彼は立つ。 想い出の場所に。 「かつてアナキンであった人物」は、最後にその場所に立った。遙か遠くに宇宙船の発着所を見下ろす小高い公園。かつて、彼の最愛の人と共に立っていた場所だった。 「かつてアナキンであった人物」は思い出す。 「こうしていると、いろいろなことが想い出に変わる」 オビ=ワンは腕を組み、独り言のようにそう呟いた。それが最後だということは、言葉にせずとも2人とも分かっていた。何故それが最後だったのか、どうしてそれを知っていたのか、説明することはできない。 しかし人は死や、生や、あらゆる瀬戸際に立つと、すべてを直観することがある。オビ=ワンとアナキンは少し冷たい風に頬をさらしながら、遠くを見つめてその瞬間を共にしていた。 「マスター」 「なあ、アナキン。覚えているか……」 何か言っていたような気がする。けれど何を言っていたのか、思い出そうとすると声が遠ざかってしまって、最後まで聞き取れない。 「かつてアナキンであったその人物」は目を閉じ、すっと短く吸い上げた呼吸を止める。 あの日が、わずかに近づいてくる。 あの日、オビ=ワンは何と言ったのだったろうか。 「オビ=ワン」 その名を呼んで、目を開ける。何も見えなかった。目に映る雑多な街も、小さくうごめく生き物の群れも、見えているとは言い難かった。もう、「かつてアナキンであった人物」には、何かを見るということの意味が分からなかったからだった。 心からあの存在が消えた日から、「かつてアナキンであった人物」の目には何も見えなくなっていた。 風が止む。ちぎれた雲がゆるやかに流れ、またひとつになった。あの日と同じ色の空だった。 だから「かつてアナキンであった人物」は不意に、あの日彼のマスターが何と言っていたか、思い出したのだ。 「覚えているか、お前が私の誕生日に贈ってくれた歌。 「かつてアナキンであった人物」はそんな歌のことなど忘れていた。それがどんな歌であったのかとても知りたいと思ったが、記憶をたどってもそれは川の流れに消えた落ち葉のようにどこかへ行ってしまっていて取り戻すことはできなかった。 そのときは何も言えず、ただ黙って彼の言うことを聞いていた。彼はそれきり黙ってしまったので、それが「かつてアナキンであった人物」が覚えている最後の言葉になった。 黙って、何も言わずに。 (自分はあのとき、別れの言葉を探している私自身に長いこと気付かなかった。そんなことをする自分に、生まれて初めて出会ったのだから) 「オビ=ワン・ケノービ。あなたは間違っていた」 「かつてアナキンであった人物」は、苦しい呼吸を静めながら低く呟いた。まるで機械のような声だった。そして機械のような心で、かつて師であった人のことをそう判断した。 胸の奥に、嘘のつけない不器用な背中を思い出して。 かつて「アナキンであった人物」は何も見ない目を全てからそらした。 <<END>> |
| 「秋の気配」 作詞 小田和正 あれがあなたの好きな場所 港が見下ろせるこだかい公園 あなたの声が小さくなる ぼくは黙って外を見てる 瞳を閉じて 息を止めて さかのぼる ほんのひととき こんなことは今までなかった ぼくがあなたから離れてゆく ぼくがあなたから離れてゆく たそがれは風を止めて ちぎれた雲はまたひとつになる 「あのうただけは ほかの誰にも うたわないでね ただそれだけ」 大いなる河のように 時は流れ 戻るすべもない こんなことは今までなかった 別れの言葉をさがしてる 別れの言葉をさがしてる ああ嘘でもいいから ほほえむふりをして ぼくのせいいっぱいのやさしさを あなたは受けとめる筈もない こんなことは今までなかった ぼくがあなたから離れてゆく |
| うわっ。意味分かんない! これだけコメント付けます。 この小品は「昔、オビ=ワンの誕生日にアナキンが歌を贈ってあげたことがある」というオリジナル設定を元にしています。このお話は同人誌「プリティフェイス」(2003年6月22日発行)に収録されていますので、興味と機会のある方は宜しくお願いします。「あれの後日談か」と思ってください。同人誌なんかヨマネーヨという方は、そんな設定があったということで納得してください。 |