キャラメルシナモンロール     BY明日狩り

「ただいま。みやげだぞ、オビ=ワン」
「うわぁ、マスター!」

 クワイ=ガンが差し出したフードマーケットの紙袋には、まだふかふかと温かい湯気を立てている焼き立てのパンが入っていた。

 笑顔のほころぶオビ=ワンを見ると、今日の疲れもどこかへ吹き飛ぶような心地がする。

 今日は最高評議会とのディスカッションだった。
 もちろん言い争いになった。
 ジェダイコードの解釈の相違だとクワイ=ガンは主張しているが、クワイ=ガンの解釈が相当自己流であったことは想像に難くない。

 こんな日は必ずと言っていいほどクワイ=ガンは街へ降り、お菓子やパン、フルーツといったものを買って帰る。
 そしてオビ=ワンが喜ぶ姿を見て心を癒すのである。

「あっ、アイレットオールの店の新作!?」
「ああ、新しいのが出たというのでひとつ貰ってきた。そういうのは好きか?」
「大好きですっ!」

 甘いものが大好きなオビ=ワンは、お気に入りの店の新作と思わぬところで出会えて相当喜んでいるらしい。
 紙袋の中のものをひとつずつ出しては菓子皿に乗せ、並べて楽しんでいる。

 オビ=ワンがよくその名前を口にする店で「只今焼き立て」の看板が出ているのを見て、迷わず入ったクワイ=ガンの判断は間違っていなかったようだ。

 菓子ともパンともつかない甘そうなものが並び、どれから食べようかとオビ=ワンが目を輝かせて見入っている。
 普段は真面目で努力家のパダワンも、こんな時ばかりは子供じみた様子も隠さない。
 最近はすっかりたくましくなってきたかな、と思っていたのだが、この様子では当分パダワンのブレイドも取れないだろう。

 クワイ=ガンは笑いをかみ殺して、真剣にパンに見入っているオビ=ワンに声をかけた。

「パンは逃げないぞ。先に私にお茶でも入れてくれ」
「あ、ハイッ。ごめんなさい。つい……」

 オビ=ワンは恥ずかしそうにキッチンに駆けて行く。
 こんな時のちょっぴり取り乱した態度がまた、クワイ=ガンの顔をほころばせる。

 長椅子に腰をかけ、ゆったりと長身を横たえる。
 さっきまで辛気臭い連中とうんざりするような議論を交わしていたことはとうに忘れていた。
 オビ=ワンの幸せそうな様子を見ていると、それだけでほっとする。

「お茶が入りました。お仕事お疲れ様です、マスター」
「ああ、ありがとう」

 オビ=ワンがテーブルの上にカップを2つ置く。
 そしてまた菓子皿の上のパンをウキウキと眺め始めた。

 あんまり楽しそうなので、ついいじめてみたくなる。

「オビ=ワン?」
「はい?」

 まだ何か?と言いたげなパダワンの様子に、笑いを隠して少し真面目な顔を作る。

「帰ってから、まだ聞いていない言葉があるな」
「…………え?」
「私が帰ってきてから『お帰りなさい』を言われた覚えがないが?」
「あっ、す……すみませんマスター……」

 幸せいっぱいだった笑顔が曇る。
 戸惑って顔を伏せ、果たして今から『お帰りなさい』を言って間に合うのかどうか、思案しているらしかった。

 真剣な様子に思わず噴き出してしまう。

「気にするな、オビ=ワン。はっはっは……」
「え……?」
「ただの意地悪だ。そんなに真剣になられると……ふふ……」
「もーっ、ひどいマスター」

 ほっぺたを膨らませて抗議する弟子を肴に、お茶で喉の渇きを癒す。
 心も体もすっかりくつろいでいるひとときに、クワイ=ガンは心の底から満足した。

「ほら、早く新作とやらを食べてみなさい」
「いいんですか?」

 些細なことではあるが、失敗してしまったという事実がオビ=ワンの中で引っかかっているらしい。

「遠慮するなら私が食べてしまうぞ?」
「あー………………ダメです」
「だろう? 温かいうちに食べなさい」
「はいっ」

 ようやく笑顔が戻ったパダワンは、いそいそと菓子皿を引き寄せ、迷わず「新作」を手に取った。
 くるくるとうず巻き状のパンの上に、こげ茶色のソースがかかっている。

 胸の鼓動がこちらにも聞こえてきそうなくらいどきどきした顔で、甘そうな菓子パンにかぶりつく。

「……………………」
「うまいか?」
「………………………………おいひい」

 最初の一口を長々と味わいつづけているオビ=ワンは、もぐもぐしたまま満面の笑みをマスターに見せた。

「マスター! これすごくおいしいですよ! ここのシナモンロールはシナモンがたくさんでいつもすごくおいしいんですけど、パン生地がビスケット風になってて前よりちょっと小さくなったかなって思ったんです。でも歯ごたえがあってサクサクしてて前よりお菓子っぽくなった感じで、それにキャラメルソースがかかってて香ばしくて甘くておいしい! それに……」

 とうとうとシナモンロールについてしゃべりまくるオビ=ワンに、うんうんとうなずいて笑顔を返してやる。
 おいしいものの話になると、オビ=ワンのボキャブラリーは驚くほど尽きなかった。



 お茶を飲みながらシナモンロールのおいしさについて語るパダワンとともに、今日もクワイ=ガンの豊かな時間が過ぎていくのであった。





追記。

「ああ、疲れた……」
 部屋へ帰ると、思わず弱音が出る。
 メイスは凝った肩をぐるぐる回しながら、今日もまた悩みの尽きない1日だったとうんざりする。

 もう少し何とかならないのか、あの荒くれジェダイは!

 ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。
 どこまでも評議会の言うことを聞こうとしないクワイ=ガンの態度に、今日もメイスの疲労は溜まるばかりであった。





   <<END>>



というわけでロッテリアのキャラメルシナモンロールはちょっと高いです(¥180−)が、おいしかったです。でも昔ケンタッキーで出してたシナモンロールのほうがおいしかったかも。でもロッテリアのはパッケージがベイビーシナモンだったのでラブ。
パダオビはいつもおなかが空いていてご馳走とか大好きっぽいので。好物はオレンジジュースとくるみパン、でもって炭酸ジュースが飲めません。げっぷが出るから。子供だから。
あと誰かメイスを助けてあげて(笑)。


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