| 「……キン、アナキン、聞いているのか?」 ぼんやりとマスターの顔を見ていたら、そんな言葉で思考がさえぎられた。 「あ、はい。今なんて言いました?」 「全く、お前ときたら……」 マスターはため息をついて両腕を組んだ。この人は普通とは少し違う、崩れたような腕組みをする。その特有の姿勢が僕は大好きだ。 「何を考えていた?」 マスターの言葉に曖昧に笑ってごまかす。 「どうやったらあなたのハートを射止められるのか、考えてました」 「……ばかパダワン」 すっかりあきれられてしまった。 でも実際、そう馬鹿にしたものでもない。僕の考えていたことは。 (あなたの心に住んでいるのは、誰なんですか?) きっと聞いたところで答えちゃくれないだろう。でもそれなら聞こえないふりをしてくれればいいんだけど。 あなたの心に居るのが誰なのか。 あなたが見ている目に映っているのは誰なのか。 僕ではない、誰なのか……。 あなたの心は今、どこにあるんですか? 「どうしてそう、ふざけてばかりいるんだ」 「ふざけてるわけじゃないんですけどね。何ていうかこう……うまく言えないな。とにかくあなたのことばかり気になるんです」 「……? お前はいつも変なことを言う」 それからあなたはあきれて、ちょっと笑った。僕がふざけていると、思っているんだ。 何で僕はうまく言えないんだろう。 ふわりと、あなたの匂いがする。 どきっとする。 髪の毛が僕の鼻先をくすぐって(あなたの身長を僕はとうに追い越しているから)、僕の心を乱す。 手を伸ばせば届くところにあなたがいて、僕は思わず両手を伸ばして抱き締めたくなる。そして抱き締めて、キスをして、好きだと言いたい。愛していると、告げたい。 僕の思うようにしてもいいですか、マスター? 「もうこんな時間か」 窓から見えるコルサントの景色は真っ赤に染まっている。一番星が遠くに光っているのを、マスターはじっと見つめている。そこに、あなたの想い人がいるとでもいうのですか、マスター? ぶるっとひとつ、身震い。 マスターがこんな風に遠くを見つめているとき、僕はふと広い砂漠の夜を思い出す。 僕に気付いたマスターが視線を僕に戻すけれど、そこに僕は映っているの? 「寒いか?」 「はい、マスター。少し……」 「お前はいつまでも寒がりだな。ここに来たときからずっと変わらない」 そういうこととは違うと、きっと言っても分かってもらえないだろう。 「では今日の修養と講義はここまで」 「ありがとうございました、マスター。また明日」 「ああ、暖かくして休みなさい」 あなたも、と言いたかったけれど、僕は結局何も言わずにマスターに背を向けた。 僕の言葉はいつでも足りないから。いつでもうまく伝わらないから。 振り返るとマスターはまた、窓の外を眺めている。何を見ているの? もう、何も見ないでよ。 そんな顔をしないで。 心を遠くへやらないで。 何も見ないで。 あなたを悲しませるものは、何も見ないで。 僕を見ていて。 <<END>> |
| 「YES-NO」 作詞 小田和正 今なんていったの 他のこと考えて 君のことぼんやり見てた 好きなひとはいるの こたえたくないなら きこえない ふりをすればいい 君を抱いていいの 好きになってもいいの 君を抱いていいの 心は今 何処にあるの ことばがもどかしくて うまくいえないけれど 君のことばかり 気になる ほらまた笑うんだね ふざけているみたいに 今 君の匂いがしてる 君を抱いていいの 好きになってもいいの 君を抱いていいの 夏が通りすぎてゆく ああ 時は 音を たてずに ふたり つつんで 流れてゆく ああ そうだね すこし 寒いね 今日は ありがとう 明日 会えるね 何もきかないで 何も なにも見ないで 君を哀しませるもの 何も なにも見ないで 君を抱いていいの 心は今 何処にあるの 君を抱いていいの 好きになってもいいの |