軽やかな風が頬を掠めた。 甘い花の香り。ちらちらと瞼の裏で煌めく木漏れ日。 くすりと密やかに笑う声にオビ=ワンは沈み込んでいた意識がふわりと持ち上げられるのを感じた。 「…………………ん、マスタ…?」 いつの間に寝てしまったのだろう。 任務がひと段落ついて、オーダーへの連絡も済ませた。争いに荒れ果てた中でそれでもと感謝の込められた簡素な食事をありがたく頂戴して、これからの平安を師とふたり心から願う。その街を辞したのは太陽がほぼ頭上に差し掛かる頃合いだったはずだ。けれどもオーダーが用意してくれるという船の出発時間までは少し時間があって、それから。 ―――――ああ、そうだ、マスターが時間があるならスピーダーで港に戻るのは味気ないって。 確か、この星特有の、その大きな体には似合わないゆったりとした動きで積み荷や乗客を定期的に運ぶ生き物の背に乗っていたのだ。 思い出して、オビ=ワンは目を開けようと瞼を震わせた。その上から温かな掌がそっと押し付けられて、くすぐったさに目を閉じたままで笑う。 「まだ寝ていても構わないよ、パダワン」 「…起こしてくだされば良いのに」 まだ意識は夢と現をふよふよと行き来していて、吐き出す言葉も緩慢だ。 意思に反して全く力の入らない重たい腕をなんとか動かしてクワイ=ガンの掌に指を伸ばして触れると、返した掌に掴まってしっかりと握りしめられた。 「人の寝顔を見て笑うなんて酷いですよ」 「聞こえていたのか?」 「マスターの笑う声で目が覚めました」 「それは済まないことをしたな」 「反省の色がありませんね?」 段々と意識がはっきりとしてくる。が、オビ=ワンは瞳の上に乗せられた温かさが心地良くて目を開けられずにいる。 どれほどぶりだろう、そう考え込んでしまうくらいには、こんな穏やかな師との触れ合いは長く持てていない。この大きな掌が掴んでいるのは、いつもオビ=ワンではなく、雄大なるフォースの導きであり、有事の際はライトセーバーの青い輝きだ。 だからこそ。 「……しあわせだなぁって」 「オビ=ワン?」 「こうして任務が終わって、一時的かもしれないですけどこの星に平和が戻って、私とマスターでその手伝いをすることができて、少し疲れたら安心して眠ることができて、目が覚めたらマスターが側にいてくれる。こういうのを、しあわせと言うのだなぁって思ったんです」 握りしめられた手を持ち上げて、目を開けた。 驚きで僅かに見開かれた深い色を見つめ返し、今度はオビ=ワンの方からその手を解いて指を絡めた。 今だけだと、わかっている。 柔らかい日差し。甘い花の芳香。木々を揺らす微風。 平和の使者たる自分たちとは、皮肉にも縁遠いその美しさ。 それはまるで。 まるで。 「夢ではない」 「……………マスター」 言い当てられて、胸の内を読まれていたことに頬が熱くなる。 絡んだ指先に力が込められて、クワイ=ガンの反対の手がオビ=ワンの髪をくしゃりと混ぜた。 「私はいつでも側にいる、オビ=ワン、お前の側に」 「………ええ」 「たとえ何があっても」 「………………貴方が言うと本当に聞こえます」 「本当のことだからな?」 「嘘ばっかり」 「それは心外だ」 「マスターのそういうところが嫌いだと、前にマスター・ウィンドゥが漏らしてましたよ?」 「メイス……、」 「でもマスターのそういうところ」 「ん?」 「私は、好きです」 ふふ、と笑ったオビ=ワンに、クワイ=ガンが照れたように眉を顰めた。それが可笑しくて声を立てて笑う。 だから。 そんな貴方と共にいられて私はしあわせです、マスター。 声には出さずに告げた想いは確実に師への元へとフォースが運んでくれただろう。 返事の代わりに近付いたクワイ=ガンの唇に、オビ=ワンは再び目を閉じた。 【END】 |
甘い!甘いー!さすがはクワオビ!クワオビってどうしてこう、恥も外聞もなくイチャイチャできるんでしょうね(誉め言葉)。他のCPだと照れとかなんかいろいろあるんですが、クワオビって書いても読んでも糖度高めのラブ師弟がデフォって気がして、「あーいつも通り安定のクワオビだなー(*´∇`*)」って感じがしますね。わー。久し振りにクワオビの新作を読みました。ライラさんありがとうございます! |
By明日狩り 2014/04/25 |