顔を浮かべた。
「オビ……」
「あいっ」

 叱ることなど、できるわけがない。クワイ=ガンは苦笑いを顔に張り付かせ、
「よくできたな、オビ=ワン」
 と、頭を撫でてやらなければならなかった。
「は〜い!」
 褒められたオビ=ワンは喜んで体を揺さぶる。まさかこんな子供に客の善し悪しなど判断できるわけはない。
(ああ……子育ては難しい……)
 頭を悩ませるクワイ=ガンに、ドゥークーが親しげに話しかけてくる。

「クワイ=ガン。いたなら茶でも出さないか。私はお前をそんな礼儀知らずに育てた覚えはないぞ?」
「ハイハイワカッテマスワカリキッテマスイエスマスター」
 誰が礼儀知らずだ、と心の中で悪態をつく。
(ていうか勝手に上がり込んだあげくさっさとソファでくつろぐあなたはなんなんですか!?)
 ドゥークーはいつの間にか2つあるソファの広い方にゆったりと腰を下ろし、そこにおいてあった雑誌などを広げてすっかりマイホーム気分満点である。もはや突っ込む隙すらない完璧なくつろぎぶりだ。

「あんまりあの人に近づくんじゃないぞ、オビ=ワン」
「あい?」
 だっこしていたオビ=ワンを下ろしてやり、急いでキッチンに駆け込んでお湯を沸かす。とにもかくにもとっととお茶を出してしまい、「そういえばちょっとオビ=ワンを病院に連れて行かなきゃいけないんです」かなんか言って追い出してしまえばいい。もしうるさくついてくるようだったら街へ降りていって、どうにかして撒いてしまおう。一番安いティーバックをカップの中でボチャボチャと揺さぶりながら、クワイ=ガンは必死になって考えていた。

「お待たせしまあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!??」
 段取りを考えながらお茶を運んできたクワイ=ガンは、リビングに目をやるやいなや、危うくお盆を取り落としそうになった。
 ソファではドゥークーが自らの膝の上に天使のパダワンを乗せ、お土産の袋を見せているところだった。

「ほら、開けてもいいぞ」
「おみやげ、おみやげ」
 紙袋を開けて中をのぞき込んだオビ=ワンは、ぱあっと花が咲いたように顔をほころばせた。
「すご〜い! おかし!」
 袋の中にはたくさんの駄菓子、菓子パンの類が詰め込まれていた。色とりどりの品が無造作に放り込まれた袋の中はまるでお菓子のパレードのようで、オビ=ワンはどれに目をやっていいか困るほどだった。
「どういうのが好きか、分からなくてな。オビ=ワンは何が好きかな?」
「んとね、んとねっ」
(これも、これも、これもおびのすきなもの……!)
 どれが好きかをおじいちゃんに教えてあげようと、袋の中に手を入れてがさがさ掻き回している。

「ちょ、ちょっと待った!!」
 どすどすと足音を立てて近づき、乱暴にティーセットを置く。
「こらこら、もっと静かに……」
 たしなめるドゥークーをクワイ=ガンはキッと睨みつけた。
「あなたという人は何を勝手に私のパダワンに……っ」
 怒鳴りつけた勢いでオビ=ワンを奪い返そうと手を伸ばしたクワイ=ガンは、怯えた雛のような哀れな視線に心を突き刺され、うっと小さくうめいた。

 オビ=ワンは袋に入れた手をおずおずと抜き、上目遣いでマスターを見上げる。困ったときオビ=ワンがいつもするように、唇を尖らせて今にも泣きそうな表情だ。クワイ=ガンがあんまり激しく怒っているので、何かいけないことをしたのだ、と思ったらしい。
「ますた……ますたぼく……ぼくこれしちゃいけなかった……?」
 肩をすくめ、体を小さくして両手で抱えた紙袋をそっと差し出す。少しだけ震えている手が何ともいじらしかった。

(あああああ違うんだ違うんだよオビ=ワンおまえはなんにもいけなくないっ!!! いけないのはこのバカ毒マスターであってお前はなんにも悪いことなど……あああああっもうっなんて素直で可愛くてお利口さんな私の自慢のパダワンっっっ!!!)
 クワイ=ガンは今すぐオビ=ワンを抱き上げて褒めちぎってキスして頬ずりして頭をなでなでしてメイスあたりに自慢しに行きたい衝動に駆られたが、そんな場合ではないことに気付いてぐっと堪える。

「オビ=ワン、ちが……」
「違うぞ、オビ=ワン。お前は悪いことなどしていない」
 取り繕おうとクワイ=ガンが口を開くと同時に、ドゥークーが哀れみ深い声でオビ=ワンを諭す。「お前は良い子だな」と言いながら頭を撫で、助けを求めるように見上げてくるオビ=ワンににっこりと優しくほほえみかけてやる。

「これは私がお前にあげた土産だからな。お前が好きにしていいんだ。マスターは別に怒っている訳じゃないんだぞ。オビ=ワンがこれを開けてもぜんぜんなんの問題もないな、なあそうだろうクワイ=ガン?」
 いきなり矛先を向けられて、クワイ=ガンは動揺しつつも「あ、ああ」と生返事をしてしまった。ペースに乗せられたクワイ=ガンを横目にドゥークーはにやりと笑う。
「ああそうか、オビ=ワン。ひょっとしたらマスターはお前がお礼を言わなかったことを怒っているのかも知れないぞ? そうなのか、クワイ=ガン?」
「あ、ああ……」
 そう言われて、オビ=ワンがはっと顔を上げる。ドゥークーを見上げ、慌てて
「あ、ありがとございますっ」
 とお辞儀をした。

(ああっなんて良い子でお利口さんで賢くてお行儀が良くて言いつけを守れる素晴らしいパダワンなんだ……っっ!!)
 身悶えしそうなほど可愛くてたまらない。しかし我が愛しのパダワンはにっくき毒マスターの膝の上なのだ。

「どういたしまして。オビ=ワンは礼儀正しい良い子だな」
 褒められてオビ=ワンの顔がちょっと嬉しそうになる。
「これでいいんだろう、クワイ=ガン?」
「は、はい……」
 なすすべもなく生返事をし、クワイ=ガンは目の前にいながらにして手の届かない我がパダワンを見つめた。
 ドゥークーはまるで見せつけるかのように膝の上の天使を抱きかかえ、顔をのぞき込む。
「ほら、な?」
「…………ほんと?」
(ああ……オビ=ワン……そんな目で見ないでくれ……私が悪かった……)
 涙目で声を震わせるオビ=ワンに謝り倒したい思いでいっぱいのクワイ=ガンは、何も言えずただ黙って首を縦に振るばかりだった。
「よかった」
 目の端に涙をにじませながらにこっと笑う天使を見て、クワイ=ガンの心は張り裂けんばかりだった。
(ああっかわいい……かわいいかわいい私のオビ=ワン……!!)

「ほら、お礼もちゃんと言ったのだから、好きにしなさい」
「あいっ!」
「どれがオビ=ワンの好きなものなのか、教えてくれるかな?」
「はぁい……んーと、んーと……」
 機嫌を直し、再び袋の中を物色し始めたオビ=ワンを見て、クワイ=ガンもほっと息を吐く。ドゥークーを睨みつけてやったが、なんだかオビ=ワンと一緒になって楽しそうにお菓子を選んでいるので、悔しくて涙が出そうになってしまった。奥歯をぐっと噛んで堪え、1人掛けの小さな方のソファに所在なげに腰を下ろした。

「わあ、ましまろ!」
 薄いピンク色のセロファンの袋に詰め込まれ、リボンがかけられたマシュマロが出てくる。オビ=ワンの大好物だ。
「これが好きかな?」
「うん! あ、これも好き!」
 棒付きキャンディはオビ=ワンの口にも入る大きさで、しかもミルク味は一番のお気に入りだ。
「ほうほう、よかった。それから?」
「あ〜っ、みんと!」
 薄いプラスチックの管に入っている水色のミントゼリーは、涼しげにきらきらと光っている。
「こういうのが好きなのか。他にはあるかな?」
「うんっ! あと、あと……しなもんがある〜!」
 小さなシナモンロールは茶色い油紙に包まれている。これもまたオビ=ワンの大好きなお菓子だ。

(ああ……しかもアイレットオールのシナモンロールだ……毒マスターめ……)
 なぜよりによってオビ=ワンが一番好きな店のそれを選んで買ってくるのだろう。偶然だろうか、それとも誰かから聞いたのだろうか。いずれにしろオビ=ワンを喜ばせるには十分すぎるほどのラインナップだ。

「ぜんぶ、おびの?」
「ああ、マスターがいいと言ったら食べるんだぞ。いっぺんに全部食べたらきっとお前のマスターが怒り出すからな」
 ちょっぴり顔をしかめて、ドゥークーが脅す。マスターのさっきの怒り顔を思い出して、オビ=ワンは体を縮めた。
(ああああオビ=ワン……そんなに怯えて……)
 何もかもがこのど腐れマスターの思うがまま、手のひらの上で踊らされている。ドゥークーの膝の上に乗せられているパダワンを取り返すこともできずに、クワイ=ガンは涙の味を噛みしめていた。注文したくせに手を付けられないでいるまずい紅茶を独りですする。

「あっあっあっ……」
 袋の中身を漁っていたオビ=ワンが、底の方に埋もれていた細長い銀色の袋を開け、嬉しそうに声を上げた。
「んん? 今度は何を見つけたのかな?」
 ドゥークーはすっかり心を許しきっているオビ=ワンの柔らかい腕だの太腿だのを、手で撫でたり揉んだりしている。肩越しに袋の中をのぞき込み、狙ったようにそのぷにぷにとしたほっぺに自分の頬をすり寄せた。
(ぎゃああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!)
 クワイ=ガンが心の中で絶叫していることなど、オビ=ワンが知るはずもない。

「これ! くっくる!!」
「……ああ、クックルが好きなのか」
「うん! これいちばんすき!」
 銀の袋の中には、クックルというお菓子が何十本も入っていた。クックルとは鉛筆くらいの長さに伸ばして焼いた細いプレッツェルにチョコレートやココアをまぶしたもので、フードマーケットでも定番の人気商品である。基本のプレッツェルはだいたい同じなのだが、トッピングされるチョコレートやパウダーが何種類もあって、新しい味が出るたびに子供たちの間で話題になったりする。

「たくさん種類があったからな。面白いから全部買ってみたんだが」
「あっ、ぴんく! これしらないのっ」
 色とりどりのクックルの中から、オビ=ワンがピンク色のそれを見つけ出した。今まで何度もクックルを買ってやっているが、ピンクというのはクワイ=ガンも初めて聞いた。チョコレートにいちご味でも付けてあるのだろうか。
「うん、なんだか子供たちが争って買っていたな。新しいのかな?」
「おびのしらないのっ」
 オビ=ワンは興奮してドゥークーを見上げる。

「そうかそうか、ほら、味見してみなさい」
 ドゥークーは嬉しそうに苦笑すると、ピンク色のクックルを取り出して……。























 ぱくっと、オビ=ワンの小さな口に咥えさせた。

















(ぎゃああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ※♯♪*#@々仝〆БЛ$♂☆!!???)
 思わずすごい勢いで立ち上がり、声にならない悲鳴を上げる。

(それを……それをしていいのは私だけなのに〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!)

 「ますた、ください」と言ってねだるオビ=ワンを膝に乗せているときが、クワイ=ガンの至福のひとときだった。そのさくらんぼのような可愛いおくちに、綺麗な色の付いたクックルを一本ずつ咥えさせていく。お行儀良く並んでいるオビ=ワンの小粒の白い歯がさくさくと軽快な音を立ててそれを食べていくさまを見るのは、何物にも代え難い幸福だった。

 オビ=ワンにクックルを食べさせる。
 その権利は、自分にしかないと思っていたのにっっ!!!

「ドゥー……クゥー……」
 青い顔でゆらりと毒マスターを見下ろし、仁王立ちになる。すさまじいまでの殺気がドゥークーを襲った。

 しかし、ドゥークーは怯まない。鬼の形相で立ちはだかるクワイ=ガンをちらり、と横目で見ると、にやっと笑ったのだ。
 そしてとどめとばかりにオビ=ワンを抱きかかえる。

「良かったな、オビ」
「あいっ!」
 とうとうオビ=ワンを「オビ」と愛称で呼んでしまう。しかもその上。
「良い子だな、オビは」
「あいっ!」

「そうだ、うちの子になるか? うちの子になりなさい、オビ」






























 とうとうクワイ=ガンがブチ切れた。






「ウチのはあげませんっっっ!!!!」
 乱暴に天使のパダワンを奪い取り、ぎゅうっと力いっぱい抱きしめる。何事かと驚くパダワンのことを考える余裕もなく、その柔らかなほっぺにぐりぐりと自分の頬をこすりつけた。

「オビ=ワン! こんな奴の子になるなっ!!」
 半ば怒声に近い勢いでオビ=ワンに言いつける。驚きに目を見開いたオビ=ワンを見てふと理性が戻るが、言ってしまったものはもう戻らない。

「ますた…………こわいー……」

 その一言が完全にクワイ=ガンを打ちのめす。謝ることも機嫌を取ることももうできそうになかった。このまま怯えたパダワンを抱きしめていたら、きっと怖がられて嫌われるだろう。わかっているのに、どうしても抱いた腕が放せない。
 クワイ=ガンはうなだれて、独り言のように呟いた。

「すまない……オビ=ワン……怒鳴ったりして……」
 謝っても怯えた子供には伝わらないだろう、とクワイ=ガンは唇を噛んだ。なぜだか分からないけれど怒っているらしいマスターを、オビ=ワンは言葉もなくじっと見つめている。
 その純粋な瞳に、なんと言っていいか分からなかった。
 沈黙が長く感じられる。クワイ=ガンにはこの一瞬が永遠のように思われた。

「ますた」
 腕の中のオビ=ワンが口を開く。
 手に握ったかじりかけのクックルをマスターに差し出して、天使はにっこりと微笑んだ。

「ますたも、たべる?」
「オビ………………」
 鼻の奥につーんとした痛みを堪えて、クワイ=ガンはオビ=ワンの手からクックルをひとかじり、食べさせてもらう。甘いいちごの味が舌の上に広がった。
「おいしいね、ますた?」
 腕の中で嬉しそうに笑っている天使のパダワンに、ただただ頷くことしかできないクワイ=ガンであった。

「ますた、もっとたべる?」
「ああ、そうだな」
「おびもたべていい?」
「ああ、いっしょにたべよう」
 ささやかでほほえましい会話を交わす二人を見ていたドゥークーが、くっくっと喉で笑う。
「おやおや、本当にオビは良い子だな」
「はぁい」
 クワイ=ガンの腕の中からドゥークーにも惜しみなく天使の笑顔を振りまくオビ=ワンを見て、クワイ=ガンが渋面を作る。そんな元パダワンの取り乱しぶりを見て、毒マスターは楽しそうにまたくっくっと喉で笑った。

「さてさて、私はそろそろ退散するかな」
 ドゥークーはやれやれ、と腰を上げる。
「また時間ができたら寄らせてもらうことにしよう」
「かえっちゃうの?」
 マスターにクックルを食べさせてあげながら、オビ=ワンが尋ねた。ドゥークーはおかしそうにクワイ=ガンに視線を向けて、
「ああ、必ずな」
 と答えた。

「ミライエイゴウニドトコナイデクダサイマスタードゥークー」
「またきてくださいっ」
 呪いの言葉を詠唱するクワイ=ガンと、元気よく答えるオビ=ワンの声が重なる。
「ああ……また何かいいものを持ってきてあげるからな、オビ」
 ドゥークーは笑いを殺しきれずに肩を震わせながら、名残惜しそうに部屋を辞していった。

「オビ=ワン……」
 悪魔が去って、全身の力が抜けたようにクワイ=ガンはソファに崩れ落ちた。ぐったりと体を横たえ、オビ=ワンを腹の上に乗せて、可愛い我がパダワンの顔を下からじっと見つめる。どんな角度から見ても可愛いものは可愛い。
「オビ……」
「ますた」
 この子に自分をマスターと呼ばせていることができたなら、それこそ悪魔に魂を売ってもかまわない、とクワイ=ガンは本気で思った。

(……魂でも何でも売りますから、この子だけは私から奪わないで下さいマスター・ドゥークー)

 今回ばかりは本当に心の底から疲れたらしい。気弱なことを朦朧とした頭で考えながら、オビ=ワンの柔らかい髪の毛を撫でてやる。

「ますた」
(オビ、お前、ドゥークーの子になるか?)
 喉まで出かかったその言葉を、我慢して飲み込む。万が一にも「うんっ」などとにこやかに言われようものなら、おそらく正気ではいられまい。

「ますた、ますたっ」
「オビ……愛してるぞ」
「はぁい」
 オビ=ワンは可愛く頷くと、横になったマスターの体の上にぺったりとうつぶせに寝そべった。
「ますた、だいすき」
(ああ……幸せだ……)

 ぐったりとしたクワイ=ガンとはしゃぎすぎて疲れたオビ=ワンは、まるで亀の親子のように重なり合ったまま、いつしか淡いまどろみに誘われる。

 お菓子を広げたテーブル、柔らかいソファ。
 大好きな人の体温。
 かすかに甘い匂いが漂う部屋で、二人はとろとろと幸せな眠りに身を任せる。

「ますた……」
 小さな天使が見る夢はきっと、たくさんのお菓子を大好きな人と一緒に食べる夢。
 オビ=ワンの夢に出て来た人が誰だったのか……?

 それは、オビ=ワンだけのヒミツ。




<<END>>



ごめんなさーい! 先に謝ってみよう。7777HITの黛誓さんからキリリク「クワオビで「ウチのはあげません」という台詞」でした。そして設定はリンガフランカの服部亘さんからお借りした「たまひよ。」でした。こ、こーゆーのってキリリクで許される?? いや〜、最初は違うお話を考えてたんですが、「ウチのはあげません」っていうのがこのDQOにぴったりだったもので……(笑)。黛さん、怒ったらゴメンナサイ。でもこれもまた運命ということであきらめてみて下さい。もしなんでしたら改めて別のリクも受けますので……。
ちなみに「クックル」も黛さんからお借りしてきました(笑)。パクリ三昧? そんなに好きなんだね私……といった感じですが、黛さんの作品に出てくるポッキーのようなお菓子のことで、明日狩りのお気に入りアイテムなんですよ〜vv オビ幸同盟に頂戴している「Who is the winner?」という作品がソレです。まだ見てない人は今すぐGO! 私の周りには思わずパクってしまう……もとい、筆が進む材料がたくさんあって嬉しいですv

今回もキリキリ舞いさせられるクワイマスターが楽しく書けました。天使ちゃん、ちゃんと可愛く書けているでしょうか? ちょっぴり小悪魔入ってきたような気がしますが……子供のすることだから無邪気なだけだと思います。おじいちゃんはただクワイで遊びたかっただけなのでしょうか? それとも本当にオビを……? 気になるところですが、続編? 3年後かな?(笑)。
そしてそしてっv 前作公開後に原作の服部さんから激励のお言葉↓を頂戴しましてvv も〜パクリ冥利に尽きますな! 盗んでも叱らず、銀の燭台まで差し出す神父のようですな! レ・ミゼラブル! リーアムーッ!!(錯乱中)。 いやほんと、怒られるかと思ってたので喜んで頂けて何よりでした。こんな可愛いものもらえるならアタイなんだってするよ! でもネタはこれで尽きたから続きがあっても3年後(しつこい)。





「ああああああ〜〜〜〜〜っっっかわいいかわいいっ!! 私のぱだわんっ!」
Byクワイ=ガン・ジン

マヂ可愛すぎるって……。