どうして、こんな風になってしまったんだろうね。 「さよなら」 こんな瞬間に、君の姿が小さく見えた。 あんなに手を焼かされてきた君が、こんなに小さく見えるなんて。 思わず手を伸ばして、抱きしめたいと思った。 ひょっとして、と私は思う。 君は、ずっと、こんなに小さかったのかな? タトゥイーンであの人に見出されて来た頃の、寒さに震える小さな少年のままだった? 寒くて、君は震えていた。 ママのことが頭から離れなかった。 「僕は平気だよ。1人にして」 そう言ってうずくまった君が涙をこぼしたのを私は見逃さなかった。 そんな小さな君のことを、私はいつしか忘れていた。 「ねぇマスター、僕たち、自由だよね」 「そうかな。そうかもな」 突然そんなことを言い出した君のこと。 あの時君は、一体何から自由になったんだろう? 自由になったつもりだったんだろう……? 今日の日が来ることを、あの頃の私たちは知らなくて。 頬に吹き付ける風が刺すように痛い。 もうすぐ、この街にも白い雪が降るだろう。 「砂は嫌い。でも、雪は好きなんだ」 どっちも白くてたくさんなのにね、と笑った君のことを。 とても愛しいと思っていたのに。 「寒いから一緒に寝てください」 寒さに震える君は、よくそう言って私のベッドにもぐりこんできた。 大きくなってからでさえも、恥ずかしそうに、おずおずと。 今日、この寒い夜に、君はどこで寝ているんだろう。 私より長身の君が、ふとローブを広げて私を捕まえる。 手を握って、「冷たくなってますよ」と何度もさすった。 「寒い日が好きになりました」 どうして、と尋ねると、「あなたに触れても怒られないから」とはにかんだ。 寒さが身を凍らせる頃、 私は強く思い出す。 君が傍にいた記憶。 君の体温。 君の笑顔。 どうしてもっと、君に言えなかったのだろう? 「愛しているよ」 「暖めてあげる」 「傍においで」 「よくできたね」 「いい子だね」 「大好きだよ」 思っていたのに、言えなかった、言いたかった、言葉。 外は沁みるような雨。 今夜は雪になるだろう。 「マスター、僕、寒い日が好きになりました」 君の声が雪になって。 君の笑顔が雪になって。 この街に降り積もるだろう。 私の心に降り積もるだろう。 「さよなら」 「さよなら」 <<END>> |
| 「さよなら」 作詞 小田和正 もう終わりだね 君が小さく見える 僕は思わず君を 抱きしめたくなる 「私は泣かないから このままひとりにして」 君の頬を涙が 流れては落ちる 「僕らは自由だね」 いつかそう話したね まるで今日のことなんて 思いもしないで さよなら さよなら さよなら もうすぐ外は白い冬 愛したのは 確かに 君だけ そのままの君だけ 愛は哀しいね 僕のかわりに君が 今日は誰かの胸に 眠るかもしれない 僕がてれるから 誰も見ていない道を 寄りそい歩ける寒い日が 君は好きだった さよなら さよなら さよなら もうすぐ外は白い冬 愛したのは 確かに 君だけ そのままの君だけ 外は今日も雨 やがて雪になって 僕らの心の中に 降り積るだろう 降り積るだろう |