| 青い空の下にそびえる丘に登って、オビ=ワンは大きく深呼吸をひとつした。 久しぶりに訪れた懐かしい惑星の空気が胸いっぱいに広がり、体中を満たしていく。 わずかに汗ばんだ額に吹き付ける風が心地良くて、息を吸いながらそっと目を閉じた。 目を閉じても見える、遠くまで見渡せる青い空。 うろこのように並ぶ秋の雲が、残像のようにまぶたの奥に焼き付いている。 そして再び目を開ければ、まるで体を流れる血が洗われたような、清浄な気分になれる。 偶然、任務に訪れた地。 ここは、もう何十年も昔に、あの人と共に降り立った地だ。 オビ=ワンは若いというよりはまだ幼く、あの人はまるで山のように大きかった。 「おいで、お前にいいものを見せてやろう」 仕事が終わり、あとは帰るだけという時に、クワイ=ガンは幼いパダワンの手を引いて歩き始めた。 街を出て、郊外に向かい、更に遠く緑の原へと進む。 訳も分からず、それでも爽やかな風と鮮やかな緑と、抜けるような青空が心地良かった。 どこまでもそのまま、歩いていけそうな気がした。 やがて大きな丘の上に立つ。 空が大地の上に覆い被さるその果てまで見渡して、クワイ=ガンは 「ここだ」 と言った。 「ここは、私の大切な場所だ」 「たいせつなばしょ……」 一体そこがクワイ=ガンにとってどんな意味のある場所だったのか、今となっては分からない。 しかしその時のマスターの遠い目を思い出すだけで、オビ=ワンにとってもこの場所が大切な場所になっていた。 目に染みるような青、緑、風と雲。 ここは私の大切な場所だ。 「……………………ーっ」 風に乗ってかすかな声が届く。 振り返れば、こちらに向かって走ってくる小さな影がある。 オビ=ワンは大きく2、3度手を振り、微笑んだ。 遠い過去に向かっていた視線が、眼下の現実を見つめる。 すごい勢いで走ってくる元気のいい弟子に、「そんなに急がなくてもいいぞ」と、聞こえるはずのない声をかけてやる。 「……スター! マースター! なーにしてるんですかーっ?」 「何もしていないよ」 「きーこーえーまーせぇーーーんっ!」 「聞こえる所までおいで」 軽く笑って手を振ってやると、アナキンはスピードを上げて緑の原を一直線に駆け抜けて来る。 ひとつ大きく息を吸って。 吐き出すともう、過去のことは遠い空に溶かしてしまう。 上り坂を一気に駆け上ってくるアナキンに苦笑して、ゆるやかに近寄っていく。 追いついたアナキンは、オビ=ワンの横をすり抜けて頂上まで飛び上がっていった。 「うわぁ、高い」 「緑が好きなんだ」 丘の一番高い所で、アナキンが両手を広げて空をつかもうとしている。 そんな弟子を見上げて、オビ=ワンは目を細めた。 空のような、風のようなアナキン。 手を焼かされる、扱いきれないパダワン。 正直、辛い日もある。 いつか別れてしまうのかもしれない。 いつか、また独り残されて……。 ふと胸に湧き上がる暗雲を振り切れたのは、青を背負ってはしゃぐアナキンの姿が目にまぶしかったから そして、空の青にあの人の瞳の色が映ったから。 最愛の師に任された大切な弟子を、それだけでなく、大切だと自分で思えるこの弟子を、きっと導いていこう。 「アナキン、飛んで行ってしまうなよ」 「あはは、僕なら空だって飛べるかもね」 「止めてくれ。墜落するお前を助けに行くのは骨が折れる」 「大丈夫、もし墜落したらそのときは骨が折れているのは僕の方で、あなたじゃない」 「屁理屈を言うな」 2人で笑い合う。 軽やかに飛んであっという間に横に並んだ弟子を、軽く腕で小突いて。 そして2人、並んで丘を下りて行く。 この風のようなパダワンのために、もっと強くあろうと。 いや、それよりも、とオビ=ワンは思う。 もっと優しくあろうと。 そう、心に誓う。 「アナキン」 「なに、オビ=ワン?」 「マスターと呼べ」 「イエス、マスター」 ふざけた口調も許してしまおう。 風と共に生きるのなら、森のように雄大に。 そうありたいと、思った。 ここから逃げることもできる。 けれど、師と、自分と、弟子と。 そのかけがえのない繋がりの中で生きていたいから。 今は忘れて生きていこう。 そして振り返るのなら、最後に、最後の時に。 その時、泣こうと思う。 |
| 「風のように」 作詞 小田和正 移りゆく時の流れのままに ただ 身を任せているだけなら 高い丘の上にのぼって 風に吹かれていたい 失うことを恐れることなく 輝いてた日々を今は忘れて 高く高く 信じるままに 秋の空のように 誇りある道を歩いてく どんなときも やがていつか 一人だけになってしまうとしても ここから先へはもう進めないと くじけそうになる時はいつでも 君の事を思い出して 歩き始める もう一度 そして僕は 君のために 何ができるかと考える そして僕は 強くなるより 優しくなりたいと思う あの風のように やわらかく 生きる君が 初めて会った時から 誰よりも好きだった そこから逃げれば 夢はないだろう 振り返るのは 最後だけでいい そのとき はじめて全てを語ればいいから |