ラブストーリーはとつぜんに     BY明日狩り

 ばかばかしいとは思うけれど、何度も何度も手紙を書いてみる。
 今どき、手紙。
 アナクロだと我ながら思うけど、でも、あんまり心が伝わらないから。
 何から伝えていいのか、もう分からないから。

「うーん……」
 こうしてみると、言葉ってなんて少ないんだろう。
 組み合わせても、組み合わせても、ちっとも僕の心に近づかない。

 こんなんじゃ、何を言ってもオビ=ワンには伝わらないよ。

 好き、なんて言ってみても。

 きっと伝わらない。


「オビ=ワン」

 何だか寂しくなって、僕はオビ=ワンの姿を探した。
 きっとあそこにいる。
 コルサントの町並みを見下ろす、小さなバルコニー。
 オビ=ワンは良くそこにいて、
 赤く沈んでいく夕暮れのコルサントを眺めている。

 ほらね。
 長いローブを着ているのだか、長いローブに着られているのだか。
 大きなローブに包まれた僕のかわいいマスターはそこにいた。

「マスターと呼びなさい」
 オビ=ワンは振り返ると、そう言ってまた僕に背を向けた。

「イエス、マスター」
 僕は隣に並んで、一緒に黄昏ていくコルサントを眺めている。
 もう、僕の背はマスターを抜いていた。
 赤い陽に照らされたオビ=ワンの横顔を見つめて、

 今なら僕は、
 あなたを守れると思った。

 心臓の音に怯えながら半歩の距離を縮めて、あなたの肩に触れる。

「僕、あなたに手紙を書いていたんです」
「用があるなら口で言えばいいだろう」
「口で言えないことだって、あるんです」

 眼下の街に目を向けたまま、あなたと交わす言葉。
 ほら、やっぱり伝わらないよ。
 言葉を重ねても、誤解されるだけでしょう。

「言えないこと、か」
 あなたはかき合わせるように自分の両肩を抱いた。
 寒いんじゃないのは知ってる。
 あなたの心が揺れているのを、無意識に抑えている。

「オビ=ワンにだってあるでしょう」
「まぁな」

 そう、誰かが誰かを縛るなんてできない。

 でも僕は、あなたを縛ってしまいたい。

 でも僕は、あなたを守りたい。

 明日になれば僕はもっとあなたを好きになる。
 そうしたら僕は、あなたをどうするだろう。
 縛るだろうか。
 守るだろうか。
 それとも……?

「言えないことじゃ、ないんですけどね」
「そうか」

 言葉がいつまでもすれ違う。
 でも、僕らがあの時出会ったことは嘘じゃない。
 あの時僕らはすれ違わないで、出会うことができたでしょう。

「アナキン」
 あなたの声が僕を呼ぶ。
 あなたの眼が、僕を見る。

 暮れていく太陽の赤を映して、
 あなたの碧い双眸が僕を映して。

「……………………」
 僕はオビ=ワンの、あなたの名前を呼びたかった。
 でもきっと、あなたをマスターと呼ばなければ、
 あなたはこの目を背けてしまうだろう。
 僕はやっぱり言葉にならずに、あなたを見つめていた。

 あなたを呼べない。

「言葉にならなくとも、伝わるかもしれない」
「……………………」

 やっぱり、何も分かってないね。

 でも、あなたが僕のことだけを見てくれたから。
 伝わらなくても、伝えられなくても、僕はそれだけで満足だった。

 あなたは本当は、すべて分かっているのかな。

「……………………」
 名前を呼ばせて。

「言葉にする必要のないときも、ある」

 あなたが僕を見つめて。

 僕が何も言わないから。

 あなたはふと視線を反らして去ろうとした。

「オビ=ワン!」

 僕は。

 思わずあなたを抱き締めていた。

 あなたは動かなかった。

 ただ黙って、僕の腕に抱かれていた。

「オビ=ワン……」

 名前を呼んでも。

 咎めずに。

 抱き締めても。

 抵抗せずに。




 だから僕は。

 あなたの唇を見つめるだけで。

 そこに触れることができずに。




 ただ。

 風になってあなたを守りたいと思った。

 風になってあなたをさらいたいと願った。



「ラブストーリーは突然に」 作詞 小田和正


何から伝えればいいのか
分からないまま時は流れて
浮かんでは消えてゆく
ありふれた言葉だけ

君があんまり素敵だから
ただ素直に好きと言えないで
多分もうすぐ 雨も止んで
二人 たそがれ

あの日あの時あの場所で
君に会えなかったら
僕等はいつまでも
見知らぬ二人のまま

誰かが甘く誘う言葉に
もう心揺れたりしないで
切ないけどそんなふうに
心は縛れない

明日になれば君をきっと
今よりもっと好きになる
そのすべてが僕のなかで
時を超えてゆく

君のために翼になる
君を守りつづける
やわらかく君をつつむ
あの風になる

今 君の心が動いた
言葉止めて 肩を寄せて
僕は忘れない この日を
君を誰にも渡さない


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