師弟の在り方     BY明日狩り

 今日のケンカは珍しく長かった。
 いさかいの絶えない師弟ではあるが、物分りのいいパダワンが折れて口論も終わりになるのが常であった。

 ところがどうしたことか、今日に限って、クワイ=ガンの部屋から聞こえてくる言い争いはますます白熱しているようである。
 廊下まで聞こえてくるほどの大声をあげて、マスターもパダワンも一歩も引かない。

「だから! あなたはもう少し評議会の助言を容れるべきだと言っているんです!」
「ほう、パダワンの分際でここまでマスターに意見するのか」
「僕が聞いてほしいのは僕の意見じゃなくて評議会の……」
「評議会の意見を聞け、というお前の意見を聞いてほしいのだろうが」
「それはそうですけど……ああもう、そうじゃなくって!」

 平生ならば決して声を荒げることのないクワイ=ガンさえ、いらだたしさを隠さないで激しい感情をオビ=ワンにぶつける。
 オビ=ワンは言葉の伝わらないもどかしさにやはりいらだたしさを感じながら、それでも今日ばかりは一歩も譲らない。

「だから……だから僕は別にあなたを責めてるんじゃなくて……」
「弟子に非を責められるようではマスター失格だな。私は若きパダワンに生き方を矯正されねばならぬほど至らないジェダイマスターか?」
「ち、違……」

 言葉に詰まって眉間にしわを寄せるオビ=ワンに、クワイ=ガンはかぶせるように言葉を連ねる。

「お前の言いたいことはわかっている。しかし私は私が正しいと判断したことをしているだけだ。そしてそれが間違った結果にならないよう、最善の努力を費やしている。それのどこが悪いのだ?
 評議会は安全性を第一の基準にして物事を判断する。私だってもちろん、できる限り安全な方法を採りたいよ。しかしそれだけではどうしようもないことだってあるのだ。それはわかるだろう、オビ=ワン?」

「は、い……」
 怒涛のような語気にたじろぐオビ=ワンに、クワイ=ガンは攻撃の手を休めない。
 腕組みして椅子に座ったまま、きつい表情で立ったままのオビ=ワンを睨み上げる。

「それ以外どうしようもない、という状況での私の判断を否定されたくはないな」
「そうじゃありません。先ほどの件ではマスターの判断は結果的には正しかったと、評議会も言って……」
「だがそれでもごちゃごちゃと説教されたな。お前はそれを聞けというのだから、私の判断が間違っていたと言いたいのだろう?」
「だからそれは誤解です! 僕は……」
「例えそうでなかったとしても、私のやり方が気に食わないというのはお前も評議会も同じだな」

「マスター!!」

 オビ=ワンがことさら大きな声を上げた。それはもはや悲鳴に近い声だった。

「僕はあなたがあんまり評議会の意見を無視するから、もう少し折り合いってものをつけてほしいと思っただけなんです」
「偉くなったな、パダワン。そういう物言いが弟子らしくもない……」

 泣きそうな表情のオビ=ワンが振り絞るように叫んだ。

「マスター! 僕は……僕は、あなたがもっと世間に認められたらいいなと思っただけなんです!」

「余計なことだ」

 売り言葉に買い言葉、の勢いだったが、その一言でオビ=ワンは冷水を浴びせられたように硬直した。


 突如訪れた重い沈黙が、分厚い壁のように2人の間に立ちはだかる。
 クワイ=ガンは勢いから出てしまった言葉にいささか後悔しながらも、否定するタイミングをつかめない。
 オビ=ワンは石のような表情でマスターの顔をじっと凝視している。いや、固まった視線は何を見ているか定かではなかった。

 そして。

「マスター……」
 低い声で、オビ=ワンがつぶやいた。
 それはクワイ=ガンが初めて聞く声だった。オビ=ワンの声だけれど、かつて聞いたことのないトーンで。

 そして、かつて聞いたことのない言葉を。





















「あなたなんか…………大嫌いだ……!」



























 走り去るオビ=ワンにかける言葉すらなかったのは、あまりに驚いて思考が追いつかなかった、ただそれだけの理由だった。
 開きかけたドアを乱暴にこじ開けて出て行くオビ=ワンの姿をスローモーションのように眺めたまま、クワイ=ガンは空回りする思考の中で何度もオビ=ワンの言葉を反芻していた。



『あなたなんか…………大嫌いだ……!』



 無機質な単語が脳内を駆け巡るが、その意味がわからない。
 わからないような気がする。

 クワイ=ガンはいつのまにか硬く握っていた己のこぶしに気づくと、のろのろと手を広げた。
 血の気の失せた手のひらにはくっきりと赤く、爪痕が残っていた。










 部屋を飛び出したオビ=ワンは闇雲に聖堂を駆け抜けた。
 誰かが「オビ=ワン」と声をかけてきたような気もするが、耳に届く前に体はもうそこを走り去っている。

 何もかもを置き去りにして、オビ=ワンは走り続けた。
 頭に浮かぶマスターの視線が、表情が、声が、オビ=ワンを苛む。
 走り続けて、それでも何ひとつ振り切ることができないと悟ったとき、自然と足が緩み、ゆるゆると、そしてよたよたとオビ=ワンは失速した。

 力の入らない足がもつれ、体がよろめく。

「おっと」

 倒れそうになった体を大きな腕が支えた。

(マスター?)
 瞬時にそう思い、そしてそれが己のマスターであるはずがないことを思い出して、オビ=ワンの目頭にかあっと熱いものがこみ上げる。
 にじみそうになる涙をこらえて顔を上げると、そこには不思議そうな、そして何事もなかったかのような、いつもの表情のマスター・メイス・ウィンドゥがいた。

「どうした、オビ=ワン・ケノービ」

 深くて優しい声が胸に沁みる。
 オビ=ワンはこんこんとこみ上げてくる熱を隠すように、そのままの姿勢でメイスの腕にぎゅっとしがみついた。
 メイスも何も言わずに、黙ってオビ=ワンの体を支えてやる。

 まだ成人には遠い少年の体は、両腕に全体重をかけられてもたやすく支えてやることができた。

 何も聞かず、何もせずに、メイスはオビ=ワンの体を抱いていてやる。
 体温の温かさが静かにゆっくりと、オビ=ワンの心を落ち着ける。

「……すみませんでした、マスター・ウィンドゥ」
 ほっと息を吐いてオビ=ワンの腕から力が抜けた。
 メイスも少しばかり抱き上げていた両腕を下ろし、オビ=ワンを放してやる。

「どうした、オビ=ワン・ケノービ」
 再度同じ言葉で語りかけ、オビ=ワンの顔を覗き込む。

 マスター・ウィンドゥは評議会のメンバーで、しかもクワイ=ガンに対する批判は人一倍強い。オビ=ワンは普段からそう思っていた。
 どうした、と問われて、あふれそうな自分の気持ちをいっそ吐き出してしまいたい衝動に駆られたが、相手がメイスであることがオビ=ワンの口を閉ざす。

 うつむき口ごもるオビ=ワンを見て、メイスはわずかに片眉を上げた。

(またクワイ=ガンか……)

 言われなくとも、大概のことは想像できる。またマスターと意見の食い違いがあって、飛び出して来たに違いない。

「お前は若いのにしっかりしているな」
 つい口を吐いて出た言葉に、オビ=ワンがはっと顔を上げて反応する。
「そんなことありません。むしろ全然……」

「またクワイ=ガンと口論したのだろう?」
「……そうです」
 申し訳なさそうなオビ=ワンの表情に、メイスは唇の端を上げて微笑した。

「いや、君がもっとあの荒くれジェダイマスターに意見してくれれば、もうちょっとあれも考えてくれるだろう」
「でも! 僕みたいなただのパダワンがマスターに意見なんて……意見だなんて……」

 落ち込むオビ=ワンの肩に手を置いて、メイスは続ける。

「しかしお互いの意見を交換し合うのに、マスターもパダワンもない。自分が正しいと思ったらそう主張するべきではないかな?」
「そう……思います。でも……マスターは僕よりずっと大人で、知識も経験も豊富で、僕なんかの考えることは全部わかっていると思います」
「そうではない、パダワン。人と人とはみな違っているのだ。誰にだって持っていないものがある。クワイ=ガンが持っていないものを、お前はたくさん持っている。それに若い心でしか思いつかないようなことだってたくさんあるものだ」

 そうだろう?と問い掛けるが、オビ=ワンは生返事で眉間にしわを寄せる。
 納得いかない様子のオビ=ワンに、メイスは切々と説いた。

「ならば逆に問う。……オビ=ワン・ケノービ、今日はどんな話でクワイ=ガンと口論になったのかな」
「それは……」

 ぶかぶかのローブの袖口をいじっていたオビ=ワンはきゅっと拳を握り、メイスから目をそらした。
 マスター・ウィンドゥには、言えないことだと思う。

「いいから、遠慮はいらない。言ってみなさい」
 しかしメイスの優しい声に、オビ=ワンは重い口を開いた。

「その……評議会の意見にもう少し耳を傾けたほうがいいと……」

 オビ=ワンの言葉にメイスはほほぅ、と目を細めた。
「それはありがたい意見だな、パダワン。感謝するぞ」
「でも、そんなことは僕に言われなくてもマスターだってわかってるはずなんです。パダワンの僕が言うべきことじゃなかった」
「それは違う」

 メイスはゆるやかに首を横に振った。

「評議会の立場から言うのではなく、これは私個人の意見だがな。……私は、パダワンもどんどんマスターに意見するべきだと思っている。そしてマスターは然るべき論理でこれに応えてやる。マスターは自分と異なる視点からの意見に耳を傾けるべきだし、パダワンはマスターの豊かな経験と知識に敬意を払うべきだ。そうして師弟はお互いを高めあうことができるのだよ」

「お互いに……高めあう……?」
 マスターが未熟なパダワンを育てるのがジェダイの師弟関係だと、オビ=ワンは思っていた。
 パダワンによってまたマスターも成長するなどと、にわかには信じがたい。
 少なくともクワイ=ガン・ジンというマスターは、自分のようなパダワンによって何かを変えられたりする人ではないような気がしていた。

 マスターが、僕によって変わる……?

「オビ=ワン。お前のマスターはいささか頑なすぎるきらいがあるが、お前によってずいぶん変わってきている。そもそもあいつを深い挫折から引き上げたのはお前なのだから」
「……マスター」
「だから臆することなくクワイ=ガンに意見してやってくれ。我々ではもう聞く耳も持たれてないからな」

 そう言ってメイスは苦笑した。
 オビ=ワンは恥ずかしさに顔を赤らめて、頭を下げる。

「す、すみません……」
「いや、悪いのはお前ではなく、お前のマスターだ。……まったくお前はアレの世話女房のようだな」
 くすくすと笑いをかみ殺すメイスに、オビ=ワンはさらに顔を赤くしてもぞもぞと居心地の悪そうな顔をしている。

「とにかく、もう一度マスターと話し合ってみなさい。それでも駄目だったらもうあんなマスターなど見捨ててしまえ」
「そ、そういうわけには……っ!」
 冗談を本気にして慌てるパダワンをほほえましく思いながら、メイスはうなずいて見せた。

「まあ、お前だったら大丈夫だろう」
「……はい、わかりました。マスター・ウィンドゥ」

 ぺこり、と丁寧に頭を下げて帰るオビ=ワンの背中に、メイスはあらん限りのフォースの加護を祈っていた。










 再びマスターの部屋へ行き、声をかける。
「マスター……」
「入りなさい、オビ=ワン」

 扉を開けると、クワイ=ガンは先刻オビ=ワンが飛び出したときと同じ場所に、同じ姿勢で座ったままだった。
 だるそうに椅子の背もたれに身を預け、肘掛に頬杖をついている。
 そして視線だけをオビ=ワンのほうに向け、軽くまばたきをした。

「どうした」
「いえ、失礼なことを言って申し訳ありませんでした」
 気を抜けばうつむきそうになる自分を励まして、オビ=ワンはまっすぐマスターの目を見て話した。
 クワイ=ガンは姿勢を崩さず、黙ってオビ=ワンの言うことに耳を傾けている。

「……失礼なことでしたが、それでも僕の本気だったんです。だから僕は否定はしません。でも、それが失礼な発言だったことだけは謝ります」
 言いながら自分でもわけがわからなくなってきた。謝らなければいけない、と思う自分と、自分の主張をぶつけるべきだというマスター・ウィンドゥの意見が頭の中でごちゃ混ぜになる。

 マスターはもう少し評議会の意見を取り入れる努力をして、もう少し世間に認められるようになってほしい。
 こんなに素晴らしいマスターが、評議会をはじめジェダイの間で異端として扱われているというのは、オビ=ワンにとって我慢ならないことだった。

「お前は……」
 重い口を開いたクワイ=ガンに、オビ=ワンの体はびくっと硬直した。
 冷たい表情で、オビ=ワンに鋭い視線を投げかける。

「お前は、今、本気だったと言ったな……」
「はい、本気です。全部、本気でした」
「そうか……」

 オビ=ワンの勢いのいい返事とは裏腹に、クワイ=ガンは沈むように目を閉じた。

「マスター……?」
「オビ=ワン」
 
 クワイ=ガンは黙って右手を上げ、指先だけでパダワンを呼んだ。小走りで駆け寄り、オビ=ワンはクワイ=ガンの傍らに立つ。

「オビ=ワン」
「ハイ、マスター」

「私が何を考えているか、わかるか?」

 突然そう問われて、オビ=ワンも返答に困る。
 けれど、大体何を考えているかはわかった。

「僕のことを、どこまでも生意気で反省のないパダワンだと……呆れているのではないでしょうか」

 言いながら、こみ上げてくる涙を堪えられなかった。
 言葉の最後に一粒の涙をこぼして、オビ=ワンはうつむく。

 いつもなら、ここで「さっきは僕が言い過ぎました」とオビ=ワンが折れて口論は終わりになる。実際どんな言い争いになったとしても、オビ=ワンはマスターに意見するという自分の態度そのものに常に引け目を感じているのだから、勝てるわけがない。
 けれど今日は違っていた。「マスターがもっと世間に認められたらいい」と思うオビ=ワンは、それだけは譲れないと感じていたし、そしてマスター・ウィンドゥはお互いよく話し合いなさい、と言った。

 だからここまで強情に、意見を曲げずに通してしまった。

 ……マスターは怒っているに違いなかった。いや、怒りを通り越してあきれ果てているとさえ思われた。

「僕は……僕は……マスター……」


 『僕を嫌わないで』


 その一言が何度も喉まで出かかっては潰される。
 ここまで強情を張ったのなら、最後まで張り通さなければならない。中途半端に「嫌わないで」などと言うのなら、初めから一言謝って終わりにするべきなのだ。

 オビ=ワンはマスターに嫌われるのが怖くて、見放されるのが辛くて、体を震わせながら唇を噛んで耐えていた。

「オビ=ワン」

 クワイ=ガンが長くて重いため息を吐いた。 
 気だるく尊大な印象を与えていたマスターが、それだけのことでなぜかぐったりと元気のない様子に見える。
 オビ=ワンはちょっと首をかしげた。

「マスター?」

 クワイ=ガンは目を開けた。
 その蒼い双眸がかすかに、濡れて光っているように見えたのは気のせいだったのだろうか?

「オビ=ワン!」
「あっ」
 急に抱き寄せられて驚くオビ=ワンにお構いなく、クワイ=ガンは腕の中のパダワンを確かめるように何度もきつくその体を掻き抱いた。

 抱きしめて、抱き寄せて、頬を、唇を、オビ=ワンにすり寄せる。

 何が起こったのかわからず、オビ=ワンはただ目を見開いてマスターのなすがままに任せていた。

「オビ=ワン……私の優れたパダワン」
「はい…………ええ!?」

 一瞬、言葉の意味が理解できずに受け流してしまったオビ=ワンは、弾かれたように顔を上げる。
 そこには苦笑と悲しみと冗談の入り混じったような、複雑な顔をしたクワイ=ガンがいた。

「私が何を考えていたか、教えてやろう」
「え、あ……」
 クワイ=ガンの苦笑は、自嘲のような悪戯っ子のような不思議な表情だった。















「お前に『あなたなんか大嫌いだ』と言われて、今の今までずっと落ち込んでいたのだ」




「え、ええ、えええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」




 大声を上げて驚くパダワンに、クワイ=ガンが破顔する。

「ははは、驚いたか」
「驚きますよ! なに馬鹿なこと言ってるんですかマスター!?」
「馬鹿とは失礼だな。私はそれほどまでにあの一言がショックだったのだ」
「そ……だって……」

「本気だったのだろう?」
 そう問い掛けるクワイ=ガンの腕の中で大げさに首を横に振って、オビ=ワンはクワイ=ガンにすがりついた。

「そこは本気じゃありません! 本気だったのはそこまでの話です。それはただの……捨て台詞ですっ」
「しかしお前はすべて本気だったと言ったな」
「だって……そんなこと言ったの忘れてたし……あっ」

 言い訳するオビ=ワンの顎をつかんで、唇を重ねる。
 有無を言わさず割り込んでくる舌を受け入れて、オビ=ワンもおずおずと舌を絡ませた。

 しばらく、静かな部屋に吐息だけが漏れる。



「……んはぁ……マ、スター……」
「悪い奴だ。忘れていたとはひどい」
「だって……くふぅ……」

 顔を真っ赤にしたオビ=ワンを満足げに眺めて、クワイ=ガンはようやくいつもの自信家の顔になった。

「私はとてもショックだったんだぞ」
「だって……だってマスターがひどいこと言うから……」
「そうだな」

 え?とオビ=ワンが顔を上げる。
 クワイ=ガンは笑っていた。

「お前の言うことがあんまり正論だったので、悔しくてつい大人げないことを言ってしまった。私が悪かった。許してくれ、パダワン」
「そんな……マスター……」
「それから私のことも嫌わないでいてくれると非常にありがたいのだが」

「大好きです!」

 真剣になるあまり大声を出すパダワンを抱きしめて、ほお擦りしてやる。

「ありがとう。感謝するべきだった」
「マスター……」
「評議会の言うことは一理ある。けれど奴らに言われるとどうしてもジェダイの体面を守りたいがための説教に聞こえてしまってな。
 でもお前は……私のためを思って言ってくれる」

 そしてクワイ=ガンは小さな声で「ありがとう」と、オビ=ワンの耳元にささやきかけた。

 何度も首を縦に振って、オビ=ワンはマスターの首に抱きついた。


「マスター……マスターが大好きですっ」
「私もだよ、オビ=ワン」

 そして再び唇を重ね、温かい気持ちを交わす。
 抱きしめた腕にいつもと変わらない愛情を感じて、オビ=ワンはようやく心の底から安心することができた。














 そして。
 その騒動の結果を聞かせろ、というメイスのために、クワイ=ガンは大いに話を膨らませて語ってやった。
 5杯目のお茶をお代わりしながら、そのときのオビ=ワンがいかに切ない顔をしており、それがどんなに己の心を揺さぶったかということを延々としゃべり続ける。

「クワイ=ガン。それで結局我々評議会の言うことは聞く気になってくれたのか?」

 もう結構だ、といわんばかりのメイスが、最後にそう尋ねると、

「オビ=ワンの言うことなら聞いてもいいがな」
 とあっさり流される。

「オビ=ワンが我々のいうことを聞け、と言ったんだろう?」
「私はオビ=ワンのいうことを聞くんだ。お前のいうことじゃないぞ」
「だから……」
「まあ私だってできる限り、最善の努力を尽くして、お前たちが眉間にしわを寄せないですむような方法を考えているさ。今までだって、これからだってずっと同じだろうな」

 胸を張ってお茶を飲むクワイ=ガンに、メイスはがっくりとうなだれた。

 いつかオビ=ワンがこの屁理屈ジェダイマスターをもう少し扱いやすい人間にしてくれることを……あまりにはかない望みではあったが……祈らずにはいられないメイスであった。


<<END>>




服部亘さんの4000HITキリリクでした。「文中のどこかに『あなたなんか大嫌いだ』というセリフを使って」というリクだったのですが、いやぁいい意味でとても難しかったです! だってクワオビで「あなたなんか大嫌いだ」って台詞、あまりにもおいしいと思いませんか!? アナオビならあたりまえのこの言葉も(笑)、クワオビでやるとなると使い方いろいろ、おいしすぎです。
ひとつにはこの台詞をあまり重要ではない位置に持っていこうかとも考えたのですが(ぇちシーンでちょっと手荒く扱われたオビ=ワンが泣きながら言うとか。ただのベッドクライですな)、せっかくのリクエストですのでキーワードに据えさせていただきました。ちょっとクワイ師匠が馬鹿っぽくなってしまいましたが、自分的には大満足。あんなクワイ師匠では駄目でしょうか服部さん……(汗)。私はかっこマンなクワイ師匠も大好きですが、ちょっぴり情けない面も見せちゃう師匠もまた愛しております。
というわけでやたら長いだけのSSになってしまいましたが、お楽しみいただければ幸いです……びくびく。


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